ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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イーディス、めちゃくちゃ久しぶりの登場です。
はっきり言って、彼女の神器を何にするか…超考えました。


第23話 幻影の騎士

ユージオは暫く壁の前から動けずにいたが、ここで止まっている訳にもいかず、漸く前へと進み出した。

階段をゆっくりと上がるユージオは、どことなく落ち着けなかった。

その理由も、ユージオは分かっていた。

 

(キリトが居ないだけで…ここまで緊張するなんて…。いつもキリトが居たから、僕は落ち着いていられたんだ…)

 

そして、ユージオは90階に到達する。

一息吐いて、大きな扉を開けると、まずユージオの肌を突いたのは暖かな湯気だった。すぐ目の前に広がる光景は広大な温泉だった。あまりに広すぎる温泉のせいで、湯気がまるで霧のように立ち昇っていた。

その湯気のせいで前がほとんど見えなかったが、すぐにその湯気が薄くなっていく。そして、その奥の灰色の甲冑を身に纏い、紫色の日本刀を腰に携えたイーディスが立っていた。

 

「イーディス…」

 

「ここまで来るとはねえ…。意外」

 

彼女はユージオを称賛すると同時に、鋭い眼光をユージオに向けた。

 

「それで?アリスちゃんともう1人に連れはどこ行ったの?もしかして相打ち?」

 

「…分かりません。外に放り出されてしまったから…。でも、アリスはもちろん…僕の相棒はそう簡単に倒れないことだけは分かっています」

 

「ふーん…じゃあ、殺す必要はないね」

 

「ッ⁈」

 

イーディスの冷たい言葉にユージオは身動ぎする。

 

「ど、どうしてそんなことを…」

 

「だって、アリスは死んでないんでしょ?だったら、君を殺す必要はないじゃん。単純でしょ?」

 

あまりに単純すぎる理由にユージオはついていけない。

ただ分かっていることは1つ。

 

 

彼女と…イーディスと戦わなくてならないということ。

 

 

ユージオはゆっくりと剣の柄に手を向わせていく。

 

「1つだけ…聞いていいですか?」

 

「何?」

 

「仮にあなたを倒した場合、次は誰が守っているんですか?」

 

イーディスは顎に手を当て、「うーーん」と唸りながら考える。

 

「今日は都合でベルクーリ騎士長は居ないし、あの元老長が戦うとも思えないし…私が最後かな?」

 

そう言いながら、イーディスも同じように剣を掴む。

 

「だけど安心して?あなたはここで…私に倒される」

 

抜いたと同時にイーディスは剣を抜く。

彼女の刀身は…ユージオには全く見えなかった。紫色に輝く鍔と柄しか見えないことに戸惑いを覚えながらも、ユージオはイーディスに向けて突撃する。

イーディスを殺すつもりはない。首に下げている短剣で彼女を刺せば、彼女の記憶操作はカーディナルによって解くことが出来る。そのためにユージオは彼女に致命傷とまでは行かないまでも、重い一撃を与えて動けなくしてから、短剣を刺そうと考えている。

そのために最初に放つ奥義はアインクラッド流突進SSソニックリープだ。

 

「せやあああああああぁッ‼︎」

 

ユージオの突撃を見たイーディスは高々と声を上げる。

 

「整合騎士イーディス・シンセシス・テン‼︎覚悟ッ‼︎」

 

と、同時に彼女が柄を少し曲げると、不意に刀身がユージオの目に映る。

 

(なっ⁈)

 

ユージオの目に入った刀身はもはや存在してるのかすら分からなかった。彼女は剣をほんの少し動かすだけで、刀身は消えたり、見えたりする。その色は淡い橙色で、常に点滅しているようだった。

同じく彼女もユージオに対抗するかのように、真正面から彼の攻撃を受け止めた。

ガキィンと甲高い音が鳴り、攻撃が拮抗したかのように思えたが、それは大きな誤りだった。ユージオの身体は一瞬で宙に浮いたような感覚が襲う。

 

「なぁッ⁈」

 

それはユージオが攻撃を弾き返されたと同時に身体が反対方向へと飛んでいる証だった。イーディスはクルリと回転しながら剣を鞘にしまい、ユージオとの距離を一瞬で詰める。そして、ユージオの腹に斬撃を一閃した。

 

「あがっ…!」

 

ユージオは身体を回転させながら、温泉の中へと落下する。

イーディスは剣に着いた血を振って落とし、再び鞘にしまった。

瞬く間に温泉が血の色に染まっていくが、ユージオは腹の傷を神聖術で治癒しながら起き上がった。

 

「くっ…」

 

ユージオは歯を噛み締めながら、再び彼女に向けて突っ走る。

 

(単発の攻撃がダメなら…今度は連続技だ!)

 

ユージオはキリトに教わった4連撃SSホリゾンタル・スクエアを放つ。

四角形の軌道を描きながら斬撃を繰り出すが、イーディスはそれらを一撃で全て弾き返す。

 

「甘いッ‼︎」

 

イーディスの怒声と共にユージオの右腕、左足、背中に斬撃を与える。

まるで一瞬のうちに切り刻まれたような感覚、そしてユージオは今更ながら気付いた。

彼女に手加減や気後れをしていると…こっちが殺られると…。

赤い血の跡を地面に擦りながら、ユージオは倒れる。ユージオは懸命に神聖術で深い傷を治そうとするが、治癒が間に合っていない。

 

「くっ…ぐぅ…」

 

(キリトはこれくらいの傷をさっきの戦いで…)

 

命を懸けて戦ってくれた相棒に申し訳なさが込み上げる。それと同時に自分の無力さも湧き上がってくる。そんな心情を見透かしているかのように、イーディスはまた鞘に剣を納めながら口を開く。

 

「諦めなさい、君に私は倒せない。それどころか…傷を与えることも不可能よ。そんな迷いだらけの剣で、よくここまで来れたわね?」

 

「…確かに、僕は無力だ。キリトが居なければ、ここまで来れていない。だけど…」

 

ユージオは先程よりも強い視線をイーディスに向け、剣を地面に突き刺した。

 

「僕が無力でも…この剣が、『冰龍の剣』が僕に力を貸してくれる!どんな時でも戦ってくれたこいつとなら…僕は負けないッ‼︎」

 

「……」

(その顔…その口調…その台詞…どこかで…)

 

ユージオの言葉はまるでイーディスの心の中にまで響くかのように浸透していく。同時にどこかで会ったことがあるのではないかという疑念を抱く。急に湧き上がる疑念、そして邪念を振り払い、イーディスも叫ぶ。

 

「なら!その剣の力とやら…今すぐここで見せてみなさい‼︎」

 

「当たり前だ‼︎…エンハンスッ‼︎アーマメントッ‼︎」

 

ユージオの詠唱と共に氷の波がイーディスを襲う。前方から来た氷をイーディスはたったの一閃で全て砕く。ところが足元に違和感を感じた彼女はすぐにそこを見る。その場所には既に氷が張っており、イーディスの動きを完全に止めていた。更にユージオは背を向くことが出来ないイーディスを狙うために、後方から重突撃SSヴォーパル・ストライクを放つ。初めて使う秘奥義が故に、ゼロ距離にならないと当てることは出来ないが、相手を気絶、または重傷を負わせるには充分な技だ。

1mもしないところまでユージオが来たところで、イーディスが小さく呟く。

 

 

「エンハンス・アーマメント」

 

 

彼女の詠唱と同時に剣から濃霧が発生する。

一瞬にして視界を見失うユージオだったが、技を止めずにそのまま突っ切る。ガコンと何かに当たる衝撃はあったものの、そこにイーディスの姿はない。深い霧のせいで不用意に動けないユージオ、その背後にイーディスは不気味に立っていた。

 

「中々だったけど…そこまでね」

 

「しまっ…!」

 

彼女の放った紫紺の一閃、それを防ぎ切ることは出来なかった。

今までユージオが生きてきた中で、最も深く、最も重い一撃が彼の腹を切り裂いた。

 

「がはあぁッ⁈」

 

イーディスの顔にまで飛び散る血飛沫。

ユージオは壊れた人形みたいに、その場に崩れ落ちる。

 

「あっ……がっ……」

 

「まだ生きてるとはね…。でも…私もやられたわ。あの秘奥義、見た目に反して速度と威力は凄まじかったわ。私の鎧と腹を少し抉った。そこだけは評価点ね」

 

薄れそうになる視界、イーディスの顔がよく見えない…。

 

「安心して。あなたの相棒は必ずアリスが仕留める。だから…気楽に逝きなさい」

 

そう言われて、もう楽になろうと思った。

ゆっくりと目を閉じて…。

 

(キリト……ごめん……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ユージオ…!)

 

暗闇の中で幼い頃のアリスの声が耳に響く。

思わず目を見開き、上を見ると…そこにはあのアリスが…。

 

「ア…リス?」

 

『立って、ユージオ‼︎私と…『本当のイーディス』はすぐ上で待っているから‼︎』

 

そして、幻だったかの…フワッと彼女の姿は虚空へと消える。

ユージオはアリスの言葉を聞いて、少し生気を取り戻す。歯を食い縛り、自分が使えるほどの神聖術を傷に向かわせながら、立ち上がったのだ。これにはイーディスも動揺を隠しきれない。

 

「あ、あなた…!その傷で…⁈」

 

「僕は…負けない…!」

 

ユージオが剣を強く握ると、イーディスの背筋がゾゾゾッと凍るような寒さが襲う。冷気は既に温泉の一部を凍結させ始めており、更に…ユージオの眼力が力を増す。

 

「アリスが……イーディスが…待ってるんだ…!こんなところで…終われるかぁッ‼︎‼︎」

 

ユージオは無頓着に突進し、イーディスと剣をぶつける。

先程とは比にならない剣圧にイーディスは目を大きく見開いた。

 

(何⁈この圧倒感は⁈)

 

死にかけた男の発するものかと思われたが、それは違った。

何故なら…イーディスの視界には、白銀色の優麗な龍が見えていたから。

 

(‼︎)

 

その姿に一瞬震え上がったイーディス、その動揺をユージオは見逃さなかった。単発SSバーチカルで彼女を吹き飛ばし、温泉へと落下させる。

彼女が起き上がるよりも前にすぐ横に剣を突き刺し、最後の切り札を発動する。

 

「行くぞッ‼︎冰龍‼︎リリース・リコレクションッ‼︎」

 

ユージオの詠唱と同時にこの広大な温泉は一瞬にして、まるで永久凍土の世界へと変貌する。ユージオもイーディスもその氷に身体を取られ、身動きが出来ない状態にある。それを見たイーディスは思わずほくそ笑んだ。

 

「まさか、これで勝ったと思ってる?」

 

「…そんな、勝ったなんて全く思ってない。だけど、これで…君を元に戻せる。あの頃の…君…に……」

 

ユージオは呂律が回らなくなり始めている口で言いながら、短剣に手を伸ばす。イーディスはユージオの異変にすぐに気付き、自身の身体も確認する。そして…驚くべき事実を突き止める。

 

「まさか…この氷は⁈」

 

「そう…だよ…。この氷は、僕たちの天命を奪っている…。凄まじい量をね…」

 

それを聞いた彼女は剣から再び濃霧を出そうとしたが、それも氷の中に吸い込まれる。どうやら全ての対象が絶対的に凍ってしまう性質のようだ。

 

「相打ち覚悟?」

 

「…まあ…そうですね…。僕は…もう生き残れそうにない…。だけど、僕の相棒が…キリトが、アドミニストレータを…倒してくれる…はずさ…。それに、君たちを元に…」

 

「…その『元に戻す』って、どういうこと?」

 

「イーディスと…アリスは、僕らの故郷『シナット村』で生まれ育った幼馴染みだ…。決して…神が召喚した天界の使いなんかじゃない!」

 

その事実を聞いたイーディスは動揺と怒りで顔を憤怒の表情に変える。

 

「馬鹿げたこと言わないでッ!私は最高司祭様によって召喚された整合騎士よ!そんなことで(たぶら)かすなんて…」

 

「誑かしてなんかいない‼︎僕は…そういうところが許せない…。勝手に自分達が法の正義で…人界を守っているふりをしている整合騎士が…。それよりも…自分の快楽のために作り出した…アドミニストレータが…」

 

イーディスの表情は変わらない。だが、イーディスの天命も徐々に減少している。早く事を済まさなければ、彼女も死んでしまう。

 

「君には…妹がいる…。メアリが…君を…」

 

その名前を聞いた途端、イーディスの中に初めて、本当の動揺が襲った。絶対に会ったことないはずなのに、明らかに覚えている者の名前…。動揺から息は荒くなり、右目もそのせいか熱くなってくる。

 

「メアリ……誰…いや…知ってる…私は……どこで…」

 

ユージオは短剣を振り上げ、イーディスに突き刺そうとした…その時。

 

「ディスチャージィ‼︎」

 

陽気な声と共にユージオの短剣が吹き飛ばされる。

 

「ッ⁈」

 

熱素による攻撃にユージオは思わず右手を庇う。

そして…何者かが2人の横に現れる。

 

「ホーホッホッホッホ‼︎いやいや、中々に見事な戦いでしたな、10号と反逆者」

 

「お前は…誰だ?」

 

イーディスは混乱状態から抜け出せていない。それを見た小太りでピエロ姿の男は溜息を吐きながら、掌で作った熱素をユージオの腹に当てる。

熱い衝撃でユージオの意識が一気に遠くなる。

 

「10号…お前は後で処罰する。その前に…イヒヒヒ…良い人材を最高司祭猊下に持っていかなくては…」

 

下品な笑みを浮かべる男を見たが最後、ユージオの意識は無くなった。




【補足1】
神器『紫幻(しげん)剣』
イーディスが扱う神器、特定の地域を好み、姿を眩ます幻の古龍から作られたものである。見た目は日本刀であり、柄と鍔が紫色で、刀身は光の反射によって、橙色に見える。
基本能力として、高い切れ味とリーチ、そして刀身が見えなくなる。この見えないは実際に見えないだけでなく、鍔迫り合いにならずに空ぶってしまわせることも可能。
武装完全支配術『霧双(むそう)
刀から濃霧を発生させ、相手の視界を奪う。更にその霧の中にいる相手に強力な居合い攻撃を発動することが出来る。その霧は例外を除き、取り除くことが出来ず、使用者の位置の把握も不可能に近い。ただ、敵が誰かを判別することは出来ず、仲間を傷付けてしまうデメリットがあり、集団での戦いでは使いにくい。
元ネタはオオナズチですね。はっきり言って、相手の視界を奪えるモンスって少ない気がして、こいつしか思い付きませんでした。記憶解放術を書いていませんが、後々に書きます。


【補足2】
冰龍の剣:記憶解放術『絶零(ぜつれい)
武装完全支配術『絶凍(ぜっとう)』の完全上位互換である。凍らせる範囲、威力、硬さ、防御…どれを取っても何十倍にまで能力が膨れ上がっている。更に凍らせた相手の天命を凄まじい速度で奪う力まであり、食らってしまえば命の保障はない。止める方法も難しく、術者の手から剣が離れるかつ、気絶しなくては止まることはない。
しかし、威力と範囲が故に制御がまだ不完全な場合、自分もろとも受けてしまい、自滅または相打ちになってしまう。
元ネタはイヴェル・カーナの大技『アブソリュート・ゼロ』から取っています。
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