ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第21話 金塵(きんじん)の騎士

アリスとイーディスは突然、元老長チュデルキンに呼び出されていた。

小太りのチュデルキンはイラついた様子で2人に指図する。

 

「10号と30号は80階の雲上庭園で、暗黒界の騎士2人を始末なさい!すぐに仕留めるのですよ!」

 

「私とイーディス殿で?私1人で十分です」

 

「ほう?それならぁ…確実に屠れるのでしょうねえ!?あなたのお弟子の31号はあの様だったのに…」

 

その物言いにアリスはキッと眼力を強め、黄金色の剣を強く握る。

それに気付いたイーディスは彼女の肩を叩き、怒りを鎮めるように宥める。そして、イーディスが意見を述べる。

 

「お言葉ですが、元老長…。私たち2人が同じ階にいると、罪人たちが逃げる可能性があります。1人が私たちを惹きつけ、その隙に…。そうならないように、私が90階で待ち構えます」

 

「私の言うことを聞かな……!」

 

まだ反論しようとするチュデルキンにイーディスは冷たい視線を向ける。

冷徹な視線にチュデルキンの顔は一気に青くなり、「かっ…勝手になさい‼」と言って、逃げるように去って行った。

イーディスは溜息を吐きつつ、アリスに向く。

 

「アリス、少しは気持ちを落ち着けなさい。あなたが逆らって良い男じゃないのよ?」

 

『男』と言っている時点で、イーディスに奴を敬う気持ちは一切ない。

 

「しっかし…デュソルバード騎士にファナティオ副騎士長もやられるとはねえ…。想像以上に反逆者はやるみたいじゃん」

 

「…確かにそうですね。しかし、私が80階で彼らの天命を全て奪い去ります。最高司祭から頂いた、この剣で…」

 

彼女が触れる剣からは…眩しいくらいの金色の塵が浮いていた。

 

 

 

 

 

騎士ファナティオが倒れた後に、キリトも続いて倒れる。

 

「キリトッ!」

 

ユージオはすぐさま駆け込み、治癒術を唱える。しかし、キリトが負った怪我は単純な神聖術では治りそうもない。そこでユージオは2年前にキリトがやってくれた、自らの天命を分け与える神聖術を唱える。

キリトを失うわけにはいかない…。その気持ちだけがユージオを突き動かす。

ユージオの視界が歪み始めたとき、キリトの手がユージオの腕を掴んだ。

 

「!キリト…!」

 

「ユージオ…無理するな…」

 

キリトは痛む身体をゆっくりと起こす。

それでもユージオはキリトに無理に動かないように言う。

 

「キリト、まだ身体を動かさない方が良い!見えない傷が残ってるかも…」

 

「悠長なこと…言ってられないよ…。早く上へ行かないと…」

 

そう言うキリトの視線は倒れたファナティオの方を向いていた。そして、ゆっくりと立ち上がったキリトは彼女の腹に大きく空いた傷に治癒術で治そうとする。それを見たユージオは驚くと同時にキリトの行動に憤怒する。

 

「何やってるんだよキリト!こいつは…キリトを殺そうとしたんだよ⁈そんな奴を救う必要は…!」

 

そう叫ぶユージオはキリトは強く言い返す。

 

「だけど…こいつも元は人間だ!彼女にはこれから普通に幸せに生きてほしいんだ!それに…()()()()()()()()()のためにも…彼女は生きて貰わなくちゃいけないんだ!」

 

その必死な様相にユージオも何もしていられず、同じように治癒を開始する。しかし、2人がかりでも、ファナティオの腹部の傷は深く、出血は止まらない。キリトたちの力ではどうしようもないと思った時、キリトは思わず叫んだ。

 

「おい‼整合騎士!仲間が死にかけてるんだぞ!誰でもいいから…助けに来いよ!」

 

回廊にキリトの声がこだまするが、空しく響くだけだった。

歯を噛み締めるキリトだったが、不意にカーディナルから貰った短剣を取り出す。

 

「ダメだよキリト!それはカーディナルさんがアドミニストレータで使えって…!」

 

「でも…ここで見捨てたら…。助ける手段があるのに、それを見過ごすことは出来ない…!」

 

キリトは短剣を彼女の手に刺す。すると、紫色のエフェクトに彼女は包まれ、途端にカーディナルの溜息が聞こえた。

 

『仕方がないのぉ…。ファナティオ・シンセシス・ツーは私に任せておきなさい。ただ、天命の回復に時間がかかるので、暫くこちらに預からせてもらおう』

 

そうカーディナルが告げると、ファナティオの身体は虚空に浮かんだ後に消える。

キリトは安堵したかのように大きく息を吐く。視線を下に向けると、そこには薬瓶が2つあった。

 

『アドミニストレータは現在、休眠状態にあると見える。そうなればその短剣を使わずとも、奴を抑えられるだろう。それとその瓶の中身を飲むと良い。今までの傷を全て癒すことが出来る』

 

そこまで言うと、カーディナルの声は聞こえなくなった。

キリトとユージオは瓶の中身を飲み干すと、2人の身体に残る傷は一瞬にして消えた。

 

「悪い、ユージオ…。取り乱して…」

 

「いや…」

 

ユージオもここまでキリトが取り乱したところは見たことがなかったので、少し動揺してしまった。少し黙る時間があったが、キリトはユージオを諭すように言う。

 

「ユージオ、彼らを許せない気持ちも分かるけど、彼らも彼らなりの正義のために戦っているんだ。それは分かっただろ?」

 

「…うん、そうだね。彼らも…そのような感じがした」

 

「それで良いんだ、ユージオ。それに…今回の戦いの勝利したのはその冰龍の剣のお陰だ。助かったよ」

 

そこまで言うと、キリトはゆっくりと前へ進め始める。

ユージオも後を追うように急ぐのであった。

 

 

 

 

次に到着したのは80階だった。回廊と同等の大きさの扉を協力して、ゆっくりと開けるとその先に広がるのは今までとは違い、自然に満ち溢れた場所だった。小川には魚が泳ぎ、瑞々しい草木が生えている。

その中央…そこ居たのは、アリスだった。

ユージオは彼女を見た途端に息が詰まりそうになるほどの懐かしさに襲われる。キリトも…SAO時代の彼女と結び付けてしまい、どうにも落ち着けなかった。

アリスは2人を視認すると、「少し待ってください」と言った。

 

「今日はドンドルマの天気が1番良い日なのです。『あの子』に…この気持ちのいい日光と空気を、もう少し与えたいのです」

 

「あの子?」

 

アリスの近くには誰もいない。誰のことを指しているのかと思っていると、突風が吹き荒れる。目も開けられない暴風に2人は耐えようとしていると、不意にそれは止む。

そして、アリスの方をもう一度見ると…そこには黄金色の身体に至る所に結晶を纏った龍が隣に鎮座していたのだ。キリトたちをセントラル・カセドラルに連れてきた龍とは、また別の種だった。

2人は思わず身構えるが、アリスは悠然と話を進める。

 

「まさか、ここまで来るとは私の認識も甘かったです。修剣学院の生徒がデュソルバード殿や副騎士長も斬り伏せるとは…。それ程の力を持っていながら、何故教会に逆らうのか…私には理解出来ません」

 

「……」

「……」

 

2人とも、アリスの会話はほとんど耳に入っていない。

隣に鎮座する黄金の龍の威圧感に今にも退きそうだったからだ。

キリトは小声でユージオに言う。

 

「ユージオ…アリスがどのような能力を使うか分からないが、俺がどうにか初撃を受け止めるから…その隙に短剣を刺してアリスを抑えるんだ」

 

「大丈夫なの?ここにいるということは、アリスはファナティオさんたちよりも強いってことでしょ?」

 

「まあ…どうにかするさ…。剣を持ってないようだから、あの龍の攻撃を凌げれば、こちらにも勝機が…」

 

「それはあり得ません」

 

アリスはキリトの考えを一蹴する。

 

「お前たちは…私を少し侮りすぎです」

 

アリスの毅然とした視線が更に強まる。

そして、黄金の龍に手が触れると、それは1本の長剣へと姿を変える。

SAO時代のアリスとはまた異なった剣の出現にキリトは驚愕する。

 

「まさか…あの剣、既に武装完全支配状態か⁈クソッ‼︎」

 

キリトはその事に気付き、すぐさまアリスに突撃する。ユージオも続く。

その間にアリスは鞘から黄金色の剣を抜き、剣を虚空で振るう。

すると、刀身が全て金塵へと変わり、キリトを襲った。

 

「あがッ‼︎」

 

「キリト‼︎…はっ!」

 

ユージオの眼前にも金塵は迫っており、ユージオは腕で防御を取ろうとしたが、それも無駄でしかなかった。キリトと同じように吹き飛ばされ、ユージオの腹に大きな傷が出来る。

 

「くっ…」

 

アリスは2人を軽蔑した眼差しで見ながら話す。

 

「抜刀もせずに来るとは…私を愚弄してるのですか?今の一撃を受け止め切れたのは偶々です。次はありません」

 

そこまで言うと、金塵は元の刀身へと姿を戻した。

キリトはユージオに目配せをしたのちに、剣を抜きながら立ち上がる。

 

「誉れある整合騎士に対して、無粋な行為…どうかお許しください。俺は修剣士キリト、アリス殿に決闘を申し込む!」

 

「…良いでしょう。貴方たちの覚悟が如何程のものか、その太刀筋で見せてもらいましょう」

 

キリトは歩み寄るアリスに問いをする。

これはユージオが武装完全支配術の詠唱をさせる時間稼ぎだ。

 

「その神器…恐らくさっきの龍が元の姿だと見受けられるが…一体どういう能力だ?」

 

その問いにアリスは静かに答える。

 

「かつて…セントラル・カセドラルがあった場所には原初の村があり、そこを1匹の龍が縄張りにしていました。風を操り、豊かな水と鉱物を主食としていた古の龍は…とうとう村の者を襲い始めた。その龍の力を留めたままにしたのが私の神器『金塵の剣』。剣自体が龍であり、舞っている金塵は全てを穿ち、結晶は全てを拘束し、焼き払う」

 

「…なるほど。そこまで強大な龍だったとはな…。では、剣士キリト…参る‼︎」

 

キリトは一撃、アリスに向かって剣を振るった。

しかし、アリスと剣がぶつかった途端、キリトは驚愕する。アリスの取った受け身を1mmも打ち崩すことが出来ず、逆に自分が弾き返されたのだ。

今度はアリスの剣撃が飛んでくる。

その打ち込みをガードするキリトだが、凄まじい剣圧に押されるばかりだった。今までいくつもの戦いをしてきたキリトだったが、剣圧だけならアリスが1番だと思えるほど強力だった。

ほぼ何も出来ずに後退していくキリトを追うユージオ。

キリトも壁に追い詰められ、息を荒くしていた。

 

「私の打ち込みを防いだことは凄いです。そこだけは誉めておきましょう。しかし…それだけでは覚悟が全く足りません。やはり、人界の平穏を乱す貴方たちを生かしておくわけにはいきません。御覚悟を…!」

 

アリスは先程よりも強い一撃をキリトに放つ。

キリトはそれを剣を横にして受け止める。凄まじい衝撃が手に響くが、気になんてしていられない。そこから剣を横滑りさせ、アリスの両腕を抑える。

 

「⁈」

 

「ユージオ‼︎やれッ‼︎」

 

「まさか…!」

 

「エンハンス・アーマメント‼︎」

 

ユージオの冰龍の剣から氷が射出され、アリスとキリトを氷の中に拘束した。ユージオは大きく息を吐き、短剣を握る。

しかし…氷の中から聞こえた声にユージオは衝撃を受ける。

 

「この程度ですか…」

 

アリスの言葉と共に拘束していた氷が急速に溶けていく。

そして、両腕を掴んでいたキリトを押して、拘束から意図も簡単に脱出してしまったのだ。

 

「中々面白い技でしたが、それでは私を止めることは出来ません。貴方とは後で…この者を斬ったのちに相手をしますので、そこで大人しくしてなさい」

 

「エンハンス・アーマメントッ‼︎」

 

そこでキリトはもういてもいられず、武装完全支配術を叫んだ。

剣の天命残量とか、そんなことを気にしていたら勝てないと踏んだのだ。アリスも同じように武装完全支配術を発動し、両者の技がぶつかる。そして拮抗した力は壁にぶつかり、アリスは大きく後ろへよろけた。

 

(剣を狙って…私の態勢を…!)

 

「ユージオ‼︎」

 

ここしかない。

最後のチャンスに賭けたユージオは短剣をアリスに刺そうと走り寄る。

ところが…。

衝突した技が外壁にぶつかったことにより、亀裂が大きくなり、アリスとキリトはセントラル・カセドラルの外へと放り出される。あまりの出来事にユージオは呆然としてしまう。

 

「キリト……アリス……!」

 

しかし、崩落した外壁はすぐに勝手に修復を開始する。

ユージオは「待て…待ってよ‼︎」と叫びながら崩れた外壁へ駆けるが、辿り着いた時には、何事もなかったかのように元通りになっていた。

ユージオは短剣を放り投げ、アリスとキリトの名を頻りに叫ぶのだった。

 

「キリトォッ‼︎‼︎アリスゥッ‼︎‼︎」




【補足】
神器『金塵の剣』
本文でもありますが、かつてセントラル・カセドラルがあった場所に生息していた龍…つまり原初の龍から作られた剣である。金色の刀身で、鞘にはその龍の横顔が描かれている。
武装完全支配術は2種類使える。
1. 乱金
刀身を無くし、無数の金の塵で攻撃する。非常に硬い素材でも打ち砕く性質かつ、体内に入ればまず助からない。何度も使用できる上、天命値の減少がほとんどないので、非常に汎用性に優れている。
2. 晶撃(しょうげき)
剣先から結晶を射出し、相手を拘束するかつ時間経過で爆発も可能な技。しかし結晶は剥がされやすいため、ほとんど防御で使うことが多い。これも天命値の減少が少ない。
武器の元ネタはフロンティア産のモンスター『ガルバダオラ』。これは最初からこいつにしようと決めてましたね。

漸くヒロインの1人、アリスを出すところまで来ました…。
因みに記憶解放術の詳しい解説はまた別の話で書きます。


昇降係の少女は登場させませんでした。個人的にあまり要らないかな?と思いました。
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