ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第39話 蒼炎と白氷

アスナとアリスは即座にお互いに向けている敵意を外からやってくる『真』の敵に向けた。黒い剣撃がアリスの自宅の屋根を斬り裂き、大きくて派手な穴を開けた。

アスナはすぐにキリトの車椅子を素早く押して、家から逃げ出す。

アリスはというと、黄金の剣を取って、やって来る敵に向ける。

粉塵の中でゆっくりとアリスに向けて歩みを進める黒ポンチョの男…Pohを見た瞬間に驚きで硬直してしまう。

 

「あなたは…!」

 

「キリトはどこだ?Lady?」

 

英語を混えた言葉でアリスに詰め寄るPoh。

身体を動かそうとするアリスだが、何故か身体が動かない。

Pohの威圧だけでこうなるとは思えないアリスだったが、奴が握っている黒い剣…そこから溢れ出す闇色のオーラが彼女に纏わりついていることに気付いた。

あの剣がアリスの戦う気力を奪っているのは明らかだったが、それが分かったところでどうすることも出来ない。

黒い剣の刃がアリスの首元に当てられて、ボス攻略以来の『死』の恐怖を感じた。

 

「…っ」

 

「さあ、教えてもらおうか…キリトは……」

 

Pohがアリスから聞き出す前に…白銀色の細剣が彼女の真横を通過した。重突撃SSアニートレイを放ったアスナが、Pohの喉元目掛けて飛んで来たのだ。

Pohはアスナのソードスキルをまともに受けて、壁の方に吹き飛ぶ。

そこでアリスの硬直は治り、アスナに支えられる。

 

「大丈夫⁈アリス!」

 

「ええ…なんとか…。あの剣に縛り付けられたような気がして…」

 

「でも、奴はもう殺した。だから…」

 

「Dead? No! I am not dead!」

 

陽気な英語が2人の耳に入る。

驚き、動揺した2人は倒れるPohの身体を見る。確かに倒れていて、喉から溢れ出る血が床を染め上げていくが、途中で剣から放出される闇色のオーラがPohの身体を取り巻き、傷ついた喉をゆっくりと修復していく。レッドゾーンまで到達していたHPゲージも減少を止めて、回復に進み出す。

 

「ど、どうして…⁈致命傷のはず!」

 

「俺は簡単には死なねえぜ?閃光…。この剣の力さえあればな……」

 

Pohは首を鳴らしながら…剣を振りながらアスナとアリスに再び足を進め出した。この男とここで戦うのは不利だと思ったアスナはまだ硬直が完璧に解けていないアリスを連れて、家の外へと走り出す。

ところが、逃げ出した先が青黒い炎の壁で塞がれ、動けなくなる。

 

「簡単には行かさねえぜ?閃光、キリトはどこだ?俺はアイツとやりたいんだよ…」

 

Pohの持つ剣もキリトを望んでいるのか…黒く(きらめ)き出す。

暫く沈黙が続いたが、アスナはキリトから貰った剣『氷剛尖剣アイシテューレ』を強く握り、【氷界創生】を発動する。これで可能なら、アスナたちを閉じ込める青黒い炎を消せたらと思ったが、そんな上手い話があるはずもなく、凍るどころか…打ち消し合うこともなかった。

 

「ほう、それが閃光のオリジナルスキルか…。だが…それだけじゃ…俺には敵わないな…。俺のように…剣の更なる『高み』を解放出来ないと……な!」

 

Pohは黒い剣にエフェクトを纏わせて、アスナに向かっていく。

アスナはPohの攻撃を弾き返そうと思ったが、その時…アリスの付近で鮮やかな青色の炎が放出された。それがPohの剣を受け止め、更にPohの身体を焼く。

それはアリスが発動したオリジナルスキル…【劫炎】によるものだった。

Pohは一瞬驚きを見せながらも、アリスをジッと見詰める。

 

「Suck…。キリトに閃光…それに旋風以外にオリジナルスキルを持っている奴がいるとはな…」

 

「そのようね…。どう?下がる気になりました?」

 

アリスは気丈にもPohに挑発する。

ポンチョで隠れたPohの顔が僅かに歪む。

だが、その歪みはすぐに笑いへと変わり、更なる闇色のオーラを放出するきっかけとなってしまう。

 

「面白え…女…相手になってやるぜ…。キリトの前菜としてな!」

 

Pohは家の屋根を斬り裂いたものと同じソードスキルを発動する。

重撃SSダークスライサーだ。その剣撃をアリスは受け止め、その隙にアスナが重撃SSスプリントを放った。

またPohの身体…今度は腹に直撃したソードスキルだが、先程と同じように剣からオーラが出て、傷口とHPを回復させる。

ところが…。

 

「回復する前にHPを消せば…その能力も意味もなくなるわ‼︎」

 

立ち上がったばかりのPohにアリスは劫5連撃SSフレイムリザスターで奴の身体に炎が加わった斬撃を与えた。身体が焼かれながら受けた斬撃に流石のPohも耐えられないと踏んでいたアリスだったが、予想外の事態が生じる。

HPがゼロになった瞬間、崩れ落ちるはずのPohが健在で、焼かれた切り傷が一瞬で治っていく。

 

「な…!」

 

「俺には勝てねえよ、Fire Lady…」

 

Pohの剣がゆっくりと振り上げられる。黒い剣がアリスの肩と首の付け根を丁度抉ると思われた時、その剣は止まる。目を瞑っていたアリスには何が起きているのか分からなかったが、それはアスナが操る氷がPohの腕を拘束していたからだった。

 

「やらせない!」

 

そこからアスナもPohに向かっていき、尖突撃SS凍刃撃を放つ。それはPohの顔面を見事に抉り、吹き飛ばす。

身体の再生は無限かもしれないが…頭部の破損では無理だろうとアスナは考えたのだ。

 

「アスナ!」

 

「立って、キリトくんを守るんでしょ?」

 

「……キリトは?」

 

「近くの茂みに隠しておいた。簡単にはバレないはずよ…」

 

小声で話している2人だったが、そんな話をしている間にも…Pohの身体には更なる異変が起きていた。原型を止めていないままのPohが…アスナとアリスの方を見て、立っていたのだ。

 

「うそ…」

 

動揺を超えて、恐怖の域に達する2人。

それに漬け込むように、Pohは歪んだ口でこう言った。

 

「俺には…勝てねえ…」

 

そう言った瞬間、Pohはいつの間にかアスナとアリスの間合いに入っており、2人の華奢な首を掴んで、地面に叩きつけた。

 

「がはっ‼︎」

「ぐはっ‼︎」

 

顔がない状態でどうやって攻撃を繰り出しているのか、謎なところが多いが…今の2人にそんなことを考えている場合ではなかった。叩きつけられたショックで意識を手放しかけるが、『キリトを守る』という意志だけが彼女らを強くしていた。

アスナのスキルで、地面から氷柱を生やして、Pohの腕を突き刺す。

その攻撃でPohは手を離さざるを得なかった。

 

「どうするの?アスナ…。今のところ、あの男を倒すことは出来そうもないわ…」

 

「時間を稼ぐしかないわ。レイナの炎と私の氷で奴を拘束して、逃げる時間を稼ぐ」

 

「出来るの?」

 

「お互いの今出せる1番のソードスキルを出すしかないわ。行ける?」

 

「…行くしかないのでしょう?」

 

そう言ったアリスは『飛竜刀【光月】』に蒼いエフェクトを纏わせて、アスナの合図を待つ。アスナも細剣を敵に向け、白いエフェクトを纏わせる。

 

「行くわよ‼︎‼︎Poh‼︎」

 

Pohも高笑しながら、アスナとレイナに向かって走っていく。

Pohの黒い剣が先に突っ走ったアリスの頭上を通過する。

その隙にレイナは現在放てる最強のソードスキル、劫炎8連撃SS黄金の戟炎(げきえん)を放った。それにより、Pohの身体が燃え、深く斬撃が切り刻まれる。

Pohは口から血を激しく吐きつつ、後ろに倒れるが、その間にアスナが入り込み、氷尖2連撃SSローランレイ・スパークがPohの腹に先程よりも大きい風穴を開けた。

Pohは吹き飛ぶと同時にアスナの氷で拘束されて動けなくなる。

今の2つのソードスキルが流石に堪えたのか、今まで形成されていた黒炎の壁が薄れた。

 

「今よ‼︎突っ走って‼︎」

 

アスナの言葉でアリスが先に飛び込み、アスナも続く。

だが…後方でガシャンと氷が砕ける音が響き、新たな黒炎の壁が(そび)え立つ。振り向くと、氷で拘束されていたはずのPohは氷を砕き、傷口をパックリと開きながらも、ゆっくりと歩み進めていた。

 

「そんな…!あれほどのソードスキルを受けて…⁈」

 

「今のは効いたぜ…。流石に炎の壁が弱まってしまったぜ…」

 

そう言うと、瞬時に2人の間合いに入り、剣を持つ腕を切り落とした。

 

「「ああっ‼︎」」

 

2人とも右腕を斬られ、地面の上でのたうち回る。血溜まりがゆっくりと形成されていき、その上に倒れて動けなくなる2人は下からPohの方を睨んだ。

 

「前菜としては中々楽しかったぜ?閃光、Fire Lady…。あとはあの世で楽しんでこい…」

 

黒い剣が振り上げられ、2人は本格的な『死』に(おのの)く。

目を瞑るアスナを正反対に、アリスは睨み続ける。

Pohは高々に笑い、悪魔の目を輝かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

砕けた黒剣を持った黒衣の少年が、Pohの斬撃を受け止めていた。

アスナとアリスは眼前に立つ少年…キリトの後ろ姿に動揺を隠せなかった。まだ右腕はないため、左腕だけで剣を持っており、後ろ姿からでも…以前の覇気はないことが感じられた。

 

「ハハハハッ‼︎待ってたぜぇ!キリト……」

 

高笑していたPohだったが、すぐに笑いは消えていく。

光がない右目で、Pohを見ている。

どうしてか分からないが、それがあまりに恐ろしく…Pohは『初めて』キリトから距離を取った。いや、『距離を取った』と言うよりは、『逃げた』が正しいだろう。

更に、その腕に握られる剣から…紅い炎が湧き上がる。

砕けた黒い剣はその炎を纏っていき、徐々に刀身を取り戻していく。

そして最終的には黒剣は暗い紅色の剣となり、復活した。

 

「どうして…『覇王剣』が…」

 

「Suck…。それは想定外だぜ…。キリト、お前も()()()の影響を受けていたとはな…。だが面白え…。次会う時を楽しみにしておくぜ…」

 

勝手なことを言って、Pohは転移結晶で3人の前から消える。

その数秒後、キリトは持っていた紅剣を地面に落とし、力なく地面に座り込んだ。

片腕がないアスナとアリスは、彼の肩に縋り、言葉を紡ぐ。

 

「ありがとう…キリトくん」

「キリト…ありがとう」

 

しかし、礼を言っている2人の傍で、紅剣は紅い妖気を纏わせているのだった。

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