ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
シリカの無事が分かったことで、安堵するアスナたちだったが、それと同時にもう出来ることはほとんどなかった。
周囲の崖に設置された設備はほぼ破壊され、救援に来てくれたシリカ、バルファルクは戦闘続行は不可能、更にはアスナたちの高度な武器でさえ弾く程の硬度を持つダラ・アマデュラにどのような手があると言うのだろうか。
だが、アスナは諦めるわけにはいかなかった。
ここで諦めたら…全てが終わってしまう。キリトと交わした約束も、自らの人生も…。
アスナは全員が頭を下げ、絶望感に苛まれている中で単独…突っ込んでいく。それに気付いたアリスはすぐにアスナを止めようとしたが、遅かった。
「アスナ!ダメよ‼︎止まって‼︎」
「はああああああああああああぁッ‼︎」
オリジナルスキル【氷界創生】を発動させ、尖剛突撃SS氷剛刃凍撃を自らの目の前の身体にぶつける。耳を塞ぎたくなる程の高い音がエリアに鳴り、同時に火花が激しく散る。
とんでもない硬さで、今にもアスナの
こいつさえ倒せればいい…。この先、自分がキリトみたいに心を失ってしまったとしても、キリトだけ…いや、ここに来たみんなが生き残ってくれれば、それで良いと思っている。
「こんな…ことくらいで…!私は折れない‼︎」
剣先を保護する形で何重にも氷を纏わせ、剣の高度も高めていく。
それを見ていたアリスも押され、【劫炎】を発動させ、アスナが貫こうとしている部位に同じように蒼く燃える黄金の剣をぶつける。
「私だっていること…忘れないでよ?」
「アリス…」
「このまま押し切るわよ‼︎」
アリスの一声で、他のプレイヤーも同じ箇所にソードスキルをぶつけていく。ダラ・アマデュラは静かな瞳でその様子を見詰めている。まるで、自らの堅牢な身体を貫けるのなら、貫いて見せろ…と。
そのプレイヤーを蔑む古龍にアスナの怒りは上がっていく。怒りがソードスキルにも影響を与えるのか、徐々に貫通力が増していき、アスナの刺す箇所の鱗がパキッと音を立てる。
それに気付いたダラ・アマデュラが行動を起こそうとした時には、アスナたちのソードスキルが遂に強固な身体を貫き、HPゲージを1つ減らし、漸く最後の一本にした。
だが、その痛みからか、身体中を暴れさせ、剣山や崖に身体をぶつけ、崩落させる。その行為自体がプレイヤーにとっては脅威でしかなかった。更には自らの身体を傷付けたアスナに敵意を超えた殺意を向け、巨大な前肢で掴み上げる。
「ああああぁッ⁈」
「アスナ‼︎」
助けようとアリスがその前肢の上に乗り、剣を突き刺すが、暴れるダラ・アマデュラに留まることはおろか、むしろ壁に激突されて、内臓が破裂するのではないかと思ってしまうほどの大ダメージを受ける。
「あがっ…!」
普段なら、気絶しても不思議はなかったが、ダラ・アマデュラの刃の攻撃を一度受けていたアリスは、気絶することが出来ず、倒れて動けなくなってしまう。
「ア…リス…ッ!」
アスナも脱出しようともがくが、どうすることもできず、吹き飛ばされる。ゴロゴロと転がり、何かが身体に当たったところで、アスナの身体は動きを止める。
起き上がろうと思ったが、脇腹に走った痛みに顔を歪める。
どうやら掴まれた際に脚の爪が刺さっていたらしい。
そして…後ろには、倒れたまま動かないキリトがいた。
「キリトくん…!」
アスナは思わず、キリトの名前を呼ぶ。キリトも少し反応し、アスナに手を伸ばすが、その手が触れる前に地面が揺れ、足場がガラガラと崩れる。キリトが先に転がっていき、アスナも先を追おうとしたが、今度は両脚にとんでもない痛みが走り、悲鳴を漏らす。
「ぐうううぅ⁈」
後ろを振り返ると、ダラ・アマデュラがアスナの足に食らいつき、引っ張っているのだ。足場が崩れ落ちたアスナは食らいつかれたままの状態になり、その痛みから逃れられなくなってしまう。
剣を落としてしまったアスナはただされるがまま…。
このままダラ・アマデュラの胃の中かと思われたが、下からシノンが旋撃BS昇竜風を顔面に向けて放ち、見事に命中させる。
命中したことでアスナを放すが、その代わりにシノンに向けて、隕石を放つ。歯を噛み締めるシノンだが、シノンも足を負傷しておりましたとても逃げれそうにない。
「…アスナ、あとは任せたわよ…」
「その台詞はまだ言うには早いだろ!」
後ろからエギルがやって来て、シノンを抱え上げ、隕石の攻撃からどうにか逃れる。
「ギリギリ…だったな…」
「ええ…。でも、もう…ダメそう…」
シノンは弓を手放し、力なく地面に倒れる。
エギル自身も肉体的に精神的に疲れ、とても動けそうになかった。
落下したアスナは、目を覚ます。
気を失ったのはほんの数秒程度だが、脇腹や足から来る痛みからは逃れられそうもない。相棒とも呼べる
だが…その時、目の前に突き刺さった紅剣が目に入る。
今も奇しく光り、アスナを惑わせる。
「………」
アスナは何故か…あの剣に対して、恐ろしいなどといった感情は湧き上がらなかった。あれを使えば…ダラ・アマデュラに勝てるかもしれない…。そんな根拠もない自信が急浮上する。
アスナは身体を引き摺りながら、その剣を掴む。
その瞬間…
「あ……あ…あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ”‼︎‼︎‼︎」
だが、寸でのところで踏み止まり、アスナは耐える。
そして理解する。
この剣は…全ての悪意が集約した…恐ろしい剣であると同時に、最強の剣でもあるということを…。
「これで……っ!キリトくんを…っ!救える…ッ‼︎ならッ‼︎」
アスナは剣を引き抜き、ダラ・アマデュラに構える。
妖気がアスナと紅剣を取り巻き、半暴走気味にソードスキルが発動される。巨大な紅い斬撃が巨龍に飛び、強固な身体に意図も簡単に傷を付けた。
だが、そこでアスナは限界を迎えてしまう。
脚が既に機能していないのに、今度は身体全体が動かなくなってしまう。剣を握ったままではあるが、身体は倒れる。
「キリト……くん…」
ダラ・アマデュラは容易に傷付けたその剣と、それを扱うことが出来るアスナに今までの以上の敵意を向ける。
そして、口元に蒼炎を溜め…隕石と同じ大きさのブレスを解き放つ。
その光景をアスナは虚ろな瞳で見たまま…動くことはなく、爆散するのだった。
キリトは暗黒の空間で倒れていた。
いくら目の前で、仲間が傷付こうとも…自らの意志で身体に命令しても…どんなに気力を振り絞っても…身体は言うことを効かない。
半ば…諦めていた。
もうこのまま…植物状態のままで、アスナやアリス…仲間たちとこの場で共に死ぬ方が楽だと思った。
その時、白と赤を基調にした鎧、盾、そして…見覚えのある聖剣を手にした《者》がキリトの傍に立ち、静かに語りかける。
「このままで
「…何がだ?」
「何も出来ないまま、死ぬことが…」
「仕方ないだろ…。俺の心はあの紅龍との戦いで失ったんだ…。どんなに足掻いても、俺の心は目を覚さない…。…放っておいてくれよ…」
「…君は、それくらいで倒れる男だと私は思わない」
「………」
キリトは答えない。
《男》はその手に握る紅剣を近くに突き刺し、再び語り出す。
「この剣の素材元…つまり、紅龍は【運命を解き放つ者】という異名を持つ。その名の通り、相手の運命を滅ぼせば…甦ることも可能だ」
「……え…」
キリトは突拍子もない話に思わず反応してしまう。
「だが、
「……それで…アスナや…仲間を…助けられるのか?」
「それは君次第だ。……そろそろ行かなくては」
《男》はキリトに背を向け、常闇の中に消えていった。
キリトは数秒考えたのちに、腕を伸ばして、紅剣の柄を握る。
「俺は諦めない…。どんな運命にも…俺は…乗り越えてみせる‼︎だから…いい加減にしろよ、俺の身体…。動けよッ‼︎‼︎」
キリトの怒声と呼応して、紅剣が輝きを放つ。
闇が消え、キリトの身体に力が戻ってくる。
視界が戻ってくる。
キリトは紅剣の鞘を背中に携え、光に向かって、走って行くのだった。