ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第13話 ティーゼの願い

ユージオはユクモ地方で取れた幹を木剣で斬る。

単発SSホリゾンタルをぶつけても、ユクモの木は斬れることはなく、ただ凹むだけだった。その攻撃を数度放つと、顔から流れ落ちる汗を拭い取った。打ち込む中で、ユージオは思っていた。

 

(僕には…剣に対するものを、何も持っていない…)

 

ユージオはここ最近そう思い始めていた。

今まで見てきた先輩方…同期、キリトも剣にそれぞれの想いを乗せている。だが、ユージオが剣を振る理由はアリスとイーディスを救い出したいだけ…。それだけでは弱いのではないかと思ってしまう。

そんなことを考えてしまうと、ユージオは疲れが一気にやって来て、溜め息も出てしまう。

すると、修練場にやって来た2人の同期がユージオを見るなり、嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「ほお…ユージオ修剣士殿、今日は丸太を斬るだけで終わりですかな?」

 

そう言って来たのはライオス・アンティノス上級修剣士だ。

貴族の中でも最も権力を持っている身分で、平民であるキリトやユージオ…その他の者でも傲慢な態度を取ることで有名であった。それでも剣技は中々のものだ。

 

「ライオス殿、ユージオ修剣士は元木こり。丸太を斬ることしか出来ないのですよ」

 

同じくユージオを蔑むもう1人はウンベール・ジーゼック上級修剣士で、ライオスの1つ下の位の貴族である。剣技も口の利き方もライオスよりも下で、ユージオからすれば気にすることもない相手であった。

いつものように彼らの蔑みを無視しながら、自室に戻ろうとした時にライオスがこんなことを言い出す。

 

「それなら…この私が、ユージオ殿に新たな剣技をお教えしても良いが…どうかなユージオ殿?」

 

「いえ…結構で……!」

 

そんなものは要らないと言おうとしたが、ユージオは彼らの力の根源であると思われる貴族の権力がどのようなものなのかを確かめてみたいと思った。だが、ここでライオス相手に何かをやらかしては後々面倒になると思ったユージオは木剣を納めつつ、2人の要求に答える。

 

「その剣技、出来ればウンベール殿よりお教え願いたい所存です。いや…自分の剣技を上回るものを持ち合わせているのかも不可解です。なので…一本試合でお願いしたいです」

 

この申し出はユージオからすれば、生きてきた中で最も大胆かつ非常に調子に乗った発言であったことだろう。もちろん自尊心の高いウンベールはすぐに顔を真っ赤にさせ、ワナワナと震え始める。

ライオスも面白くないといった表情でユージオを冷たい眼で見ている。

 

「では、ユージオ殿はウンベールの剣で斬られたい…と?」

 

「そう受け取っても構いません」

 

ユージオが断言すると、ウンベールはニヤリと笑い、木剣を抜く。

同じくユージオも剣を抜き、ウンベールの出方を窺う。

 

「貴様のような平民…剣を振れなくなるくらいに腕を砕いてやる…!」

 

ウンベールは剣を背中に当てるように構えると、秘奥義を発動する。

 

(あれは…ハイ・ノルキア流秘奥義『雷閃斬』!)

 

ユージオの準備が完了するよりも前にウンベールは地面を蹴り上げ、剣を振った。ガキィンと木と木がぶつかったと思えない音が修練場に轟く。ユージオも同じく雷閃斬…もとい単発SSバーチカルでウンベールの剣技を跳ね返す。

ウンベールは力でユージオの肩を砕こうと思っていたようだが、ユージオの方が力があり、徐々に押され始める。元々力勝負になることを踏んでいたユージオはこのまま押し切ろうとする。

ところがここでウンベールが叫ぶ。

 

「平民がっ…図に乗るなぁッ‼︎」

 

青い刀身は突如禍々しい紫色に輝く。

 

(なんだこれは⁈これが…貴族の自尊心か⁈)

 

途端に状況が逆転する。

押していたはずが、今度はユージオが押され始める。

このまま鍔迫り合いで拮抗するよりも、技を切り替えて相手を翻弄する方が良いと判断したユージオは単発SSスラントを発動する。刀身を斜めにさせ、ウンベールの剣を受け流す。

態勢を崩させたところから、2連撃SSバーチカル・アークを放つ。一撃目はどうにか防いだウンベールだが、更に態勢を崩してしまい、2撃目を防ぐことは不可能だ。無抵抗な腹に打ち込もうと思った瞬間。

 

「そこまでだ!」

 

ライオスが腕を上げ、2人の戦闘を中断したのだ。

()()()()という形で…。

もちろんそれをウンベールは納得するはずがないが、ライオスの冷徹な視線が刺さる。貴族階級で下のウンベールはライオスに逆らえず、怒りの形相のままユージオと共に礼を交わす。

 

「ユージオ殿、貴殿の剣技は実にもの珍しいものであった。将来は曲芸団に入ることを薦めておこう。だが、いずれは私が貴族の力を示し…」

 

「僕は今でも良いですよ?」

 

この発言に2人は固まる。

だが、すぐにライオスの表情だけは怒りに塗れながらも薄汚れた笑みをしながら「剣を馬鹿みたいに振るだけが戦いではないぞ、平民め…」と残して、修練場から消えていった。ユージオは漸く緊張感から解放され、深く息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ユージオはキリトと共に大きな木の下にシートを敷き、ゆっくりと(くつろ)いでいた。

暫くすると、遠くから赤髪の少女と黒髪の少女が手に食事を持って走ってきた。

赤い髪の少女はユージオの傍付きであるティーゼ、その隣の少女はキリトの傍付きのロニエだ。

2人は息を荒くしながらも、背筋をきちんと伸ばして報告する。

 

「キリト上級修剣士!」 「ユージオ上級修剣士!」

「「本日のお食事をお持ちしました!」」

 

そう言われたキリトとユージオだが、どうも慣れなかった。自分たちもつい1年前くらい1回1回事あるごとに報告はしていたが、今日は休息日だ。だからユージオは…

 

「2人とも、休息日くらいはそんな堅苦しい言葉はやめようよ?折角なんだし…」

 

「え…でも、私はユージオ上級修剣士の傍付き。いくら休息日だろうと、先輩たちには…」

 

「まあ、しょうがないよ、ユージオ。俺たちだって、結局はずっとロニエたちな感じだったし…」

 

キリトに言われ、ユージオは(それもそうか)と思い、籠の中に入っている食事に手を伸ばした。

今回の食事はユージオが企画したものだ。親睦を深めると同時に剣技を教える予定だ。本当は剣技を教えるのは学院規則で禁止されているが、学院の外である『シルクウォーレの森』ではそういった規則も範囲外になるから大丈夫…と、キリトが言っていた。実際、ここには多種多様な動植物がいるが、学院関係者がいる気配はなかった。

 

(今度1人で行くとき、ここで剣の腕を磨こうかな…)

 

そう思いながら、ボーッとしていると、「ユージオ先輩!」とティーゼの声が耳に入った。

急いで「あ、何?」と返事をしたが「聞いていませんでしたよね?」とティーゼに言われた。

 

「ごめん…」

 

と謝罪するユージオ。キリトも少し注意を入れる。

 

「最近ユージオ、どこか(ほう)けてないか?どうしたんだ?」

 

「ちょっとね…」

 

確かにユージオは悩んでいた。今は順調に進んでいる。アリスとイーディスを救うために、央都まで来て…傍付き修剣士となり、今はもう上級修剣士だ。だがこの後、他の上級修剣士を倒し、剣武大会で勝ち、最後にドンドルマ統一神前大会にも勝って、そこで漸く高く聳える白亜の巨塔に行けるのだ。

 

(そこまで行けるまでの力を…僕は持っているんだろうか?)

 

先日のウンベールとの戦いで、そう思い始めていた。

すると、ティーゼも悩みがあるらしく、唇を震えさせながらユージオに相談を始めた。

 

「あのっ!先輩、ウンベール・ジーゼック次席上級修剣士を知っていますよね?」

 

「ああ、もちろん」

 

「次席殿の傍付き、私たちと同室のフレニーカが…ここ数日、学院規則には載っていないにしても…言葉では表わせられないような行為をされていて…」

 

事のあらましを話しているティーゼの表情が徐々に辛そうなものになっていく。

ユージオはすぐに「もう話さなくていいよ。その事は僕たちが抗議してみる」と返した。

それを聞いたティーゼとロニエはパッと明るくなる。

更に後ろで静かに聞いていたキリトは拳を強く握り、3人に背を向けながら語り始める。

 

「ロニエ、ティーゼ。よく覚えておくんだ。禁忌目録や学院規則にないからといって、やってはいけないことはある。だから…自分が間違ったことだと思ったなら、すぐに行動を起こせるようになるんだ」

 

ロニエとティーゼは即座に返事をする。

だがユージオは、キリトの言葉に固まってしまっていた。

今まで言われてきたことよりも、一番重く、心に響いたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕刻、ユージオは溜息を吐く。疲れから来たものではなく、最近の自分に対するものだ。

 

「ずっと、何かを考えてばかりだ…」

 

そのせいで休んでいられる暇がない。さっきもウンベールに抗議に行ったが、あまり効果はあったようには思えなかった。自分は何もしていない、禁忌目録・学院規則に反していない…との言葉ばかりが返ってきて、危うくユージオは彼の顔を拳で殴ってしまうほどだった。キリトがいなかったら、どうなっていたことか…。

コンコンとドアが叩かれ、ティーゼが入ってきた。

 

「ユージオ上級修剣士!本日の掃除、完了いたしました」

 

「お疲れ様、部屋に戻っていいよ」

 

「あの…失礼ですが、フレニーカの件は…」

 

「言ったよ。噂が広まると困るはずだから、もう大丈夫だと思うよ」

 

「そうですか!あるがとうございます!……それで、ユージオ先輩、少し…よろしいでしょうか?」

 

顔を赤らめながら、ティーゼは問いを投げる。

ユージオはまた悩み事かと思い、「いいよ」と言うと、彼女はユージオのの隣に座る。

恐らく、今まで一番近い距離だった。

 

「私、この学院を卒業したら…剣士たちのためにギルドで働きたいと思っているんです。だけど、それはあくまで私の意志…。貴族の債権で、私は別の家に嫁がなくてはならないかもしれません」

 

ティーゼの身体が震え始める。

 

「私、もしそうなって…ジーゼック次席のような誇りを持たず、権力に溺れた人と一緒になったらと思うと、怖くて…怖くてっ…」

 

ティーゼは更にユージオへと近付き、彼の腕に抱きつく。

年頃の少女にこんなことをされたユージオは流石に動揺を隠せなかった。

 

「え、ええ…ティーゼ…」

 

「だから!先輩、他の上級修剣士殿や剣武大会、ドンドルマ統一大会にも出てください!」

 

「もちろん、そのつもりでここまで来たし…」

 

「統一大会で勝てば、第1爵家と同等の権限を得られます!そしたら…私を…」

 

そこから先は声が小さくなり、ユージオには聞こえなかった。だが、言いたいことが分からない程ユージオも馬鹿ではない。

 

「ティーゼ…」

 

しかし、ユージオがここに来た目的はアリスとイーディスの奪還だ。

ティーゼの要求に応えるためには、今の目的を捨てなくてはならない。

 

(だけど…)

 

目の前で身体を震わせ、勇気を振り絞って嘆願している彼女を拒むことは出来ない。

 

「ティーゼ、僕にも目的がある。その願いに応えられるかは分からない。だけど、統一大会で勝てたら…絶対、会いに行くよ」

 

「本当…ですか?なら、私も強くなります!正しいこと、託されたことを言えるように!」

 

ティーゼの瞳から涙が流れる。

その涙は月の光によって、美しく輝いているのだった。




【補足1】
『ユクモの木』
原作ではアイテム『ユクモの丸太』。あまり使いどころがないアイテムだった気がする。

【補足2】
『シルクウォーレの森』
初代MHから登場するエリア『森丘』の森の正式名称。
本当は丘も登場させたかったが、流石に学院外に森はまだしも丘があるのはちょっと違和感があるかなと思い、本作ではリストラとしました。
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