ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第54話 啓示

第99層の攻略はもう大変であった。

最上層の100層の1つ下なのだから、当然と言われれば当然であるが。

約100人を超す攻略組のプレイヤーがほぼ殺され、まともに戦えるプレイヤーはほとんど居ない。最大戦力であるキリトを含めた彼らに託されてるようなものだ。

攻略成功まで残り最後の第100層だけだというのに、生き残っているプレイヤーの数は約2000人で、その彼らにもあまり活気はなかった。それはキリトも気付いていたが、それよりも気になることがあった。

アスナが最近…元気がないと思っている。

どんな話をする時も暗い影を落として、昔みたいな無邪気で…明るい性格の彼女の姿が影

を潜めてしまっているとキリトは感じていた。

その事を聞こうに聞けないキリトはどうしようかと、自宅外の人気のないベンチで呆けていると、突然金髪を靡かせたアリスが座ったことで意識が覚醒した。

 

「…!アリス、どうして…」

 

「色々と探したのよ。結構苦労したんだから…」

 

アリスは髪に指をクルクルと巻き付けながら、そう答えた。

 

「アスナのこと、気にしてるんでしょ?」

 

「分かるのか?」

 

「顔に書いてあるわ。…理由を知りたいなら、教えてあげてもいいわよ?聞いてきたから」

 

「!」

 

キリトは驚いた表情を作り、アリスに詰め寄った。

 

「そう焦らなくても教えるわよ‼︎あなたたちに介入する気はないから」

 

アリスはキリトを少し押し退けて、話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

アリスは第99層の攻略から3日後、夜中にログハウスを訪れた。扉を開けようかと思った時、湖の方に人影が見えた。

髪が長くて、栗色だったからアスナであることはすぐに分かった。

足音を忍ばせるようなこともせず、アリスは彼女の隣に座る。アスナはアリスが座ったことに気付いたが、何も反応を示さなかった。

 

「何を最近思い詰めているの?」

 

「…別に、関係ないじゃん、アリスには…」

 

「どうせキリトのことだろうけど…そんな幸せそうに惚気ているのに、何を迷っているのかしら?」

 

「迷ってなんかないっ‼︎」

 

アスナの言葉遣いから、どう考えても何か思い詰めていることは明らかだった。

暫くの沈黙の後、アスナは細々と呟いた。

 

「怖いの…」

 

「何が?死ぬのが?今更……」

 

「…いや、クリアした後…キリトくんと離れてしまうんじゃないかと思っちゃって…」

 

「あら?デレデレなあなたからしたら、とても弱気な発言ね」

 

そう言った後にアスナを改めて見た時、彼女は両腕を肩に置いて、細かに震えさせていた。

弱気以上の状態であることに気付いたアリスは多少動揺した。

 

「キリトくんが言ってた…。もしこの世界から還れた時、私たちの関係が終わってしまうんじゃないかって」

 

「ふーん…キリトらしくない台詞ね」

 

「それで私怒ったの。『この気持ちは絶対消えない』って。それでその時は解決したんだけど、今になって怖くなってきた。ゲームクリア後、現実でどうなってしまうか…全く分からない。それが怖い…怖くてたまらない…」

 

アリスは数十秒黙り、アスナに言った。

 

「ふん、あなたも本当は相当な臆病者ね。そんなことで怖がっていたら…何も出来ない。第99層のボス戦を思い出して」

 

アリスは立ち上がり、アスナを見下ろしながら言う。

 

「いつも通りでやるのよ。次が最後だからとか、そういうのは忘れて…。私たちは勝つ。それでおしまいよ」

 

アリスに強気に言われたのが効果あったのか、アスナは小さく頷いて立ち上がる。そして、キリトから貰った剣を取り出して、それを見詰める。

何度となく助けられた、この細剣を…。

 

「いつも通り…か」

 

アスナは勝手に呟いて、ログハウスへと駆けていく。

アリスは「はあ…」溜め息を吐きながら、金色の長髪を撫でた。

 

「私はキリトを奪いたいのか…2人の中をもっとよくさせたいのか…分からなくなってきた…」

 

自分のやっていることがよく分からなくなってきたアリスはそのまま自宅へと引き返して行くのだった。

 

 

 

 

 

ログハウスを出て行ってから、一向に戻って来ないアスナを心配するキリトとユイ。だったが、ユイは眠気に負けて既に堕ちてしまっている。

キリトが待ち続けていると、漸くアスナが戻ってきて、安堵する。

 

「アスナ、良かった!帰ってこないかと…」

 

ぼふっと…柔らかな感触がキリトを襲う。

キリトの話を遮って、アスナからキリトを抱擁した。

 

「アスナ…?」

 

「キリトくん、私は大丈夫だよ。『いつも通り』に、明日…このデスゲームを終わらせよう」

 

「…何かあったのか?」

 

「なんにも♪」

 

にっこりと微笑むアスナにキリトは一抹の謎を抱えながらも、大丈夫だ、ということにした。

 

「もう寝よう。明日は俺から言いたいこともあるしな…」

 

「そうだね。一緒に、最後の日を…」

 

キリトはアスナの手を取って、自分たちのベッドへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日キリトは映像結晶を使って、全層にいるプレイヤーに顔を見せた。

今までのキリトとは思えないアスナたちは訝しげに彼のことを見る。

 

『みんな、俺はキリトだ。知ってる人も多いと思うが、今日…俺たちはアインクラッドの第100層に挑む。今まで以上に危険な攻略になると思っている。それに…俺たちはここに来るまでたくさんの地獄を見てきた。プレイヤーの死…現実世界へ帰れない悲しみ…それに、未来を奪われた絶望…。俺たちはたくさんの痛みと苦しみを受けてきたが、今日勝てば…それで終わる。もし勝てなかったら…とかは考えずに、勝つことだけを考えて行くつもりだ。だから…安心してくれ。俺たちを信じて…今日を生き抜くんだ!』

 

キリトの演説は素晴らしい…とものではないが、これから戦うキリトたちにとっては士気の上がるものだと思えた。

 

「行こう!みんな…。今日でこのゲームを終わらせて…本当の生きる時間を手に入れるんだ‼︎」

「「「「「おおぉッ‼︎」」」」」

 

士気の上がった彼らにもはや恐怖は無かった。

あるのは勝つことの意志、それだけだった。




そろそろ終盤!

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