ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第57話 帰還の時

キリトがもう一度目を覚ました時、目の前に広がるのは夕焼けだった。

空中に立っているのだ。

ここは天国なのか…あの世なのか分からないキリトは設定を開いてみるが、オプションが出るだけで何も変化はない。呆然と周りを見ていると、懐かしい声が耳に澄んで聞こえてきた。

 

「キリト……くん?」

 

「!」

 

その声にキリトは過敏に反応して、即座に後ろに振り向いた。

そこには死んだはずのアスナがビックリしたような表情でキリトを見詰めていた。キリトは溢れそうになる涙を必死に堪えて、アスナに笑顔を向けて…茅場に勝ったことを伝える。

 

「勝ったけど…死んじゃったよ…」

 

「バカ…」

 

アスナは反対に涙をたくさん溢しながらキリトの胸に(すが)り付き、そのすぐ後に唇を重ねてきた。お互いまた会えた事に喜びを感じる2人は一時、この幸せな時間を過ごす。

その後、キリトは彼女の手をギュッと握って、空中を散歩する。

 

「一体ここは…」

 

「ねえ、キリトくん。あれ…」

 

アスナが指差す先には浮遊城アインロックがあった。

それが見えた瞬間、キリトは分かった。

自分たちはアインクラッドの外側にいるのだと…。

 

「素晴らしい眺めだな…」

 

すると…聞いた事のない声が入ってきた。

キリトたちが右を向くと、白衣を着た若い男性が立っていた。それは3年前にキリトが雑誌で見た科学者…茅場彰彦の姿と一致していた。

 

「茅場…彰彦…!」

 

「今、SAO内にいるプレイヤーおよそ4000名全てのログアウトが始まっている。そしてその数十分後にはこのゲーム自体が崩壊する」

 

「4000名?そんなバカな!アリスとシノン以外のプレイヤーは…」

 

『White Fatalis』の攻撃で全員死亡した…と言いたかった。

だが、茅場はキリトがそれを言う前にとんでもないことを告げる。

 

「安心したまえ。『White Fatalis』による攻撃でゲームオーバーになったプレイヤーは死んでいない。私が敢えて助けておいた。…まあ、君たちが勝たなかったら、死んでいたがね」

 

「じゃ、じゃあスグも…」

 

「その通りだ」

 

キリトはそれを聞いて胸を撫で下ろした。

だが、アスナが聞いた別の質問で雰囲気は一気に変わった。

 

「今までに死んだ6000人ものプレイヤーは……どうなったんですか?」

 

「死んだ人間は戻らない。自然界の掟だろう?」

 

その発言なら、普段のキリトなら怒りで爆発していることだろうが、決戦の後のせいか…怒りも何の感情も沸き起こることはなく、静かにこう聞いた。

 

「何故…こんなことを…」

 

「何故…か」

 

茅場は白衣のポケットに手を突っ込んだまま、呆けた表情でアインロックを見詰める。

 

「私も長い前に忘れていたよ、なぜ…こんなことをしたのか…。私は目の前に聳える居城を…フルダイブ技術が進歩する前から作り出そうと思い、今まで躍起になっていた。そして…私は、私が作った世界の法則をも超える力を…漸く…この目で見ることが出来た」

 

そう言って、茅場はキリトたちを見た。

その途端、空に浮かぶ居城が音を立てて…下から崩れ落ち始めた。

 

「あ……」

 

それを見たアスナは小さく呻く。3年間、生き続けた城を崩れるところを眺めるのは…何とも言えないものだった。

 

「私があの空想の城を思い浮かべて始めていたのは…いつの頃だったかな…。いつかあの城へと行ける…そう思っていた…いや、今も思っている。この世界のどこか…私が知らないところに、本当にあの城があるんじゃないかって…ね」

 

「…ああ、そうだといいな」

 

アスナも頷く。

 

「そうだ…言い忘れていたよ。ゲームクリア、おめでとう。キリトくん、アスナくん」

 

茅場が見せた初めての笑顔に…キリトもアスナも何も言えなかった。

最初こそ憎んでいた元凶:茅場彰彦だったが、今見れば…彼も夢を追う1人の人間だったんだと思い知ったからだった。

 

「私はそろそろ消えよう。君たちの邪魔をしたくないのでね」

 

そう言い告げると、茅場の姿は煙のように一瞬で消えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

残った2人は座って、お互いにキスをする。

コツンと額を合わせて、愛の誓いをする。そしてキリトから…小さく口を開いた。

 

「これでお別れ…だな」

 

「ううん、お別れじゃない。私たちは1つになって消える。だから…いつまで経っても、一生一緒だよ?」

 

アスナの屈託のない笑顔にキリトの涙腺が弾けそうになる。

だが、その前にアスナがキリトにこんなことを聞いてきた。

 

「ねえ、キリトくんのリアルネーム…教えて?」

「え」

「消える前に…愛する人の本名くらい知っておきたいでしょ?」

 

キリトは多少驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔に戻して、アスナの質問に丁寧に答えた。

 

「桐ヶ谷、和人です。多分、もうすぐ17歳だよ」

「桐ヶ谷…和人くん…。まさか…年下だったのかぁ。私の名前は結城明日奈、18歳です」

「結城、明日奈…」

 

初めて知った愛する人の名前。

お互いに幸福感で満ち溢れるが、キリトの心は徐々にアスナに対して申し訳無さばかりが込み上げてくる。

そして…先程から抑えていた涙腺がはち切れ、止めどなく涙が溢れ出てくる。

 

「ごめん……ごめん、ごめん…!君を…アスナを絶対…現実世界に返すって、約束したのに…俺は…俺は…何度も……何度も…!」

 

キリトが謝罪の言葉を何度も述べている間にアスナはキリトの大きな手をギュッと握る。アスナもいつの間にか涙が溢れていて、声が震える。

 

「ううん、良い…良いんだよ…。色々なことがあったけど……私、とても幸せだった。キリト…和人くんと会えて…戦って、結婚して…暮らせて…今まで生きてきた中で1番幸せだったよ?謝る必要なんてないよ。私が謝って、感謝したいくらい。…ありがとう、これからもずっと愛しています…」

 

アスナの言葉にキリトは耐え切れず、アスナをギュッと抱き締めて、お互いに涙を流し続ける。

だが、その抱擁してる間にアインクラッドは完全に崩れ落ち、周りの世界も白い光に包まれていく。2人の遂に時間が来たと理解して、キスを交わしたまま…その光の中に飲まれていくのだった。

その最中…キリトの耳に最後に聞こえた言葉は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛して……います……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞳に光が戻る…。

ゆっくりとその眼を開け、天井を見詰める。

白い天井に鼻を突く薬品の臭いに意識が覚醒し始める。そして…頭に何か違和感を感じた『彼』はそれに触れて、何があったのか…頭の中で考える。

すると…思い浮かんだのは…『彼女』の屈託のない笑顔…。

 

「っ!」

 

『彼』…和人の記憶に『彼女』…明日奈の姿ばかりが走馬灯のように流れていく。

そして…小さく呟く。

 

「ア……ス……ナ……」

 

和人は上体を起こして、頭に3年間被ったままであったろうナーヴギアを外す。そして…ベッドから立って、点滴を付けたまま、病室から出ようとする。

栄養剤だけを与えられ続けた身体はボロボロで…まともに歩くことすら困難だったが…和人を突き動かすものは唯一無二の存在…『明日奈』だった。

ドアを開けて…永遠に続く廊下をふらふらと歩み進める。

口からはしきりに「アスナ……」と呟きながら…。




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