ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
キリトが急いで外へ出た後に、アスナも目を覚ました。
ところが疲れが抜けていないのか、身体が重く、怠い。頭は熱に
「どうしちゃったんだろう…。昨日の疲れかな…」
そう思いながらノロノロと立ち上がって、隣のベッドを見る。
しかし、そこには愛するキリトの姿がなかった。
どこかへ出掛けたのか、それともただ外の空気を吸っているのか…。
ともかく、朝ごはんの支度をしなくては…と思ったアスナは下の階へ降りる。
そこにもキリトはいなかった。やっぱり出掛けているようだ。
「ああ…頭がくらくらする…」
今にも転げ落ちそうな階段を降りて、どうにかキッチンに辿り着いたが、ここから料理をする気にもなれない。どうしたものか…と思っていると、玄関のドアが開き、そこに愛するキリトが意気消沈したような表情で戻って来た。
「キリト…くん…。良かった、帰ってきて…」
アスナの顔を見た瞬間、キリトは動揺を隠せなかった。
明らかにアスナの様子はおかしかった。頬と額は赤く染まり、そこからは熱を持ちすぎて蒸気まで見える程だった。足元もおぼつかなく、その瞳は潤んでいる。
「どうしたんだ⁈アスナ!」
キリトがアスナの肩に触れた途端、彼女の身体は支えを失ったように崩れ落ちた。
アスナが地面に倒れる前に、キリトは彼女を支えた。
「大丈夫…だよ…キリトくん…」
「大丈夫じゃないだろ!何があったんだ…」
「昨日の疲れが抜けてないだけだよ…。そんな泣きそうな顔しないで…」
キリトは彼女の頬に手をやるが、そこは誰でも分かるくらい熱くなっていた。現実世界なら死ぬ体温…およそ42℃を上回っているとも思えるくらいだった。
「それなら今日は寝ていろ!俺がお粥とか作ってやるから…」
「ごめんね…。キリトくん…」
そこまで言って、アスナはあまりの高熱に意識を保てなくなり、気を失う形で再び眠るのだった。
―翌日―
「ユイ、ママを頼んだぞ。俺は…ちょっと用事が出来てしまってさ…」
「ママを看病することよりも大切なことなんですか?」
ユイの問いに、キリトは答えられなかった。
エギルの言う『伝説』を聞きたくて行きたいわけではない。それ以外にも、ここ最近起きる赤い塵による火事、そして…アスナと同じようにゲーム内なのに高熱に魘される人たちの増加が、エギルが言っていた『伝説』に関係するのではないかとキリトは推算していた。
「行ってくる。何かあったら、これで俺の元に来るんだ」
キリトはユイに転移結晶を渡し、横になって苦しむアスナの手をギュッと握った。
「待ってろ、アスナ。絶対に助ける方法を見つけてくるからな…」
キリトはそう言って、ログハウスから出て行くのだった。
すぐにエギルの店に着いたキリトは、扉をノックすることも忘れて、堂々と中に入っていった。店の中は未だに焦げ臭く、店の清潔感を気にするエギルがそのことを放置していることに『珍しいことだ』と思った。そして当の本人のエギルはカウンターに大量の本を山のように積み上げて、その陰に座っていた。
「キリト、来たか。大変なことが分かった」
「例の『伝説』の話か」
「ああ」
エギルは1つの古びた本をキリトに投げ渡した。
そして丁度、栞が挟んであるページの一部に線が引いてある箇所があった。
そこにはこう書かれていた。
『怒れる紅龍は、その怒りによって大地を震わせ、天を禍々しく焦がし、世の空と大地を緋色に染め上げる』
「正に今の状況じゃないか!」
「問題はその続きだ」
エギルに言われて、その先を読む。
『また赤き紅龍が眠りから覚めた時、運命は解き放たれ、近い未来、世界に真なる終焉が到来する』
この予言めいた言葉にキリトは理解が追いつかなかった。
「これの意味は?」
「今、何故かゲーム内で高熱で倒れるプレイヤーが増えているだろ?恐らく…それもこの古文書に書かれている『紅龍』だと思うんだ。そして世界の終焉は……」
「もう始まっている…と言いたいのか?」
「ああ…」
それを知ったキリトは一瞬で動揺を隠せなかった。
今正にアスナはその『紅龍』の影響で苦しんでいる。
(早く…どうにかしないと…)
その気持ちがどんどん
「エギル!どうすればいいんだ⁈アスナが…アスナも『紅龍』の影響を受けてしまっているんだ!」
「アスナが⁈しかし…こいつをどうにかするにしても…今の俺たちは無理だ」
「どうしてだ!」
「こいつがどこに居て…どこで戦えばいいかも分かっている。だが、このゲーム内で『紅龍』の立ち位置は裏ボス…。しかも参加条件にソロ限定とまできている。こんな悪条件でどうやって戦えばいいって言うんだ」
「アスナや他のプレイヤーを見殺しにしろって言うのか⁈エギル‼︎」
キリトの憤慨は留まることを知らず、エギルの胸ぐらを掴む。
「どうしようもないって言ってるだろ‼︎」
エギルもキリトを突き放して、乱れた服を整える。
キリトは息を荒くして、机を思いっきり叩いた。
「クッソおおおおお‼︎‼︎」
キリトが咆哮する気持ちは、エギルには痛い程分かってはいたが、彼に慰めの言葉を送ることは出来なかった。
ログハウスに戻ったキリトは、昏睡状態のアスナの傍らで茫然としていた。
助ける方法がない…。アスナは犠牲になるしかない…。
残酷な運命を突き付けられて、何もかもどうでも良くなったのだ。
「ごめんよ、アスナ…。俺が…俺が弱いから…また……」
また…死なせてしまう。
もう2度と…誰も死なせないと誓ったのに、こうもあっさりと約束を破ってしまう自分に嫌気が差すキリト。
もし…『紅龍』がこの世界を終末へと導くなら、キリトはアスナが死んだ後に自決しようと思っている。彼にとって、アスナのいない世界は考えられないのだ。
助けようにも、奴を倒すには完全ソロ限定…しかも強さは現在攻略が進んでいる第85層のボスをも凌ぐ圧倒的な力を有すると想像出来る。
これで絶望しないプレイヤーがどこにいようかと…キリトは思った。
「泣かないで…」
涙を
「アスナ…」
昏睡から目が覚めたようだが、体調は最悪の状態だ。
言葉を発するのも辛いアスナだったが、キリトの傷がまた抉れないように…優しい言葉をかけた。
「キリトくん…仮に私が死んでも…君は、死なないでね?だって…ユイちゃんが悲しんじゃうから…」
「それじゃ…それじゃ矛盾してるじゃないか‼︎あの時アスナ言ってただろ⁈俺が死んだら…アスナも死ぬって!それなら…俺だって……」
アスナは言うことを聞かない身体を無理に動かして、キリトの耳元でこう囁いた。
「君は…この世界の希望なのよ?」
「…!」
「みんなが…キリトくんに希望を抱いている。このゲームを…クリアさせてくれるって…。だから…諦めないで?」
「アスナ……」
キリトはアスナをギュッと抱きしめた。
アスナの身体は信じられないくらい熱く、抱き締めているだけでもキリトの肌からは汗が噴き出た。それでも構わず…抱きしめる。
「絶対に助ける。俺は諦めない。デスゲームも…アスナも!」
そう言ったが、その言葉はもうアスナには届いていなかった。
再び、昏睡状態に陥り、深い眠りに入った。
キリトは背中に二刀の剣を携え、ログハウスを出た。
キリトの心にもう迷いは見られなかった。
これから戦うであろう絶対的強者に挑むキリトは、死も恐怖も感じなかった。
彼の意志を強くするのは…人を愛し、想うことだけだった。
【補足】
『紅龍による世界の終焉設定』
完全なるオリジナル設定です。クエスト文やモンハン大辞典から、今回の話のような世界の終焉が訪れると推察しました。