ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第33話 紅龍ミラバルカン

シノンの乱入で、まさか一戦を交えるとは思っていなかったキリトだったが、シノンを撃破して、現在、溶岩が流れ落ちる浮島の1つに立っていた。

燃えるような大地にキリトは一瞬でこの世とは思えないと感じた。

これから正に地獄に落ちる…そうとも思えてしまった。

その溶岩の中に…『奴』は眠っていた。

黒みを帯びた紅蓮の体色をしており、凄まじい大きさを持つ翼は溶岩の熱が原因か、ドロドロと溶けているようにも見える。頭には捻れた巨大な紅蓮の角を有しており、その姿は正に王道のドラゴンと呼べるものだった。

キリトは先制攻撃を仕掛けようと、足を一歩前に出した瞬間、『奴』は黄金色の瞳を開き、キリト…すなわち『敵』を認識した。

ゆっくりと長い首を立たせ、翼を広げる。その瞬間、周りの溶岩が激しく噴出し、『奴』に降りかかる。それでも紅蓮の鱗は溶岩を弾き、むしろその溶岩のエネルギーを自分のものにしようと身体を丸める。

 

(そんなことさせるか…)

 

そう思ったキリトは覇王剣を抜き、重突撃SSヴォーパル・ストライクを放つ。

赤いエフェクトを纏った剣は何も遮られることなく、『奴』の無防備な腹に突き刺さる…はずだった。

『奴』が紅蓮の翼を羽ばたかせた瞬間、周りの空気が一気に変わった。

途轍もない熱波がキリトを襲うと同時に吹き飛ばし、キリトの身体を焼く。

 

「うあああああああ‼︎‼︎ああああぁぁああ……」

 

耐熱スキルが付いているはずの黒いコートの下の肌が、マグマで焼かれたかのような感覚にキリトは悶絶する。

しかもその熱波はキリトの身体だけでなく、燃える大地…更には空を遮る重い大気までを吹き飛ばし、先程まで見えることがなかった真っ赤な月と星空を見せた。

そして…『奴』が咆哮した瞬間、周囲の溶岩が蛇のように渦巻き、キリトに襲いかかった。キリトは必死の思いで身体を動かして、その溶岩を避けた。

剣はキリトの手から離れてしまい、キリトは地面に倒れる。

この時点でキリトは勝てる気がなくなってしまっていた。落とした剣を拾うも、その柄でさえ、あまりの高熱に持っただけでジュウゥ…と良い音がした。

これが世界に終焉を(もたら)す災厄の龍…【紅龍ミラバルカン】の力…。

だが、キリトは早々に諦めるつもりはなかった。

キリトは掌が焼けて、その感覚を失おうが、『覇王剣』と『白雷剣エンクリシス』を掴み、二刀流の姿になる。気のせいでなければ、既に身体の大半は第三度熱傷を負ったかのようになっているとキリトは思った。

そうだとしても……。

 

「俺は…負けられないんだぁ‼︎‼︎」

 

真正面から突っ込み、キリトは重2連突撃SSヴォーパルスラッシュを腹に叩き込む。確実にHPは減っていたが、ミラバルカン自身は軽く小突かれただけで痛みも何も感じないようだった。

奴から見れば、キリトは自分の住処に湧いたコバエみたいな存在なのだろう。口元に炎を溜め、それを地面に吹き付ける。すると、これらは地面に沿っていき、キリトのいる位置で爆発しそうになる。

キリトはその攻撃を前方に回転して回避し、跳躍して、その頭部に単発SSバーチカルを放ったが、それはもはやダメージを1も与えられていなかった。

その事実に驚愕するキリト。今までどんなに強いボスでも、全ての攻撃はボスにダメージを与えていた。それが最早無効化されているのだから、生半可なソードスキルでは太刀打ち出来ないのが見て取れる。

地面に着地したキリトは落ち着いて距離を取り、どうするか考える。

ほとんどのソードスキルが効かないとなると、【纏雷】でしか発動出来ないソードスキルで漸くまともなダメージを与えられる可能性があると思った。だとしても、ミラバルカンのHPバーは7本もある。防御力がほぼ無いような状況のキリトにとって、長期戦だけは避けたかった。

 

「…使うしかない…」

 

キリトはエンクリシスを強く握り、奥の手でもある【纏雷】を早速使ってしまった。

これで倒せないなら……もう手は無くなる。

ミラバルカンは様子の変わったキリトに少しだけ目の色を変えた。

黄金色の瞳を強く輝かせ、口元に紅焔の炎を溜める。

そして、それを火炎放射の要領で広範囲に発射した。

その前にキリトは高速移動でミラバルカンの真横に移動し、24連撃SSジ・イクリプスを発動する。現在、キリトが発動出来る最大の連撃技かつ、最強の攻撃だ。1発の重さでは負けることもあるが、この連撃の総合的なところと【纏雷】による強化を含めれば、勝るものはない。

 

「はあああああああああああぁぁぁああああぁ‼︎‼︎‼︎」

 

足を集中的にソードスキルを叩き込んでいく。

15撃目を出しても、ミラバルカンは涼しい表情をしており、キリトが2つの剣を振っている間も口からは紅焔の炎を吐き出しており、それをキリトに浴びせる。

キリトは剣を高速で振っているおかげか、その炎も吹き飛ばしているが、ソードスキルが終わった後にはこれをまともに受けていることだろう。だが、キリトのそんな考えとは裏腹に、突然炎の放射が止まる。

それと同時にキリトのソードスキルが終了する。

硬直が暫く訪れるキリトは、次の攻撃は剛撃SS蒼雷撃で防ごうと考えていたその時、ミララースの口から甲高い咆哮が天に轟いた。

キリトの立つ場所が明るくなる。上を向いたキリトはそこで…本当の絶望を感じた。

 

「ウソだろ…」

 

何と頭上から何発ものメテオが降ってきて、1発は確実にキリトに向かって落ちて来ているのだ。それでもキリトは剛撃SS蒼雷撃をメテオにぶつける。

数秒だけメテオとキリトのソードスキルが拮抗するが、すぐに巨大なメテオの威力の方が勝ってしまい、キリトは盛大に吹き飛んだ。

 

「ぐあああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

キリトは2つの剣を手放してしまうと同時に灼熱の大地の上を転がる。

強力なソードスキルを使用したのが幸いしたのか、キリトのHPは3割ほど残ってはいるが、身体へのダメージは凄まじいものだった。

片目は光を失い、黒のコートの8割は焦げて失ってしまっている。更には片腕も焼けすぎて、簡単に取れてしまいそうだった。

しかも最悪なのが、ミララースのHPはまだ半分ほど残っているのだ。キリトが全身全霊を出し切って、発動した24連撃SSジ・イクリプスを持ってしても、半分しか減らせなかったのだ。この事実はキリトに更なる絶望だけを締め付けた。

 

「アス……ナ……ごめん……」

 

愛する人の名前を呼び、涙を流しながら謝罪をする。

結局…誰も救えないことを実感するキリト。

身体は動かず、目の前に落ちている剣を拾うことも出来ない。

ミラバルカンも動こうとしないキリトに最早敵意はなく、また溶岩の中で眠りに入ろうとしていた。そんな余裕な態度を取っている奴だが、キリトは怒りも敵意も沸き起こらなかった。

ただ…自分の命を尽きるのを待つのを望んでいた。

キリトはこの絶望に耐え切れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

『キリトくん…』

 

 

 

キリトの耳に声が聞こえた。

 

「誰…だ?」

 

『立って…。負けないで…』

 

光を失っていない右目をゆっくりと開くと、目の前にはキリトの右手を優しく握る栗色の長髪の少女が見えた。それが誰かなんて…言わなくても分かった。

 

「アスナ……」

 

『信じてる…。キリトくんは勝つ。誰にも…何にも負けないって…』

 

右手に感覚はない。

アスナが触れているのは見えているが、触れられている感覚は一切なかった。

 

『だから……立って』

 

その一言で、キリトは根こそぎ失われたはずの力が戻ってくるのを感じた。

歯を食いしばり、永遠に続く熱傷に耐えつつ、キリトはゆっくりと身体を起こし、黒と白の剣を再び手に取った。

 

「負けるか…」

 

キリトはそう自然と呟く。

ログハウスで待っているアスナとユイ、そして必死に止めようとしたシノンに唯一の家族の直葉、更にエギルやクラインなどの仲間のために…キリトは立ち上がり、もう一度【纏雷】を発動する。

キリトが立ち上がったことに気付いたミラバルカンは黄金の瞳を向けて、再び敵意を取り戻した。

 

「負けてたまるかぁッ‼︎‼︎」

 

キリトは2つの剣を構えて、ミラバルカンに向かっていく。

奴も先程のキリトとは別段違った覇気を見せていることに敵意が増したのか、黄金色の火炎放射をエリアの3分の1覆った。キリトはそれをまともに受けているはずなのに、大きなダメージにはなっていなかった。

キリトはミラバルカンの目の前に突っ込み、2つの剣に赤と蒼のエフェクトを帯びさせる。それはキリトも初めて見たものだった。

未だに現実か幻か分からないが、彼女が与えてくれたものだろうとキリトは思った。

 

(ならば…それを使って、奴を倒す!)

 

激剛18連撃SSスターバースト・ライトニングブレイク。

青い雷撃と赤い雷撃が相互にミラバルカンを襲う。

流石の紅龍も焦ったのか、黄金色の炎が完全な紅蓮色の炎に変わり、剣舞中のキリトを襲う。赤い剣撃がミララースの腹を捉えた時、剣の耐久地が限界を迎え、『覇王剣』が音を立てて、バキッと折れた。

目を見開き、驚愕してしまうキリト。その動揺(チャンス)をミラバルカンは見逃さなかった。前足を軽く振り、キリトの右腕を焼き切った。

 

「あがッ……‼︎ああぁぁ…!」

 

愛剣を失い、腕も失ったが、キリトのもう1つの愛剣…エンクリシスは輝きを失っていなかった。青いエフェクトが更に輝きを強くし、剣の重みを増加させる。

これも新たなソードスキルなのだが、キリトは気付かない。

烈撃SS蒼速神撃。

 

「食らえええええええええええぇぇぇえええええ‼︎‼︎」

 

その一撃はミラバルカンの腹部を深く切り裂き、深い傷を負わせた。

それが致命傷となったのか、ミラバルカンは悲痛な咆哮を上げて、その身体を地面の上に倒れさせた。

キリトは倒れ、溶岩の中に沈んでいくミラバルカンを茫然と見詰める。

だが、そこから先…キリトの身体が動くことはなかった。左手に持っている白い剣をカランと落とし、膝を付いて倒れた。

ミラバルカンを倒すために使った気力と体力が底を尽き、もう意識を保つのも限界だった。それに度重なる激しい炎攻撃にキリトの身体はボロボロだった。左目は失明、右腕はなく、至るところに重度の火傷を負っていた。

だが、それでも良かった。

これでアスナが死ぬことは無くなった。

これから火事が起こることもなく…しばらくは平和な日々が続くだろう。

 

「アスナ……お前は…生きて……」

 

キリトの意識が薄れていく。

ミラバルカンが棲みついていた溶岩の浮島は音を立てながら崩れてゆくが、キリトはそんなことに気付くことなく、自らの意識を手放してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…?」

 

アスナは急に消えた身体の倦怠感と熱に違和感を感じた。

隣のユイもどうして…と言いたそうな表情をしていたが、アスナにはその答えが分かっていた。

 

「キリトくん…」

 

(キリトくんが頑張って、私を救ってくれた…)

 

そう分かったと同時に、キリトはどこへ消えてしまったのか…。

焦る気持ちが急激に湧き上がる。そう思う中、窓から外を眺めてみた時、キランと光る何かが空から降って来て、ログハウスの近くに落ちた。

それにどこか見覚えがあったアスナはすぐに外に出て、ログハウスのすぐ目の前に落ちている黒いものを見た。

それにアスナは驚愕し、絶句した。

目の前には黒い剣が落ちていた。それは普段キリトが使っている覇王剣だったが、刀身の半ばから先は欠けて失われていた。

アスナは震える手でその剣に触れる。微かに熱を有しており、砕けた覇王剣からは激闘であったことが予想出来た。

と同時に…最悪のことが起きてしまったことも分かってしまった。

 

「そんな…」

 

キリトは『伝説の龍』と相討ちになったのだ。そうでなければ…キリトの愛剣が砕けた状態で降ってくるはずがない。

シノンが言っていた最悪の予想が、現実のものとなってしまった。

止め処なく湧き上がる涙と締め付けられる胸…。

アスナは砕けた覇王剣を胸に押し当てて……。

 

「いやああああああああああああああああああああああああぁぁ‼︎‼︎」

 

号泣した。

近くで立っているユイも堪え切れず、涙を零す。

アスナは泣き続けた。

涙が枯れることもなく…その日は1日中泣き続けたのだった。




【補足】
『紅龍ミラバルカン』
黒龍ミラボレアスの変異種。
今作は一応紅焔龍ミララースを意識して、執筆しました。
アンケートでは極征ミラバルカンが多かったので、それをベースにして最初書いたのですが、思った以上に面白く書けなかったので、こちらにしました。
本作では溶岩で焼けた鱗はプレイヤーや物体(住居・武器など)に影響を及ぼす。
他にも勝とうが、逃げようが、討伐に来たプレイヤーに影響を与える。
第95層レベルの力を有する。肉質はやや柔らかい設定(2Gなどみたいな硬化能力があると話にならないから)である。



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