ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第15話 願い

キリトとアスナは小さな鋼色の台に乗って、顔を俯かせているユイに目を向けている。

『全てを思い出した』…そう言っていたが、ユイはそれから数分間、口を開こうとしなかった。

2人に真実を伝えるのが嫌なのだろうか…。

親族が死んだところを見ていた…とか…。

もしそうなら…2人に出来ることなんてあるのかと思ってしまう。

 

「全部…思い出したの?ユイちゃん」

 

心配そうに声をかけたアスナにユイは漸く答えた。

 

「はい、キリトさん、アスナさん」

 

キリトとアスナは驚愕した。最初に会った時は『アスナ』も『キリト』も言えていなかったユイは2人の名前を脈絡もなく言い上げた。

 

「アスナさんは、このゲームを支配しているのが何なのか知っていますか?」

 

「え」

 

アスナは突然途方もない質問をされて、狼狽(うろた)えてしまう。

 

「このゲームを支配しているのは『カーディナル』というシステム…。剣もアイテムもモンスターも何もかもが『カーディナル』によって出来ています。プレイヤーのメンタルも…」

 

そこまで言って、ユイは一息吐いてから、こう続けた。

 

「【Mental Health Counseling Program 試作1号コードネーム『ユイ』】…それが私です」

 

ここでアスナが悲鳴のような小さな声を出した。

キリトも…ショックのあまり茫然とするばかりだった。

 

「プログラム…AIだって言うの⁈こんなに…人間なのに…」

 

ユイをAIだと信じたくないアスナは必死に言い訳する。

そうやって現実から目を逸らそうとするが、ユイはすぐに反論する。

 

「私にはプレイヤーに悪影響を与えないために感情模倣のプログラムも組み込まれています。…偽物なんです。好きだとか…悲しいとか…美味しいだとか…何もかもが…。それに…この涙も…」

 

キラキラと輝きながら落ちる涙…。

ユイが2人に真実を伝える事がとても辛いことを証明していた。

 

「でも…でも!AIが記憶喪失になるの?」

 

「…SAOサービス当日…私は何故か『カーディナル』から出向禁止を命じられました。仕方なく、モニターでの観察だけをしていたのですが…状況は最悪でした…」

 

その時の状況はキリトも分からなくなかった。

デスゲームとなったあの日、プレイヤーたちは絶望を味わっていたことを。

 

「彼らが発する負の感情をどうにか無くそうと思ったのですが、出向禁止を言われていた私にはどうにも出来ず、エラーを蓄積していって…最終的には…」

 

そこから先は口を濁したユイ。もはや聞くまでもないだろう。

 

「でも…ある日、他のプレイヤーとは異なった感情を持った男女がいることに気付きました。喜び…愛しみ…朗らかな感情を持ったプレイヤー…その人たちに会いたくて…」

 

そこまで言われて、キリトもアスナも瞳から雫が落ちていることに気付いた。

 

「お2人に会いたかった…。おかしいですよね?偽物の感情を持った…ただのAIなのに……」

 

「ユイちゃん……」

 

キリトは涙を拭い、ユイに近付き、声をかける。

 

「ユイはもう、システムに操られる存在じゃないし、自らの望みを言えるんだ。…ユイの望みを…言ってみるんだ。俺たちは、それを甘んじて受け入れるよ」

 

「…っ、私…はっ…」

 

嗚咽(おえつ)を漏らしながら、ユイは両手をキリトとアスナの方に伸ばしてきた。

そして…。

 

「ずっと……ずっと、一緒にっ…居たいです…。パパ…!ママ…!」

 

その言葉を聞いたアスナはとうとう涙腺が崩壊した。

アスナが先にユイを抱き締め、キリトが後から続いた。

 

「ずっと…ずっと一緒だよ、ユイちゃん…」

 

「ああ…ユイは俺たちの子供だ…。これからも一緒だぞ、ユイ…」

 

後から後から溢れ出る涙を流していくキリトとアスナにユイは意味深な発言を口走る。

 

「でも…もう…遅いんです…」

 

「遅い…って、どういう意味…」

 

『遅くはないぞ、MHCP』

 

と、突然、ユイの座る鋼色の台から何者かの声が響いた。

ユイは目を見開いて、声を上げた。

 

「カーディナル…!」

 

「いや、今の声は…‼︎」

 

キリトには聞き覚え…というより、絶対に忘れられない声が耳に入ってきて、その声の主が誰かはすぐに分かった。

 

「茅場‼︎」

 

『誰かは分からないが、そこにいるプログラムは私の命令に違反して、ボスモンスター【混沌に呻くゴア・マガラ】を消滅させたな…』

 

「…っ、パパとママを守るためです!その代償で…私が消えてしまっても構いません‼︎」

 

「消えるって…どういうこと⁈」

 

『簡単な話だ。命令に違反したAIは消去するだけ……と言いたいところだが、それは止めだ』

 

「え?」

 

ユイは呆気に取られたような声を出す。

 

『君たちとそこのAIの絆に感動した。ここでそのAIを消してしまっては…私は本当に悪者になってしまう』

 

キリトは好き勝手に言う茅場に、怒声を上げた。

 

「ふざけるな‼︎‼︎ユイはお前の操り人形じゃないし、単なるAIでもない‼︎ユイは……ユイは、俺たちの愛する子供だ‼︎」

 

「パパ…」

 

茅場は『ふっ』と息を吐き、俺たちに言った。

 

『確かに、そうだな。ユイは君たちにやろう。彼女のデータも能力も消さないでおくから…きちんと有効活用するのだよ?』

 

そこで茅場との会話は終わった。

キリトは先程まで胸の中で溢れていたはずの怒りが一気に冷め、どこかやるせない気持ちになってしまう。

結局…茅場の手の平の上で踊らされているのではないかと、キリトは思ってしまう。

それでも…。

 

「ユイちゃん…良かった!良かったね‼︎これからはずっと一緒だよ?もう…離さないからね」

 

「ママ……うっ、ママ、ママ、ママ…っ、ママぁ‼︎‼︎」

 

大声を上げて一気に泣き出すユイとアスナ。

今日この日、3人は1つの家族になったんだ。本当の家族に…。

 

「パパも一緒ですよ‼︎ずっと‼︎」

 

「ああ、当たりまえだ‼︎帰ろう、ユリエールさんたちが心配しているはずだ」

 

ユイが真ん中に立ち、キリトとアスナの手を握って出口へと戻るのだった。

 

 

 

 

あれから4日経ち、ユイはもうどこからどう見てもただの子供にしか見えないくらいにおてんば娘になった。

それを誰かに見られたのか、新聞でキリトとアスナの子供が生まれたと広まってしまい、その通告を見る度に2人は「はあ…」と溜め息を吐くのだった。

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