ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第22話 外壁での休戦

「離せッ‼︎離しなさい‼︎」

 

キリトの掴む腕を振り払おうとするアリスにキリトは思わず声を上げる。

 

「お、おい‼︎お前が暴れたら俺まで落ちるじゃねえか‼︎大人しくしてろ‼︎このお転婆‼︎」

 

その言葉にアリスの中でカチーンという音が甲高く鳴る。

それと同時に自身の顔が茹で上がるような熱さを感じた。

 

「お…お転婆……て、撤回しなさいッ‼︎」

 

「撤回するか‼︎バカ‼︎俺みたいな罪人に助けられることがそんなに屈辱なのか⁈そんなことよりも中に残ってるユージオを最高司祭様のところへ行かれる方がよっぽどマズイだろ‼︎バカ‼︎」

 

「バ…バカですって?それも撤回しなさい‼︎」

 

「うるさい‼︎バカだからバカだって言ってんだよ‼︎バカ‼︎」

 

「5回もそのような屈辱的な言葉を…!許さない…ッ‼︎」

 

(数えてたのか…)

 

密かに呆れるキリト。

一方のアリスは右手に握る剣を振り上げようとするが、いかんせん態勢が悪く、とても狙い打てるような状況ではない。

 

「こんな状態で剣を振れるわけないだろ?それよりも…早くお前も剣を外壁の隙間に突き刺せ!本当に落ちるぞ?」

 

自分の状況が分かったのか、アリスは俯く。

キリトに論破され、屈辱に苛まれてるかと思われたが、逆だった。

見上げた視線は先程よりも眼光が鋭くなっていた。

 

「お前如きに指図されたくありません‼︎私は整合騎士、人界に平穏を正す者です!罪人であるお前に生かされるなど、生き恥も同然‼︎それならいっそ…!」

 

そう言うアリスにとうとうキリトの怒声が空中に木霊した。

 

「いい加減にしやがれッ‼︎この大馬鹿野郎ッ‼︎‼︎」

 

その怒声にアリスも流石に動揺を隠せず、身体を震わせた。

身体…いや、魂にまで響くような声にアリスの身体が無意識に反応したのだ。今までキリトの腕を振り払おうと力を入れていたアリスだったが、それも止まる。

 

「何が人界の平穏だッ‼︎何が暗黒界からの侵攻を止めるだッ‼︎お前ら整合騎士は何もしてないも同然だッ‼︎俺がライオスとウンベールを斬った理由だって、ロニエやティーゼを救うためだッ‼︎彼女らみたいな下級貴族が、上級貴族の玩具、奴隷にされて何も思わないのか⁈これが…これが本当に人界の平穏を保っていると言えるのか⁈答えろッ‼︎」

 

キリトの言葉にアリスはすぐに反論出来なかった。

彼女も分かっていた。上級貴族の振る舞い、下級にいる者の扱い…。

だが、それらを考えてはキリがない。そう彼女は自分に区切りを付けていた。

 

「…法は法、罪は罪…です。それらを正当に取り締まらなければ、誰が平穏を守るというのですか?私たちは…私たちなりの正義で人界を守っているんです!」

 

アリスの言葉に意志というものはほとんど見られなかった。

キリトもこの返信には愕然出来ないほどに呆れた。

 

「じゃあ、俺がやったことは間違いだと?汚されようとしてる人を救おうとして、殺してしまったら、それも罪なのか?そもそも最高司祭アドミニストレータが作った禁忌目録自体が間違ってる。あれは奴が不利にならないように作り上げた法だ。俺はそんな世界に変えてしまったアドミニストレータを倒すためにここまで来たんだ」

 

「……」

 

ここでアリスの口は閉じてしまう。

今まで彼女自身も疑念を持っていたことも言われ、心が揺れ動いているのだ。キリトは更に彼女に語りかけようとした時、剣から嫌な音が聞こえた。

 

「!」

 

外壁の隙間に刺し込んだ剣が外れかかっていたのだ。

恐らくもう数十秒と持たない。それを見たアリスは叫ぶ。

 

「やはり離しなさい!私がいれば、お前も…!」

 

「出来ればそうしたいけど…ユージオの目的はお前なんだ…!だから、ここで…死なせるわけには…いかないんだ‼︎」

 

キリトは渾身の力でアリスを同じ高さにまで持ち上げる。

 

「今度こそ刺し込め‼︎こっちはもう持たない‼︎」

 

アリスも観念したのか、黄金の長剣を逆手に持ち替え、刺した。

それと同時にキリトの剣が抜ける。

 

「うわっ⁈」

 

抵抗のない空中へと放り出されるキリトだったが、即座にアリスが彼の襟を掴み上げた。

 

「え…?」

 

先程まで物凄い敵対心を抱いていたアリスの行動にキリトは暫し呆然としてしまう。

 

「貴方も…早く刺しなさい」

 

キリトは言われるがままに、剣を隙間に刺し込んで一息吐いた。

 

「ふぅ…あの、助けてくれてありがとう」

 

アリスは全くキリトの方を見ない。

罪人を助けた自分に嫌気が差してるからなのかもしれない。

 

「礼には及びません。貴方とは剣での決着がまだです。…借りを返しただけです」

 

「そうかい…。律儀にどうも。だけど、どうやって中に戻ろうか…」

 

ここは少なくともセントラル・カセドラル70階に相当するだろう。上を見ても下を見ても、入れそうな場所はないと見える。どうしようか悩んでいると、アリスが言った。

 

「第95階の暁星の望桜…そこは外壁が無く、安全にカセドラルの中に戻ることが可能です」

 

「95階か…だいぶ先だけど、そこに行くしかないな。そこで提案なんだけど…ここは一旦休戦にしないか?こんなところで戦ってもあまり意味はないし…」

 

「…仕方がないですね。良いでしょう。ただし、塔の中に戻った瞬間、お前との戦闘は再開です。即座にその首を斬り落とします」

 

「やれるものなら…な。さて、まずはお互いカバー出来るように、鎖か何かが欲しいな」

 

そう上手く事が運ぶと思ってなかったキリトだったが、アリスが唐突に詠唱を始める。

 

「システム・コール、フォーム・オブジェクト、チェーンシェイプ」

 

アリスの右腕の小手が黄金色の鎖へと変貌する。

それを手渡すアリスにキリトは唖然としてしまう。流石、神聖術の天才と言われただけはある。

 

「それで…鎖で繋いだとして、どうやってこの外壁を登るのです?ここは私たちの飛竜はおろか、全ての生物が立ち入れない神聖な空域です」

 

「考えはあるさ…。システム・コール!ジェネレート・メタリックエレメント、ウェッジシェイプ!」

 

キリトも同じように神聖術を唱え、1本の金属の杭を作り上げる。それを外壁の隙間に刺すと、キリトはそこで逆上がりをして、杭の上に立った。キリトの重さで杭が抜けるかもと思ったが、どうやら大丈夫そうだった。

 

「…どうにか、なったかな…」

 

足が付ける場所があるだけ助かるキリトだが、その足場も倒した広さがないのであまりゆっくりは出来そうもない。

 

「アリス!お前も俺と同じように杭を作って登るんだ!」

 

そう言うと、アリスは俯きがちに小さな声で「……です」とだけ答えた。あまりの小さな声にキリトはもう一度聞く。

 

「え?聞こえなかったぞ?何だって?」

 

「無理ですと言ったのです‼︎このような幅がほぼない杭を使って逆上がりや立つなど…無理に決まってます!」

 

(おいおい…何でそういうところは出来ないんだよ…)

 

キリトは呆れつつ、同じように杭を打ち、更に1段上へ登る。

そして、アリスに指示する。

 

「じゃあ、俺が鎖で引き上げてやる。しっかり掴まってろよ!」

 

「お、お願いします…」

 

アリスは剣を引き抜くと同時にキリトにアリスの全体重がかかる。

 

「うおッ⁈」

(お、重いな…。鎧のせいだろうな…)

 

あの重厚な鎧を纏いつつ、先程は俊敏な動きを見せていたアリスに感銘を感じるキリト。ゆっくりと持ち上げ、一つ下の杭のところまで引き上げることに成功したが…。

 

「………」

 

上を見上げても、例の暁星の望桜とやらは雲に遮られてるのか、まるで見えない。

先はまだまだ長そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

ガキンと何十回目かの杭を打ち込む。

既に空は夕刻に迫っており、キリトは疲れを感じ始めていた。

 

「システム…コール…」

 

杭を作ろうとしたが、エレメントが凝集せずに途中で分散してしまう。

普段あまり長時間使用しない神聖術の多様に身体がついてきてないのだろう。それを下で静かに見ているアリスは「今日はもうやめましょう」と言い出す。

 

「ソルスの恵みを無しに物体を作り出すのは厳しい時間帯です。今日はここで一晩明かすべきです」

 

「こんなところでか?せめて…寝られるくらいの場所には行きたかったけどな…」

 

ゆっくりと上を見上げると、約5m程先に窪みがあり、そこはどうにか腰を下ろせそうな場所だった。

 

「アリス!あそこは?」

 

「私にも分かりません。恐らく85層辺りだとは思いますが…」

 

「あそこまで何とか行きたいな…。けど…杭が作れないからな…」

 

キリトの愚痴にアリスは溜息を吐く。

 

「仕方ありません。切り札として残しておきたかったですが、今が使うべき時ですね。フォーム・オブジェクト、ウェッジシェイプ」

 

今度はアリスの左腕の小手が金色の杭に変わる。

 

「これで足りますか?」

 

「まあ…ボチボチだな…。さっさと行くぞ!」

 

同じように杭を刺しては登りを繰り返すと、その窪みを目指すと、そこに配置されてる像に目が釘付けになった。その像の頭はまるで蛇のように見えるが、大きな翼を持ち、鋭い爪を持つモンスターを(かたど)ったものだった。

 

「…あんまり良い趣味の像ではないな…」

 

そう呟くと、その像の目が唐突に輝く。

そして…甲高い声を上げて空中へと飛び出した。しかも数匹一斉にだ。

 

「なっ⁈」

 

「あれは…まさか⁈」

 

「アリス!こいつらを知ってるのか?」

 

詳しい事情を聞きたいところだが、そんな余裕はない。現れた翼竜はキリトに迫ってくる。キリトも剣を抜いて応戦するが、いかんせん足場が悪すぎるせいでまともに攻撃できない。しかもアリスは腰を抜かしており、キリト以上に戦闘出来る様子ではない。

 

「クソ…このままじゃやられる…!」

 

キリトは先程の窪みをもう一度確認し、一旦剣をしまう。

そして、アリスに叫ぶ。

 

「アリス!しっかり鎖に掴まれ‼︎詫びなら後でいくらでも言う‼︎」

 

「な、何をする気ですか⁈」

 

「分かってる…だろ‼︎そおおりゃああ‼︎」

 

キリトは渾身の力を込めて鎖を引っ張り、アリスを窪みのところまで投げ飛ばした。キリトの耳にアリスの悲鳴が響くと同時に、杭の上で足を踏み外し、落っこちる。

 

「おわっ⁈」

 

空中に投げ出されたキリトだったが、途中で止まる。

 

「こっ…のおおおおおぉ‼︎」

 

今度は逆にアリスが鎖を引っ張り、キリトも同じように窪みへと到着する。…アリスと違って、壮大に壁に顔面をぶつけて身体を叩きつけられたが。

どうにかゆっくり立てる場所に来たキリトだったが、すぐにアリスの説教が始める。

 

「何をしているのですか‼︎この大馬鹿者っ‼︎」

 

反論したいところだったが、そんなこともしていられない。

先程襲いかかってきた翼竜がキリトたちに迫っていたのだ。

 

「来るぞ‼︎」

 

「何故…何故奴らがここに…」

 

「いい加減教えてくれ、あいつらは何だ?」

 

アリスは苦虫を噛むような表情でキリトの問いに答える。

 

「あれは…ガブラス。暗黒界の住民が使役する翼竜で、どんなものでも喰らう魔物です。普段は暗黒術師団が使っています…」

 

それを聞いたキリトは逆に疑問が増えた。

 

「そんな大層な奴らが、どうしてセントラル・カセドラルに丁寧に飾られていたんだ?」

 

「それは私が聞きたい‼︎」

 

アリスの声には明らかに動揺が篭っていた。

それもそうだろう。ここは人界で最も神聖な場所…そんなところに暗黒界の俗物があるなど、あってはならないことなのだ。

そう思いつつも、まずはガブラスの殲滅だ。

キリトとアリスは剣を抜き、奴らの襲撃に備える。

 

「そっちへ2匹行ったぞ!気をつけろ!」

 

「お前…私が誰か忘れたのですか?」

 

アリスは上空から急降下してきたガブラス2匹に一閃、剣を振るわせた。途端にガブラスは身体が真っ二つになって落ちていった。

剣をしまいながら、残り1体の相手をしてるキリトにアリスは聞く。

 

「手伝いましょうか?」

 

「いいや、結構!」

 

キリトは得意の4連撃SSバーチカル・スクエアを放ち、ガブラスをバラバラに解体した。

それを見ていたアリスは「ほう…」と小さな感嘆の声を漏らした。

 

「…何だよ」

 

「珍しい剣技と思っただけです」

 

「そうかい…。それで今日はここで休むことにしょう。またいつ奴らが来るか分からないしな」

 

「同感です。それよりも…頬に血が付いてますよ」

 

「ああ…」

 

キリトがそれを無造作に拭おうとすると、アリスが慌てて止めた。

 

「貴方…!…ああ、もう!どうして男はこう無頓着なのですか…。布巾の1枚も持ってないのですか?」

 

「持ってるわけないだろ。あんたらに荷物を全て取られたんだからな!」

 

アリスは溜息を吐きながら、白いハンカチを取り出し、キリトに手渡す。

 

「私とまた戦う前に洗って返しなさい…」

 

アリスの無茶苦茶な言い様にキリトも同じように溜息を吐くのだった。




【補足】
『ガブラス』
原作のミニオンに該当する存在。
同じように毒を吐き、足の鉤爪で攻撃することに変わりない。


最近、普通に字数が4500を超えてきている…。
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