ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第28話 忘れていた家族

宿のベッドに未だに気絶したままの直葉を寝かせたキリトは近くの椅子に座って、艶やかな前髪を顔から動かした。

2年ぶりに見た妹の顔に、キリトはあの時、自我を失いかけた。

冷めていた頭が一気に熱くなり、目の前の敵を『殺す』ことしか考えられなくなっていた。この状況はアスナがクラディールに殺されかけた時以来のことだった。

あそこでアスナが止めなければ、暴走は必須だったことだろう。

 

「…大きくなったな…」

 

そうは言うものの、キリトはあまり直葉とは仲が良くなく、その時の記憶も薄れかけていた。最後に見た時は、剣道の大会に行ってくると食卓で言っているのを朧気に覚えているだけだ。

ただ、仲良くしていなかったのは理由があった。

直葉はキリト…桐ケ谷和人の本当の妹ではないことが分かってしまったことだ。

自分はこの家の子供ではない…なら、自分は何者か…。これが原因でキリトはネットゲームに依存し、最終的にはSAOというVRゲームというものにのめり込んでいった。

 

「俺を探しに来たのか…?でも何で…」

 

キリトは寝たままの直葉に呼び掛けるが、彼女は目も開けない。さっきの行動といい、直葉はキリトを守ろうとした。それに疑問を覚えながら、キリトは眠り続ける直葉を見つめ続けるのだった。

 

 

 

 

直葉は兄がSAOというゲームに入り込んだまま目覚めず、ナーヴギアを外す、またはゲームオーバーになったら死ぬ…と聞いたのは剣道の大会で優勝した後のことだった。ニュースにもなり、大々的に報道された被害者一覧の中に『桐ケ谷和人』の名前があった時、直葉は言葉を失った。

嘘であることを祈りながら、自宅に戻ると、母親が涙を跡を残したまま、椅子に座っていた。母親に連れられて、病室に入った直葉は、初めて深く、重い悲しみと絶望に襲われた。

最近まで兄に不遇に扱われていたはずなのに、胸が切なく締め付けられ、涙が止めどなく溢れ出した。そして最後には大きな声を上げて、ベッドに眠る兄の腹に顔を乗せて、号泣した。

それからは更に剣道に力を注いだ。いや…注がないと、兄のことを思い出して、何も出来なくなってしまうのを防ぐためだった。それでも時間があれば病室に赴き、活けてある花を変え、浮き出る汗を拭きとったりすることくらいはしていた。

直葉はこの時こう思っていた。すぐにゲームはクリアされ、元気な兄が帰ってくる。

そんな楽観的な考えが、後に新たな悲劇を生むとは…この時直葉は思っても見なかった。

ある日、いつも通りに病室に行こうとしたら、すぐ隣の病室が慌ただしく看護師と医者が行き来し、次には誰かの絶叫が聞こえた。そっと覗いてみると、同じくナーヴギアを被った男の子の手を握り、泣いている母親がいた。その光景が何を意味しているか、当時13歳の直葉でも分かった。

あれが『死』であることを…。

初めて人の『死』を間近で体験した直葉は震えが止まらなくなった。

兄の部屋に入り、目覚めない彼に問いかけた。

 

「死なないよね?ねえ…。お兄ちゃん…。ねえ…ねえったら‼」

 

この日、初めて直葉はパニック発作を起こした。

和人の身体を激しく揺すり、泣き声を上げた。

これに気付いた看護士たちは直葉を和人から離し、落ち着かせようと必死になった。仕事に行っていた母親が駆けつけるほど、直葉は混乱してしまっていた。

それからという直葉は常に兄の死と隣り合わせする生活が始まった。

これがどれだけ辛く、残酷なものか…直葉は誰にも理解されないと思っていた。

学校でも剣道でも何をしても、どこでも兄が死ぬのではないか…そう思ってしまい、まともに生活をすることも直葉にとっては困難な状況にまで陥っていた。

そんな地獄みたいな生活が2年も続いた。

毎日泣き、喘ぎ、耐え抜く生活だけが続いた。

そして…そんな中、直葉の兄、和人の出生の真実を聞かされた。

和人とは本当の兄妹ではなく、従兄妹同士に当たるということに。

これを知った直葉は漸く分かった。

何故兄が剣道を辞めたか…。何故自分と距離を置いていたのかを…。

そして胸に塞ぎ止めていた感情が一気に爆発した。

その衝動から…直葉はこの世界に飛び込んだのであった。

 

 

 

 

目が覚めると、また直葉は病院の椅子に座っていた。

目の前には兄の寝ている姿があった。

 

「あ、れ…?私、ダイブしたはずじゃ…」

 

そう思ったが、どうやらしてないように見えた直葉は溜め息を吐き、兄の顔を見詰める。

 

「お兄ちゃん…」

 

その時、兄の命を繋ぎ止める機械から甲高い音が響いた。

振り向くと、心拍数の波長が真っ直ぐ一直線になっていたのだ。起きて欲しくなかった事態が目の前で起こり、直葉の視界がグニャリと歪んだ。

涙だ。

そして兄の胸に手を当てると……心臓の鼓動は無くなっていた。

 

「嘘でしょ?嘘だよね?」

 

あの時と同じように何度も兄を揺すり、叫び直葉。

だが、兄の口は開かないし、目も開けない。

 

「嘘だって言ってよ!」

 

そう言った途端、兄の目が恐ろしい速度で開き、こう告げた。

 

「桐ヶ谷和人は死んだんだ。その事実を受け止めろ」

 

「……いや…」

 

直葉は目と耳を塞ぎ、座り込む。

何も聞きたくない、見たくない…。

その気持ちが徐々に強くなり、最後には…。

 

「いやあああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

絶叫するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

目を覚ました直葉は身体中から汗を噴き出し、息を荒くしていた。

そのすぐ横では…心配そうに兄…キリトが見ていた。

兄がまだ、生きている…。それが分かった直葉はもう止まらず、涙を溢れさせた。ベッドがグショグショに濡れてしまうかもしれない量の涙を溢れさせ、キリトの胸に縋り付いた。

だが、キリトはあまり芳しくない表情を作っていた。

 

「スグ…」

 

「お兄ちゃ…」

 

パチン!と乾いた音が部屋に響いた。

涙で濡れた直葉の頬をキリトが打ったのだ。

何故打たれたのか分からない直葉はきょとんとした表情でキリトを見た。

そして…キリトの怒りが爆発した。

 

「何で……何で来たんだ‼︎スグ⁈ここはお前が来るようなところじゃない‼︎‼︎」

 

「でも…でも…お兄ちゃんに会いたくて…!」

 

「そんな軽い気持ちだけで来るな‼︎ここはスグが考えるよりよっぽど危険な場所なんだ!もしお前を死なせたら…俺は……俺は……っ」

 

キリトも抑えられなくなって、涙を流した。

怒りもあったが、実際は嬉しさもあった。

こんな危険な目に遭ってまで、自分を心配してくれる存在がいることに…感動を覚えてしまったのだ。それに忘れていたのだ。この世界とは別の世界にも…きちんと家族がいることを…。

そんな弱々しい兄の姿を見たことがなかった直葉はどうしたら良いのか分からず、混乱してしまう。

だが、キリトが言った『軽い気持ち』にだけは、僅かな苛立ちを覚え、反論した。

 

「軽い気持ちなんかじゃない!私は…お兄ちゃんを助けたくて…救いたくて来た!SAOというゲームがどれだけ危険かは、あっちで散々教えられたから知っている。でも…お兄ちゃんの周りの人が死んでいくのを見ながら生きていくのは…とても辛かった…。いつも泣いて…挫けそうになって…でも、そんなのお兄ちゃんと会えば全て吹っ飛ぶ。生きる力が湧いてくる。だから…私は本気でこの世界に来た」

 

「スグ…」

 

「だから泣かないで?私ももう泣かない。また強くなる」

 

そう言われたキリトは涙を拭い、直葉を見詰める。

 

「ありがとう、スグ…。それと、ごめんな…」

 

「ううん、良いよ…。お兄ちゃんも辛かっただろうし…」

 

「約束するよ、スグ。お前も必ず現実へと戻してやる」

 

「私…『も』?」

 

その言葉に直葉は僅かな違和感を感じたが、あまり深くは考えず、キリトの胸に頭を降ろし、今日はそのまま眠りに就くのだった。

 

 

 

 

そして、後日、キリトは自分の奥さんであるアスナを紹介した。

その時、直葉が混乱したことは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中に浮かぶ鋼鉄の城から離れた小島……そこは溶岩が永遠に滴り落ち、草木は1本も生えず、ただ1匹の龍だけが棲みついていた。かの龍は1つの王国を滅ぼし、傷付き、そこに棲みついたとされている。

そして…その龍が持つ力は災厄を(もたら)し、全てを滅ぼす…とされている。

龍は大きな紅の大翼を羽ばたかせ、自らの焼け焦げた鱗を剥がす。

それらは塵となって、巨城に向かって流れていく…。

更なる災厄は、すぐそこまで近づいていた…。




次話でアンケートは終了します。

そして、次話からは絶対に書こうと考えていたストーリーが始まります。
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