ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第22話 子を想う気持ち

「ユイ!どこだ?出てこいよ~‼」

 

森の中を走るキリトの声はただ鬱蒼と茂った植物や木々に吸収されていった。

木霊するキリトの声に反応する人はいない。

シノンと激しく言い争っているうちに、外はもう暗くなってしまっており、灯りは星や月の光だけであった。

 

「うわっ…!」

 

途中、暗すぎて何に(つまづ)いたかも分からず、転んでしまう。

顔に泥や土が付いて、だらしない恰好になるが、そんなのは今のキリトにとってはどうでもよかった。

 

(早くユイを見つけて、我が家に帰ろう…)

 

それだけが切なる願いだった。

 

「げふっ!」

 

また転んだ。今度は口の中を切ってしまい、血の味が広がる。

 

「っ、ユイ…!」

 

アスナにも探してもらうのを手伝ってもらった方がいいか、と今更ながら思ってしまった。

しかし、アスナは先程のシノンとの争いで、疲れ切っていたので、敢えて探すのを手伝ってもらおうと思わなかった。

 

「くそっ!」

 

キリトは止まらず駆ける。

今度は木々の枝がキリトの顔を襲い、顔に傷が付く。

それでも止まらない。いや…止まっていられない。ユイを見つけて帰るまで…止まれない。

すると…。

 

「あ……」

 

森が開け、小さな湖に通ずる道があった。

その先の湖の畔で、ユイは体育座りをして、俯いていた。

心なしか、まだ泣いているように見えたキリトは、ゆっくりとユイに近寄る。

ユイはキリトが近付いて来ていることに気付き、涙目でキリトを見る。

普段のキリトなら、「どうして1人で離れたんだ⁈」と怒りたい気分であったが、既に深く傷ついたユイを怒る気にはなれなかった。

 

「パ、パ……」

 

「ユイ、どうして無断で離れたんだ?心配したぞ?」

 

優しく語りかけながら、キリトもユイの横に座る。

湖には月の光が映り、とても綺麗に見えた。

 

「ママも心配するから、戻ろう?な?」

 

「……良いんですか?私なんか…」

 

「良いんですかって…ユイは俺たちの子供なんだから、当然だろう?」

 

キリトはユイが帰りたがらない理由としては、例のトマトの件かと思っていたが、違うことに気付いた。しかし、何が原因かまだ分からなかった。

 

「でも…でもっ、私はっ…!」

 

そこまで喋って、ユイは言葉に詰まらせる。一拍置いて、ユイは更に涙を溢れさせて、泣き叫ぶように言う。

 

「私はただのNPCだからって…それだけでも、パパとママに迷惑がかかってしまったら…!」

 

「違う!ユイはただのNPCじゃ…!」

 

「でもっ!私を人間と言ってくれるのはパパとママだけで、さっきの人みたいな感じで来られたら……」

 

「そんなこと……」

 

「ユイちゃん!そんなこと言わないで!」

 

森の中に、アスナの悲し気な声が轟いた。

振り返ったら、キリトとほとんど同じように傷だらけのアスナが立っていた。

息は絶え絶えで、ゆっくりとユイに近付き…。

 

「ごめんね…ユイちゃんッ…」

 

抱き締めた。

 

「私たちがしっかりしないから…守らないから、ユイちゃんまで傷つけて…。ママ失格だわ…」

 

「アスナ…」

 

「ママ…」

 

涙を流して、ユイに謝罪するアスナにキリトも寄り添った。

 

「俺もごめんな、ユイ。お前のこと、しっかりと気遣ってやれなくて…。でも、俺たちはお前のパパとママだ。子を想う気持ちは一番大事にしてるよ。だから安心しな?ユイがNPCだろうが関係ない。俺たちはユイを大切にする」

 

「パパ…ママ…‼」

 

ユイの泣き声が森の中を木霊する。

キリトとアスナは更に強く抱き締めて、ユイへの愛情の強さを伝えようとする。

 

「さて!帰って晩御飯にしましょう!」

 

「はい、ママ!」

 

今度は真ん中にユイを入れて、手を繋いでログハウスに戻った。

キリトはこの時こう思っていた。元々強かった家族の絆が、更に深まったと…。

 

 

 

 

「キリトくん!スイッチ!」

 

アスナの単発SSリニアーによって、第76層のボス【White gust Nargacuga】の尻尾攻撃を弾いた。

そこにキリトは重突撃SSヴォーパルストライクを放って、奴の目を抉った。

しかし、そこからボスは尻尾をキリトの足に当てて、態勢を崩させると、一旦距離を置いて、白い圓月(えんげつ)の斬撃を飛ばした。もちろん、キリトは足を当てられた…というより、潰されたことで動けずにいたので、その攻撃は受けざるを得なかった。

ここでキリトはユニークスキル【纏雷】を発動させ、剛撃SS蒼雷撃とぶつけさせた。

 

「くっ…おぉ…!」

 

(つば)迫り合いのような状態のキリトにボスは躊躇うことなく、一気に向かって来て、刃翼でキリトの首を狙って来たが、そこで1発の矢が抉れた目に刺さり、激しい爆発を起こした。

攻撃を受けながら、矢が飛んできた方向を見ると、白い羽衣を付けた弓を構えたシノンが立っていた。

キリトはシノンが作ってくれた隙に、圓月の斬撃を弾き飛ばした。

しかし、ボスはそのせいで今度はシノンに標的を変えた。

長い尾を振り回し、数多の斬撃をシノンに向けて飛ばした。

それが弧を描くように飛んでくるので、シノンはいつ着弾するかが分からなかった。

 

「くっ…!」

 

側面に一回転して避けると、2つの斬撃は丁度そこで炸裂した。

だが、最後の一撃はシノンの右足を吹き飛ばした。

 

「あがぁ⁈」

 

右足の感覚が一気に増すと同時に鋭く痛み、シノンは地面で(もだ)える。

その瞬間をボスはつけ込む。

更に尾を激しく振り回し、新たな斬撃を数撃飛ばす。

動けないシノンは弓を強く持とうとした時。

 

「はあッ!」

 

キリトが前に立ち、4連撃SSバーチカルスクエアで、全ての斬撃を弾き飛ばす。

それでもボスはシノンに固執して、反転して、巨大な尾を地面に叩きつけるように当ててくる。

それもキリトが受け止めた。

バキィン‼と金切り音がフィールドに広がり、キリトは歯を食いしばりながら耐える。

普段の二刀流状態だったら、今頃キリトは潰されて死んでいるところだったろう。だが、【纏雷】の発動中は筋力パラメータも段違いに跳ね上がる。それでどうにか耐えているが、長くは持ちそうにない。

 

「ぐううぅ‼」

 

キリトの頑張る姿にシノンは見惚れる。

黒いコートに青い稲妻模様が浮かび上がり、翻るコートから少し見える端整な顔に…何故か茫然としてしまっていた。

 

「キリトくん‼」

 

アスナは重突撃SSアニートレイで、その尾を側面に弾き、キリトを助ける。そして、シノンに喝を入れる。

 

「しっかりして!」

 

「…言われなくても、分かってるわよ!」

 

シノンは新たな矢を弦にかけ、重撃BSスプライシングを放つ。

それは先程キリトを手助けしたボウスキルでもあり、ボスの身体に着弾すると、激しい爆発を起こした。

爆発後にアスナが切り込みとして、顔面に突進SSスピアーで怯ませると、キリトが側面に回り込み、重二連撃SSバーチカルクロスを叩きこんだ。

これが最後の一撃となり、ボスは見事に砕け散った。

攻略に参加したプレイヤーがクリアの歓声を上げている間に、キリトは足を『欠損』して立てなくなっているシノンの方に向かい、欠損部位回復の結晶を渡し、手を差し伸ばした。

 

「ほら、立てないだろ?」

 

「…自分のを持ってるからいいわ」

 

シノンはキリトの手を振り払い、腰から結晶を取り出し、それで吹き飛んだ足を元に戻した。

それを後ろで見ていたアスナは面白そうな表情はしていなかった。むしろ、不満といった表情だった。

 

「どうして助けたりするの?」

 

「攻略とあの時は別の話だ。アスナも分かってるだろ?」

 

「そうだけど……あぁ、気に食わない」

 

そう愚痴を溢して、アスナは先に帰ってしまう。

キリトは去り行くシノンを見ながら、いつか…仲良くならないかなあ…と思うのだった。




【補足1】
『White gust Nargacuga』
第76層ボスモンスター。原作名は白疾風ナルガクルガである。斬撃を飛ばすことが出来るナルガクルガ…という印象が強い。
『裂傷』を誘発する斬撃ですが、ここでは身体そのものが切り落とされる威力にまで上げています。


【補足2】
『欠損』
特定のモンスターが持っている特殊な状態異常。身体の一部が失われてるかつ、すぐに結晶を使用しても、痛みが残る。


【補足3】
『ボウスキル』
弓専用のスキル名。『ソードスキル』の弓バージョンみたいなものです。


【補足4】
『重二連撃SSバーチカルクロス』
2連撃SSバーチカルアークの上位互換。そして、斬り方が十字になっている。


今回の話で分かるように、これからボスモンスターとの戦闘が唐突に始まる時があります。75層以降の残り25層分全てを書くとグダルからです。ご了承ください。
そして、アンケートは次々話までにします。
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