偽ギル様のありふれない英雄譚   作:鼠色のネズミ

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王、勇者にドン引きする

「王よ、メルドから勇者一行の成長の経過報告が出ました」

「そこに置いておけ、後で目を通そう」

 

 

山のように積み上がった石版とにらめっこしていると、勇者達の成長経過が出たという報告を受けた。

勇者との謁見から既に二週間が経過していて、各々の能力やレベルにもある程度の傾向が出ている事だろう。

 

 

「それとです、ウォルペンよりディンギルの試作品が完成したとの事です。」

「……納期はもう少し有ったがな、早く仕上げるとは流石だ」

 

 

オーライ、オーライとシドゥリが部屋の外の廊下に声を上げる。

数十秒ほど待つと、何人かの男に担がれて“ディンギル”の砲塔が現れる。大砲よりもスマートで長い形をしているソレは、記憶の中にある“ディンギル”と全く同じ形だった。

 

 

(頼んで良かったぁ!)

 

 

そう心の中で叫ぶ我、前にディンギルの試作を任せた所、「砲撃機は太いのが当然!」みたいな事を言われ、細長いと耐え切れない可能性があるとも言われて半ば諦めていた。

しかし!遂にやってくれたのだ!試しに軽く魔力を流してみたり、宝具を装填してみたりするが。動きには全く支障は無い。

……パーフェクトだ、ウォルター。

 

 

「よし、後はコレを360機作り、設置するだけだな」

 

 

我がそう言った途端、シドゥリを含めた数人の男達が膝から崩れ落ちた。

あ……そうだな、コレを作るのに既に途轍もなく大変だっただろう。なのに更にそれを360個も作るなんて確かに考えられない程の重労働だ、膝から崩れ落ちても可笑しく無い。

 

 

「いや、今では無いぞ?ゆくゆくの話だ」

「王よ……ゆくゆくでも多過ぎます……何ですか!?王は何と戦う予定なのですか!?」

「無論、魔人族だが」

 

 

嘘だよ、シドゥリ。本当はエヒトだよ、騙してゴメン。

十数年で毎日魔力を蓄えた宝石類と、使われる事の少ない癖あり訳ありの宝具、これらが有れば少しは持つだろう。それでも宝物が減ると精神的に来る物がある。断腸の思いとは正しくこの事か。頼むから魔人族、侵攻してこないで。

 

 

「大儀である、ウォルペン。我から褒美を与えよう。何なりと望むが良い」

「ヘッ、褒美なら俺じゃなくてあの小僧にやんな。王様よ」

「あの小僧?誰の事だ?」

「何だい王様、忘れちまったのか?アンタが送ってきた

 

――あの南雲ハジメって坊主を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練施設の端、其処にハジメは寝っ転がりながら閉鎖された空を見ていた。

最後に寝たのは何日前か記憶は無く、転移した先でもデスマーチに襲われる自分の運命を嗤う。

ハジメが二週間の訓練で手に入れたのは、筋力でも魔力でも無い、派生技能と経験だった。王国直属の錬成士達が忙しなく動き回る鍛冶場に入っては、見て学び、実践の繰り返し。

中々に錬成が馴染んだと思えば、今度は国中の全錬成士を集めて何やらモノ作り。それが、ギルガメッシュの宝具である『王の号砲(メラム・ディンギル)』の発射台だと気が付き、オタク心全開で体を酷使させた。

 

それがこのざまである。

 

何時の間にか発射台のディンギルは完成しており、錬成士の多くは朝にも関わらず、そのまま打ち上げへと赴いた。

ハイリヒ王国直属の錬成士達は、王へと報告する為にいち早く引き上げ、残されたハジメは死んだように眠る予定だったが、今日に限っては全員参加の共同訓練だった。

まだ訓練は始まっていないが、意識を保つのに大分限界を感じている。

休んでも良いかと聞いたのだが、教育係のメルドさんからは大事な発表が有るので見学を言い渡された。

 

 

「あれ、南雲じゃん。お前何寝てんの?無能なのに努力もしねぇのかよぉ〜」

「ギャハハ!檜山本当だからって言い過ぎ!」

「良く今更顔出せるよな〜俺だったら恥ずかしくて無理だぜ!」

「大介、コイツ無能過ぎて哀れだからさぁ、俺らで稽古つけてやんね?」

 

 

ハジメの視界に、空では無く四人組の男の顔が映る。

彼らはハジメのクラスメイトなのだが、ハジメとの関係が良い訳では無い。むしろ率先してハジメを責めていた者達だ。その中心格が、檜山大介という人物である。

彼は白崎香織に好意を抱いており、ハジメが彼女に構われている事が気に入らないのだ。それが今、こうした社会現象とも成った「いじめ」に繋がっている訳だが。

 

 

「大丈夫だよ、僕は疲れてて……」

「はぁ!?無能で怠け者のくせして何言ってんの?マジ有り得ないんですけど、お前は素直にありがとうございますって言ってろよ!」

 

 

そう言って無理矢理に立たされるハジメ、内心では唾が飛んだなあ……と諦めに近い感情を抱いていた。

しかし、そんな感情も飛ぶ程の鈍い鈍痛が脇腹を走る。檜山に殴られたのだと、僅かに遅れて理解した。

ハジメが寝転がっていた場所は、丁度訓練場からは死角になっていて人気も少ない。

 

 

「ほら立てよ、訓練はまだまだだぞ?」

 

 

そう言って檜山とその取り巻きがハジメの腕を掴んで立たせる。

殴る、蹴ると言う暴力は止まる事が無く行われ、遂には檜山の取り巻きの一人が魔法を使い出す。

 

 

「ここに焼撃を望む――“火球”」

 

 

その名の通り、火のボールがハジメの背中に向かって放たれる。

しかし不幸中の幸いと言うべきか、ハジメは体のバランスを崩して転倒した為、火球は直撃する事は無かった。しかしそれを皮切りに、魔法を交えた攻撃がハジメを襲う。

那由多にも感じる苦しみと痛みの中、ハジメは自分の情けなさと弱さを呪う。

そんな自責も限界が近付き、意識を手放しそうになった頃、突然として威厳に溢れた声が響く。

 

 

「――何をしておる」

 

 

その声に檜山達は体をぶるっと震わせた。

それはそうだろう。その声の持ち主は、自身が滞在する国における最高権力者、ギルガメッシュに他ならないのだから。

何をしても絵になる様な黄金の王は、不快な汚物を見るような視線で檜山とその取り巻きを捉えていた。

 

 

「お、王様……その、誤解です。これは訓練でして……」

「ほう?貴様は二週間やそこらで他人に訓練を課せる程の実力を得たのか?」

「そ、それは……」

「言い訳は良い、早急に止めよ。我が友の花が散る前にな」

 

 

そう言ってギルガメッシュはハジメが倒れている場所の奥を指差す。

そこには赤と白の二輪の花が、仲睦まじい老夫婦の様に静かに、控えめに咲いている。

特別な花でも無い良く有る花だが、それは確かに咲いていて、エルキドゥが植えたものだった。

檜山は数秒程ギルガメッシュの顔を見て、小さな舌打ちと苦しい表情を浮かべると、ハジメの周りから退こうとした。

 

 

「南雲くん!?」

 

 

それと同時にやってくる来訪者に、檜山の顔はさらに青褪める。それこそが彼が好意を抱く、白崎香織だったからだ。

香織は怒り心頭と言った表情で、支援系の天職とは思えない程の俊敏でハジメの元へと向かう。その近くには例の勇者や、戦士、二大女神のもう片割れなども居た。

 

 

「あ、ありがとう、白崎さん……」

 

 

天職「治癒師」を持つ香織から回復を受け、鈍痛と僅かに滲む血が収まりつつある。

しかし、それとは裏腹に香織の怒りは収まらない様で、ニコニコとした笑みの奥にほのかな殺意をにおわせる。

そことは少し離れた位置で、檜山が天之川からの注意を受けていた。

 

 

「〜だから檜山も、いかなる理由が有ってもこんな事をクラスの仲間にするのは駄目だ」

 

 

それをハジメと檜山の中間地点あたりで聞いていたギルガメッシュは、「お、割と良いこと言うじゃん」と言った心境で、ハジメの治療が終わるのを待っていた。と言うのも、ギルガメッシュはハジメに用があるからである。

 

 

「でも、南雲自身ももっと努力するべきだ。確かに南雲は非戦闘職だけど、訓練には一度も出ていないだろう?俺が南雲の立場だったらもっと努力してるし、訓練にも顔を出すよ。檜山達も、南雲を真面目にさせようとしたのかもしれないだろう?」

 

 

……何言ってるんだコイツ、もしかして今のは笑い所だったか。中々、人を選ぶ芸風なのだな。

上記がギルガメッシュの抱いた感情である。しかし周りは誰一人として笑わず、ジョーク等では無く本気で言っているのだと悟った。

勇者、こと天之川光輝は、所謂性善説信者である。

人間は悪い事をせず、したとしても何か理由があるのだと、そしてそれは相手側に有るのかもしれない!と本気で考えるのだ。

しかし、ハジメに訓練では無い別の場所へと赴かせたのはハジメ自身では無くて、ギルガメッシュの考えなのだから、救い船を出さねば理不尽の極みだろう。

 

 

「ああ、それは我の指示だ。奴には訓練の他にするべき事が有ったからな」

「するべき事?」

「これだ」

 

 

そう短く言うと、空中に黄金の波紋が現れる。

ギルガメッシュを象徴するとも言える、宝具の『王の財宝』。それにハジメは飛び起き、生目で見る『王の財宝』に興奮を顕にしていた。

宝物庫の中から取り出されたのは、今朝にギルガメッシュへと渡された“ディンギル”だ。周りが太い大砲を推す中で最後まで抗い、デザインしたスマートな細い筒。金属で出来ている為、非常に重いがギルガメッシュの筋力であれば、問題なく一人で持つ事が出来る。

 

 

「ディンギル、大砲と呼べば良いか。以前から開発していたのだがな、上手く行かなかった。それを此奴が完成させたのだ」

 

 

それをそのまま地に下ろし、手で擦り始めたギルガメッシュ。

興味を抱いたのか、それなりの数となったクラスメイトもハジメや天之川の周辺に寄って来る。

ざわざわと、ちょっとした騒ぎになりつつ有るが、それでも天之川はキッと睨み付ける様な表情と眼力を浮かべてギルガメッシュに声を張り上げる。

 

 

「何でですか!どうしてこんな野蛮な物をっ…!」

「野蛮?どこが野蛮なのだ」

「だって!こんな命を奪う為だけの物を作るなんて可笑しいじゃないですか!」

「命を奪う事は野蛮か?雑種」

「当たり前だ!」

 

 

その“野蛮”な行為に進んで参加しようとしたのはお前だろ!

と声なきツッコミが心の中で湧き上がったギルガメッシュだが、感情的になるのは良くない。

大事なのは気付き、そして理解する事なのだ。一方的に正論をぶつけても相手には不満が残る。馬鹿は正論じゃ納得しない。

大事なのは冷静に、一個一個分からせる事なのだ。

 

 

「良いか?貴様は今、戦争に参加する自らを野蛮と言った事に変わりないのだ」

「何でです!俺はそんな……」

「戦争という事はな、命のやり取りをする事だ。今、我と貴様が話している最中で誰かが死んだ。それは決して揺るがぬ真実なのだ。そして此奴の兵器でその何人もが救われる事となる。貴様は命が救われる事を野蛮と言うか?」

 

 

英雄王でも、賢王でも決して聞くことは出来ないであろう、優しい諭しだった。

 

 

「今は分からずとも良い、しかし努々忘れるでないぞ。南雲ハジメは今、これから先の多くの命を救ったのだ」

 

 

天之川はもう、何も言い返す事をしなかった。

事の一部始終を見ていたクラスメイトは、静かに王の声色に聞き惚れていた。そして各々の心には僅かな「戦争」と言うワードが渦巻き出している。

そして当のハジメはと言うと、自身の功績が認められた事、生目でギルガメッシュを見る事が叶った喜びでいっぱいいっぱいだった。

 

 

「大儀であった!南雲ハジメ!此度の貴様の功績に褒美を取らせよう、手を盃にするが良い!」

 

 

その声でハジメはハッと我に帰り、両掌を水を掬う時の様に盃にする。そしてその上に金銀財宝が降り落ちる。

あまりの重さに腰が引けるまで、ハジメに対する“褒美“は続いた。そして最後に美しい真っ白な陶磁器の猪口をポケットに押し込めると、漸く終わった。

 

その後、ハジメは渡された“褒美”の品々を一度しまう為に自室に戻り、訓練施設への往復を終える頃には訓練も佳境で、残りの僅かな時間を見学して過ごした。

 

重大発表とは、明日に【大迷宮】へと訓練の一環で遠征する事だったが、徹夜に徹夜を重ねたハジメには割とどうでも良い事に感じ、疲れをベッドにぶつけるように、眠りについてしまった。

 

 

エレちゃん、イシュタル様を出す方法が有るのですが…弱体化します。それでも良いですか?

  • 私は一向に構わんッ!
  • 判らぬか下郎、出さなくて良いと言ったのだ
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