ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第31話 古の伝説

キリトが急いで外へ出た後に、アスナも目を覚ました。

ところが疲れが抜けていないのか、身体が重く、怠い。頭は熱に(うな)されたかのようにくらくらしている。

 

「どうしちゃったんだろう…。昨日の疲れかな…」

 

そう思いながらノロノロと立ち上がって、隣のベッドを見る。

しかし、そこには愛するキリトの姿がなかった。

どこかへ出掛けたのか、それともただ外の空気を吸っているのか…。

ともかく、朝ごはんの支度をしなくては…と思ったアスナは下の階へ降りる。

そこにもキリトはいなかった。やっぱり出掛けているようだ。

 

「ああ…頭がくらくらする…」

 

今にも転げ落ちそうな階段を降りて、どうにかキッチンに辿り着いたが、ここから料理をする気にもなれない。どうしたものか…と思っていると、玄関のドアが開き、そこに愛するキリトが意気消沈したような表情で戻って来た。

 

「キリト…くん…。良かった、帰ってきて…」

 

アスナの顔を見た瞬間、キリトは動揺を隠せなかった。

明らかにアスナの様子はおかしかった。頬と額は赤く染まり、そこからは熱を持ちすぎて蒸気まで見える程だった。足元もおぼつかなく、その瞳は潤んでいる。

 

「どうしたんだ⁈アスナ!」

 

キリトがアスナの肩に触れた途端、彼女の身体は支えを失ったように崩れ落ちた。

アスナが地面に倒れる前に、キリトは彼女を支えた。

 

「大丈夫…だよ…キリトくん…」

「大丈夫じゃないだろ!何があったんだ…」

「昨日の疲れが抜けてないだけだよ…。そんな泣きそうな顔しないで…」

 

キリトは彼女の頬に手をやるが、そこは誰でも分かるくらい熱くなっていた。現実世界なら死ぬ体温…およそ42℃を上回っているとも思えるくらいだった。

 

「それなら今日は寝ていろ!俺がお粥とか作ってやるから…」

 

「ごめんね…。キリトくん…」

 

そこまで言って、アスナはあまりの高熱に意識を保てなくなり、気を失う形で再び眠るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日―

 

「ユイ、ママを頼んだぞ。俺は…ちょっと用事が出来てしまってさ…」

 

「ママを看病することよりも大切なことなんですか?」

 

ユイの問いに、キリトは答えられなかった。

エギルの言う『伝説』を聞きたくて行きたいわけではない。それ以外にも、ここ最近起きる赤い塵による火事、そして…アスナと同じようにゲーム内なのに高熱に魘される人たちの増加が、エギルが言っていた『伝説』に関係するのではないかとキリトは推算していた。

 

「行ってくる。何かあったら、これで俺の元に来るんだ」

 

キリトはユイに転移結晶を渡し、横になって苦しむアスナの手をギュッと握った。

 

「待ってろ、アスナ。絶対に助ける方法を見つけてくるからな…」

 

キリトはそう言って、ログハウスから出て行くのだった。

 

 

 

 

すぐにエギルの店に着いたキリトは、扉をノックすることも忘れて、堂々と中に入っていった。店の中は未だに焦げ臭く、店の清潔感を気にするエギルがそのことを放置していることに『珍しいことだ』と思った。そして当の本人のエギルはカウンターに大量の本を山のように積み上げて、その陰に座っていた。

 

「キリト、来たか。大変なことが分かった」

 

「例の『伝説』の話か」

 

「ああ」

 

エギルは1つの古びた本をキリトに投げ渡した。

そして丁度、栞が挟んであるページの一部に線が引いてある箇所があった。

そこにはこう書かれていた。

 

 

 

『怒れる紅龍は、その怒りによって大地を震わせ、天を禍々しく焦がし、世の空と大地を緋色に染め上げる』

 

 

 

「正に今の状況じゃないか!」

 

「問題はその続きだ」

 

エギルに言われて、その先を読む。

 

 

 

『また赤き紅龍が眠りから覚めた時、運命は解き放たれ、近い未来、世界に真なる終焉が到来する』

 

 

 

この予言めいた言葉にキリトは理解が追いつかなかった。

 

「これの意味は?」

 

「今、何故かゲーム内で高熱で倒れるプレイヤーが増えているだろ?恐らく…それもこの古文書に書かれている『紅龍』だと思うんだ。そして世界の終焉は……」

 

「もう始まっている…と言いたいのか?」

 

「ああ…」

 

それを知ったキリトは一瞬で動揺を隠せなかった。

今正にアスナはその『紅龍』の影響で苦しんでいる。

 

(早く…どうにかしないと…)

 

その気持ちがどんどん(たかぶ)るキリト。

 

「エギル!どうすればいいんだ⁈アスナが…アスナも『紅龍』の影響を受けてしまっているんだ!」

 

「アスナが⁈しかし…こいつをどうにかするにしても…今の俺たちは無理だ」

 

「どうしてだ!」

 

「こいつがどこに居て…どこで戦えばいいかも分かっている。だが、このゲーム内で『紅龍』の立ち位置は裏ボス…。しかも参加条件にソロ限定とまできている。こんな悪条件でどうやって戦えばいいって言うんだ」

 

「アスナや他のプレイヤーを見殺しにしろって言うのか⁈エギル‼︎」

 

キリトの憤慨は留まることを知らず、エギルの胸ぐらを掴む。

 

「どうしようもないって言ってるだろ‼︎」

 

エギルもキリトを突き放して、乱れた服を整える。

キリトは息を荒くして、机を思いっきり叩いた。

 

「クッソおおおおお‼︎‼︎」

 

キリトが咆哮する気持ちは、エギルには痛い程分かってはいたが、彼に慰めの言葉を送ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ログハウスに戻ったキリトは、昏睡状態のアスナの傍らで茫然としていた。

助ける方法がない…。アスナは犠牲になるしかない…。

残酷な運命を突き付けられて、何もかもどうでも良くなったのだ。

 

「ごめんよ、アスナ…。俺が…俺が弱いから…また……」

 

また…死なせてしまう。

もう2度と…誰も死なせないと誓ったのに、こうもあっさりと約束を破ってしまう自分に嫌気が差すキリト。

もし…『紅龍』がこの世界を終末へと導くなら、キリトはアスナが死んだ後に自決しようと思っている。彼にとって、アスナのいない世界は考えられないのだ。

助けようにも、奴を倒すには完全ソロ限定…しかも強さは現在攻略が進んでいる第85層のボスをも凌ぐ圧倒的な力を有すると想像出来る。

これで絶望しないプレイヤーがどこにいようかと…キリトは思った。

 

「泣かないで…」

 

涙を(すく)う、熱気が篭った細い指がキリトの頬に触れた。

 

「アスナ…」

 

昏睡から目が覚めたようだが、体調は最悪の状態だ。

言葉を発するのも辛いアスナだったが、キリトの傷がまた抉れないように…優しい言葉をかけた。

 

「キリトくん…仮に私が死んでも…君は、死なないでね?だって…ユイちゃんが悲しんじゃうから…」

 

「それじゃ…それじゃ矛盾してるじゃないか‼︎あの時アスナ言ってただろ⁈俺が死んだら…アスナも死ぬって!それなら…俺だって……」

 

アスナは言うことを聞かない身体を無理に動かして、キリトの耳元でこう囁いた。

 

「君は…この世界の希望なのよ?」

 

「…!」

 

「みんなが…キリトくんに希望を抱いている。このゲームを…クリアさせてくれるって…。だから…諦めないで?」

 

「アスナ……」

 

キリトはアスナをギュッと抱きしめた。

アスナの身体は信じられないくらい熱く、抱き締めているだけでもキリトの肌からは汗が噴き出た。それでも構わず…抱きしめる。

 

「絶対に助ける。俺は諦めない。デスゲームも…アスナも!」

 

そう言ったが、その言葉はもうアスナには届いていなかった。

再び、昏睡状態に陥り、深い眠りに入った。

キリトは背中に二刀の剣を携え、ログハウスを出た。

キリトの心にもう迷いは見られなかった。

これから戦うであろう絶対的強者に挑むキリトは、死も恐怖も感じなかった。

彼の意志を強くするのは…人を愛し、想うことだけだった。




【補足】
『紅龍による世界の終焉設定』
完全なるオリジナル設定です。クエスト文やモンハン大辞典から、今回の話のような世界の終焉が訪れると推察しました。

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