偽ギル様のありふれない英雄譚 作:鼠色のネズミ
『……王よ、聞こえていますか?』
『問題ない。続けておけ』
『御意』
三十人ほどの、青年らしき者達が大広間に通され、椅子に座っている。我とエルキドゥはその光景を見ていた。
教会側の動きを監視するためにも、一人や二人の間者は送り込んでいる。千里眼の景色と、間者の持つ集音アーティファクトを使用すれば、問題なくリアルタイムで見る事が出来る。
「皆、意外と若いんだね。仲良くなれそうかな?」
「腑抜けた事を抜かすな?エルキドゥ」
「だってさ、僕達はお互いに友達が少ないじゃないか」
神の使徒であるからには、少しは警戒せねばならないと思うのに、そんなのほほんとした感想を抱いたエルキドゥのマイペースさに、少し和む。
……友達が少ないのは少し、止むを得ない気がするぞ。
そんな会話をしていると、我ほどでは無いが優雅な服を着て、我ほどでは無いが人当たりの良さそうな老人が話を始める。
この老人の名前はイシュタルと言って、昔は宝石であわあわする方と間違えて心に深い傷を負った物だ。
爺の方のイシュタルは、その勇者達に淡々と召喚された経緯、そして所々にエヒトの素晴らしさを交えて語った。その恍惚とした表情にエルキドゥがちょっと引いてて面白い。
『ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!』
説明が一段落付いた途端、一人の少女が立ち上がって一息に怒鳴り立てた。
数十名の中で唯一、制服を着ていない者。しかし衣服の堅苦しさでは恐らく、学生の制服を上回るだろう。
それでも少女だと思われる程、幼い顔と体付き
「先生……自らを教師と言ったか?」
「だね、僕はてっきり誰かの妹かと」
そう言ってプンスカと精一杯声を荒らげているつもりの様だが、容姿だけでは無く声まで幼い。周りの生徒達もそう感じて居るようで、緊迫感を覚える筈の局面が幾分と和む。が、それも一瞬。
イシュタルは告げる。帰還は不可能だと、何故なら喚んだのは我々では無いのだからと。
その刹那に巻き怒る――喧騒
ある者は叫ぶ、帰れないとはどう言う事だ、と
ある者は叫ぶ、戦争なんて冗談では無い、と
ある者は叫ぶ、何でも良いから帰りたい、と
その様子を遠巻きに爺が見つめる。そして分かりやすく不満を顕にしている。恐らくだが、エヒトに選ばれて否定的な日本人一行(仮)に静かにキレているのだろうか。
価値観の違いが浮き彫りになっていて、我としては中々に面白いと思うのだが。見よ、人がゴミのようだ。
『皆、此処でイシュタルさんに文句を言っても何にもならない…俺は戦おうと思う』
机が一度叩かれ、一人の青年が立ち上がる。
茶色の髪に優しげな青い瞳、何処か「王子様」然とした、美青年の部類だろう。
彼は一息にそう云うと、回りからも賛同の声が流れ始める。掌ドリルという現象はこの事を言うのだろうか。しかし…何と言うか…
「さらって戦うって言っちゃってるから、何か戦争って事が見えてないのかなーって思っちゃうね」
そうそう、説明上手エルキドゥ。
もしも我が同じ状況だったら、この世界の情報とか戦争の現状を把握したいから、何日間か猶予を貰おうとする。そうで無ければ、最悪負け確定の戦争や、どうあがいても絶望な状況に置かれるからだ。
にも関わらず、この男はあっさりと戦うと言い、周りもそれに理由も無く賛同する……
日本人の国民性が出たな、アイツがやってるから俺も大丈夫理論。
一口にそう言うつもりは無いが、少なくともこの学生の人々は“そんな部類”である気がしてならない。
先程までは間違いなく戦争を否定し、元の国へと帰りたいと嘆いていた筈なのに、一人が言った途端にすぐコレだ。しかも肝心のその男の覚悟も酷く薄いと見える。
『もう良いぞ、興が削げた』
『王の御心のままに』
イシュタルの声を聞いていた、メイドの一人が静かに動き、音も立てずに退室した。
途端、中継映像から声は絶え、何名かが席を立って堂々と話す姿が映るがどうでも良く、興味の「き」の字も抱かない。菓子で口元を汚しているエルキドゥの口元を拭く方が何十倍か有意義だ。
シドゥリが淹れてくれた極上の茶と、バターケーキは既に冷めきっていて台無しだ。バターケーキは冷めている方が好きでは有るが。
コップの底に溜まった茶の、砂糖の濃い部分を頑張って飲もうとしているエルキドゥを尻目に、側に居た者達に声を掛ける。
「謁見室を開けておけ、それと我の玉座を執務室から謁見室まで運べ、慎重にな?あとは…シドゥリを喚んでおけ」
「シドゥリにケーキ美味しかったって言っておいてね!」
勇者が来るまで、僅かに時間は有る。その空き時間が酷く息苦しく、緊張感のあまりに手汗を握り締めた。
勇者との会談には緊張する要素は無い。人を疑う事を知らない表面しか見る事の出来ないあの、劣化型衛宮士郎は割とどうでも良くて……問題はあの黒髪の少年。
前世の記憶を頼りに結構なオタクと見た。しかもFGO内のギルガメッシュも最終再臨だった。
……つまり下手すりゃ我がギルガメッシュモドキだとバレる。それだけは嫌だ…物凄く嫌だ。
【忘れるな、イメージするものは常に最強の自分だ】
そう脳内のアーチャーが激励をくれる。ありがとう、ギル様はアンタの事嫌いだったけど我は普通に好きだぞ。アンリミテッドブレイドワークスかっこいいし、凛との絡みも良かった。
脳内には、威厳に溢れて玉座に深く腰掛ける金一色の王様が現れる。自分だけど自分では無い、そんな圧倒的な「王」の姿を夢想する。世界最古にして最強の王。
それに少しでも近付くのだ。
▲▲▲
「では、王宮へと向かいます。これからの移動は馬車となりますので、お手数ですが移動をお願い致します」
その声を聞き、クラスメイトの皆の側に侍っていたメイド達が動きだした。一人、一人とおずおずと席を離れて行く。
その人の群れを遠目にハジメは、飲み物に映る酷く歪んだ自分の姿を見て溜息をついた。
戦争への参加を表明した以上、戦いの術を学ぶ必要が有るだろう。魔法に剣術に……何れもハジメ達が居た日本では、必須という訳でも無い。受け入れ態勢が整っているとは聞いたが、いつか見た異世界もののラノベで、最初は優しくとも最終的に従属させられてしまう、と言う展開も有った。口だけでは何を言う事も出来るし、契約書も有る訳じゃない。
「南雲くん?行かないの?」
そんな思考に入ろうとすると、背中から声が響いてハッとする。
声を掛けた少女の名は白崎香織。学校内で二大女神などと言われ、絶大な人気を誇る美少女だがハジメに良く構うのだ。
これだけ聞けば、大抵の人は「ラッキーだ」とハジメの事を言うだろうが、ハジメからすれば良い迷惑というのが本音。その所為でクラスの男子や女子から疎まれていると言うのに、当の本人に自覚がないし、止めてと言おうにも言えない状況なのだ。
「ありがとう白崎さん、直ぐに行くよ」
そうとだけ返して、高速でハジメは走り出した。
このままでは馬車の隣の席を取られかねない。そうした場合、きっとまた天之川や檜山に絡まれる。
「ごめん!清水くん隣良いかな!?ありがとう!」
表に並んでいた馬車の列。その中でもハジメは特にクラス内で大人しい清水の隣に食い気味に座った。
彼は一瞬だけ驚いた様にどもったが、ハジメに強く何も言うことはしなかった。
馬車はそれほど大きい訳でも無いので、何騎かでクラスメイトが分かれて座っているようだ。
「間もなく出発致します。王宮と教会は少し距離が御座いますので、少しお時間を頂く事になりますが、ご了承下さい」
イシュタルのその声が少し響き、間もなくして振動が始まる。
良く馬車は快適では無いと聞くが、今回に限ってはそうでも無い様だった。確かに時として揺れる事はあるが、別に酔ったり気持ち悪くなったりする程ではない。
開放的な風が流れ込んでいて、五感を気持ちよく刺激する。流れて行く光景の非現実的な雰囲気と、人々の喧騒が心をどうしようもなく高揚させる。
「異世界系…って事なのかな…」
誰に聞かせる訳でも無く、そう呟く。
アニメや漫画、ラノベなどの類のサブカルチャーにどっぷりと浸かったハジメは、異世界に召喚されるという状況を思わずそう例えた。
使い古された様な設定だが、未だに根強い人気のある異世界モノのライトノベル。その状況に酷似した状況に思わずそう言ったのだった。
「な、なあ…南雲って…アニメとか見るのか…?」
ハジメの言葉が聞こえたのか、隣の席の清水がハジメにそう声を掛けた。
清水こと、清水幸利は所謂隠れオタクである。
クラスの中心である天之川光輝の影響で、オタクと言う人種は恥ずべきモノであり、迫害にも似た扱いを受けている。その代表格が南雲ハジメなのだ。
それを見ていた清水は、クラスでは自身を封じ込めて「大人しい」と言う評価に当て嵌めて暮らしていた。
しかし家では、その鬱憤を晴らすかの如くサブカルチャーを嗜み、ライトノベルや異世界の概念も当然熟知している。
今、馬車の中に密閉された空間内には天之川光輝も、それに熱を帯びた視線を向ける女子も居ない。ならば、この状況の感動を分かち合おうと誰が咎めるだろうか?
二人の会話は静かに始まる。最初は落ち着いた両者の口調、この状況を分かち合い、互いに共通した点を語らう。そしてその語らいは飛躍を重ね、何時しかは最初の大人しい口調を投げ捨てて、激しい程の声で話し出した。
「だからね、僕は思う訳よ!七章こそ至高だって!」
「いやさ!分かるよ!?エレちゃん可愛いし、賢王クッソかっけえし!でも最後のソロモンでしょ!アレ泣かねえ奴居ねえって!」
その喧騒に御者は最初こそ、喧嘩か?と首を傾げたが今では気にしてはいない。
二人の激化した語らいに終着の目処は立たず、結局王宮に辿り着くまで続いた。馬車から降りた時、二人の間にはそれまでに無かった、確かな「絆」が残ったのだ。
そしてハジメを含むクラスメイトが馬車から降り立った時、唖然とその場所を見つめていた。
そこは、其処だけが切り取られた様な空間だった。
ピラミッドの如く、上に向かうに連れて細く伸びる建物。
堀の様に建物の周辺には溝が有り、水で満たされている。
建物は全体的に黄土的な金色をしており、見るだけで眩しさすら感じられた。
その余りの美しさに、騒々しく騒ぎ立てる様な女子も居ない。
ただ、クラスメイトの一行は、その壮大さと圧倒的なまでの美しさに呑まれていた。
「良いですかな?皆様、行かれますぞ」
イシュタルがそう声を掛けなければ、比喩なしに日が落ちるまでこの宮殿を見つめていたかもしれない。それほどまでに圧巻だった。
宮殿の中は開放的で、入り口は扉では無く、常に開いている物だった。その中央へとイシュタルが足を踏み入れようとした。しかし
「失礼、イシュタル殿。貴方様の入殿許可は出ておりません。お引取りを」
「な…!使徒様方の謁見許可は…」
「それは出ております。しかし王は貴方様の入殿を認めておりません、お引取り願います」
「し、しかし、もし使徒様方に何か…」
「ご安心下さい。我が王の居る場所は王国中で最も安全で御座います。それと、王が用途不明の助成金について話したいと…」
「っ!それは今度だ」
イシュタルと門番はそう問答をすると、表に滲み出ていた苦虫を噛み潰した様な表情を収め、好々爺とした笑みに切り替え、入り口とは少し離れた場所に座った。
「これより先は、私がご案内致します」
そう言って、門番がそのままハジメ達の案内へと変わる。
門番は騎士然とした男で、流れる様な黒髪と美しい青の目が印象的だ。女子のヒソヒソとした声が、騒がしい宮殿内へと溶けていく。
暫く宮殿内を歩いていると様々な物を見る。金箔が貼り付けられた息を呑む様な像に、何処か可憐さを思わせる一輪の花。それらを横目に進んでいると、唐突に門番が一つの部屋で止まる。部屋の前は妙に小綺麗に飾られており、凱旋門もかくやと言う物だ。
「王よ、御一行様です」
「許す。通せ」
重厚な純金の扉が音も立てずに開く。
そしてその先に居るのが――
「良く来たな、雑種共」
「王」そう躰が理解した。
ハジメやその他の者達がその言葉の意味を知るのには、時間が必要だった。
躰が、跪きたいと言っている。この生物の前に膝を突き、崇めたいと心から感じる。
先程の門番が、王が居る場所が最も安全だと、そう言った理由が此処に有る。この者が害されるので有れば、何をしても無駄だろう。
それほどまでに、暴力的な
「初めまして、王様。俺はこのクラス代表の…」
「誰が話す事を赦した?」
比喩でも何でも無く、そうであった。クラスの中での王にも近いカリスマを持つ天之川光輝ですら、この王の前には有象無象と呼ぶ他なくなる。
「謁見の儀も弁えておらんのか……雑種は雑種でも、誰の手にも渡らなかった真の雑種共。此処まで無知であれば逆に愛嬌が湧くぞ」
王の言葉から感じられる声は――失望
無論、日頃から生きている中で、王と謁見する機会など先ず無いハジメ達にそれを求めるのは、些か酷な話では有るが、王から失望を受けたと言う事が何よりも心を支配していた。
ハジメは、異世界系のラノベで、良く行われる様にその場で片膝を突いて地面に伏す。
「ふん、少しは素養の有る雑種が居たか。其奴の僅かな智慧に感謝するが良い」
その声を同時に、王は立つ。
まばゆい光に包まれ、影でしか見る事の無かった王の姿が――今
一歩、一歩とハジメ達に近付くが光は決して絶える事が無い。その圧倒的な存在感を前にハジメは一滴、水を額から垂らす。
「面を上げよ、我が赦す」
ハジメの正面でそう声が響いた。力の一片も籠もらない声、にも関わらず張り上げた様な心に響く声。
その声に導かれるかの如くハジメは顔を持ち上げる。目に凄まじい程の光量が入り込み、思わず目を細めて見た――その姿。
「ギルガメッシュ……王…」
英雄にして、王。
賢人にして、王。
世界最古にして、最大の王。正しくギルガメッシュだった。
士郎と天之川、同じ正義の味方を目指してるのに、絶対的に違う二人。
心の底に謙虚さが有るだけで人は人気になれるんだなぁ
エレちゃん、イシュタル様を出す方法が有るのですが…弱体化します。それでも良いですか?
-
私は一向に構わんッ!
-
判らぬか下郎、出さなくて良いと言ったのだ