ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第20話 ひと時の幸せ

「せいッ‼はあッ‼」

 

第22層、自然豊かなログハウスの横でキリトが『覇王剣』を振るう声が響く。

キリトは普段なら、剣を振る練習はしない。だが、茅場との戦いで実力の差が見せつけられ、それがキリトの心に火を付けた。

 

「…ふう」

 

『覇王剣』を鞘に納め、小鳥のさえずりが響く青い空を見上げる。

攻略の時もこんな青い空、緑の植物が鬱蒼と生い茂っていたら…気分も違うのにな、とキリトは思ってしまう。

 

「攻略、か…」

 

キリトは茅場との死闘の後を思い出す。

あれから血盟騎士団の没落ぶりは凄まじかった。最強ギルドの(おさ)がまさかデスゲームの主催者の茅場彰彦だと公言されたことで、他ギルド、プレイヤーからの信頼は一気に失っていった。他にも茅場が扮していたプレイヤー『ヒースクリフ』自体が恐ろしく強かったため、彼が消えた血盟騎士団を保つことは出来なかった。

幹部たちはキリト、またはアスナに団長になってもらい、ギルドの威厳を保つように頼み込んだが、2人はそれを断り、22層のログハウスに戻った。

要するに、キリトとアスナは血盟騎士団…ギルドから脱退したのだ。

キリトはするのでは、と噂されていたが、アスナまでそうするとは血盟騎士団の幹部たちは想定外だったらしい。

そのおかげ…というか、そのせいで、血盟騎士団は崩壊した。

抜けたプレイヤーの大半はギルド『青龍連合』に吸収され、この『青龍連合』が『血盟騎士団』に代わって、最強ギルドと呼ばれるようになった。

キリトもアスナも未だにこのギルドから、入団の催促を受けるが、それらは全て断っていた。

理由は…。

 

「パパー!」

 

振り返ったキリトの視界には、ログハウスから出てきた白いワンピースを着た少女が入った。

キリトとアスナの子、ユイだ。

 

「どうしたんだ?ユイ」

 

「ママがお昼は外の芝生で食べないかって!お手製のサンドイッチがあるよ!」

 

「それは嬉しいな。すぐに行こうか、ユイ」

 

「はい!」

 

ユイの小さな手を握り、アスナが待っているという芝生に移動する。

そう…。2人はユイとの時間を無くしたくないがために、ギルドに入っていないのだ。

攻略をまじめにやっている人からすれば、何を惚気ているんだと思うだろうが、キリトとアスナはユイと過ごす時間も攻略と同じくらい大切なことなのだ。

彼らは家族だから…。

 

「あ、こっちだよ~キリトくん!」

 

アスナは芝生の上にシートを敷き、アスナ特製のサンドイッチが入った籠を提げていた。キリトはこの光景がまるで家族のようだな…と、思いつつ、シートに座る。

ユイは甘えた風にキリトとアスナの間に入り、我先にとサンドイッチを取り、頬張る。

 

「こら!そんながつがつ食べないの、ユイちゃん!行儀が悪いよ?」

 

「だって…ママのご飯は美味しいんですもん…。我慢できなくて…ごめんなさい」

 

「ふふ…全く、誰かさんに似ちゃって…」

 

アスナは美麗に笑い、同じくサンドイッチを手に取った。

キリトもサンドイッチを食べながら、アスナの横顔を窺う。

75層で茅場との激闘を終えた後、どれだけ怒られたかと思うと、キリトが胸が締め付けられた。

アスナが怒るということは、キリトに対してどれだけ心配したかの裏返しでもある。

キリトも独断で茅場にどうにか勝てたが、あの時『白雷剣エンクリシス』に内包された隠しスキル【纏雷】が発動しなければ、命は無かったことだろう。しかも、愛する人を失ったのに、死ぬことが出来ないなんて…キリトも後々考えたら、地獄のような拷問だと分かった。

あの時、帰ってきたログハウスでキリトはアスナに新たな誓いを立てた。

 

『俺はもうアスナを置いて先に死のうとはしない。誓うよ』

 

『本当に?絶対だよ?』

 

『約束する』

 

それから2人で抱き締め合って、新たな生活を始めたのだ。

 

 

 

「キリトくん!」

 

アスナに呼ばれて、つい先日の回想からキリトは戻って来た。

 

「あ、ごめん。どうした?」

 

「考え事してたでしょ?やめてよ、折角家族で楽しんでるんだから」

 

「ごめん…」

 

「でも……」

 

アスナはキリトの膝の上に頭を置き、甘えるように言う。

 

「キリトくんが生きていて、良かった…」

 

「……何回その言葉言えば気が済むんだよ、アスナ。流石に飽きて来たぞ?」

 

「もうっ!いいでしょ?私の好き勝手なんだから!」

 

「へいへい」

 

そう愚痴るが、キリトも満更ではないらしく、膝の上に座るアスナの頭を優しく撫でる。

アスナも撫でられて嬉しくて、笑いを溢す。

その様子を見ていたユイも「パパ!ママだけなんてズルいです!私も!」と駄々をこねる。

もちろん断る理由はないキリトは、同時にユイの頭も撫でる。

爽やかな風が草原を流れ、小さな草木も揺れる。

キリトがふと下に目を向けると、アスナもユイも気持ちよかったのか、寝入ってしまっていた。

 

「アスナも…最近寝ていないようだったからな…。何しているか知らないけど、ゆっくり休んでくれ」

 

この状況は少し違うが、どこか別の場所でも同じようなことがあったようにキリトは思えた。

キリトが昼寝していて、アスナが怒っていた時のことだった。

攻略にも行かずに、何暢気に昼寝しているんだと、アスナは怒っていた。

 

「…あの時から、惚れていたんだろうな…アスナに」

 

寝ているからか、普段口に出さない思い出や言葉ばかりが出てくるキリト。

 

「茅場との時も、必死に止めてくれて…守ろうとしてくれて…そのおかげで、俺の愛剣が覚醒したのかもしれない…。心配ばかりかけたけど…本当にありがとう」

 

そう口走りながら、アスナの額に口づけするキリト。

こんな時くらい、弱い自分を見せてもいいだろうと思っていたキリトだったが…。

 

「…しゅぅぅ…」

 

キリトに聞こえないくらいの小さな音が草原に響いた。

それはアスナが赤面し過ぎて、顔から湯気が上がった音だった。キリトが別の方面を向いていてくれたから、バレなかったものの、驚くべきくらいアスナの顔は真っ赤だった。

嬉しくて、恥ずかしいが混じった感情がアスナの中で暴れまわる。

 

(そんな風に思っていたなんて…嬉しい…でも、恥ずかしいっ!)

 

幸せ過ぎて、アスナの顔は自然と笑みを溢していく。

 

「…幸せな生活が…ずっと続いたらなあ…」

 

(ああ…こんな生活が、こんな時間が永遠に続いてくれたらいいのに…)

 

2人とも同じことを願い、想うが、それは長続きしなかった。

次の日、ログハウスに乗り込んで来た…『彼女』が来るまで…。




【補足】
『青龍連合』
原作では『聖龍連合』ですが、MHを題材にしてるので、こちらにしました。
深い意味は特にないです。


それと今回からまた新たなアンケートを行います。
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