ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
奇襲をかけられた暗黒軍だが、その中で1人だけ…羨望の眼差しを向ける者がいた。
それは暗黒界の皇帝ベクタ。
飛竜に乗り、蒼炎の剣を振るうアリスの姿は『美しい』の一言だった。
戦場に
「あれが…アリス…」
漸く見ることが出来た獲物にベクタは醜悪な笑みを浮かべた。
それを横で見てる暗黒騎士はそれを一瞥するだけで、何も言わない。
そして…今まで沈黙を貫いていたベクタがとうとう動き出す。
「全軍、あの金髪の少女を捕らえよ。褒美として、暗黒界と人界の利権を全てやろう」
その言葉を聞いた闇の軍勢は一斉に声を上げて、引き上げていくアリスの跡を追い始める。
その号令を聞いていた側近の暗黒騎士…そいつが立ち上がり、こう言った。
「俺も…動いて…いいか?」
片言な言葉にベクタは「楽しんで来い、
イーディスの記憶解放術によって、暗黒術師団は全滅した。
この吉報を持って、陣営に戻ってきたイーディスとアリス。しかし、アリスがこの事を伝える前に足早に向かう場所があった。それはエルドリエのところだった。
彼はイーディスに助けられ、自軍のところに逃げ戻った身である。
「アリス様…ご無事……」
エルドリエがかける声を遮り、アリスは渾身の拳を彼の頬のぶつけた。
口の中に溢れる血の味を感じながら、エルドリエはアリスの顔を見る。
「アリス様…」
「何をしているのですか…。あなたは…自分が何をしようとしていたのか分かっていますか⁈」
アリスの怒りは収まらない。
彼がアリスを含めた騎士を救おうと、自らの命を投じようとしたことは理解している。しかし…それはアリスからすれば自ら命を落とすことよりも許せない行為だった。
「私は、自らの命を容易く落とす者は…最も嫌いです‼︎恥を知りなさい‼︎」
「…アリス様、申し訳ございません…」
それを見ているベルクーリとイーディスだったが、すぐにアリスに声をかけた。
「お嬢ちゃん、喧嘩は終わったかい?アイツらが来ているぞ?」
ベクタの言葉に惑わされた軍勢の一部…先頭は拳闘士軍団が徐々に迫って来ていた。拳闘士に関しては、アリスたちもよく知っている。彼らの心意によって身体は恐ろしく堅牢になっており、生半可な剣撃では傷を与えることは出来ない。ここで迎え撃つことも考えたが、数では間違いなく勝てない。
それを読み取ったイーディスはこんなことを言い出した。
「私が残るよ、時間稼ぎをする」
「そんな!無茶です‼︎」
「大丈夫だよ、この剣があるんだし…キリトもいるんだし♪」
イーディスが腰の黒剣を見せつける。
大いに不安であったが、ここで誰かが時間を稼がなければ、全軍を移動することは不可能だ。
「じゃあイーディス嬢ちゃん、俺らは向こうの枯れた林の方に軍を移動させる。そこで待ち伏せもすれば…拳闘士軍団くらいはどうにか出来る。それまで耐えてくれるか?」
「余裕余裕♪任せて!」
「ということだ。行くぞ、アリス嬢ちゃん」
「…イーディス、必ず戻ってください」
「分かってるって!」
すぐにアリスたちを含めた部隊は灌漑地帯へと移動を開始する。
その数分後には凄まじい勢いで向かって来ていた拳闘士軍がイーディスの前で止まる。先頭に立っていたのは若い男だった。金髪で筋骨隆々、だが背はあまり高くない。握っている拳からは常に覇気が漏れ出ている。
「お前は…」
「チャンプ、彼女は整合騎士…イーディス・シンセシス・テンで間違いありません」
「ほおぉ…で、そんなお目が高い整合騎士様が何故ここに?」
「見て分かるでしょ?足止めよ」
それを聞いたチャンプ:イスカンダルの顔色が怒気へと変わる。
「テメエ1人で何出来るんだ‼︎お前ら…こんな女はさっさと片付けて行くぞ‼︎」
イスカンダルの声に再び軍勢が動き出そうとした瞬間だった。
「!」
彼らの前に紅白色の鎌鼬が降り注いだ。それは地面で高速で留まり、退路を塞ぐ。
「この刃の嵐を抜けられるのなら…行けるんじゃない?」
イスカンダルはこの光景を見て、慄きもせずにニヤリと嬉しそうに笑った。その表情にイーディスの余裕も少し消える。
「面白えぇ…この女は俺がやる…」
イスカンダルは拳を握り、軽く素振りをする。
拳闘士の拳が鎧など意味を成さないものだと、イーディスは理解している。その代わり接近戦じゃないと効力は現れない。逆にイーディスの月迅剣は遠距離戦にも持ち込める。
そう…踏んでいた彼女だったが、途端に猛スピードでイスカンダルが彼女の懐を取った
「!」
「油断したな‼︎女ァッ‼︎」
彼の拳はストレートでイーディスの顔面に向かってくる。
避けられないと踏んだイーディスは、左腕でその拳を受け止める。その瞬間、左腕に着けている鎧は全て吹き飛び、更にミシッと嫌な音が響いた。
「っ」
どうやら左腕のどこかが折れたようだが、そんなことは気にしていられない。イーディスは逆に受け止めた奴の拳を離すまいと力強く握る。
そこから右手に握っている剣を容赦なく彼の腕目掛けて振り下ろした。
「拳闘士は腕が命でしょ?だったら…その腕を貰うまでよッ‼︎」
しかし、刃がイスカンダルの肌に触れたが…まるで鋼鉄でも斬っているかのように途中で止まってしまった。
「⁈」
それを見て取ったイーディスは彼の腕を離し、距離を取る。
それでもイスカンダルは斬られた部位を気にしていた。ありったけの心意を腕に込めて防御したつもりだったが、刃が当たった箇所には小さいとは言い難い切り傷が出来ていた。
「…流石、整合騎士だ…。この俺に刃で傷を付けたのは、お前が初めてだぜ…」
「それはどうも…」
イスカンダルは拳をこれ以上使うのは危険と判断し、腰に置いていた双棍を持ち出した。それを腕に装着すると、先程とはまた別の構えを取った。
「こいつはさっきの拳よりも強力だぜ?油断すると、内臓が吹っ飛ぶぜ?」
イスカンダルは双棍の長さを変え、再び攻めてくる。
先程よりも踏み込みは遅い。しかも直線的で分かりやすい。
(その程度なら…今度はその首を頂くわよ?)
イーディスは剣に紅いエフェクトを走らせる。
そのまま同じく突っ込み、刃を彼の首目掛けて振る。
しかし…今度は当たることもなかった。何故なら、イスカンダルは双棍を両方地面へと押し当て、イーディスの真上へ跳躍したのだ。
これにはイーディスも想定外だった。背後を取られた彼女の右足に容赦ない蹴りが飛んできた。それを受けたイーディスの右足もまた、彼女の中でボキッと嫌な音を響かせた。
「くっ…!」
苦悶の表情を浮かべるイーディスだったが、彼女もやられてばかりではいない。再び剣を振るい、イスカンダルの無防備となった足を斬る。
しかし、これも同じように心意によって、致命傷を与えるまでに行かない。
イスカンダルはそれでも傷ついた足の痛みに耐えつつ、双棍を合わせて巨大な一発をイーディスの腹に放った。
「オラァ‼︎」
その一撃はイーディスの胴で爆発…炸裂した。
イスカンダルはその間に距離を取るが、その足取りはおぼつかない。
「…チキショウ…」
斬られた足に付いた傷は腕よりも深く、気にしないものではなかった。
そして煙の中に見える影に彼は動揺した。
そこには大部分の鎧を失ったイーディスが立っていたのだ。だが、イスカンダルが動揺したのは生きていたからじゃない。彼女が放つ冷徹な視線だった。
今までどんな強敵に対して恐怖も抱かなかったイスカンダルでさえ、一瞬震えてしまう程の眼力。
「今のは効いたわ。だけど…もう少しだけパワーが足りないわね」
「はん!強がるのもいい加減にしろ!腕と足を折られ、鎧もないお前が余裕なわけ……」
だが、途中でイスカンダルの言葉が止まる。
突然、どこからともなく霧が発生し始めた。後ろの部隊とも、イーディスのことも見えなくなる濃霧にイスカンダルは更に激しく動揺する。嫌な汗が流れ、言葉ばかりが口から出る。
「おい!こいつはなんだ⁈」
イスカンダル自身も気付いていない。
自分が一番強がっているということに…。
「私も…あの時以来に本気を出そうかしら…。まあ…『あの時』の戦いに比べれば、全く生温いけどね…」
霧の中で不気味に響くイーディスの声。
イスカンダルはすぐに双棍を構えて、防御態勢を取る。濃霧で視界が効かないイスカンダルにとっては、防御する意外に道はなかった。
そんな隙だらけの彼に対して、イーディスは敬意を表して正面から突っ込んだ。
「その変な双棍…貰うわよ!」
「なっ⁈」
イーディスは剣に紫色の閃光を走らせる。そして、2度一閃した。
数秒の間、イスカンダルは何をされたのか分からなかったが、彼女が剣を鞘に納め、霧が晴れると同時だった。
彼の双棍は忽ちボロボロと斬られ、地面へと落下した。それにも驚いたが、イスカンダルは自分自身の腕が斬られていないことに狼狽した。彼女の腕なら、今ここで彼の首を落とすことも容易なことだ。
(こいつ…なんで…)
その答えは次のイーディスの発言で分かった。
「…お仲間が駆けつけて来たわね」
拳闘士軍の後方から、更なる援軍がやって来ていた。
これ以上戦っても勝ち目はない。
時間稼ぎも出来たイーディスは指で笛を吹く。
すると、大きな風を巻き起こしながら、緑姫が舞い降りて来た。
そこに素早く乗り、離脱するイーディスにイスカンダルは怒りを爆発させた。
「テメエッ‼︎やるだけやってそれかッ‼︎覚えてろよ‼︎クソ野郎‼︎」
イスカンダルの怒声はどこまでも響いた。
イーディスは痛む腕と足を庇いながらも、急いで枯れ木の林へと急ぐ。
先程の援軍の中に、一番の火力となり得るはずの暗黒騎士軍が半分程度しかいなかったのだ。
(まさか…)
その頃、林の中には陣営が出来上がっていた。
アリスを追尾してくる軍勢を迎え撃つ部隊、そして後方で休息を取っているであろう支援部隊。だが…この読みは外れていた。
実は既に林の中には暗黒騎士団が待ち構えていたのだ。
油断しきった兵士を1人…1人…首を刈って殺害していく男。
こいつはベクタの横にいた騎士だ。
そして…馬車から出た赤い髪の女に目をつけた男は…腰から短剣を引き抜き…木々の後ろに隠れながらソッと近付く。そして凶刃を振り上げた瞬間だった。
完全に気配を消し、夜闇で姿も見られてなかったはずの男の首に…その女の剣が向けられた。これには流石の男も驚き、一気に距離を取る。
「…どうして、分かった?」
「気配は目だけじゃない、身体全体で感じろって…先輩たちが教えてくれたからです」
(…そのセリフ…どっかで…)
男の脳裏に『あの男』のセリフがフラッシュバックしたが、偶然だろうと、今はその時の記憶をしまい込んだ。
そして、ティーゼは「敵襲ッ‼︎‼︎」と林中に木霊するくらいに大声を上げた。
その声は待ち受ける遊撃部隊にも聞こえており、アリスはすぐに持ち場を離れようとする。だが…今自分の役割は、いずれやって来るであろう闇の軍勢を一気に叩くこと。ここでアリスが離れ、それが敵に知られようものなら、敵はここにやって来ない。仮に来たとしても、アリスがいなくなれば、残る整合騎士はベルクーリだけ…。歴戦の猛者であるベルクーリでも、1人では数千の相手は相当に厳しい。
(どうすれば…どうしたら…!)
悩んでいるアリスにベルクーリが肩を叩いた。
「何悩んでいるんだ、嬢ちゃん。早く行きな」
「でも叔父様…!」
「俺なら大丈夫だ、ほら…さっさと行け」
「…叔父様…ありがとうございます」
アリスはベルクーリの表情を読み取り、一気に駆け出した。
ベルクーリは溜息を吐きながらも、剣を抜く。
「さて…ここが正念場かな」
その頃、同じくティーゼの声を聞いた支援部隊は馬車から次々と降り、男を取り囲んだ。
しかし…男はまるで余裕だ。
「…やるぞ」
小さな声でそう言った途端、木々から更に十数人の暗黒騎士が姿を現した。これにはティーゼも狼狽した。
そして…男は凄まじい速度でティーゼの間合いに入り込み、一気に斬り込む。実戦の経験がないに等しいティーゼも頑張って対応しようとするが、剣を弾かれて地面に倒れる。
「ティーゼ‼︎」
ロニエが駆け寄ろうとするが、それを騎士が邪魔する。
「質問だ…光の巫女はどこだ?答えろ、女…」
問いを投げながらも、その剣はティーゼの首に迫る。
その時…ロニエの横を風が通り抜けた。
と思えば、彼女の目の前の騎士の首は飛んでいた。更にそのまま男に剣光が走る。
「!」
「ティーゼから……離れろォッ‼︎」
その声はユージオのものだった。
右腕だけで放った渾身の単発SSホリゾンタルは奴の身体に当たる。
しかし…負傷してまだ治っていないユージオの身体で放ったソードスキルは弱々しいものだった。
男の鎧を砕くことも出来ず、ティーゼから距離を取らせることが精一杯だった。
「今のは…ソードスキル…」
男は驚愕の表情を浮かべていた。
それと同時に…醜悪な笑みを浮かべた。ティーゼは今まであからさまな表情を見せて来なかった男に初めて怖気が生まれた。
「ティーゼたちに…指一本……ぐっ…」
だが、虚勢を張るのはここまでだった。
負傷したユージオは膝を着き、男に隙を見せてしまう。だが、男は奴らを始末する前にユージオに問う。
「その剣技…どこで知った?」
突拍子もない問いにユージオは一瞬驚いたが、敵である男にそんなことを教える必要はない。無言を貫くユージオに男は右足を踏み込む。
「じゃあ…死…」
その時だった。
突如…暗い夜闇に純白の光が解き放たれた。
その光景に男を含め、ほぼ全ての者が魅入った。
「あれは…⁈」
林を駆けるアリス、飛竜に乗るイーディスも驚きを隠せない。
ティーゼも驚いていたが、男が光の方を向いている隙にユージオの連れてこの場から離れる。
「アイツは…」
光の中に見える人影…。風貌から女性だ。
それが誰か視認する前に…彼女は右手を振り下ろした。
その途端に紅い光が地面へと降り注ぎ、男の後ろにいた暗黒騎士たちを肉片が残らないまで…光に包み込まれた。それと同時に地面も光によって飲まれ、大きな裂け目となった。
その様子を静かに見る男…。
だが…その顔は恐怖になど飲まれていなかった。むしろ興奮や嬉しさと言った感情が無意識に出ていた。
女性は今度は男に目掛けて、紅光を降り注がせた。
(あの顔…あの髪…あの気配…!アイツは…)
意識が切れる寸前で男はこう思った。
(KoBの…閃…光……じゃねえか……)
【補足1】
『双棍』
元ネタはフロンティアで存在した武器『穿龍棍』。
【補足2】
『イーディスの剣が複数の能力を持つ理由』
現在のイーディスの愛剣:月迅剣が何故紫幻剣の能力も使えるかだが、キリトの黒剣が創り出した剣には元々『自らの心意によって能力を好きなように変換させることが出来る』という、ぶっ壊れ性能が付与されているからである。ただし、これは使用者の心意の強さに比例するため、誰でも出来るというわけではない。
ちょっとサクサクしすぎたかな…。