ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第16話 釣り大会

キリトは自前の椅子に座り、湖に向かってウキを投げ入れた。

プカプカと浮きは湖面を静かに浮かんでいるが、それがいつまで経っても水の中に沈み込まれる様子はなかった。

それがもう大体1時間半は経っている。

忍耐力だけは自らの取り柄だと思っているキリトであるが、流石の彼も心が折れそうになっていた。

そうやって退屈な時間が流れていると、キリトの横に1人の老人が座り、同じくウキを投げ入れた。

 

「釣れましたか?」

 

「いいえ、全く…」

 

1匹…いや、2匹くらい釣らないと、ログハウスで待っているアスナとユイに申し訳が立たないと思っているが、この現状をキリトは打破できそうもなかった。

 

「ここは釣りスキルが高くないと釣れないんですよ?」

 

「えっ?そうなんですか⁈」

 

「知らなかったんですね。…ああ、申し遅れました。私はニシダと申します。元はアーガス社の清掃係をしていました」

 

「『アーガス』って…SAOとナーヴギアの?」

 

「ええ。っと!」

 

そんな話をしてる間にも、ニシダは釣竿を高々と上げて、【サシミウオ】を釣り上げた。

 

「おおっ!すげー!」

 

「いやなんのなんの。ここでなら、これくらい序の口ですよ。私は釣った魚を食べるのが細やかな楽しみですから。ただ…」

 

ニシダは感慨深そうにこう続けた。

 

「刺身で食べる時に醤油がないから…ちょっとねえ…」

 

「醤油かあ…」

 

キリトは虚空を少し眺めてか、ら思い出したように呟いた。

 

「醤油なら…ありますよ?」

 

「……なっ、なあああんだってぇぇぇ⁈」

 

ニシダはキリトに顔を思いっきり近付けて、凄まじく叫ぶのだった。

 

 

 

 

「ママ、今日もたくさん野菜が取れましたね!」

 

「うん、そうだね。キリトくんも魚釣れているといいけど」

 

「パパなら大丈夫ですよ。だって、パパに出来ないことなんてないんですから!」

 

そう言ってくれる娘が出来て、キリトはとても嬉しく思うことだろうとアスナは感じた。

しかし、実際アスナは大丈夫かと思っていた。

理由は単純で、キリトは滅多に釣りは行かないからだ。

 

(まあ釣れてなくても、今ある材料で今日の分は補えるけど…)

 

そんなことを考えていると、ログハウスに灯りが付いていることに気付いた。

キリトはもう帰宅しているようだ。

 

「ただいまー。キリトくん、何か釣れたー?」

 

家に入ってすぐ、テーブルにはキリトと…知らない老人が向かい合って、お茶を交わしていた。

 

「…え…誰?」

 

「おかえりアスナ。お客様だよ。ニシダさん、妻のアスナです」

 

「凄い美人ですね⁈あんな美人が奥さん⁈キリトさん羨ましいですねえ?」

 

「え?…えっ⁈」

 

混乱するアスナが正気に戻ったのは、それから20分も経ってからだった。

 

 

 

 

テーブルにはニシダが釣った【サシミウオ】が2匹、それぞれ刺身と焼き魚にしておかれていたが、既に食べ終えられてしまっている。

アスナは何故、ニシダがここにいるかキリトに聞いたところ、醤油を味わいたいから、らしい。美味しい【サシミウオ】を釣ってくれたニシダに、そのお返しに醤油をあげるのは当然だろうと思ったアスナは料理の腕を振るった。

 

「いやー久しぶりに醤油の味を楽しめました。ありがとうございます」

 

「いえ、それほどでも…。また食べたいようなら差し上げますよ?」

 

「それは有難いです!本当に感謝します‼︎」

 

「いいえ、そんな…」

 

普段の攻略では会うこともない人と話していると、この世界にはこういう人もいるんだなとアスナは考えてしまう。

普通に生活して、生きているプレイヤーも…。

アスナがお茶を(すす)っていると、ニシダはキリトにこんなことを言い出してきた。

 

「キリトさん、あなたのレベルを見て、おり言って頼みがあるんです!実は1つの池には

(ぬし)がいて……」

 

 

 

 

ニシダが帰って、ログハウスにはキリト、アスナそしてユイちゃんだけになった。

ユイは久しぶりに遠出をしたからか、既に寝てしまっている。

アスナは普段着から寝間着に着替えて、キリトと共に同じベッドに横たわる。

2つあったはずのベッドの1つは、もうユイ専用のものになってしまっている。

 

「はあ…今日はなんか疲れたな」

 

「ふふ、キリトくんってあんなおじいさんと友達だったかなって…本当に戸惑っちゃった」

 

そう言って、アスナはキリトの上に覆いかぶさる。

キリトは疲れ切った瞳をしていたけど、アスナをきちんと見詰めていた。

 

「アスナ、今日はダメだぞ?」

 

「分かってるよ。だって…明日は釣り大会でしょ?」

 

そう…あの時言われたのは釣り大会の話。

1番大きな池には(ぬし)がいるらしく、それを釣り上げるにはキリトの筋力パラメータがないと無理らしい。だから、お願いしてきた…ということだ。

 

「…この世界にはあんな人もいるんだってことが分かったよ…」

 

「色んな人がいるんだよ。俺もあそこまで交友的な人は初めてで、ちょっと戸惑ったけどな…」

 

「私たち…期待されてるんだね。ニシダさんたちに…」

 

「ああ…。でも今は…」

 

キリトは(てのひら)をアスナの頬に当てる。

彼の優しい眼差しは、アスナを安心させていく。

 

「今は…このまま…」

 

「そうだね。もう少し…一緒に…ゆっくりしていたい…」

 

眠気に負けまいと思いながらも、アスナはキリトに抱きつく形で微睡(まどろみ)に落ちていった。2度と…彼を離さないように、と思いながら…。

 

 

 

 

朝の日差しが眩しい…。

現在、キリトはアスナとユイで1番大きい湖にやって来ているが、そこには3人だけでなく他のプレイヤーもわんさかと来ていた。

 

「俺たちだけじゃなかったのか…」

 

「いいじゃない、キリトくん。こういう楽しい行事はみんなでやった方が…」

 

「本当は休暇中なんだけどな、俺たち」

 

そうボヤいていると、主催者のニシダが前に出てきて概要を説明する。

 

「では、今回の目玉である主釣りを行いたいと思います。キリトさん、よろしくお願いします」

 

「あ、はい…」

 

釣りでのスイッチは初めてなので、どうしたらいいかキリトは考えてしまう。

 

「では、行きますよ。そりゃあー‼︎」

 

ニシダの持つ赤い生きたカエルの付いた竿に黄色いエフェクトが走る。

そして湖にウキを投げ入れ、真剣な眼差しを向ける。

数分間、湖に静寂が流れる。

キリトはそれを間抜けな眼差しで見ていたが、暫くして竿の先端がピクッと僅かに動いた。

それに気付いたキリトはニシダに釣竿を引くように促す。

 

「ニシダさん、そろそろ…」

 

「まだまだ!」

 

そうは言うが、もう何度も竿は動いている。

しつこいと思いながらも、キリトはもう一度言ってみた。

 

「やっぱり…そろそろ…」

 

「まだです!」

 

そう言って、今度は竿がグンと強く竿が引かれた。

 

「今だ‼︎‼︎はい、キリトさん‼︎」

 

有無を言わさずに竿を握られるキリト。

茫然としていると、突然とんでもない引きがキリトを襲った。

それは彼の身体が湖に持っていかれそうになるほどだった。

 

「ぐぎぎぎぎぎ…‼︎くっ、こっ…のぉ‼︎‼︎」

 

それでもキリトは自らの筋力をフルに活用して、どんどん岸へと足を進めていった。それにより魚影が見えたのか、アスナは「あ、見えてきたよ‼︎」と叫んで、キリトを差し置いて岸に走り寄っていく。

だが、そこからは歓喜の声ではなく、何か…驚嘆の声が聞こえてきた。

キリトも早く見たいがために、釣竿を無理矢理に引っ張っていくが、突然竿を引く力が消えて、後方に倒れてしまう。

 

「えっ⁈…あ、ああぁ‼︎」

 

彼の持っている竿には針が付いておらず、プランプランと透明な糸が揺れているだけだった。

主が逃げてしまったのではとキリトは岸に走るが、既にそこにはアスナたちはいなかった。何故か知らないが、岸からかなり離れた場所に立っていた。

 

「キリトくん!危ないよお‼︎」

 

「何が?」

 

と、突然キリトの前の湖で水飛沫が上がった。

岸にある桟橋を吹き飛ばして現れたのは…巨大な飛竜のような容姿の魚だった。その魚の頭の上には『Plesioth』と名前があった。

瑠璃色の鱗に大きな背びれ、そして白い眼球が特徴的で、キリトを視認するなり特徴的な咆哮を上げて、口を開けた。

キリトは突然現れた魚竜にビビってしまい、アスナの背後にまでダッシュした。

 

「お、おい酷いぞ‼︎自分たちだけ逃げるなんて‼︎」

 

「へへ、ごめん…」

 

「キ、キリトさん!あれ‼︎」

 

ニシダが指差す先には魚竜が(おか)の上を走ってくるのが見えた。

 

「陸を歩いている…!肺魚なのか?」

 

「キリトさん!そんなことより早く逃げないと‼︎」

 

「いや、逃げないでいいですよ。キリトくん、行けるでしょ?」

 

「ま、まあな。任せとけ」

 

キリトは装備から愛剣の『覇王剣』を背中に装備し、その柄に手をかける。

『Plesioth』は構うことなく、突進し続けている。

後ろではニシダが「奥さん、キリトさんが!」と叫んでいるが、アスナもユイも全く心配していない。

そして、奴が大口を開けたところで、キリトは突進SSソニックリープを放ち、その魚竜を縦に真っ二つにした。

そんな光景を後ろで見ていたプレイヤーは茫然としており、逆にアスナはニコニコ、そしてユイは手を振って「パパ、流石です!」などと…温度差が違って、キリトはなんとなくぎこちなくなってしまう。

 

「す、すごいですよ!キリトさん‼︎」

 

しかし、キリトの凄さが分かったプレイヤーはすぐにキリトを取り囲んだ。

この層のプレイヤーはキリトのような、高レベルなプレイヤーを見たことがないので、興奮してしまっているのだろう。

そう…。こんな楽しい生活が続くとキリトもアスナも思っていた。

目の前に突然現れた…ヒースクリフの伝言が届けられるまでは…。




【補足1】
『サシミウオ』
モンハンで最も有名な魚(多分)。意外とカラフルな魚…らしい(サシミウオをちゃんと見たことがないから、ここらへんは曖昧)。
名前の通り、刺身でも食える魚。


【補足2】
『Plesioth』
大型の魚竜種モンスター『ガノトトス』のことである。余程モンハンに興味ないと、この英語表記は知らないはず。
釣り大会で釣る巨大な主は『ガノトトス』か『ザボアザギル』のどちらかにしようと考えていましたが、原作で餌が両生類っぽいもの?だったのと、普通の湖だったことから、『ガノトトス』を採用しました。
私の初邂逅は3Gでしたが、地上での回転尻尾攻撃の異常な範囲に発狂した記憶あり。



アンケートは次の話を投稿してから、2日後までとします。
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