ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
軍の者たちの悲鳴を聞いたキリトとアスナはすぐに足を動かした。
どれだけ走ってもボス部屋には近付かないから、早く助けないとと思っているキリトは更に焦りが募って行く。
彼は警告したのに、それでも奴らはボスに挑んだのだ。
何故…何故…。
どうしてそんなに命を粗末に扱えるのかキリトは知りたかった。
キリト自身も助けたかった命を救えなくて苦しんでいるというのに…。
案の定、巨大な紫黒の扉はポッカリと開いており、中には倒れて動けない者やどうにかまだ立っている奴らが
「おい!大丈夫か⁈」
「早く転移結晶を使って!」
「だ、ダメなんだ‼︎結晶が…使えないんだ‼︎」
それを聞いてキリトは瞠目した。
結晶が無効化されるエリアを見たのは…これが2回目だったからだ。
しかもそれは…あの悪夢の時のこと…。
「キリトくん、どうしよう…。私たちが行けば戦況も……キリトくん?どうしたの⁈」
アスナの声はキリトに届いてなどいなかった。
あの時の悪夢が脳裏に蘇り、身体中が震え、視界が悪くなる。
まるで何かの禁断症状でも出ているかのようだった。
「キリトくん…!キリトくん‼︎」
「や…やめろ…。やめろ…」
キリトの口からはそればかりが漏れる。
だが、そんな彼を差し置いて軍のリーダーは剣を向けて、ボスに向かって大きな声を上げた。
「我々解放軍が負けるはずがないんだ‼︎全軍…突撃ぃ‼︎」
「止まって‼︎今無闇に行ったら…!」
アスナの制止も聞かずに突っ込んだ軍は【
この攻撃で軍は全滅した。
赤い血がベチャベチャと辺りに飛び散り、ボスは高々な咆哮を上げた。
勝負に勝ったと言いたいのだろうか。
だが…そこでキリトの理性は崩れた。目の前で死んだ軍に…彼の精神は崩壊した。
背中の覇王剣を掴んで、単身一人でボスに挑んだのだ。
「やめろおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」
「キリトくん‼︎ダメ、戻って‼︎」
アスナの声に反応したボスはキリトも視界に捉えた。
最初に直線型の光線が飛んできたが、それは横に避けた。のだが、軽くコートが触れただけで、破れた箇所がカチンコチンに凍ってしまった。
それでもキリトは3連撃SSシャープネイルを発動させて、ボスの右側面の身体に3つの斬撃を加えた。
しかし、これだけでは怯みもしなかった。
ボスは巨大な尾を地面に突き刺して、即座に引き抜くと、尾に氷を
正にアイスブレードだ。
だがキリトは構わず、今度は単発SSバーチカルを放った。
ボスの振るった尾とキリトの剣が衝突し、スパークを起こして
なんとボスが口から吐く僅かな冷気が空気中の水分を凍らせて、キリトの動きを封じてしまったのだ。
「⁈」
「キリトくん‼︎左よ‼︎」
アスナの呼び声があったが、それは避けようも、逃げようもなかった。
ボスの尾はキリトの剣を簡単に弾き、彼の腹に見事に直撃させた。
「ぐはっ…っ‼︎」
吐血し、キリトはアスナが未だに立っているボス部屋の入り口辺りにまで飛ばされた。
キリトのHPはレッドゾーンのところまで減少する。今の一撃を受けて、よくHPが残っていたと称賛したいくらいだった。
だが、身体の内側は全ての内臓が吹っ飛ばされたような…持っていかれたような感覚が残っており、まともに息をすることすらままならなかった。
今頃アスナの視界には血の海が広がっていることだろう。
「く……はっ…」
キリトは何度同じことを繰り返せばいいのだろうか…と思った。
第1層の時も自分で突っ込んで、殺されかけて…何にも学習していない…と。
このまま倒れ続けていたら…アスナは……。
『キリト…ありがとう…』
悲しげなサチの言葉が、キリトの脳裏を
もうあんな思いをしたくないと…キリトは傷付いた身体を必死に動かして、身体を起こそうとする。
上半身を上げると、腹からはまだ血が垂れる。
すると…。
「キリトくん!待ってて…私が…私がどうにかするから…!」
震える声でそう言うアスナ。
キリトは『やめろ…。逃げろ…』と言いたいのだが、口が動かない。
目の前にアスナが立つ。
細くて品やかな細剣が彼女の腰から抜かれる。
いくら武器レベルが高かろうが、あの尾の攻撃を一撃でも受ければアスナは間違いなくゲームオーバーになるだろう。
どう考えても最悪の事態だけが思い浮かんでしまう。
キリトは必死に考えた。どうすればこの状況を打破できるのか…。
その時。
「あ……」
1つだけ…打破できる
しかし、
「悩んでる……場合じゃない!」
キリトはポーチから回復結晶を取り、9割半削られたHPを全快にした。
そしてオプションから片手剣だけの設定を外して、《切り札》を発動させた。
キリトはそれから、アスナに叫んだ。
「離れろおおぉぉ‼︎」
キリトの代わりに前に立ったアスナであったが、それははっきり言って、無茶振りにも程があった。目前に
しかし、彼女が立ち向かう前にキリトの声がボス部屋に響いた。
「離れろおおぉぉ‼︎」
振り向く前にアスナの横を倒れかける程の突風が吹き荒れ、彼女に向かって来ていた巨大な氷尾を止めているキリトの姿が映った。
しかし、それはいつものキリトではなかった。
普段片手剣しか持っていないはずのキリトの残った手にはもう1つの剣が握られていた。
2つの剣を持つその姿は…正に英雄そのものだった。
剣をクロスにして攻撃を防いでから、相手の態勢を崩させると、二刀の剣に青白いエフェクトを
24連撃SSスターバースト・ストリーム。
それは圧倒だった。
先程まで2人を追い詰めていたはずのボスとは思えない速度でHPは減っていく。
しかし、それと同じくキリトのHPも減少していく。満タンにしたHPもこの数秒で既に4割は削られている。
「キリトくん…!それ以上は無理だよ‼︎やっぱり一緒に逃げ……!」
「はああああああああああああああああああ‼︎」
アスナの叫びはキリトの雄叫びで掻き消される。
そんな間にもお互いのHPは凄まじい速度で減っていく。
そしてキリトの1つの剣がボスの口に咥えられて、動きを封じられる。
そして、氷を纏った尻尾に更なる冷気が加えられて、殺傷性が増す。
その尾がキリトの身体に向かっていく。
「キリトくん‼︎‼︎」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」
残った白い剣は更に白く輝き、最後の24連撃目を繰り出す。
それが氷の剣尾を砕き、ボスの首を切り落とす。
ボスの首から血が溢れ、キリトの頬や黒いコートを赤に染めていく。
ポリゴン片に消えゆくボスを見詰めながら、キリトは膝から崩れていく。完全に倒れる前にアスナは彼に駆け寄って、支える。
「キリトくん…凄い…凄いよ…!1人でボスを倒しちゃうなんて…!」
そう言って、アスナは回復結晶でキリトくんのHPを回復させた。
もう一度彼の顔を見ると、そこには…頬を血で濡らしながらも涙を零すキリトの姿があった。
「…キリトくん?」
「どうして…俺は……
《サチ》…。
聞いたことのないプレイヤーの名前をアスナは彼の口から聞いた。
ビーターであるキリトが口を交わす相手と言えば、アスナはエギル以外に思いつかなかった。
そのプレイヤーのことを聞きたくなったが、アスナはその事を聞かないでおいた。
心も身体も傷付いた彼を少しでも癒したくて…アスナはキリトを強く抱き締めた。
「大丈夫……大丈夫だから…。キリトくんは頑張ったよ…」
キリトは今だけ理性がなかったのか……アスナの身体を強く締め上げて涙を落とした。
恥ずかしいなどと言った感情は無かった。
ただ…ここでアスナが助けてあげないと、キリトを助けられないと思った。
それだけじゃ…無かったかもしれないが…。
補足1
【
MHFGに出てきた獣竜種のオリジナルモンスター。本作は辿異種を採用しています。
個人的に好きなモンスター、第10位くらい。