ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
階段を我先へと上がるキリトの目の前に広がる空間に…言葉を失った。
それは後ろから追ってきたアリスとイーディスも同様だった。
この部屋にはキリトたちのことを監視していた謎の男たちがポッド状のものに格納され、チューブから出てくる謎の物体を食べている光景が広がっていたのだ。
あまりの異様な光景にキリトはか細く問うことしか出来ない。
「これは…なんだ…」
「わ、私たちも分かりません…。だけど、ここは95層よりも上の階…。つまり元老院たちも居住区となっています、私たちも元老長以外の者を見たことありませんでしたが、まさか…彼らが…」
「元老院の者…」
異常な光景を見ると同時に、止まりようのない怒りがアリスを包み込む。
「こんな…こんな奴らが…元老院…。私が信じたもの…?」
今すぐにでもアリスは彼らを斬り伏せたかったが、その前に奥の部屋から下品な悲鳴が漏れた。イーディスも冷徹な目を向けながら、その方向を見つめる。
キリトはまだ何も分かっていないが、あの忘れようのない声はチュデルキンのものだ。アリスとイーディスは目配せして、さっさと奥の部屋へと入っていく。
そこでは水晶玉を覗き込み、下品な悲鳴を散々に漏らすチュデルキンがいた。
「ああああああ‼︎行けませんっ‼︎行けません、そんなガキとぉっ‼︎」
イーディスが声を出す前に、アリスはさっさと歩み寄り、チュデルキンの名を呼ぶ。それを聞いた奴は驚いて振り返るがその時には、胸ぐらを掴まれて剣を向かれていた。
「き、貴様は…30号!それに10号…なあっ⁈どうして罪人がここにいるんだぁっ⁈」
「黙れ、ゴミ」
「ゴ、ゴミだと…」
「それ以上余計なことを話せば、その舌を切り落とすぞ?」
アリスの物言い、イーディスの視線、そして反逆者でキリトの侵入に苛立ちを超えたチュデルキンはガキのように叫び出す。
「逆らう気かあっ⁈ゴミ剣士共が‼︎お前ら整合騎士は猊下と私の言うことだけを聞いていればいい、ただのお人形ちゃんなんですよ‼︎」
「そうしたのはあなた方でしょう?シンセサイズの秘儀という紛い物で我々の記憶を消し、都合の良い人形に仕立て上げたのは」
それを聞いたチュデルキンは一気に表情を崩した。どこでそれを知ったのかと言いたい表情だったが、誤魔化す必要もなくなったため、すぐに下衆の表情へと様変わりした。
「…ああ、そうですよ。特にあなたみたいな可愛らしい子が整合騎士になることが私の楽しみの1つでもありましてねえ…」
「黙りなさい!この…!」
イーディスが剣を抜こうとするが、アリスは止める。すぐ横にいるイーディスでもアリスの表情は見えないが、手の震え様から凄まじい怒りが沸き起こっていることは確かだ。
「10号は大人しくシンセサイズで整合騎士になりましたが、あなたは別でしてねえ…。『記憶を消さないで!大切な人たちの思い出を失いたくない!』と言ってねえ…。だから、あなたにはここで修道女として数年間働いてもらいました。『希望』を持たせるために…ね」
ギリッとアリスの歯が軋む音が響く。
剣を持つ手も震えに震え、今にもチュデルキンを殺してしまいそうだった。だが、アリスが未だに殺さないのは、キリトの言ったことが真実なのか…そして、本当の自分はどんな子だったのかを知るためだった。
しかし、聞かされる真実はあまりに辛く、残酷なことばかりだった。
「まあ数年間の間に蓄積した神聖術は素晴らしいものでしたよぉ?そこだけは誉めておきましょう。あなたにシンセサイズの術式を施すと知った時の表情は…もう石にして私のコレクションにしたいくらいでした!」
「………」
「だが、あなたは術式の起句を決して言おうとしなかった。まあまだ小生意気な娘だったんでね、そこで私は元老院を一時停止させ、強制シンセサイズを実行させました。その時の泣きっぷりも見ものでしたよ‼︎ひゃあははははッ‼︎」
そこまで聞いたアリスはもう、チュデルキンの言葉を聞く必要ないと判断した。冷たい口調のまま、彼に告げる。
「元老長チュデルキン、あなた方が行ってきたことはよく分かりました…。もう疲れたでしょう、楽になりなさい」
彼女は容赦することなく、チュデルキンの腹に剣を突き刺した。
そのまま剣を振って、ゴミのように放り投げたチュデルキンの亡骸。
すると、突然チュデルキンの身体はゴムボールのように膨れ上がり、最後には破裂しつつ煙幕を起こした。
「なっ⁈」
「引っ掛かったな‼︎ただの肉っころだと思わないことですね‼︎バーカ!バーカ‼︎」
その煙幕によって、チュデルキンは上階へと逃げたらしい。
逃すまいと直ぐに追うアリス。2人も彼女を1人にするわけにはいかないため、後を追う。
暗い階段を上がりきった先に広がる光景は空虚なものだった。
中央には大きめなベッドがポツンと置いてあり、壁にはランプが幾つも置いてあるだけ。天井には星々を象った絵が飾られているが、どうも部屋の雰囲気に合ってない。
「ここは…頂上か?」
「ええ、最高司祭がいるはずの第100階よ」
3人が周囲を見回していると、星々の絵画の一画に穴が開く。
そこから銀色の髪をした少女がゆっくりと降りてきた。その右腕に汗をダラダラと流すチュデルキンを連れて…。
「あら?アリスちゃんにイーディスちゃんじゃない?久しぶりね」
「…ええ、本当にね。いつも部屋の中で引き篭もってるからね」
挑発としか言えない口調に最高司祭は眉を潜める。それを聞いたチュデルキンは対象に顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「貴様ぁ‼︎猊下に向かってなんたる言い草‼︎死!死んでしまえぇ‼︎」
「お黙り、チュデルキン。私は今、彼らと少し話をしたいの」
冷徹な視線を送る最高司祭にチュデルキンは一気に萎縮する。
そしてチュデルキンを放り投げると、空中で足を組んで座った体勢になる。
「アリスちゃん、言いたいことがあるなら言ってご覧なさい?怒りはしないわ、だって…」
「!」
「あなたの覚悟でしょ?」
アドミニストレータの放った言葉に感情はなかった。まるでどうでも良いような、それでいて…相手に恐怖を与える話し方。それを聞いたアリスも身体に今まで感じたことのない悪寒が走った。
今にも逃げてしまいそうになったのか、右の踵は自然に上がっていくが、右目の痛みを思い出して、呼吸を整えた。
「最高司祭様、本日…2人の罪人によって、整合騎士の多数は破られ、半壊したも同然の状況となりました。しかし、この状況になったのは、最高司祭様‼︎あなたの驕りと堕落のせいです‼︎」
それを聞いた最高司祭から出た言葉は…。
「くだらない…」
だった。
「私はあなたたちにほぼ不死のような能力を授けたのよ?誰にも負けることのない神器、ほぼ減らないも同然の天命、何より私から貰える愛……」
「私はあなたから貰った愛を喜んだことなどないッ‼︎ふざけるのも大概にしろ‼︎」
アリスはアドミニストレータの言葉を遮り、怒声を飛ばした。
彼女の目はアドミニストレータ自身も見たことない程に怒りに満ちていた。ただ、それに臆することは全くなかった。
「…チュデルキン」
「はっ、はいぃぃ‼︎」
「あなたには2度目のチャンスをやるわ。この愚か者3人を始末しなさい。そうすれば今回のミスは全て帳消しにしてやるわ。だけど、失敗した時は……分かるわね?」
それを聞いたチュデルキンの顔は一瞬脂汗に塗れたが、すぐに余裕綽々の表情へ変わる。
「お任せください、最高司祭猊下‼︎こんなガキ共、私が一瞬にして消してあげましょう‼︎」
チュデルキンはそう叫ぶと、両手両足、更に両目にエレメントを発生させる。
「システム…コール‼︎ジェネレート…‼︎サーマル…‼︎エレメン…トォォ‼︎」
サーマル・エレメントが凝集し、作り上げられたのは巨大な炎の猿だった。ゴツゴツとした岩肌で、頭には立派に伸びる双角がある。爛々と光る目は3人を確実に見ていた。
「こいつは…」
「ヒャハハハハハッ‼︎こいつはダークテリトリーにいた獣を復元した姿だぁ‼︎そんじゃそこらの剣士共じゃ倒せませんよぉ‼︎」
そう叫ぶと、猿…いや、ゴリラの腕が上がるとキリトたちに振り下ろしてくる。3人はバラバラになって避け、それぞれ剣を抜く。
まずはイーディスが先頭を切り、奴の両足を瞬時に切断する。しかし、炎で出来た身体は切られても即座に再生してしまう。
「炎で出来た獣がただの剣で斬れるわけないでしょう⁈バカめぇ‼︎」
明らかに調子に乗っているチュデルキンを呆れた表情で見ているアドミニストレータだが、邪魔者を消せるならそれで良かった。
すると、アリスが叫んだ。
「キリト‼︎私とイーディスで奴の術で生まれた獣を足止めします‼︎その隙にチュデルキンを倒しなさい!」
「簡単に言ってくれるな…!」
そして、アリスは金塵剣の武装完全支配術を発動する。
金塵が舞い、炎の獣を覆い尽くす。同じようにイーディスも剣から濃霧を発生させ、奴の視界を塞いだ。キリトはその隙に重突撃SSヴォーパル・ストライクを放つ準備を始める。しかし、安易に技を放たせるほどチュデルキンも甘くない。
炎の獣は手の上で火球を作り出し、剣を突き出して構えているキリトに向かって投げる。火球は霧と金塵で完全に視界が封じられている中でも正確にキリトに向かっていった。
「!」
「キリト‼︎」
キリト自身もあの中で攻撃出来るとは想定できず、回避行動を取れなかった。爆発と共に大きく燃え上がり、キリトの姿は見えなくなる。
キリトの無事を確認しようとしたアリスが炎の獣から視線を外した途端に巨大な拳が飛んでくる。金塵をすぐに戻し、防御姿勢を取るアリスだが、飛んできた拳の威力は凄まじくアリスは地面を転がる。
「くっ‼︎」
態勢を戻した時、再びアリスの目の前に拳が迫る。
それをイーディスは一閃して切り落とすが、炎で出来た身体なのか、即座に再生する。
「アリス‼︎」
アリスはどうしようもないため、記憶解放術の起句を言おうとしたが、その時…燃える何かが目の前に立ち塞がり、奴の拳を止めたのだ。
それは…燃え上がっているキリトだった。
「キリト…!無茶な…!」
「…そうでもないさ」
燃えてるのに、キリトの口調に痛みや苦しさといったものは一切含まれていなかった。むしろ、彼の身体に纏わりつく炎は徐々に小さくなり、更には炎の獣自体も腕から順に消えていく。
いや、キリトの黒剣によって吸収されているのだ。
「なっ……ななななな……なにぃっ⁈」
「キリト…どうやって…」
10秒もすれば、チュデルキンが作り出した奴の獣は完全に消滅していた。そればかりか、彼の身体は一切の傷や火傷を負っていなかった。アリスとイーディスはキリトが使う謎の能力に目を見開き、驚くばかりだった。しかし、逆にアドミニストレータは表情が少し訝しげになるだけで、至って冷静なままだった。
「あの剣……」
顎に手を添えて考え込むアドミニストレータを他所に、キリトはチュデルキンに剣を向ける。
「次はお前だ、デブ野郎」
「おま…お前みたいなガキにぃ…やられる私ではないわぁ‼︎」
チュデルキンはまた別の神聖術を唱えようとしたが、アドミニストレータが「待ちなさい」と言って止めた。
「チュデルキン、あなたには荷が重いわ。“彼”に任せるとしましょう」
彼女が指を鳴らすと、天井に再び穴が開き、誰かが降りてくる。
足から見えたのだが、鎧を着ている。
「まだ整合騎士がいるのか?」
「いえ、そんなはずは…」
新たに現れた整合騎士に…キリトは絶句した。
「そ、そんな……」
薄い静銀色を基調とした鎧に特徴的な亜麻色の髪をした少年…。
キリトは忘れるはずがない。3年間もずっと相棒としてやって来た“彼”が…整合騎士となって数時間ぶりに再会したのだ。
「さあ…私のために働きなさい。ユージオ」
【補足】
『チュデルキンが生み出した炎の獣』
これはフロンティアで登場した始種『ヴォージャン』を基にしています。大体は原作と同じですが、サーマル・エレメントで作り出したため、実体はない。
倒すにはチュデルキンを倒すしかないはずだが、キリトはそれをする必要なく倒している。それは後々分かります。