ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第6話 支え

キリトとアスナの大喧嘩から、2日後、第74層の攻略が行われた。

血盟騎士団の副団長《閃光のアスナ》をリーダーとして、行われた攻略は甚大な被害を及ぼしながらも、どうにかクリアすることが出来た。ただ…この攻略にアスナはどうも落ち着くことが全く出来なかった。言うまでもなく、キリトとのことだ。

キリトはアスナと顔を合わせることも、動きを合わせることもなく、単身突っ込んでいくばかりで、誰にも止めることが出来なかった。ただ、そのキリトのお陰で攻略が成功したと言っても過言ではなかった。

最後…パーティーを解散間際にアスナはキリトに話しかけた。

 

「あの…キリトくん……」

 

「じゃ、お疲れ」

 

素っ気ない返事に、アスナは胸が締め付けられた。

そこから先は話しかけることも出来ず、キリトはさっさと去ってしまうのだった。

 

 

 

 

―翌日―

重たい身体を起こして、キリトはベッドから降りた。

そして、床に転がったままの持ち主のない白銀色の細剣(レイピア)を持って、アスナの家に向おうと支度を始める。だが、キリトはアスナと会う気はなかった。

この細剣(レイピア)だけを送り届けて、帰ろうと思っていた。

そう思いながら、もう一度キリトなりに細剣を梱包し、転移エリアへと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

「…もう、朝、か…」

 

ここ最近は嫌なことばかりで、目覚めも悪くなってきたアスナ。

キリトには打たれ、それについて逆ギレして、更に逆ギレしたことを後悔し、声をかけることも出来ない。アスナは自分では思ってもないことを口走っていたことを思い出してしまう。

 

 

『キリトくんなんて大嫌いっ‼︎』

 

 

この時だけ時間を巻き戻したいとアスナは思った。

ここはゲームの中なんだからそれくらい出来るのでは…と、誰かに聞いてみたくもなった。

だが、アスナはキリトの感じから、二度とまともに話せるとは思っていた。

あそこまで最低な言葉を言って、今まで通りに接してくれるとは思えなかった。

今回ばかりはアスナはやり過ぎたと猛省している。

それでも、これからは攻略するための仲間……ということで接するだけであろう。

しかし、その事実はアスナの胸を切なく締め上げた。ここでアスナはこう思った。

 

(どうして…こんなにキリトくんが大切なんだと思っているんだろう…?)

 

初めて会った時、パンにかけるクリームを教えてくれた時はまだ、単なる仲間…パートナーとしかアスナは思っていなかった。

だが、時が経つに連れて、キリトへの想いが徐々に変化していった。

黒いコートに黒の剣…。

その姿がどこの剣士よりも格好良かったのだ。

 

「…これじゃダメだ」

 

アスナはそう呟き、どうにか今の関係を修復しようと思った。

扉を勢いよく開けて、飛び出そうとしたとき、足に何かが引っ掛かって、アスナは盛大に転んだ。

 

「あたっ‼︎誰よ…こんなところに…」

 

置いてあったものを見て、アスナは目を疑った。

それはつい数日前、投げ捨てたはずの細剣だったのだ。しかも、きちんと梱包され直されていて、メッセージカードも置いてあった。

誰が…いつ……。

誰はがなんて…キリト以外にあり得なかった。

アスナは梱包された細剣を持って、辺りを見回すが、キリトらしき人物は見当たらなかった。

 

「キリトくん…」

 

アスナは一旦家に戻り、付随されていたメッセージカードを読む。

それは実に短かった。

 

 

『ごめん…あの時は…。これだけ渡しておく』

 

 

デジタルの文字であっても、キリトの心情がどのようなものか…アスナは予想できた。

アスナは細剣を机に置き、転移結晶を片手に自宅を飛び出した。

まずはログハウスに行ってみたが、そこにキリトはいなかった。

 

「キリトくん…どこ…?」

 

アスナは、息が切れようが…転ぼうが、足を止めなかった。

 

 

 

 

先程まで空は綺麗な夕焼け色だったのに、突然灰色の雲が空を覆い、重たくて冷たい雨を降らせ始めた。

キリトはこの世界で送ってきた人生と同じような天気だな…と思った。

現在、キリトは第28層の外周の近くにあるベンチに腰かけていた。

ここは…幾人ものプレイヤーが絶望して、飛び降り自殺をしたところである。

自殺と言っても、ここでは肉体が消滅するだけ…。死ぬのは現実世界の脳だ。

そしてキリトにとって、消したくても消せない…辛い場所でもあった。

ここで…実際にキリトはプレイヤーが死ぬのを見たことがある。それも…【月夜の黒猫団】の団長ケイタの自殺シーンを…。

今でもキリトは思い出せた。

サチたちが死んだことを伝えたケイタは、購入した家の鍵を地面に落とし、キリトに罵声を浴びせたこと…。そして、最後に外周から乗り出して、落下していったこと…。

 

「…くそ…」

 

そこでキリトの心には、深い深い傷が刻まれた。

それでも必死に前を見て、進もうとした。だが…夢でもどこでもサチのことが脳裏を(よぎ)ってしまい、アスナもサチと同じようになってしまうのでは…と恐れていた。

その不安は時間が経つに連れて、大きく膨れ上がっていった。

そして…知られたくないサチのことをアスナに聞かれて、気が動転してしまい、キリト自身も信じられない行動を起こしてしまったのだ。

 

「…ここから落ちたら、今までの苦しみから逃れられるのかな…」

 

無意識のうちにキリトはベンチから立ち上がり、外周に手をかけた。

雨音がどんどん強くなってきて、それ以外何も聞こえないくらい強くなった時だった。

可憐な声が…耳に響いた。

 

「キリトくん‼」

 

強い雨音の中でもはっきりと聞こえた声にキリトはそちらを向いた。雨で視界が悪かったこともあったため、離れたところにいるアスナが一瞬、『サチ』に見えたキリト。

 

「サチ…。いや、君は…」

 

視界不良な中で、アスナが徐々に近づいてきたことで、キリトはサチではないことが分かった。

 

「アスナ…。どうして…」

 

アスナも傘を差しておらず、栗色の髪も服も何から何までびしょ濡れだった。

それに…どこか泣きそうな表情だった。

 

「やっと見つけた…。ねえ…何してたの?」

 

アスナはゆっくりと足を前に進める。その足でさえも、寒さか、恐怖から震えていた。

 

「何って…別に…」

 

「死のうなんて…思ってなかったよね?」

 

「………」

 

キリトは答えなかった。

そして、アスナの足はキリトの目の前で止まり…。

 

「酷いこと言って…ごめんなさい…っ」

 

涙をポロポロと零して、アスナは謝罪した。キリトは黙って、アスナを暫く見詰めた。

ここでキリトは気付いた。気付くのが遅すぎて、キリト自身もなんて馬鹿なんだろうと呆れてしまった。

自分は1人ではない。

目の前に…泣いてくれて…支えとなってくれる、大事な【パートナー】がいるではないか…と。

 

「俺こそ…酷いことして、ごめん」

 

「キリトくん…」

 

「アスナ、別に死ぬつもりはなかったよ?安心しな」

 

「本当?本当に本当?」

 

「しつこいな…。本当だよ」

 

 

アスナは安心したのか、涙を拭って、にっこりと笑った。

そして偶然なのか、アスナが笑顔を見せた瞬間、酷い大雨が止み、綺麗な太陽が雲間から姿を見せた。

 

「綺麗だね」

 

「…アスナも、そんなこと言えるようになったんだな…」

 

「何よ!いいでしょ……キリトくん?」

 

アスナは困惑してしまう。何故なら、キリトは夕焼けを見ながら、泣いていたからだ。

 

「別に。大丈夫さ」

 

(サチ…まだ俺…頑張っていけそうだ…)

 

キリトを見たアスナは突然、こんなことを言い出した。

 

「私、暫くギルド離れることにした。だって、キリトくん不安定そうだから」

 

「不安定…まあ、そうだな…。でも、大丈夫なのか?そんなことし…」

 

「アスナ様!」

 

突然、血盟騎士団の団員数名がキリトとアスナの周りを包囲した。

彼らは明らかにキリトに対して敵意を見せていた。

 

「やめなさい!キリトくんは私のパートナーよ!」

 

「副団長、実は…団長命令なんです。【黒の剣士】を見つけ次第、すぐにグランザムに連れて来るようにと…」

 

「血盟騎士団の団長さんも…随分と大胆なことをするんだな…」

 

キリトは暫し考えた後に、彼らにこう言った。

 

「じゃあ連れていくがいい。お前らのボスにはっきり言わないといけないらしいからな」

 

キリトは彼らに包囲されたまま、グランザムへと行くことになった。

後ろではアスナが心配そうに見詰めていることに気付いた。

 

「大丈夫だ。安心しろ」

 

そう言うキリトだったが、アスナの不安を完全に拭い取ることは出来なかった。

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