ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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アインロック編
第1話 食事の誘い


帰りの森でのことだった。ここは迷宮区の直前のエリアなのでプレイヤーが来ることはほとんどない。木々の間から見える小動物…風に揺れる葉はまるで現実世界にあるものと大差ないように見えてしまうキリト。だが…これら全てデジタルデータの塊でしかない。

そう考えてしまうと、どうも気分を落としてしまい、「はあ」と溜め息を吐いた。

すると、倒れている大木の隅に何かが素早く動いた。

カーソルが表示され、上には『赤耳のヨリミチウサギ』と出た。

 

「あれは…」

 

俺は腰から小さな針を2本抜き、1本を近くの木に向けて投げた。

ドスッと木に刺さる小さな音がウサギには聞こえたようで、逃げるように急いで飛び出たが、それはキリトにとって都合のいい行動でしかなった。逃げ場のない空中に出てくれたからだ。

悲壮な表情を浮かべるウサギであったが、キリトは構うことなく、もう一本の針を投げて、仕留めるのだった。

 

 

 

 

街に戻ったキリトは先程のウサギをエギルに見せると、彼の顔は見る見る内に驚きと興奮に満ち溢れていった。

 

「お…おい!こいつは…!レア食材の『赤耳のヨリミチウサギ』じゃないか‼実物を見るのは初めてだぜ…。で、でもよキリト、本当に俺に譲ってくれるのか?金もあるし、いっそ俺らで食わないか?」

 

「そうとも思ったけど、俺には料理スキルも何もない。作っても黒焦げだ」

 

「確かに…言われちまったらそうだけどよ…。他になんかないのか?」

 

エギルは悩んでいるが、キリトはさっさとこの高級食材をどうにかして帰路に就きたいと考えていた。すると、ここで店の扉が開く音が聞こえ、振り向くと白と赤を基調とした服を着た少女が入って来た。

 

「お、アスナさんじゃないか」

 

「こんにちは、エギルさん。あれ、キリトくんじゃん。久しぶり」

 

「……」

 

キリトは返事をしなかった。

アスナとは圏内で起きた事件を共に解決したり、コンビを組んだりした仲であったが、それはあの時の話で今はもういつも口論し合う犬猿の仲に戻ったと彼なりに思っていた。

だが、彼女はそんなことを知っているはずがなく、構わず優しく語りかけるのだった。

その雰囲気が…初めてサチに会った時と同じ感じがしたキリトは、どうも気軽に話せなかった。

 

「おい、キリト!挨拶くらいしろよ?」

 

「もうじき出るんだからいいだろ?」

 

「おい、このレアウサギはどうすんだ?」

 

「えっ⁈レアって……まさか‼レア食材のこと⁈」

 

突然アスナは興奮する。

キリトは面倒ごとになるかもと思い始める。

 

「キリトが攻略帰りに獲ってきて、俺に売るって言いだしたんだ。食う気はないんだと」

 

「ええ~!勿体ないよ、キリトくん!食べようよ‼」

 

「二人に任せ…」

 

「そうだ!アスナさんに料理してもらえばいいじゃないか!」

 

エギルは突然突拍子もないことを言い出した。が、キリトは「何を言ってるんだ?」と言いたげな表情を作った。

このゲーム内で料理スキルを極めている人など、攻略内でいるはずがないと思っているからだ。仮にいるとしたら、余程の暇人か気違いがやる所業だ。

と、思っていたら…。

 

「良い案ですね!私、料理スキルは先週コンプリートしたから…」

 

「……は?()()()()()()した?」

 

キリトの口からは思わず呆れたような声が飛び出た。

料理スキルをコンプリートという信じられないことを成し遂げるプレイヤーがこの世界にいるのかとキリトは仰天してしまう。

 

「じゃあ、私の家で食べる?」

 

「いやだから俺は……」

 

「はいはい!言い訳は無しで行くわよ‼」

 

「じゃあ俺も…」

 

エギルもおこぼれに預かろうとしたが、それはアスナに止められた。

 

「エギルさんはダメですよ!店もあるし、何より食材を獲ったのはキリトくんです!エギルさんは何もしてないじゃないですか」

 

「そ、それは…」

 

「と…いうことで、エギルさんは無し!」

 

そう断言して、アスナはキリトのコートの襟部分を掴んでさっさと店から出ていく。店の中では「そんなぁ…」と嘆くエギルの声が響いていた。

外に出てすぐにアスナは足を止めて、緊張を身体中から漂わせた。

何事かとキリトはアスナが見詰めるところを見ると、彼女の前には痩せた男…アスナと同じ血盟騎士団の制服を着た奴が立っていた。表情からしても、少し苛立ちを抱えているように見えた。

 

「…どうしてここにいるの?クラディール」

 

アスナの声に気迫が感じられる。相手を軽蔑しているようだった。

 

「アスナ様、勝手に行動されては困ります。一緒に本部に戻りましょう」

 

「いいえ。私はこれから帰宅します。彼と一緒にね」

 

「彼…?…!貴様は『黒の剣士』…!」

 

クラディールという名の男はキリトが『黒の剣士』…要するに『ビーター』であることが分かると、敵意の眼差しを向けた。

 

「こんな得体の知れない奴と一緒に共にすると?危険です!私が護衛するので…!」

 

「問題ないわ。あなたと彼だったら、彼の方が実力は上だわ」

 

「んなっ⁈」

 

アスナに実力がないと言われたのがよっぽど悔しかったのか、赤面するクラディール。

徐々に剣の方に手が伸びていくが、口論している2人に他のプレイヤーが群がり始め、クラディールは息を吐いて力を抜き、アスナとキリトに背を向けた。

だが…奴は一瞬だけキリトの方を向いて、恐ろしい眼差しで見た。

まるで…獲物を狩る獣のような、殺意の眼差し。

キリトはそれを感じ取りながらも、再びコートを掴まれてどこかへと連れていかれるのであった。

 

 

 

 

気付けばキリトは一軒の家の前に立っていた。立派な家で、キリトの自宅よりも何十倍も大きい家だった。

 

「私の家よ。入って」

 

「は?何で?俺はアレを食うなんて…」

 

「つべこべ言わないの‼」

 

アスナに押されて、キリトは家の中に無理矢理入れられた。

初めて女子の家に入ったキリトだったが、大して緊張もしなかった。

まず、アスナの家に入って驚いたのは、とても広く、家具の一つ一つが豪勢なことだった。お金持ちのご息女と言った表現が正しいだろう。

 

「なあ、この家…お前が買ったのか?」

 

「うん、つい最近。大体2万z(ゼニー)くらいしたかな?」

 

2万というバカげた数字を聞いてキリトは思わず溜め息を吐いてしまった。

 

「ご飯が出来るまで時間かかるから、その辺に座っていて」

 

アスナにそう言われて、キリトは装備を解いて柔らかい椅子に座った。

彼の家にある木製の椅子よりも断然いい。

 

「2万…か。俺もそのくらい稼いでるはずなんだけどなあ」

 

アスナとの生活の差がこれ程あるのかとキリトは思いながら、背もたれに全体重を預けていくと、あまりの柔らかさに気持ち良かったのか、目を閉じて眠ってしまうのだった。

 

 

 

 

真っ暗だった。

夢か、現実か、はたまた仮想世界か…。

暗闇に紛れるように、目の前に誰かが立っていた。黒いコート…。

キリトのものとは違うコートだったが、それは以前彼が着ていたものであった。

はっとしてよく見ると、その後ろ姿は…どことなくキリトに似ていた。要するに、夢の中にもう一人のキリトがいたのだ。

 

「お前は、何も学んでいないのか?」

 

突然、頭の中に直接入ってくるように自分の声が聞こえてきた。

 

()()のこと、忘れた訳ではないだろうな?」

 

「!」

 

自分自身に言われなくても…分かっているつもりだった。

 

「また、失っても知らないぞ?」

 

そう言われて、キリトは目を覚ました。

普段着には汗が染みこみ、蒸し暑く感じられた。

しかも目の前には、心配そうに彼を見詰めるアスナが立っていた。

 

「どうしたの?顔色悪いよ?」

 

「…大丈夫……。それで、ご飯は出来たのかい?」

 

「うん…」

 

キリトは今の状態をアスナに見られたくなかったし、どうしてこうなったのかも知られたくなかった。

彼は椅子から立ち上がり、アスナが案内してくれた食卓に向かった。

そこから漂う旨そうな匂いに、さっきの悪夢のことはすぐに忘れたキリトはアスナと共に腹が満たされるまでご飯を口の中に放り込んでいくのだった。

 

 

 

 

アスナは自分で作った料理で自画自賛する気はないわけではないのだが、こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてだった。いつも自分を満足させたい料理を作りたい……そんな気持ちから彼女は料理スキルを極めて行ったが…これではカンストさせても、まだ満足出来そうになさそうだった。

キリトはレア食材を食べて、満足しきったように椅子にもたれてくつろいでいた。

 

「はあ~…。レア食材は初めて食べたけど…こんなに美味しいなんて…。ああ、生きてて良かった…」

 

「…そう、だな」

 

「不思議ね。まだこの世界…アインロックに入って2年しか経っていないはずなのに…ずっと昔からいるみたい…」

 

「……俺も、最近は現実での記憶が薄れてきているよ」

 

キリトも感じているように、プレイヤーたちはこの世界に慣れ過ぎて、もう現実でどういうことがあったのかなんて…いちいち記憶することを諦めて始めていた。

 

「…そういえば…どうして、アスナは今日俺を誘ったんだ?俺はエギルにあげたも同然なのに…」

 

「どうしてって…だってキリトくんが捕まえたんでしょ?食べる権利があるわ」

 

「俺にとって食事に味もくそもないんだが…」

 

「それは最初に私に教えてくれたことと矛盾してる」

 

「え?」

 

「キリトくんは教えてくれた。第1層のトールバンナでクリームをくれたこと、あれは私にとってこの世界の有難みを教えてくれた」

 

キリトはバツが悪そうな表情をする。

 

「俺は、あの時とは違うし」

 

「どこがどう違うの?」

 

「…うるさいな、あんたには関係ないだろ」

 

「何よ、その言い方!こんな食事が摂れたのは誰のお陰?」

 

アスナも反論する。すると、突然キリトは立ち上がり、大声を上げた。

 

「俺は欲しいなんて言ってない‼頼むから俺に関わらないでくれ!」

 

真っ向からこう言われてしまったアスナは空いた口が閉じなかった。

キリトも今怒鳴ったことを後悔したのか、「あ……」と微かに声を漏らした。

 

「わ、悪い。いきなり怒鳴って…」

 

そう謝罪するキリトにアスナはとんでもないことを言い出した。

アスナ自身、なんて汚いんだろうと思いながら…。

 

「…悪いと思うなら、私とコンビをもう一度組んで」

 

「なっ⁈」

 

「それが私が許す条件よ」

 

「おい!そいつは…」

 

「汚い?」

 

「う……」

 

「私はギルドに休暇でも頼むから、明日、最前線の転移エリア前でね」

 

「…はあ…これは面倒なことになりそう…」

 

アスナはその言葉を聞いて少しだけイラっと来たため、ナイフにソードスキルを付けて彼の顔の前で止めた。

 

「ひっ…」

 

「私はお邪魔かな?キリトくん?」

 

「いいえ…。そんなことは…」

 

キリトと一緒に攻略をすることは決定した。

だけど…今日の彼はどことなくおかしいとアスナはつくづく感じた。椅子で寝ている時といい、さっき突然取り乱したことといい…。

彼は何か隠していると同時に、大きな悲しみを抱えている。そんな気がしたアスナであるが、聞くことはなく、そのままキリトを自宅に返した。

キリトを玄関で送り、漸くアスナは就寝する。

だが、今日見せたキリトの初めての怒った表情が忘れられず、中々寝付くことは出来なかった。




【補足1】
レア環境生物並びにレア食材『赤耳のヨリミチウサギ』
ヨリミチウサギはMHWで出てくる環境生物。赤い色を持つヨリミチウサギは原作ではミチビキウサギですが、個人的にあまりしっくりこなかったので、オリジナルの環境生物として、名前を改変させて登場させました。

【補足2】
アインロックとは?
勝手に決めた設定。浮遊城『アインクラッド』とモンハン3Gなどで出てくる『ロックラック』地方を合わせた造語。
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