ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
「わあ…パパ!トマトが大きくなってきました!」
麦わら帽子を被ったユイは、家庭菜園で育てている『シモフリトマト』に対して、喜びの声を上げた。
「そうだな、ユイ。もう少しで収穫できそうだぞ」
「そうですか⁈楽しみです!」
キリトとアスナはここに来てから、ずっと家庭菜園をしており、その1つが漸く果実をつけてくれている。
2人はもちろん、ユイも収穫を楽しみにしており、そのときをずっと待っている。
「どう、キリトくん。他の野菜たちは?」
「今から見るところ。まあ、トマトがこれなら、他も収穫間近だろ?」
「そうなんだ。楽しみだね~ユイちゃん。私も楽しみだよ」
「はい!ママがこのお野菜さんたちを調理して、美味しくしてくれるのを……」
楽しい会話をしている時、森の方から緑色のエフェクトが入った投射物が飛んできた。
しかもそれはユイの方向に飛んでいることに気付いたキリトはユイを抱えて、側面へと避ける。
「ユイ!危ない‼」
ユイも最初はポカンと何が起きていたか分からず、おどおどしていたが、その先の岩を
アスナはポーチから白銀色の細剣を取り、森の方に向かって叫ぶ。
「誰⁈出てきなさい‼」
「…ふうん…惚気ているとはいえ、反射能力は流石ね。黒の剣士」
森の中からゆっくりと姿を現したのは、水色の外装を身に付けた少女だった。
もみあげの部分で結っている黒髪のショートヘア。背はアスナよりも僅かに小さい。歳もキリト、アスナと大差なく、片手に白い衣と赤い宝玉がつけられた弓が握られている。
間違いなく、さっきの攻撃は彼女が行ったものであると分かった2人は、敵意よりも怒りの目を向けていた。
当然だろう。ユイが狙われたからだ。
「何するの⁈もしユイちゃんに当たったらどうするのよ‼」
まずはアスナがその少女に詰め寄り、怒鳴り付ける。
しかし、少女はまるで興味ないといった表情のまま、淡々と話す。
「その子がどうだっていうのよ。ただのNPCでしょ?まあ…狙った理由は、どれくらいあなたたちが
明らかに挑発と取れる物言いにアスナは剣を抜き、彼女の心臓を貫いてやりたい衝動に駆られるが、それをキリトが止める。
「アスナ」
キリトはアスナの肩に手を置き、家庭菜園場の方を見るように言う。
見ると、膝をついて涙を流すユイの姿があった。
何事かと思ったら、もうじき収穫出来そうだったトマトの苗が先程の攻撃で無惨にも散らされてしまったことが原因だった。
更なる怒りが湧き上がるアスナだったが、キリトは落ち着いた表情で、少女に聞く。
「お前は誰だ?俺たちに何の用だ?」
「私はシノン。『青龍連合』の副団長。見たことくらいはあるでしょう?あなたたちの加入を強制させるために来た」
「加入を…強制?」
キリトはシノンと呼ばれる少女の言葉を繰り返す。
「…ユイにはあまり聞かせたくない。家の中でじっくり話そう、シノン」
「………」
ユイを一旦放っておき、3人はログハウスの中に入っていった。
ソファにアスナとキリト、来客用の椅子にシノンが座り、彼らはお互いにお互いを牽制し合っていた。
最初にアスナは一応客人ということで、お茶を出した。もちろん、置くときはバン!と大きく音を立てて。しかし、シノンが動じることはなかった。
暫く牽制し合っていたが、話し合いが始まらなければ意味がないと思ったキリトは口を開いた。
「青龍連合が俺とアスナを求める理由は?もうお前らは最強ギルドの称号は手に入れただろ?」
「そんなわけないじゃない。いつだって戦力の差はギリギリ。でも【二刀流のキリト】、【閃光のアスナ】が加入すれば、その差は歴然となり、ギルドの地位も確立する」
「その下調べと今の状況を調べるために、ユイを殺そうとしたのか?」
「殺す?何言ってるのあんた?さっきも言ったけど、あの子供はNPC。死んでも問題ない…」
「ふざけないで‼‼」
アスナの怒号がログハウス中に広がり、アスナの手はシノンの胸ぐらを掴んで、地面に押し倒した。シノンも突然の攻撃に対処出来ず、馬乗りにされて上手く抵抗できなかった。
「こっ…この!」
「そんな…そんな理由でッ‼絶対許さない!」
「アスナ…!やめろ‼」
キリトが間に入り、アスナとシノンを離す。
暴れまわるアスナをどうにかシノンから離すが、それでもアスナは気が収まらないようだった。
「げほっ…えほっ…」
「離して!こいつだけは許せない!」
「やめろアスナ‼俺も許せないが、今は争っている場合じゃないだろ⁉」
キリトは怒鳴りつけることで、漸くアスナを落ち着かせた。
シノンもアスナの異常とも言える行動に大きな恐怖感を抱いてしまう。
「悪い、アスナが…」
「…無かったことにしてあげる。話を戻しましょう。それで?一応答えは分かってるけど、青龍連合に入る気はないの?」
「ああ、俺たちはない」
はっきりとキリトが言うと、今度はシノンからイラつきの声が出てくる。
「ギルドに入らず、ソロでノロノロやろうっていうの?それでよく攻略組のナンバーワンね」
「…何が言いたい?」
キリトもそろそろイラつきを隠せなくなってきていた。
3人の間に重い空気が漂う。
「結局はあなたも、奥さんもまじめに攻略に取り組んでない雑魚だって言いたいのよ!最強ソロプレイヤーだから…ヒー…違った。茅場彰彦を撃退したからって浮かれているんじゃないの?そんな惚気ているから、イライラするのよ」
「…惚気ているのは認める。だが…」
キリトはキッとシノンを睨みつつ、言葉を繋げた。
「攻略できちんと活躍しているから最強だっていうのは違う。外面だけ強くても、心が弱かったら意味がない」
「…!」
その言葉にシノンの眉間が
まるで、キリトの言葉に強く打たれたかのようだった。
「あんた…私が弱いとでも言うの?」
「そうだ。確かに君はプレイヤーとしての力はスゴイだろう。だが、心は弱い。君はアスナより弱い」
「ッ~‼ふざけないでよ‼」
今度はシノンが机を叩き、キリトの胸ぐらを掴んだ。
アスナがシノンを切り離そうとしたが、キリトは「しなくていい」と言う。
「私は強い!少なくとも、奥さんがいないと何も出来ないあなたよりもずっとね!」
「勝手に言えばいい。だが、結論は変わらない。俺とアスナはギルドに入る気はない。…出直せ」
「……っ」
シノンは唇を強く噛む。血が垂れてしまうほどに。
最後にギッと2人を強く睨み、シノンはこう言った。
「私は諦めないから!あなたたちをまじめに攻略に参加させるようにするために、絶対青龍連合に入れてやるッ‼」
それからシノンはすぐにドアを蹴破って、ログハウスから出て行った。
すると、アスナは緊張の糸が解けたか、ぐったりとソファに倒れた。
「大丈夫か?」
「うん…。ちょっと疲れた…」
「それにしても、アスナ、いくらユイの件があったにしても…暴れ過ぎだぞ?」
「ごめん…。自分の衝動を抑えられなかった…」
2人の間に沈黙が走る。
と、ここでそういえば…とキリトは外に出た。
ユイが心配だったのだ。が、ユイは家庭菜園場におらず、近くにいる気配もなかった。
「ユイ?…ユイ!ユイィ‼」
何度叫んでも、ユイは姿を現さない。
茅場との戦いと同じくらい不安になってきたキリトは、アスナをログハウスに残したまま、森の中へと走る。
ユイを探すため、そして見つけるために。
【補足】
『シモフリトマト』
食材の中では最高ランクのもの。
モンハン界の中で最もジューシーな野菜。
シノン登場です。