ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第47話 始まる異変

キリトは何かに追われていた。

壁際に追い込まれ、剣を抜くが、紅剣を握る腕が…龍の腕に変わっていた。そのことに思わず声を上げながら剣を落とす。

 

「なんだ…何なんだよ…これは⁈」

 

すると、迫っていた者…紅龍がゆっくりと長い首を伸ばし、キリトを見詰める。倒したはずの紅龍が何故……とも思えないほど、キリトは今の状況を焦っていた。

そして、猛々しく咆哮を放ち、大口を開けてキリトに迫るのだった。

 

 

 

「ッ‼︎」

 

汗びっしょりの身体を飛び起こし、キリトは目を覚ました。

ダラ・アマデュラの大討伐が終わってから、もう半月が経っており、今日は久しぶりの攻略でゆっくりしようと思っていたのだが…。

 

「…悪夢に…(うな)されるとはな…」

 

隣でアスナはまだ寝ている。

キリトは改めて、腕を見たが、なんの変化もない。当たり前だ。

いくらゲームの中だと言えど、身体が龍に変わっていくなんてあり得ない…と心の中で何度も思い込ませた。

 

 

 

第89層のボス部屋の前に立つキリトたち攻略組。

一息吐いて、全員で入ろうと思ったアスナだが、キリトの様子がどこか変だった。いつもは入る前に2つの剣を取るはずのキリトが、何故か『覇王紅剣【焔獄《えんごく》』を握ろうとしない。

 

「キリトくん、どうしたの?」

 

「…え、いや、何でもないよ。アスナ…」

 

明らかに何かに動揺しているキリト。紅剣だけじゃない。

ずっと右腕を見ながら、何度も目を擦る。

気にしつつ、アスナはキリトと一緒にボスの扉を開ける。

開けた途端、とんでもない磁場が身体を襲い、塵粉が目に入った。

周囲に巻き上がっているのは黒い砂鉄だ。

それを操る第89層のボス…【Lucodiora】が操っているようだ。キリトはボスを視認するなり、重2連撃SSヴォーパル・スラッシュで攻撃を仕掛けるが、砂鉄が集まって形成された即席の盾で防がれる。

 

「くっ…!」

 

更に砂鉄はキリトの腕ごと包み込んで拘束すると、横から槍状の砂鉄を射出する。

その攻撃はアスナのオリジナルスキル【氷界創生】で凍りつかせ、レイナの【劫炎】で砂鉄を溶かすことでキリトを救出する。

 

「気を抜かないで!」

 

「抜いてねえよ!」

 

アリスがキリトに対してこう言うのには理由があった。

キリトは現在、どのプレイヤーをも置いていくレベルで強い。あまりに強すぎて、最近どのボスでも油断しきっているのではないかと思えたのだ。実際、今の攻撃も真正面から突っ込んでいるから、その表れだとアリスは考えていた。

そんなやり取りをしていると、ボスはけたたましく咆哮し、頭上に巨大な砂鉄の鉄球を大量に作っていく。

あんなのが降ってきたら、一溜まりもない。

その前にケリを付けようと思ったキリトは紅剣を握ろうとするが、一瞬躊躇する。何故躊躇するか分からないアリスは強気で叫ぶ。

 

「固まってる場合じゃない!キリト!」

 

その言葉にハッとしたキリトは漸く【紅焔の威光】を発動させ、単身ボスに突っ込んでいく。

 

「キリト!危な…!」

 

アリスが止めても、キリトの足は止まる気配を見せない。

アスナもキリトの行動は危険だと思い、キリトの元へと駆け寄ろうとしたが、キリトに恫喝される。

 

「アスナは来るな‼俺一人でやる‼」

 

厳しい言い方にアスナはビクッとしてしまい、その場に留まる。

キリトは2つの剣に青いエフェクトを纏わせ、ボスの間合いに入り、24連撃SSジ・イクリプスを発動する。

流星の如き連続攻撃で、ボスのHPを凄まじい勢いで減らしていく。だが、ボスもやられるばかりではないのは当然だ。自身の周りの砂鉄を鎧のように纏わせて、ダメージ量を減衰させる。更にその鎧から大量の砂鉄の槍が射出されて、それがキリトの胸や腹に刺さる。

 

「がはっ…」

 

「キリトくん!無茶しないで!」

 

アリスとアスナが急いで駆け込んで、キリトのカバーに行こうとした。

が…その足は途中で止まってしまった。

 

「「え…」」

 

絶句する2人。周りのプレイヤーも動揺を隠しきれていない。

 

「な、なんだ…あれ?」

 

「怖い…」

 

目の前にいるボスでさえ、恐怖を感じているのか、四肢を強張らせ、後ろへと下がろうとする。

キリトの紅剣が不気味に輝き、腹に刺さっている砂鉄の槍を取り込むと、HPを急激に回復させる。更にキリトはその剣を天に向けて、何かを打ち上げる。

それをボスだけでなく、全てのプレイヤーが見詰める。

すると…空がないはずなのに、赤い岩の塊がボスに向かって、飛んできたのだ。

隕石だ。しかもその隕石は首の長い…赤黒い鱗を纏い、捻れた黄金色の角を有した龍の頭部が形作られたかのように見えたのだ。

隕石は速度を徐々に上げて、ボスに命中する。当たった瞬間、全身に凄まじい衝撃を受けて肉塊と化す。途端に【Congratulations】の文字が表示されて、第89層のボス戦は終了する。

キリトは顔を俯いたまま紅剣を下ろし、オリジナルスキルを解く。

どことなく近寄り難いキリトにアスナは意を決して、ゆっくりと歩み寄る。

 

「キリトくん、お疲れ」

 

(怖がるな…。恐れるな…)

 

アスナは心の中で自分に言い聞かせる。

すると、キリトはアスナに振り向いて…。

 

「ああ、お疲れ。悪い、1人で突っ走ってしまって…」

 

いつもの笑顔を見せたキリトにアスナはホッとする。

アリスも安堵したのか、軽くキリトの頭を小突く。

 

「そうよ!アスナも心配してるんだから、もっと慎重に…」

 

アリスが文句を言うと、シュンと風が切れる音がしたかと思えば、彼女の頬から血が垂れた。それもそのはずだった。キリトの紅い剣がアリスの頬を切ったことが原因なのだから。

この行動にアスナも驚きを隠せず、離れようとしてしまいそうになったが、どうにか抑え込む。

 

「キリトくん!」

 

キリトはハッとして、紅剣を落とす。

 

「お、俺…何をして…」

 

「何もしてないよ?さっ、帰ろう?」

 

アスナはキリトの背中を押して、自分たちだけ先に帰ろうと急かすが、その手は僅かに震えていた。怖いのだ。アスナの知るキリトが…徐々に消えていっているように見えたから…。

アリスも切れた頬にハンカチを当てながら、2人の後ろ姿を眺める。

しかし、アリスははっきりと見た。

剣を向けた時、キリトの目の色が…赤黒い闇色の瞳だったこと…。

そして、キリトの右腕が…龍の腕になっているように見えた。




【補足1】
『覇王紅剣【焔獄(えんごく)】』
『覇王剣』に紅龍の力が入り、復活した剣。暗い赤色を基調としている。持つものに『災い』を与える魔剣である。
オリジナルスキル【紅焔の威光》を発動できる唯一の武器。
武器名は全てオリジナル。
『真・黒龍剣【淵黒(えんこく)】』と対を成す。

【補足2】
『Lucodiora』
MHF産のモンスター、ルコディオラの英語表記(オリジナル)。
本作は辿異種を採用。磁力を司る強力な古龍種。
数ある古龍種の中でもトップクラスの能力を有している。
個人的に磁力を操るというところに魅かれたと同時に、見た目の格好良さにも魅力された。
当初は隕石でも降らせる能力を持たせようと思ったが、いくらなんでも大気圏外に影響を与えるのは無茶苦茶なので、それは無しにした。…まあ、前回のダラ・アマデュラは出来るけど。
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