ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
スランプに陥っていました。
まあそれ以外にも色々あるのですが…。
Pohとの死闘が終わり、キリトは漸く元の平凡な日常を取り戻すことが出来た。このゲームに囚われて、まもなく三年という月日が経とうとしていた。
キリトもアスナも自分の身体が大きく成長し、精神面でもこの3年間でかなり強くなったと思っていた。ベッドで眠る2人の姿を外から覗き見するアリスから嫌気が差して来た頃、とあるプレイヤーから第99層のボス部屋の扉が見つかったとの報告が入った。
何故この数ヶ月という短い期間で99層に到達しているのかというと、紅龍ミラバルカンの力を存分に発揮できる【超越】、【紅焔の威光】を使うキリト、強化された【氷界創生】を巧みに使いこなすアスナ、蒼炎を操る【劫炎】を使用する『金色の姫』と称されるレイナ、そして翡翠の旋風を吹き荒らす【一点突破】のシノンの4人が主に前線に立つことで、殆どのボスはなす術なく、やられていった。
そして、クリアまで残り二層…。
キリトたちの緊張は限界にまで張り詰めていた。
キリトは二刀の剣を振って、来るべき日に備える。すると、寝間着姿のアスナがその様子を見に来る。後ろに結った髪が風に揺れると同時に、彼が振る剣が落ち葉を一瞬で斬る。何度となく見てきたその姿だが、格好良さは変わらない。
「キリトくん、まだ寝ないの?」
キリトは奥からやってきたアスナを見て、剣を鞘にしまって、アスナの前に立つ。こう見て分かったのだが、キリトの身長が明らかにアスナよりも高くなっていたのだ。最初の頃はほとんど同じのはずだったのに、今ではキリトが見下ろすような感じで…ちょっと気に食わないアスナ。
「…なんだよ、アスナ…。俺のことジロジロ見て…」
「キリトくん、私よりも身長高くて…なんか気に食わない」
ぷくーと頬を膨らませて怒るアスナだが、キリトにとってはその行為は可愛さを倍増させるだけのものだった。
まだ何か言っているアスナを無視して、キリトは彼女の身体を抱き寄せて、その可憐な唇を無理矢理奪う。この結婚生活1年間でアスナを追い込む方法を熟知したキリトは速攻で蹂躙する。
ウルウルした目で見るアスナの頬に触れながら、キリトは耳元で囁く。
「そんなことで妬くアスナ、好き」
「…馬鹿」
アスナはそんなこと言っているが、顔を真っ赤にさせているのは丸分かりだった。クスッと笑ったキリトはアスナをお姫様抱っこして、ログハウスへと戻る。
「ちょっ…!キリトくん⁈」
「稽古は終わり。もう俺も寝るよ。寝れればの話だけどな…」
キリトの物言いで今日は寝かせてもらえそうにないと理解したアスナだが、それで構わないと思った彼女は「うん…」と許諾し、キリトに身体を預けるのだった。
次の日、ろくに眠ることの出来なかったアスナはキリトを置いて、アリス、シノン、直葉、そしてキリトたちの武器を作成してくれる友人のリズベットを連れて、喫茶店で紅茶を飲みながら談笑をしていた。
そんな中で、不意にアリスはアスナにこんなことを聞いてきた。
「そういえば…キリトとアスナはいつ出会って…どのようにして今のような関係を築いたの?」
アスナは「え゛っ…」と狼狽えてしまう。
更に他のメンバーの視線も痛く突き刺さる。
「な、なんでそんなことを…」
「気になっただけ。いいから話して」
「私も気になります!あの寡黙なお兄ちゃんをどうやって落としたのか、知りたいです!」
「落としてない‼︎」
顔を赤くさせつつ、アスナは溜息を吐く。
「し、仕方ないなあ…。一度しか話さないよ?」
そう言って、アスナはキリトと出会った時…そして、今までの関係に至るまでの経過を話し始めるのだった。
デスゲームを宣言されたあの日から、もう2週間が経とうとしていた。
人前に出て、噂されるのが嫌なアスナはその頃、
もちろん、危険だからと他のプレイヤーから言われて、何度となくパーティーの催促を受けたが、アスナは悉く断っていた。
理由は2つ。1つ目はノロノロ、ゆっくりとやるパーティーはいけ好かなかったから。もう一つは1人が好きだから。
それだけの理由なのだが、そのお陰なのか、アスナは生き残ることが出来た。たまにパーティーとすれ違うこともあるのだが、基本的にそのパーティーは帰らぬ人となることが多い。それを実際に見たことのあったアスナは今でもトラウマ級の出来事の1つであった。
そして生き残ったプレイヤーが第1層の攻略会議が行われるというトールバーナという町に向かった。そこでアスナはとんでもないことに気付いた。食べ物を買うお金はあるのだが、宿に泊まるお金を持っていなかったのだ。
このままでは野宿になってしまう…。
現実世界との差に失望感を感じつつ、アスナは裏路地の段差に腰かけて、硬いパンを口にする。パサパサの感触は、フランスパンに似てはいるが、それでも食感は良いとは言えない。これでもう1週間連続でこのパンだけを朝昼晩と食べている。飽きも限界を超えており、あまりのひもじさにアスナはポツッと涙を落とした。
「帰りたいよ…。美味しいご飯を食べたいよ…」
独り言でぶつぶつ話していると、足音が近付いてきて、アスナの前で止まった。涙目だと悟られない程度で顔を上げて、そのプレイヤーを確認する。
それは黒髪で黒い瞳、身長は大体同じくらいの少年だった。
背中に他のプレイヤーよりも少しだけ立派な剣を納めており、街中の街灯に当たって煌めいていた。
「…何?」
「いや、食べる場所がなくてさ…。良ければ、隣、いいかな?」
「立って食べればいいじゃない…」
冷たい口調にすぐに目の前から消えてくれるだろうと思ったアスナだったが、その少年は狼狽えることなく、受け答えする。
「…親からさ、食べるときはどんな時でも座って食べろって言われてたんだ。その約束くらいは守って、現実のことを忘れないようにしようと思ってさ…」
勝手に現実の話をする少年にアスナは苛つきばかりが増加していくが、これ以上何も話したくないので、黙って右に移動して、相手にスペースを譲る。
少年はアスナを訝しげに見ながらも、アスナの隣に座って、アスナと同じパンを頬張った。男だから、噛む力が強いのでガリっと良い音がした。
「美味しいよな、これ」
「…本気でそうだと思ってるの?」
思わずアスナはそう返してしまった。少年はこの硬くて、特徴もないパンを『美味しい』と言ったのだ。とてもアスナには考えられなくて、一瞬精神的にイカれてしまっているのでは?とさえ思った。
「ああ、この町に来てから、1日に2回は食ってるよ。まあ、何度も同じ味じゃ飽きるから、『工夫』はするけど…」
「工夫?」
そう言うと、少年は小さな瓶を取り出して、それをアスナに見せる。
「なにこれ?」
「付けてみな。いくらかマシになるよ?」
少年は指に青いエフェクトを纏わせて、アスナの持っているパンにそれを塗りたくった。青いエフェクトはすぐに消えて、白に近い黄色のクリームが出てきた。
「クリーム…」
少年はクリームを付けたパンを一気に頬張る。
アスナもごくりと生唾を飲んで、はむっと噛み締める。
何と…これがとても美味しかった。2週間近く、甘いものから離れていたアスナにとっては、ご褒美にも似たような感じになった。更にアスナはそこから入れ食いに入って、ガツガツと硬いパンをちゃんと噛んで、一気に食べ終えた。
「美味しかったようだな。ああ、それと……これ」
少年がアスナにキラリと光る何かを投げ渡した。慌てて取ったアスナの手には鍵が握られていた。
「これは……」
「ここの近くの宿。どうせお金ないんだろ?女の子を野宿させるのもどうかって思うから…貰っていきな」
「……」
アスナは鍵を握りしめて、思わず嬉し涙を流しそうになった。
この世界で初めて…楽しさと優しさを見たような感じがしたからだ。
「じゃ」
「ね、ねぇ!」
アスナは去りゆく少年に声をかけて止める。
少年は「ん?」と言いながら振り返って、アスナを見る。
「ありがとう……それと、君の名前は……」
少年はふっと笑って、アスナに自らのアバターネームを教えた。
「キリトだ」
これがアスナとキリトとの最初の出会いであった。