ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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新章突入


第34話 流れ着いた少年

第83層…そこには1つだけポツンと小さな家屋が建っていた。

隣には牛と馬を飼っている屋舎、野菜を育てている庭園がある。そこで白い頭巾を被り、青い服を着て、育てた野菜を収穫する金色の長髪を有した少女がいた。

その少女の名前はアリス。

取った野菜を籠に入れ、一息吐き、アリスは空を眺めた。

つい数日前までは赤黒い雲が空を覆っており、更には昨日は巨大な爆発音がしたと同時に無数の岩石が瓦礫となって降ってきた。大変な数日だったが、今日は晴れ晴れとした快晴で、何の問題もない。アリスはこの後、この野菜を洗うと同時に魚を釣るために、近くの池に行こうと思っていた。

 

「ふう…行こうかな」

 

アリスは呟き、一旦自宅に戻る。

簡素なベッドとキッチン、そして冬でも寒くならないように暖炉が置いてある。中心には机と椅子が2つある。2つあるのだが、誘う人もいないため、あまり意味はない。

その机に野菜を置き、壁に立て掛けてある黄金色の剣にアリスは目が行った。

剣の長さは腰に置いたら地面に着いてしまうほどで、太陽の光に当たって、美しく(きら)めいていた。表面はリオレイア希少種の鱗、秘棘、獣毛が使われており、威圧感よりも優美感の方が優っていた。

剣の名前は『飛竜刀【光月】』。アリスの愛剣だ。

しかし、最近アリスはこの剣を使っていない。それもそのはずだった。

アリスは第50層攻略以来、攻略に参加していないからだ。

理由は単純だ。

自分以外に守るものもなく、第100層まで攻略出来るとは思っていないからだ。

 

「早く行かなきゃ。もうそろそろ陽が落ちそう…」

 

アリスは長い金髪を結って、それを頭巾の中にまとめる。さっき来ていた青い服を脱ぎ、新たに汚れても良い純白のスカートと半袖を着る。そして野菜を入れた籠を持って、目の前の湖に向かう。

何故アリスがこのような生活を送っているのか…。その理由は孤立した環境が今の生活を生み出した…と言うのが正しいだろう。誰とも関わらずに、自然に囲まれた場所で老いて死んでいくのがアリスの理想だった。戦って死ぬという恐怖に、負けてしまったのだ。

だが、それも今日の事態で全てが変わってしまうことを、アリスは知る由もなかった。

 

 

 

 

太陽が湖の水平線上に落ちかけている頃に、アリスは野菜を湖の水に付けて、丁寧に汚れを落とした。湖と言っているが、波もあり、大きさも把握していないため、海と言われても不自然はなかった。

透明度が高く、沈んでいる岩石や泳いでいる魚類を見ることが出来る程だ。アリス自身も泳ぎたいと思うこともあったが、誰か来るかもしれないと考えてしまうと、その行為に至れなかった。

野菜をゴシゴシと洗っていると、手元が滑ってしまって、野菜を落としてしまう。

 

「あっ…」

 

それを拾い、再び付いてしまった泥を再び落とそうとした時、その先に見えた『人』に視線が釘付けになった。一定の間隔でやって来る波を何度も受けており、倒れている『人』は微塵も動かない。

レイナは籠をその場に置き、倒れた人のところに駆けつける。

溺死でゲームオーバーにならないように、岸から引き上げようとするアリス。しかし、その『人』の酷い惨状に思わず、身体が硬直した。倒れているのはアリスと同い年くらいの男で短い黒髪に黒いコートを着ているのだが、大半は焼けて失われている。左目はもはや焦げて、抉れてしまっており、見るのも絶えなかった。更に右腕はない。

こんなボロボロの状態ではあるけれど、HPは僅かに残っていて、どうにか息もしている。

ここに置いたままにしておけるはずもなく、アリスはその男性を背負い、自宅に連れて行くことにした。

 

 

 

 

籠をそのままにしてきたことも忘れて、アリスはまず気を失ったままの彼を風呂場へと運ぶ。汚れきった身体を洗おうとした…のだが、そのためにはどうしてもこのボロボロな衣類を脱がせなくてはならない。

 

「…ええい、どうとでもなってしまえ…!」

 

アリスはその男の服を脱がし、身体にお湯をかけようと思ったが、思わず…声を出してしまう。

 

「うっ…!」

 

少年の服を脱がすと、肉が腐ったかのような臭いが風呂場に漂った。あまりの火傷で身体自体が腐り始めていたのだ。何がどうあって、こんな状態になったのか…。

起きたら詳しく話を聞こうとアリスは思いつつ、汚れと異臭を落とす。お湯が身体にかかっても、ピクリとも身体は動かないし、目を覚ますこともない。このゲームで寝ることはあるが、気絶したまま起きないことはないはずなのだが…。

気にしても仕方ないと思ったアリスは焼け(ただ)れた背中に布を当てる。

すると、皮膚がズルリとずれて、筋肉が露出した。

 

「うぐっ……」

 

思わず吐き気を感じてしまうアリスだが、ギリギリのところで留まる。

 

「何があったのよ……」

 

名前を言おうとしたが、そういえばこの少年の名前を知らないことを思い出したアリス。横に置いている焦げた黒コートに手を取り、その裏を見てみると、刺繍(ししゅう)で書かれた名前があった。

 

『キリトくん♡』と…。

 

赤い糸でおまけにハートマークが付いているということは、恋人でもいるのかと思った。いくら人に見られないからと言っても、ハートマークはどうかと思ってしまうアリスは、必死に少年の身体を癒すのだった。

 

 

 

 

次にアリスは大量の回復結晶を持って、キリトの前に座る。

自分がいつもなら使うベッドにキリトを寝かせ、回復結晶をキリトの身体に当てる。

今にも消え入りそうなHPを保たせるには、多量の結晶を使う方が良いと判断したのだ。

 

「ヒール」

 

そう呟くと、すぐにキリトの体表全体にまで及んでいた火傷を消すことが出来た。次は失われた腕だ。間髪入れずに、もう一度「ヒール」と言う。

だが、そこから先は何をやっても無駄だった。

失われた右腕も…左目も…元に戻ることはなく、ただHPだけが上がっていくだけだった。アリスは何度も「何で…」と呟いてしまう。そして、HPが全開になった瞬間、今まで気を失っていたキリトの目が開かれた。

 

「あ、気がついた⁈大丈夫⁈」

 

キリトは天井に視線を暫く向けていると、ゆっくりと上体を起こして、そのまま固まる。

 

「キリト?」

 

何度問いかけても、キリトは虚な視線を虚空に向けたまま全く動くことはない。

あまりに不自然だったので、キリトの身体を揺する。それでもキリトは動くことも、問いに答えることもなく…固まったままだった。あまりの衝撃にアリスは見ず知らずのキリトに対して、思わず涙を溢してしまうほどのものだった。

 

「ねえ…ねえったら‼︎」

 

それでも諦めることが出来ず、胸に(すが)り付いて叫ぶ。

どうしてこんな赤の他人にここまで熱くなってるのか…アリスには分からなかったが、他人事には出来なかった。

アリスは暫しの間、キリトを抱きしめ、こう言った。

 

「安心して…。あなたのことは私が守る。あなたが元のあなたに戻るまで…誰にも手出しはさせない」

 

アリスはそれからキリトの腕を自らの肩に乗せ、今まで使って来なかった椅子に座らせた。歩くことも話すことも出来ない彼には献身的な介護が必要なのは目に見えていたアリスは、湖に置きっぱなしの籠を取りに急いで戻った。

籠を取り、すぐに戻ろうと思ったが、岸にはもう1つ…流れ着いていたものがあった。

それは白い長剣で、キリトのものだと、勘で分かった。

ずっしりと重さが伝わる長剣を持って、自宅に戻ると…初めてキリトが反応を示した。

剣に向けて、左手を伸ばして、「あ……あ……」と口走る。

 

「やっぱり…キリトのものなのね。はい…」

 

キリトに渡しはするが、力が篭ってない左手だけでは支えることが出来ず、カタンと倒れてしまう。

 

「これじゃあ移動が不便ね。明日、材料を買ってくるわ。今日はもうご飯にしましょう?」

 

アリスは優しく言って、先程取ってきた野菜を切り始める。

そして、アリスは気付いてなかった。

キリトの頬を伝っていく涙と、その意味を…。




【補足】
『飛竜刀【光月】』
MHW:Iにある太刀『飛竜刀【月】』の名前を少しだけ変えました。
アンケート結果1位、リオレイア希少種の太刀である。



アリス登場。

そして言っておきます。
このシリーズでアリシゼーション編を書く予定は一切ありません。

嘘になりました、すいません。
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