偽ギル様のありふれない英雄譚 作:鼠色のネズミ
「え、えっと、その…うちの生徒の御無礼をお許し下さい…」
ハジメと王の視線が合ったその直後、ハジメ達の教師である畑山愛子はハジメの前へと出て深く頭を下げて、最敬礼をした。日本の謝罪において使われる最上級のスタンス。
圧倒的な威圧感と存在感で充満した謁見室の中、心を奮い立たせて行った生徒を庇う行為は称賛されるべきだろう。それに応じるように、王の視線はそちらへと向けられる。
「貴様が代表者か?妙だな、奴では無いのか?」
そう言って、王は天之川光輝を顎でしゃくる。先程、代表者と先に名乗ったのは天之川だった。
無論、王は此処に至るまでの光景を千里眼と共に見た為、状況は知ってはいるが。
「彼はあくまでクラスの代表で…私が責任者です。罰を与えるのであれば私に…」
「良い、貴様のその太い肝に免じて赦そう。我の名を勝手に呼んだその雑種もな」
そう言って王は踵を返して玉座に深く腰掛けた。威厳に溢れるその姿だが、本人はギルガメッシュと言われた事が少し嬉しくて、機嫌が大幅に上昇していたりする。
王の姿を直視できない理由であった太陽が雲に隠れ、その姿が顕となる。
金細工の様な黄金の髪に、紅玉のような双眼。均整の取れた口鼻と、自らを更に飾り立てる多々の金銀や鉱物。真ん中が全開にされた服を来ていて、女子はその美しい容貌と体躯に思わず赤面する。
「ハイリヒ国王、ギルガメッシュである。尤も、あの爺に聞いたかもしれんがな」
天井にも届きそうな巨大な玉座に深く座り込み、頬杖を突きながらそう言い放った。
その口上に何人かのクラスメートはピクリと体を動かし、ハジメに至っては興奮を抑えるのに必死で、拳を真っ赤になるほどの握力で握り込んだ。
興奮とした思考の中で、ハジメは精一杯に頭を回す。イシュタルの入殿を拒否した王と、王国の中心と離れた教会。
きっと、教会の立場と言うのはこの王の前では決して多くは無いのだろう。
「貴様共の事は既に聞いた。精々、我の為に励み、我の為に捧げるが良い」
傲慢、その言葉がこの上なく似合う様な主張。
それでも「そうしたい」と思わせてしまうのはこの王の魅力なのだろう。
サイン下さい、王の財宝見せて下さい、エヌマ・エリシュして下さい。そんな欲望がハジメからは浮いては止まない。
先程、強く語り合った清水も同じ様な興奮を隠せずに、小さく何度も「マジか…」と呟いていた。
「では、下るが良い。晩餐の席もう一度
そう一方的に言うと、ギルガメッシュは玉座を立った。
羽織っていた真紅の外套が揺れ、夕焼けの連れ雲の様に棚引くと部屋から王の姿が消える。
ハジメはその後姿を、見えなくなるまで見つめていた。
「ふぅ……良かったぁ……」
宮殿の最上階から、馬車を見送りながら我はそう呟いた。
考えられる最悪のシナリオ、偽ギルばれは何とか回避した。それに強敵だと思われたあの少年も、我のことをギルガメッシュって言ってくれたし、凄い嬉しい。これでロールプレイの指針を掴んだ気もするし、謁見を許可して良かった。
「やっほーギル。どうだった?友達出来た?」
「王よ、大丈夫でしたか?…無視とかされませんでしたか?」
「貴様等は我のお母さんか」
部屋の中にエルキドゥとシドゥリがやってくる。
これから行われる晩餐会に参加する為、エルキドゥの格好は何時もの白い布では無く、汚れの目立たない黒の上下服。へそが出ていなければ完璧だった。シドゥリも一応正装をしていて、我が幾つか貸した宝石が良く似合っている。
「晩ごはん楽しみだねぇ、僕はあの白いドロドロが好きだな」
「マヨネーズだな、シドゥリが少し反応したではないか」
「違うよ!タルタルだよ!」
「主成分は変わらんぞ」
一瞬、シドゥリがピクリと動きかけたのを我は見逃さない。まあシドゥリも成人しているからな、そういう系も知らない筈が無いな、ウン。
黄金の篭手を外し、純金の耳飾りを付ける。ターバンを取り外して蒼玉の首飾りに首を通した所で、おめかしは終了。晩餐会に出席するもう一組を待つ。
「誰だっけ?ギルの弟?」
「父の弟だな、大公と言うヤツだ」
「ギルのお父さんに会いたかったなぁ…」
そう言うエルキドゥだが、父親は我が15歳の時に亡くなってしまった。
割と人気があったらしくて、父の墓にはお供え物が絶えた事が無い。我も命日にはきちんと墓参りをしている。大公は野心が無い人であり、特に大きなトラブルが有った事もない。
「王よ、遅ればせながら参りました」
扉が三回ノックされ、シドゥリが開けたドアから初老の男が入ってくる。
その男こそが、我の叔父に当たる大公。エリヒドと言う名の男で、それに伴って一組の男女が入ってくる。
女の方をリリアーナ、男の方をランデルと言い、従兄弟に当たる人物達。もしも我が亡くなれば王権は此方の一族に譲られる。
「久しいな。エリヒド、リリアーナ、ランデル、息災であったか?」
「偏に王の御威光故です」
「元気でしたよ!」
「俺もだ!」
目以外、我と良く似た一族を見ていると、やはり遺伝という物を強く感じる。
何時の間にか隣に立っていたエルキドゥが、リリアーナとランデルを目にも見えぬ速さで両脇に抱き抱えて、真顔で我の方を見て一言。
「ギル、飼っても良いかな」
「本気で言っているのなら貴様が心配だぞ。我」
「だって……可愛いじゃないか、少女ギルと少年ギル」
「その理論は可笑しいぞ。それと我とは少ししか似ていない」
そう言うと、名残惜しそうにエルキドゥはエリヒドの隣に二人を下ろす。途中で何度も我の方を見たが、駄目なものは駄目なのだ。
しょんぼりと下がった肩に触れ、優しく背を擦ってやる。分かるぞエルキドゥ…我も昔、ギルガメッシュにならってライオン飼おうとしたんだ…結局、母親から大反対を食らって飼えなかったけど、本当に残念だった。最近もこっそりライオンを連れ込んだのがバレて、シドゥリにガチギレされたんだった。
「ギル……」
「エルキドゥ……」
「ご友人様、王、お時間です」
僅かに良い雰囲気へとトリップしかけた我とエルキドゥを引き剥がすかの如く、シドゥリはそう言って我とエルキドゥの両手を掴んでグイグイと進んで行く。
とっくに陽が落ち、薄暗くなった宮殿の奥へ奥へと、我とエルキドゥの姿が進んでいく。
この日、リリアーナ達はハイリヒ王国のパワーバランスを知ったと言う。
その後、大きなトラブルも無く晩餐会は執り行われた。
例の気弱な少年を始めとした、色々な少年からの視線が我に注がれていたのが印象的だった。流石ギルガメッシュ、控えめに言って神。
一応、明日の勇者のスケジュールを寝る前に確認した所。メルドのブレーキ役が少ない様にも感じたので少しだけ増員した。明日は各々の能力確認の為にステータスプレートを配るらしい……何だそれ
「王よ、内密で入手致しました」
「大儀である。下がれ」
翌日、その日は悪いとも良いとも言えない様な日だった。
雲が決して多い訳でも無く、太陽の陽もそこそこに温かいが風は強い。しかも湿度は乾燥していて、風が硬く感じられる。陽は既に昇りきっていて、今居る宮殿から見渡せば様々な者が犇めき合い、ごった返しとなっている街並みが良く見える。喧騒までもが聞こえてくるようだ。
そんな中、執務室には我とシドゥリのみを残し、そのシドゥリも間もなく去ろうとしていた。
「これがか……」
シドゥリが完全に去った後、我は机にシドゥリが残した二枚の銀色のプレートを手に取ってそう呟いた。
これは、ステータスプレートと呼ばれる物でその名の通り、所有者の能力値をゲームの様に表すのだそう。と言うのも、我はこれを使うのは初めてである。
本来で有ればこれは全ての人が持つ、我の元の時代に合わせた言い方をすれば「未成年も持つ免許証」的な扱いであるからだ。
我は持たないと言うより、持つ機会が無かったのだ。主に父のせいで。
これは後に父の側近から聞いた話なのだが、我が父が「慢心、いくない」と言う考えだったので、我と他者の比較をさせ無い為に、即位まではステータスプレートを与えない予定だったらしい。
結局、我がステータスプレートを得る前に父が没してしまい、我が顔パス的な感じで必要としていなかった為に、忘れ去られていた。
ギルガメッシュから慢心を取ったら、唯の強くてイケメンな王様キャラじゃないか。そんなギャルゲーの攻略対象みたいなギル様はギル様じゃねえ。
そんな愚痴を亡き父に零して、ステータスプレートをひっくり返したり、光で透かしたり、指で弾いてみたりした。見た所では、何かエヒトに通じる訳でも無さそうだし、早速使ってみる事としよう。
使い方は割と簡単、自分の血を一滴垂らすだけ。適当に宝物庫から出した方天画戟で指を裂いて血を擦り付けた。
途端――爆発した
何処からでもない、自分の手元で起きた小さな爆発。爆発源は案の定とも言おうか、ステータスプレートだった。
チリチリと、スチールウールの実験を行うかの如く燃えるステータスプレートに、水をぶっかけて即座に鎮火する。
昨日から外していた黄金の篭手を右手に付け、そのまま銀片を拾い上げる。
「……役立たずか」
ステータスプレートを覗き見て、そう呟く。
名前はギルガメッシュと表示されてはいるが、それ以外が解読不能な化け文字……ラフムみたいになっている。
この結果は、割と予想通りだ。
理由となるのが我の宝具である、『
『
例え、常人の1万倍もの魔力を持つ者でも、無限に魔法を放つ事は出来ない
例え、人の数億倍の速度で計算を行う機械も、無限の計算を終える事は出来ない。
例え、エルキドゥや我であろうと、無限の魔物を相手にすれば流石に勝てない。
つまり、無限を受け入れる事は何人たりとも出来ないのだ、それがエヒトでも例外ではない。故に我を量る事など出来ないのだ。
……と此処まで言っておいて、安心した自分と少しがっかりした自分が居る。
自分のステータスが知りたかった反面、ギルガメッシュが此処まで凄いと再実感出来た事も嬉しい。余ったステータスプレートは予備の予定だったが、エルキドゥに渡しておこう。
さて、ステータスプレートの事を大方知れた所で、勇者御一行へと視線を向けよう。
こんな時、やっぱり千里眼と言うのは便利過ぎると思う。
「ふむ、此奴は中々魔力が高い。弱点は体力と俊敏か、であれば後衛が相応しい」
昨日は謁見室にあった、我愛用の玉座から勇者御一行の様子を見る。
他人の情報を盗み見るのは良い気がしないし、日本だったらプライバシーの権利をバリバリ侵害している。
我が法だ。などと言うつもりは無いが、必要な事なので許されて欲しい。必要な犠牲でした。
粘土板に、我の考えた「勇者一行、起用方針」がどんどんと刻まれて行く。こうしていると、育成シミュレーションをしている様で楽しい気分になってくる。
適材適所、向きを伸ばして不向きを克服。基本的だが、それが人の上に立つ中で大事だと実感させられた事。
「ん?此奴等は……」
我の興味を引いたのは、教師だと言っていた割と大胆なちっちゃい先生。
天職は「作農士」他のステータスも低く、一見すれば利用価値は低いが本質はその技能にある。
土壌管理に土壌回復、範囲耕作、品種改良に成長促進と、一人で農業革命を起こせそうなステータスをしている。
戦争において安定した兵糧が取れるのは物凄くデカい。
ステータスや技能は裏切らないが、天気は平気で裏切って来る。戦争だったら一国に一人は欲しい逸材だ。
「シドゥリ、良いか?」
「問題有りません」
「では、後にコレをメルドに渡しておけ。我は仮眠を取る」
「畏まりました……」
三十人近い人材の育成方針と、農業チートの教師の利用価値。それに加えての日々の執務を終えた我は、正しく満身創痍と言うのが相応しい状況だった。
だからシドゥリに渡した際に聞こえた、「ちょっとくらい……見ても良いでしょう」と言う小さな声は幻聴として扱った。
仮眠から起きた後、シドゥリに褒め殺しにされた事は言わなくとも良いだろう。
日間一位って何の冗談です?ありがとうございます。
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エレちゃん、イシュタル様を出す方法が有るのですが…弱体化します。それでも良いですか?
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私は一向に構わんッ!
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判らぬか下郎、出さなくて良いと言ったのだ