ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

32 / 102
第32話 守り抜きたい人

シノンは今日もいつもと同じように弓を射る練習をしていた。

しかし…今日はどことなく調子が悪い。円形の的の中心をいつもなら当てれるのに、今日は僅かに逸らしてしまう。

 

「……」

 

どうしてなのか…自分自身でも分かるはずがないシノンは構わず弓の弦を引く。そして放った1発はやはり中心から僅かに右に逸れる。

シノンはため息を吐き、座り込んで空を見上げた。

今日の空は黒い雲がかかった曇りだ。

黒い理由は、連日、謎の火事によって生じた黒煙だ。

それが真っ白な雲を黒に染め上げているのだ。

 

「…キリト、元気かな…」

 

最近会っていないなあ…と思い、シノンは折角思ったのだから、会いに行こうと立ち上がった。この薄暗くどんよりとした気分もキリトに会えば吹き飛ぶと思ったシノンは支度を整えるのだった。

 

 

 

 

ログハウスに着いたシノンはドアをノックし、声を出した。

 

「私よ、シノンよ。キリト、アスナ、居るかしら?」

 

だが、返事はない。留守なのだろうかと想うシノン。

あのラブラブな2人なら、ユイを連れてどこか遊びに行った可能性もあると思ったシノンはがっかりしつつ、転移結晶で自宅に戻ろうと思った時、ガチャと扉が開いた。

出て来たのは涙の跡が残ったままのユイだった。

 

「…シノンさん…」

 

「ユ、ユイちゃん?どうしたの?その顔…」

 

「ママが…パパが……」

 

「え?どういうこと?キリトとアスナがどうかしたの?」

 

状況が飲み込めないシノンは、(むせ)び泣くユイを一旦、キリトたちが使っているであろう椅子に座らせて落ち着かせる。どういう状況なのかを聞いたシノンは動揺を隠せず、アスナが苦しんで寝ている部屋へと駆け込んだ。

 

「アスナ…」

 

「ん……その声…シノのん?」

 

朧げな意識と虚ろな瞳で見るアスナ。その姿にシノンは絶句してしまう。初めて真っ向から戦った時の面影は一切なかった。

 

「どうして…どうしてよ!アスナ‼︎どうしてキリトを止めずに行かせたの⁈どう考えたって…」

 

「私が死ぬ時は……キリトくんも一緒だから…」

 

絶え絶えの呼吸を吐きつつ、アスナはシノンの問いに答えた。

だが、シノンの怒りは止まらない。

 

「それで…いいの?」

 

「え…」

 

「もし…もしもよ…。キリトがその『伝説の龍』を倒して、死んで…アスナだけが生き残ったらどうする気?」

 

そう言うと、急にアスナの顔色が変わった。

悪寒とは違う震えがアスナを襲う。

 

「どうしてアスナが信じてないの?キリトが勝てるって…。キリトは最強の剣士なんでしょ?【蒼雷の二刀流】でしょ!必ず死ぬって…どうして決めつけてるのよっ‼︎」

 

そこまで叫んだ瞬間、アスナが精一杯の力でシノンの手を掴み、泣きながら懇願した。

 

「…けて」

 

「……」

 

「キリトくんを…助けてあげて…。そんなの…やだよぉ…。私…1人で生き残りたくない…‼︎」

 

そう言っているアスナを見たユイも我慢出来ず、空いているシノンの手を取って、お願いした。

 

「私からもお願いします!パパを…パパを止めてください‼︎」

 

シノンの返事は決まっていた。

 

「当たり前じゃない…」

 

シノンはそう言って、ログハウスから飛び出して行った。

アスナとユイに出来ることは祈りだけだった。

キリトが…無事に戻ってくることを…。

 

 

 

 

キリトは第85層の端…落ちたら2度と蘇ることの出来ない外周に立っていた。

そこには不自然に置かれている、クエスト概要が書かれているコンソールがあった。そこにはこう書かれていた。

 

『かの聖地に入った者、戻ること出来ず。伝説の龍に挑む覚悟がある者だけ入るがよい』

 

そんなことが書かれていようが、キリトは今、止まる術を知らない。

キリトは『Go』のボタンを押そうとしたとき、その手を誰かに掴まれて、止められた。

驚いて側面を見ると、そこには何故か息を荒くしたシノンが立っていた。

 

「シノン、どうしてここに…」

 

「アスナとユイちゃんに頼まれたの。お願いキリト、行かないで」

 

泣きそうな表情で懇願するシノンだが、キリトはそんな願いに簡単に乗る人ではない。

それはシノンも理解している。

 

「悪いシノン。行かなきゃいけないんだ。アスナを…この世界を救うために…」

 

「そのためにキリトが死んでもいいの⁈救えようと救えなくても、死んだら意味ないのよ⁈あなたが死んで…悲しむ人はいっぱいいるのよ!だからお願い‼︎やめて!」

 

「……離してくれ」

 

「絶対離さない。ソロ専用のクエストなら、私が離さなければ、キリトも死なずに済む」

 

キリトの腕に力が篭る。渾身の力を籠めて、シノンの細い腕を振り払った。

 

「離せ‼︎」

 

力強く振り解いたキリトだったが、シノンは距離を取って、自らの愛弓『凶弓【小夜嵐】』を掴んで、キリトに矢を向けた。

キリトは冷めた目で見ながら、自身も2つの剣に手を伸ばそうとする。

しかし、キリトの左手が剣の柄に触れかけた時、その掌を矢が貫いた。

 

「動かないで。キリトがどうしても行くって言うなら…私が止める」

 

「…………」

 

「これでも…まだ行くって言う気?」

 

「シノン…どうして俺に対してこんなに覇気がないんだ?」

 

「‼︎」

 

シノンは1番痛いところを突かれてしまい、言葉に詰まった。

今の一撃だけで、キリトはシノンにいつもの覇気がないことが分かってしまったのだ。

動揺を隠せず、焦ってしまったシノンは一瞬、隙を見せてしまう。

キリトは傷ついた手を使い、2つの剣を抜き、オリジナルスキル【纏雷】を発動させた。圧倒的な速度でシノンの間合いに入り、剣を真横から振り上げる。

 

「くっ!」

 

シノンも咄嗟に【一点突破】を発動して、風を足に纏わせて、空中に飛ぶ。

それに驚くキリトだったが、自身も足に力を込めて飛ぶ。

飛んでくるキリトにシノンは手加減など出来ず、本気のボウスキルを発動せざるを得なかった。だが、これで倒せれば、止められると思ったシノンは構わず、旋撃BS昇竜風を打った。

それに対してキリトは剛撃SS蒼雷撃で迎え撃つ。

キリトとシノンの攻撃スキルが衝突し、お互いに衝撃波を受けて吹き飛ぶ。キリトは地面に身体を叩きつけてしまったのに対して、シノンは空中で上手くバランスを取って、態勢を立て直す。

ところがキリトはすぐに立ち上がり、再びシノンの目の前に出る。

そして、剛2連撃SS竜星撃がシノンの両足を襲った。目にも見えない速さで剣が舞い、シノンの両足を切断した。

 

「あぐっ!」

 

落下するシノンだが、その真下にはキリトもいる。キリトは【纏雷】によって、身体能力を一時的に向上させることで、大跳躍が出来たが、シノンみたいに飛べるわけではない。

足を斬られたシノンと同じく、キリトも今は空中にいるため、自由が効かない。

そこでシノンは最強のボウスキルである旋速剛撃BS嵐神翔風を打ち、キリトを止めようと躍起になった。これで止まらなかったら…とも思ってしまったが、絶対に止める…その気持ちを強く持って…ボウスキルを放った。

 

「はあああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

シノンが放った矢は羽衣を纏った龍の容貌に変現し、キリトに向かっていく。

キリトも空中で自由が効かない状態で、あのボウスキルが飛んできたことに驚きを隠せずにいた。受け身を取る前に矢はキリトに直撃し、大爆発と同時に壮大な旋風を付近に巻き起こした。

シノンは両足が無く、上手く着地することが出来ず、地上とぶつかる。

 

「っ!うぅ…」

 

両足がないため、立つことも出来ないが、粉塵が舞っているその先に視線を凝らす。あの最強のボウスキルを受けたキリトがどうなったか…まさか、殺してしまったかもと思ったが、シノンのカーソルはレッドになっていない。生きているのは間違いなかった。

だが…。

粉塵の中に人影が見えた。バチバチと電撃が流れる音も聞こえる。

 

「まさか…そんな…!」

 

キリトは何と無傷でその場に立っていたのだ。多少のHPは減っていたが、ほとんど受けていないのに等しかった。

何をどうしたら…あのボウスキルを弾くことが出来るのかと思ったが、そんなのは後で考えればいいことだった。

シノンが再び矢に手を伸ばそうとした時、キリトはシノンの右腕を切断して、羽衣の弓を遠くに蹴った。

 

「あぐっ…‼︎」

 

腕を斬られた痛みにシノンは悶える。両足に右腕…四肢の半分以上を失ったシノンには、もうキリトを止めることなど出来なかった。

キリトは申し訳ない表情をしつつ、シノンに回復結晶を渡し、自身は『紅龍』のクエストを受注するコンソールに歩みを進める。

 

「やめて‼︎キリト…アスナとユイちゃんの想いさえ踏み(にじ)るつもり⁈」

 

その言葉にキリトが歩みを止めた。思い止まったのかと、期待したシノンだったが…。

 

「俺は…アスナを救う。たとえユイやアスナ自身の願いでも、アスナを見殺しにして生きることは、俺には出来ない!」

 

そう叫んで、キリトは『Go』のボタンを押した。

キリトが見えなくなってから、シノンは地面を叩き、叫んだ。

己の弱さに…。




アンケートは次話までにします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。