ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
アリスは机に座って、ずっと考え込んでいた。
自分がしようとしていたことは、間違いだったのかもしれないと思い始めていたからだ。シノンに言われたことが永遠に頭の中でループしてしまい、忘れることが出来なくて、未だに寝れずにいた。
だが、いくら自分で考えても答えが出るはずもない。どうしたらいいのかと…アリスが頭を悩ませていると、家のドアがノックされた。
こんな時間に誰が来るのか、と思ったが、それは瞬時に分かった。
アリスは躊躇することなく、ドアを開ける。そして目の前には、上手く表情を作れず、モジモジしているアスナの姿があった。
「アスナ…」
「ええと…いい…かしら?」
アスナは目を合わせられないまま、アリスに問う。
アリスはほんの少し、どうしようかと思ったが、アスナからは敵意や殺気が全くという程感じられなかったため、小さく頷いてから、アスナの入室を許可した。
コツン、コツンとヒールが地面を踏む音が静寂に流れる。
そしてやはり、アスナが最初に向かったのはの車椅子に座ったままのキリトだった。そして、ポーチから何かを取り出し、キリトの膝の上に置いた。
気になったアリスが膝の上に目を向けると、闇夜に溶け込みそうな程黒く艶めき、半ばから先が失われた剣が置かれていた。
「はい、キリトくん。君のものだよ…」
砕けた『覇王剣』をキリトが視認した途端、車椅子がカタカタと小刻みに揺れる程、彼の身体が震え始めた。そして、壁にかけてあった白剣にも手を伸ばして、涙を流す。
「この剣…彼の愛剣で、『覇王剣』って言うの」
「…そうなの…」
「昼間とは雰囲気が全く違うわね…。警戒心も、敵意もない。拍子抜けしそうだったわ」
「私の勝手でしょ…」
アリスはそう呟きながら、机に飲み物を置く。
アスナは大人しく受け取り、それを口に含む。
「あの…アスナ……私…」
「アリス、あなたが昼間に言っていたこと…。合ってるかもしれない」
アリスの言葉を遮って、アスナは唐突に話を始める。
「あなたが助けてくれなかったら、キリトくんは死んでいたかもしれないのに、勝手に暴れて…暴言を吐いて…ごめんなさい」
「……」
「アリスの言う通りだわ。私は何も出来ない。キリトくんを信じることも出来ず…ずっと諦めたまま…。いつもそう…。私はキリトくんの隣に立っていたけど、自分では何も出来なくて…彼に頼ってばかり…。初めて会った時から…今の今まで…」
「そんなこと言わないで…」
アスナが自分自身を罵倒している中、アリスは彼女の話を止めた。
そして…唇を強く噛んだ直後、彼女自身が思った以上の声が飛び出していた。
「そんなこと言わないでよッ‼︎私は……私はアスナとキリトの関係を知っていて黙ってた‼︎キリトを奪われたくないがために、私はたくさんの悪事を働いた!そんな私に…アスナが謝らないで…」
耐え切れなくなった涙がアリスの目から溢れて、机に顔を押し付ける。
己のしてきたことを後悔して、ドン!と机を強く叩く。
今のアリスを驚いた様子で見ているアスナは暫く黙っていたが、彼女の肩に手を置いて…優しく聞いた。
「どうして…アリスはキリトくんを欲するの?」
「………」
暫しの沈黙の後、アリスは口を開いた。
「私は何にも分かってなかった。このゲームの特性を…。誰にも協力を得ずに突っ込んで、危うくゲームオーバーになりかけた。その時…」
アリスは項垂れるキリトを見る。
「キリトくんに出会ったのね…」
「そう…。最後に攻略に参加した50層で…久しぶりに彼に声をかけようと思った。初めて…勇気のいることをしようと思った。だけど、キリトの周りにはいつもあなた…アスナがいた。近付きたくても、近付けない存在になってしまったことに、私は辛くなった」
「それが…攻略に参加しなくなった理由…」
「そもそも、このゲームのクリア自体を諦めていたから…良い機会だとも思った。だから忘れようと思った。キリトと会ったあの日のこと全部…。でも、彼は…私の前に現れた」
もう一度…キリトを見る。
望んでいた再会の仕方ではなかったが、心は僅かに喜んでいたことにアリスはあの時から分かっていた。彼を献身的に介護し、一緒に過ごしていくごとに溢れ出る感情…。そして、キリトだと分かった瞬間にその感情が『愛』であることに気付いた。
1度しか話したことがないキリトに愛を感じるなんて…バカバカしいと思うアリスはそこから先、口を開けなかった。
「アリス、あなたも苦しんだのね…」
「同情なんてされたくないわ。私はもう引き返せないところに来てしまったの」
「そうだとしても、人を愛することは仕方のないことよ、レイナ…。キリトくんを渡すことは出来ないけど…」
アリスは涙目のまま顔を上げて、アスナの言葉を待った。
「アリスの支えになるわ。キリトくんと同じように…」
その言葉にレイナは言葉に詰まると同時に、両目を大きく見開く。
初めてそんなことを言われたで…ただ驚いた反応しか出来なかった。
「キリトくんは渡さないけど、キリトくんと同じように支えになる。お互い死ぬまでね」
「…本当に?こんな罪深い私を…?」
「ええ、絶対に」
アスナはアリスの手を握り、もう一度確かに頷いた。
アリスはアスナの優しさに嬉しくて、涙を更にポロポロと零す。
これで仲直りも終わったかなと思ったアスナだったが、次にアリスが言った発言で全てが台無しになる。
「だけど、キリトは諦めないから。それだけは忘れないで」
ピキッと怒りの音がアスナの頭の中で弾ける。
優しく触れていた手にも力が戻り、ギギギと強く握る。
「そんなことばっかり言ってると……今度こそ殺しちゃうかもよ?」
顔は笑っているが、目が笑っていないアスナに臆することなく、アリスはこう言った。
「上等よ。やってみなさい」
2人の間で再びバチバチと火花が散り、睨み合うのだった。
アスナとアリスが家の中で話している間、暗い森の中で黒剣の刃を研ぐ黒ポンチョの男が木の上でアリスの家を見ていた。中にアスナが入って行ったことも知っている。そして、あそこに黒ポンチョの男…Pohの目当てであるキリトがいるのも知っている。
「くくく…キリトぉ…待ちに待っていた瞬間がとうとう…」
Pohの黒い剣から声が響く。かの伝説の黒龍の力を収束させた剣…名を『真・黒龍剣【淵黒】』…。まるで鎌のような形状で、全てを深淵の闇に引き摺り落とす力を持つ強大な武器だ。
「さあ…ショータイムと行こうじゃねえか…。キリト!」
木から飛び降り、黒剣に闇色のソードエフェクトを纏わせる。
3人に…悪魔が近付いていく…。
【補足】
『真・黒龍剣【淵黒】』
Pohが持つ片手剣(盾なし)。
武器名は半分オリジナル。前半の『真・黒龍剣』は片手剣であります。
『淵黒』はかなり迷いましたね…考案するのに。
黒龍ミラボレアスの力が収束した闇の剣。
能力は次の話までお楽しみに。