ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
既に陽も暮れ、闇に包まれた暗黒界のある箇所…大きめの焚き火を中心に人界軍の錚々たるメンバーが集合していた。しかし、注目の的は人界軍の総指揮のベルクーリでもなく…大活躍したユージオ、アリス、イーディスでもない。
神の如き力で暗黒軍を一掃したアスナの方だった。しかし、そんな好奇の目に晒されているアスナだが、全く惚気ることもなく…真剣な眼差しで口を開いた。
「皆さん、初めまして。私は『外の世界』よりやって来たアスナです」
『外の世界』に全員動揺を隠せない。
「何を今更驚いてんだ…お前らはよ…」
ベルクーリは果酒を飲みながら呟く。
「人界の外に暗黒界があり…奴らがいずれ人界に攻めてくるって…信じてた奴はどれくらいいた?今更外の世界があったところで驚きも何もしないさ」
「しかし…この女が外の世界からやって来た侵略者という考えも…!」
「それだったら…こんな場所で呑気に話をするわけねえだろ…」
「…その通りです。私…いや、私が所属する組織『ラース』は、この世界を守るためにやって来たのです。私と同じ世界から襲撃をかけている者たちから」
アスナの話は何もかもが飛んでいて、理解できる者はほとんどいない。
そんな中、アリスがこんなことを聞いて来た。
「それならば…何故キリトに会いに?」
「…彼は、現実世界では意識を取り戻さずに、今も生死を彷徨っています。だけど、ここでは治療する方法があるはずだったんです。ですが…」
「おおっと、アスナ嬢ちゃん、話が逸れるからそれは後々話してくれ。それで…その襲撃者は何の目的で人界を攻めるんだ?」
話が長くなりそうだと思ったベルクーリはアスナの話を止める。
それと同時に別の質問をする。
「人界ではなく、ある1人の人間を奪取するために、攻め込んで来ているんです」
「ほう…で、その1人の人間というのは?」
アスナはアリスの方にゆっくりと視線を向ける。
唐突に向けられた視線にアリスは思わず立ち上がり、「私…ですか⁈」と声を上げてしまう。その横でイーディスが納得したように呟いた。
「なるほどね…それが『光の巫女』…ってわけね」
「もう時間がありません。アリス…さんがこの世界から離脱してしまえば、襲撃者はこの世界の干渉を止めるでしょう」
その言葉にアリスは憤激した。
勢いよくアスナの襟首を捕まえると、激しい剣幕を立てた。
「逃げる?私が…?冗談ではありません‼︎私は…この世界のために尽くすとキリトたちに誓った!それなのに尻尾を巻いて逃げ出すなんて行為…出来るはずがありません‼︎」
アリスの剣幕に、アリス自身もこれでこの未知の来訪者も少しは考えを改めると踏んでいた。だが、アスナの瞳は全く揺れ動いていない。
「この世界そのものが消えるとしたら?」
「え?」
アリスはその言葉の内容よりも…どこかで聞いたことあることで動揺した。
「アリスさんたちよりも高い位にいる人…彼らはこの世界そのものを変えられる程の存在よ。彼らは気分次第でたった1つボタンを押すだけで全てを消し去れる。失敗しても…また『リセット』すれば良い…と。私はそれを止めたい、キリトくんが戦い…守った世界を繋ぎ止めたいからここに来た!敵はいつ来てもおかしくない!そしてアリスさんを連れて行けば、この世界は消滅するかもしれない!その前に…」
「おっと、アスナ嬢ちゃん…その敵はもう来てるぜ?」
ベルクーリの言葉にアスナは「え…」と動揺の言葉を吐き出す。
「なるほどな…これで合点がついた。暗黒神ベクタ…そいつもアスナ嬢ちゃんと同じ…リアルワールド人で間違いないな…」
「暗黒神…ベクタ…」
アスナはそれが自身と同じスーパーアカウントであるとすぐに分かった。放心していると、不意にユージオが声を上げた。
「あの……どうして奴らはアリスを狙うんです?この世界ではなく…アリスだけを…」
「右目の封印に関係あるんでしょ?アスナさん」
さも分かっているかのようにイーディスが告げた。
その言葉にアスナは渋々ながら頷いた。
そして、右目の封印とは何か分かっていない者たちにアリスが説明する。
「この世界に住む人たち全てに施されている術式です。最高司祭や禁忌目録に違反しようとすると、右目の奥が焼けるような痛みが走ります。本来ならば…痛みに耐えれず思考を放棄しますがt、それでもなお逆らおうとすると…右目そのものが吹き飛びます」
それを聞いた人たちはゾッと…悍ましいものが背中を突き抜けた。
思わずユージオも自身の右目に手を当てる。
「じゃ…じゃあ、ユージオ先輩が学院で突然右目が失われたのは…」
「…ああ、僕だけじゃない。アリスもイーディスもカセドラルの戦いの最中で右目を失っている。あれは…僕たちがこの世界の呪縛から解き放たれた証でもある」
しかし、その話を聞いていたアスナは違和感を覚えた。
菊岡、いやラースはあまりに禁忌目録を守り過ぎている人工フラクトライトに、『その禁忌を犯させるような実験』を行っていた。その中の1つにキリトのダイブも含まれていたのだろう。
だが、これらの話から推察すると、ラース側は目的の人工知能の作成を妨害しているように見える。これらの推察から導き出されることはただ1つ。
(ラースの中に…裏切り者がいるってこと?)
しかし、今それが分かってもアスナにはどうすることも出来ない。
システムコンソールもないここでは、菊岡や比嘉と連絡を取ることも出来ない。
(どうしたら…)
「アスナ…?」
思い悩んでいるアスナを見たアリスが思わず声をかける。
「大丈夫…何でもないです」
「しかし、敵は何故そこまでアリス嬢ちゃんを欲するのやら…。アリスを守るために来たというアスナ嬢ちゃんもそうだ。一体…アリスに何をさせようとしてるんだ?」
今まで寛容的だったベルクーリの視線が一気に鋭いものに変わる。
アスナはそれを伝えようと言葉を吐き出そうとしたが、すぐに止めた。
「…ごめんなさい、それはまだ伝えられません。でも…私たちが行おうとしていることは、アリスに見て…判断して欲しいです。私たちの世界は…この世界よりも汚れて…見るに堪えないでしょう。神々が降臨し、天使が舞い踊るなど…到底かけ離れた場所です。でも!私はそれだけじゃないと伝えたい‼︎」
アスナの瞳は真っ直ぐアリスに向けられていた。
アリスは思わずその言葉に飲み込まれそうになるが、すぐに顔を振り、話を戻すことにした。
「その話はまた後ほど…。ですが、私は絶対この場から退きません。例え、ここで命を落とすことになっても…」
「…分かりました。私も前線で戦います。この世界を守るために…」
「そいつは有難いが…アスナ嬢ちゃんはあの光線を何度も使えるのか?」
「いえ…あのレベルの攻撃は数回が限界です…」
「異邦人の力など要りません。ここは私たちの世界です。私たちが守らなくてどうするのです‼︎」
アリスの力強い言葉にみんなが声を上げる。
彼らの意志は強固なものだと、改めて認識するアスナ。
(彼らと一緒に3年もいたのね…キリトくんは…)
不意に脳裏に過ぎるキリトの笑顔…。
アスナは思わず…誰にも聞こえないほど小さな声で呟くのだった。
「会いたいよ…キリトくん」
そのまま集会はお開きになり、今日は寝ることになった。
アスナにもテントを与えられ、パンとスープが支給された。
それらを即座に平らげたアスナがもう寝ようかと思った時、不意に天幕の鈴が鳴り響いた。
「はい?」
すると、ユージオを先頭にアリスとイーディスが入ってきた。
思わぬ来訪にアスナは驚くが、ユージオの顔は深刻だった。あまり気持ちのいい話では無さそうだ。
「アスナさんは…」
「アスナでいいわよ」
「…アスナ…さん、本当にごめんなさいッ‼︎」
最初にユージオの口から放たれたのは、謝罪だった。
「僕は…キリトと相棒でした。3年前…彼がシナット村に現れてから、ずっと一緒に旅を続けてきました。だけど…僕は弱かった。アドミニストレータの術式に嵌り、キリトたちを傷つけ…挙句には…」
それを聞いたアスナは徐々に顔を下に向けていく。
「僕は許されない罪を犯した。だけど…それでもキリトは許してくれた…。こんな僕を許してくれて…今でも力を貸してくれる…」
そこにイーディスが近寄り、腰の黒剣をアスナの前に置いた。
「これは…キリトが生前使っていた剣よ。激しい戦いのせいで…剣は錆びれてしまったけど…」
アスナはゆっくりとその剣に触れる。
そして、穏やかな笑みを浮かべる。
「…キリトくんらしい剣だね」
アスナは剣から手を離し、ユージオに語りかける。
「ユージオくん、顔を上げて」
涙を流すユージオはアスナを向く。軽蔑の…怨念が籠った目を向けられていると思ったユージオだったが、その真逆でアスナの瞳はまるで母親が子供に向けるような穏やかなものだった。
「キリトくんはね…いっつも、誰かのために戦うの。自分のために戦ったことなんてない。だから、いつも傷付いて…苦しんで…可哀想だった。でも、私はその人への思いやりが素晴らしいところだなあって、今でも思ってる」
アスナはユージオの手を取る。
「だからそんな悲しい顔をしないで?キリトくんはあなたたちの笑顔を守るために…戦ったんでしょ?だから、今度は私が剣を抜く。キリトくんが命を捨ててまで守った…この世界のために」
それを聞いたユージオは号泣した。
横で聞いていたアリスも瞳を潤わせていたが、寸でのところで止める。
イーディスの表情も読み取れない。
その時…キリトの黒剣は、微かに煌めき…震えていることには、誰も知られることはなかった。