ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第56話 真なる英雄

『White Fatalis』が何度となく天に向かって咆哮する中、光の如き速さで奴の首元を突き抜ける者がいた。それはキリトだった。紅龍進撃SSメテオブレイクだ。

キリトは地面に着地をしようとはせず、自然落下で地面に落ちる。

傷ついた身体をどうにか動かして、喉元を貫かれたミラルーツを見詰めている。

ミラルーツはか細い声を上げながら、瓦礫の上に崩れていった。

キリトはそれを見ても、喜びに満ち溢れることはなく、剣を地面に突き刺して、ゆっくりと立ち上がる。赤い煉瓦の瓦礫が周りに崩れている中で、キリトは必死に声を上げた。

 

「みんな!アスナ!シノン!アリス!」

 

声を上げても、誰も声が上がらなかった。

キリトは傷付いた身体に鞭打って、瓦礫の中を歩く。

すると、真っ二つに割れた羽衣の弓が落ちていた。それがシノンのものだと分かったキリトは駆け寄り、周りを見ると、瓦礫に埋もれ、腕を失ったシノンが倒れていた。

 

「シノン‼︎」

 

「キリ…ト…」

 

キリトは瓦礫を退かそうとするが、退かせたのは上半身のところだけで、下半身の瓦礫は重くて全く動かせなかった。

 

「私は…ここでリタイアね…。もう、戦力には…」

 

シノンは失った右腕を見てから、折れた『凶弓【小夜嵐】』に目を向けた。今まで支えてくれた武器に感謝するように、シノンは残った手で折れた弓に優しく触れた。

そして、今度はガタンと瓦礫を自力で動かすアリスが姿を現した。

 

「アリス!」

 

「キリト、シノン…。無事だったのね…」

 

アリスもボロボロで、金色の鎧はボロボロで、瓦礫から這い上がっては来たが、左足が無かった。

 

「アリスも…リタイア?」

 

「そうね…。とてもじゃないけど…もう身体が動きそうもない…」

 

アリスはそう言って、力なく地面に倒れる。

だが、ここでキリトの心が激しく揺れ動く。

アスナだけが…いつまで経っても姿を現さなかったのだ。

傷付いた2人を置いて、キリトもボロボロの身体をもう一度動かして、広いこの場所を隈なく探す。

 

「アスナッ‼︎返事しろ‼︎」

 

キリトの声が拓けた空間に木霊する。

そして…漸く見つけた。

アスナは腹に大きな穴を開けて、血溜まりの中で倒れていたのだ。

 

「アスナッ‼︎‼︎」

 

キリトは駆け寄って、彼女を抱きかかえる。

アスナのHPは今も減少しており、キリトは急いで回復結晶を使おうと腰に手を伸ばしたが、そこにあるはずの結晶は無かった。先の激闘で全ての回復手段が失われてしまったのだ。

アスナも持っておらず、キリトはますます追い詰められていく。

 

「アスナ…!死ぬな‼︎ここまで来たんだ!頑張れよ…‼︎」

 

キリトは彼女の腹に手を押し当てて、少しでも出血が止めようと奮闘するが、その努力と反対に血ばかりが流れていく。

 

「止まれ…!止まってくれ‼︎」

 

「キリト…くん?」

 

アスナは弱々しい声で目の前にいる人がキリトであるかを確認する。

アスナの視界はもう、焦点が合っていなかったのだ。

 

「そうだ、俺だ…キリトだ…。アスナ…どうして…」

 

「まだ……終わりじゃないでしょ…?これを…」

 

アスナは腰に挿してある細剣(レイピア)をキリトに渡す。

 

「私の…力…。きっと、役に立つ…。これで全て終わらせて…」

 

そこまで言うと、アスナの腕がダラリと落ちる。

そして…朧げに身体が輝き始め、最後にカシャンと音を立てて、その身体を散らした。

数秒後に今度は細剣が落ちる音が辺りに響いた。

キリトは呆然としたまま、散っていくポリゴン片に手を伸ばしていく。口からは「あ……あ……」とか細い声が漏れるばかりで、いくら手を伸ばしても…虚空を振るだけだった。

 

「アスナ…」

 

キリトは拳を作り、地面を強く叩く。

結局…守れなかった自分の弱さと怒りで、もう一度地面を殴る。

鈍い痛みが走るが、気にもしない。

そんな絶望と悲壮に打ちのめされている間に、茅場が地面に降りてきた。『White Fatalis』を倒されたことで、最後のラスボスの登場…というところだろうが、今のキリトに戦意など、見受けれられない。

 

「さあ、キリトくん。どうする?ここで戦いを止めにするなら…君たち3人をアスナくんと同じ場所へと連れて行ってもよろしいのだよ?」

 

茅場の言葉に今までずっと拳を振り抜いていたキリトの手が動きを止めた。茅場を見上げることはなかったが、奥底で何を考えているのか…茅場には分かっていた。

 

「愛する者を失った君に戦意がないことなど分かっている。終わりにしてやろう、このゲームを…」

 

そう言う茅場だが、内心残念に思っていた。

茅場の目的であることは未だに実現されておらず、それを果たしてくれるのは目の前で絶望しているキリトだと思っていたのだが…結局、それは無いと思った茅場は赤く輝く白剣を振り下ろした。

 

「「キリトッ‼︎」」

 

シノンとアリスが同時に叫ぶが、キリトは反応しない。

茅場の刃がキリトの首元に当たろうかと思われた時…。

 

「っ⁈」

 

バキンと甲高い金属音が響いた。

それはキリトの剣である『獄・覇王紅剣【(ほむら)】だった。

強い輝きを放つ茅場の剣をキリトの紅剣が防いでいたのだ。

もちろん、キリトがその剣を掴んで…。

茅場は想定外のことに動揺する。

 

「…俺は確かに、アスナを失った…」

 

力をどんどん腕に込めていき、ゆっくりと立ち上がるキリト。

茅場も力を込めてゆくが、キリトの方が強いのか、茅場は徐々に後ろへと押されていく。

 

「くっ…どこから、こんな力が…」

 

「その事実は変わらない…」

 

キリトの黒いコートに紅い炎の模様が浮かび上がる。

【紅焔の威光】、そして【超越】が発動したのだ。

 

「だけど…俺が死んだってアスナは喜ばない!俺が生き残って、現実に帰ることが…死んだアスナに対しての…」

 

更に力を込め、茅場の剣を弾いた。

 

「唯一の罪滅ぼしなんだぁッ‼︎‼︎」

 

茅場はキリトの鬼気とした様子を見て、嬉しそうに口角を上げた。

 

「それだ…。私が待っていたのはその顔だ!あんなだらしない姿になった君を殺しても意味はない!だが…今の君なら…きっと…」

 

「俺はお前を殺す!そして、このゲームを終わらせる!シノンやアリス…死んでいったプレイヤー…サチ、スグ、そしてアスナのために…!」

 

キリトは床に落ちている『白雷剣エンクリシス』を拾い、アスナの細剣『アイシテューレ』を腰に収める。

 

「アスナ…一緒に戦うぞ…」

 

キリトは更に【纏雷】を発動させ、茅場を見詰める。

茅場は持っている巨大な盾を捨て、赤い神剣を天に向けた。すると…赤い雷が茅場の剣に当たり、茅場の周りに赤雷を纏わせる。

 

「これが最期の切り札…【皇鳴】だ。『White Fatalis』の力を宿した…最強のオリジナルスキルだ」

 

「ラスボスのスキルってわけか…。だが何が来ても…俺たちは負けない!行くぞ、茅場ッ!」

 

キリトは地面を強く蹴って、茅場の間合いに一瞬で入る。

白い剣に電撃を纏わせたソードスキルを発動させる。

烈撃SS蒼速神撃だ。

茅場に当たる直前で、また見えない壁でガードされる。しかし、数秒後にその壁を打ち砕き、更なるソードスキルを使う。

今度は激剛18連撃SSスターバースト・ライトニングブレイクだ。

茅場も少し押されながらも、素早く…一撃が凄まじい攻撃を全て軽々と受け流していく。たまに肩や腕を掠りはするものの、致命傷となり得る一撃は与えられない。

茅場には全ての攻撃が見えているのだろうと分かると、キリトは思わず歯を強く噛み締めてしまう。

 

「素晴らしい攻撃だ。だが…それではGMの私を討ち倒すことは…出来ない!」

 

最後の18撃目を弾いた茅場はお返しにと言わんばかりに、赤雷を剣に纏わせて、キリトに振ってくる。キリトも見たことないソードスキルが襲ってきた。

皇龍撃SSレッドバーク。

キリトは剣をクロスにして、それを防ごうとするのだが、茅場の剣とキリトの剣がぶつかった途端、凄まじい衝撃がキリトを襲ってくる。

足が地面にめり込み、その勢いに負けんと踏ん張るために、爽突撃SSヴォーパル・エリッシュで対応するのだが、茅場のソードスキルの勢いは減衰するどころか、増していくばかりだ。

そして遂に…キリトの愛剣の片割れ…白雷剣エンクリシスにヒビが入り始める。

 

「くっ…!く……お、おおおおおぉぉッ‼︎‼︎」

 

キリトは力を振り絞り、茅場の剣を弾き返す。

が、弾いた直後、遂に剣が割れて、空中を舞った。

カランと音を立てて、刀身は地面に落ちて、ポリゴン片となって砕けた。そして持っていた柄の部分も砕ける。キリトは茫然と立ち尽くしてしまう。

茅場は勝ちが分かったかのように話す。

 

「君の愛剣もここまでだ。二刀流でない君では私に勝つことは…」

 

シュンと風が切れる音が茅場の耳元で小さく聞こえた。

茅場が喋っている間にキリトは目に前から、後ろへと瞬時に移動していたのだ。茅場の頬を斬りながら…。

 

「………」

 

茅場はゆっくりとキリトを見る。

彼の左手には剣が握られている。

先程砕いたはず…。

茅場はそう思っていたが、握られていた剣は白い剣ではなく、アスナの細剣…アイシテューレだったのだ。そして…その剣のソードスキル『リニアー』を即座に使用していたのだ。

その事に茅場はただならぬ驚きを見せる。

本来このSAOでは武器種が違うと、そのソードスキルは使用出来ないはずなのだが…キリトは握っただけで即時に使うことが出来ている。

 

「どうやって…」

 

茅場は聞こうとしたが、そんな野暮なことは聞かないでおくことにした。

アスナとの愛の力だと茅場は思う事にした。

 

「アスナ……ありがとう」

 

そして、キリトが細剣を強く握ると、冷気が周囲を取り巻く。

更にもう一つの愛剣を握って、冷気とは真逆の高熱を発する。

 

「【氷界創生】と【紅焔の威光】…同時発動だッ‼︎」

 

今の連撃で【超越】の発動は終わりを迎えてしまっている。

しかし、氷と炎の相反する力が解放され、キリトを取り巻くオーラは異次元レベルのものになっていた。そして、今まで浮かび上がっていた炎や氷の模様はもはや消えて、紅と白のオーラばかりが地面を抉り、瓦礫を勝手に破壊させていく。そして…目の色は黄金色になっている。

 

「これで…終わりだぁッ‼︎‼︎」

 

キリトはもはや自分でも分からないソードスキルを発動させて、茅場に向かっていく。一方の茅場もキリトの底知れぬ力に流石にビビったのか、最強のソードスキルでキリトを迎え撃つ。

キリトは炎凍烈24連撃SSスターバースト・ストリーム【極灼氷】。

茅場は皇鳴25連撃SS赤雷の雷帝だ。

お互いのソードスキルがぶつかり合い、周囲の瓦礫や空気を燃やし、凍らせ、吹き飛ばしていく。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉッ‼︎‼︎」

 

「ふん‼︎この程度ッ‼︎」

 

キリトのソードスキルの最後の一撃が終えたのちに、茅場の残った一撃がキリトの身体を貫いた。キリトの内臓を雷が貫いたような感覚が起こり、キリトは「がはっ…!」と血を吐き、ガクッと膝から崩れ落ちる。

 

「キリトぉ‼︎」

 

「キリト…」

 

アリスは泣き叫び、シノンは呆然と彼の名前を呟いた。

茅場は表情を変えずに剣を引き抜こうとする。

だが…。

 

「⁈」

 

キリトは激しい電流が流れる剣を素手で掴んで、引き抜かれまいともがく。その行動に茅場は驚くが、構わず抜こうと試みる。

それでもキリトの力は劣ることなく、全く抜けることはなかった。

 

「キリトくん…何故……」

 

更に茅場の動揺は勢いを増していく。

キリトのHPは既にゼロになっており、アバターの身体を維持することは不可能なはずなのに…キリトは意志を持ち、身体を保っているのだ。だが…それでも長くは維持できない。

キリトの身体は徐々にではあるが、透明になり始めていた。

 

「まだだ…」

 

左腕に握られたアスナの細剣は輝きを失ってない。

ピンク色のエフェクトが輝き、キリトは再びこのソードスキルを発動させた。

単発SSリニアーだ。単純な突き攻撃で、茅場には簡単に避けられるとキリトは思っているが、最後の悪足掻きとしては良いだろう。

 

「くっ……く、は、ああああああああああぁぁッ‼︎」

 

茅場は薄く笑って、避ける動作を見せなかった。

ズブっと茅場の腹に細剣が突き刺さり、茅場のHPも間もなくゼロとなった。キリトと茅場は互いの剣で串刺しになり、お互いに死亡した。

キリトはアスナの細剣を見ながら…最後の言葉を言った。

 

「これで…いいか?アスナ…」

 

キリトはほくそ笑んで、目をゆっくりと瞑った。

そしてすぐに、キリトと茅場の身体は…散っていくのだった。




【補足】
『皇鳴』
『White Fatalis』の力が加わったことで発動できるスキル。
その力はキリトの【超越】と同等かそれ以上。具体的には攻撃力、防御力、俊敏性の上昇。デメリットはない。
茅場は『神剣ガラティーン』を超える『極神剣ガラティーン』に纏わせて使用している。
因みにこの『皇鳴』の名前はMHFZに登場したミラルーツの属性名である。雷属性と龍属性の複合属性で、かなり格好いいと思っています。


もうそろそろ完結ですね…。
未だにアリシゼーション編とかその他のシリーズを書こうとは全く考えていません。
…一旦、アンケート取ってみようかなぁ。
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