「おい、起きてるか?」
「ああ…うん?」
ぐらぐらと揺られて目が覚めた。
頭がズキンズキン痛む。
不安になって辺りを見回してみると、どうやら狭いカウンターでミフネ曹長と一杯やってたらしい。
空っぽになったグラスと中身が半分くらいになったボトルがカウンターの上に転がっていた。
きつい酒だったのか、何やっていたか全く思い出せない。
ふとミフネ曹長の方を見てみると、かなり焦ったようにこちらを見ていた。
周りの様子を鑑みるかぎり、多分一気をやってぶっ倒れたみたいだ。
「いやー、ちょっと飲み過ぎちゃったみたいです。」
はっはっはと笑って大丈夫アピールをするも、険しい顔はあまり変わらない。
「なんなら片足立ちしてみましょうか。」
酔った時の定番を見せようと席から立ち上がろうとした時、ようやく重い口を開いてくれた。
「すまんが、飲む前のことを覚えているか?」
「飲む前のこと?」
どうやら想像していた以上に飲んでいたらしい。
ここまで心配されるのは本当に久しぶりだ。
「…飲む前、飲む前…?」
しかし、言われてみてから気づいたが、ここどこだ?
2、3人入るだけで定員オーバーになりそうなバーとか全く覚えがないんだが…
「曹長、日曜大工でバー作るなんてやりますね。」
「違う。」
「出征祝いですか?」
「お前肩書き言ってみろ。」
「成人式。」
「1ヶ月早い。」
やばい。
本当に覚えていない。
完璧に飲まれてたみたいだ。
はじめての体験に驚愕していると、ミフネ曹長はため息をついてキールの居住区のバーであると教えてくれた。
「キールのバー?どうしてまた。こんなところで飲んでたら艦長に怒られますよ。」
「本当に何も覚えてないらしいな。出撃から帰ってきて祝いにパーっとやっただろう。」
「出撃?」
その言葉にズキリと頭が痛む。
何か、知らない内にとんでもないことをやらかしてしまった気がする。
「ああそうだ。それでシャングリラコロニーを確保じゃないか。忘れたのか?」
「シャングリラ?1バンチの?」
なにか違う気がする。
そんな分かりやすい数字のコロニーじゃなかったような気がする。
港を潰すように命じられて…港?
「そういえば艦隊、駐屯していた艦隊はどうなったんですか!?」
「出てきたところを他の艦の面々と共同撃沈しただろう。…忘れたのか?」
共同撃沈…
言われてみれば戦った気もするし、撃った気もする。
「あれ?ひょっとして自分、後ろで撃ってただけでした?」
「まあな。若い奴をみすみす弾幕に飛び込ませるわけにもいかん。接近戦はドミンゴとトーヤに任せて我々は支援に徹していただろう。」
「いや、すみません。自分のせいで曹長にも迷惑をかけてしまいました。」
慌てて頭を下げると、何ともないとミフネ曹長は手を振る。
「気にするな。帰ってこれただけ良しだ。戦争が終わらん限り次はあるんだからな。」
ほれ次が来た。
ミフネ曹長が顎でさすと、丁度カーテンで隠された自動ドアからバーデン艦長が入ってきた。
慌てて敬礼を取ろうと立ち上がるが、思うように立てずすっこけてしまう。
ミフネ曹長に支えてもらえなければカウンターに後頭部を強打していただろう。
「いや、そのままでいい。事情はトーヤから聞いた。」
あまりに酔っている俺を見て艦長は苦笑すると、ミフネ曹長のボトルを取り上げてバーテンダー用の高い椅子に座った。
「司令部からの命令だ。我々はサイド1宙域を放棄してルナツー方面に急行する。」
「ルナツー…?シャングリラは放棄するのか?」
艦長は不機嫌そうに頷くとボトルを一気に呷る。
「ああそうだ。本国のお偉方が言うには、シャングリラは大きすぎる割に老朽化で強度不十分。しかも長らく使われてなかったからか姿勢制御用の推進材は定数の僅か30パーセント。手持ちの推進材で軌道に乗せるには一週間はかかると試算されたらしい。」
「…ジャブローに落とすんですか?」
「ん?そうか、貴様は知らなかったか。国防軍時代からあった計画でな。本来はソロモンみたいな採掘衛星でやる予定だったんだが、衛星は隕石と違って一枚岩じゃない。大気圏突入中に分解する、融解する、しかも細かい調節ができない。おまけにそう数もないでおじゃんになってな。それで姿勢制御ができて数もあるコロニーを落とすことになったんだ。」
本来は廃棄コロニーでやる予定だったんだがな。
自嘲するように笑う。
その暗い笑いに、嫌な予感が頭をよぎる。
「…現在、キシリア貴下の海兵隊がサイド2、8バンチ、アイランド・イフィッシュの降下作業に従事している。作業の予定終了時刻は明日8時。我々はこれを支援するため、ルナツーを発進した艦隊を背後から強襲する。あと17時間、しっかりと休養を取って次の戦いに備えて貰いたい。以上だ。」