ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
光が消え、辺りには高熱で発生した煙が立ち込めていた。
煙の中には巨大な影が1つと、人影が2つあった。
キリトたちの前に立つアリスは剣を落とし、膝を着く。彼女の金色の鎧は溶けてなくなり、身体中に火傷を負っていた。そして…落とした剣もすぐにパキンと小さな音を立てて砕け散った。
「やった…のか?」
キリトがそう呟いたが、晴れた煙の先には…厚い氷塊で囲われたアリスと竜機兵が健在していたのだ。それを見たアリスは愕然とする。
「なっ……」
「ふふふ…残念でした、アリスちゃん。まさかユージオの剣がここで使えるなんて…思いもしなかったわ」
「何を…したんですか?」
「簡単よ、ユージオの愛剣『冰龍の剣』の能力で私たちを守ってくれたのよ。あなたの高熱でも一切解けない氷のガードをね…。そのせいで周囲の温度も少し下がり、アリスちゃんも死ななかった。感謝してほしいわね?」
アリスは歯を食い縛り、自分の無力さに地面を拳で叩く。
「安心なさい…あの世へ行くのが少し遅くなっただけ…。すぐに送ってあげるわ‼︎」
自身の発動した記憶解放術によって動けないアリスへと黒雷が振る。
「カーディナル様…申し訳…ない…」
しかし、その黒雷はイーディスの一振りで跳ね返され、竜機兵の顔面に当たる。更にイーディスは三度目の霧を発生させ、アリスを壁際へと避難させる。
キリトもイーディスの元へと行き、「どうするんだ?」とだけ聞く。
「…あの竜機兵の足はユージオの身体とその剣で出来ている。それさえ破壊すれば、ユージオを取り戻せるんでしょ?」
「確証はないが…」
「私も記憶解放術を使って、ユージオを助ける。でも…」
イーディスは自身の使ってる紫幻剣を見た。
既に今日4度目の武装完全支配術を使用しており、剣の天命は限界に近い。記憶解放術を使用し、外した場合…命はない。
「キリト、もし…私が技を外した場合、アリスを連れてここから逃げて」
「な、何を言ってるんだ⁈お前のことはよく知らないが、ユージオの親友のお前を置いていくなんて…!」
イーディスは唇を噛みながらも、キリトの襟を掴んで居場所がバレることを問わずに叫ぶ。
「このまま私たちが無闇に戦っても死ぬだけ‼︎だったら…誰かが犠牲になって生き延びるしかないのッ‼︎」
案の定、イーディスが叫んだためにアドミニストレータが放った黒雷がイーディスのマントを破り裂いた。
「もう…手段がないのよ…。出来ることはここで大人しく死ぬか…ユージオを助けて、アリス…あなたを逃すしか…」
キリトは全くこの提案を受け入れられない。
しかし、もう手段がないことも分かっていた。
このまま戦ったところで、彼らを倒すことは出来ない。
「…任せたわよ、アリスのこと」
イーディスは邪魔なマントを外し、単身アドミニストレータのところへ向かっていく。キリトは自分が何故ここにいるのか…その意義を見出せず、何度となく苦しむのだった。
霧の合間からイーディスが現れる。
アドミニストレータはそれを視認すると、容赦なく黒雷をぶつける。イーディスはそれを意図も簡単に弾き返し、彼らに鋭い睨みを見せる。
「…私はあなたを止める」
「アリスちゃんの捨て身の攻撃でも無理だったのに…あなたにはそれが出来ると?」
「私の神器には確かにあんな大技はない。だけど、そこの木偶の棒を倒せる可能性くらいはあるわ」
イーディスは剣を握り、大きく息を吐く。
紫幻剣にオーラが纏ったところで、イーディスはアドミニストレータのことを無視し、竜機兵のところへと突っ込む。真正面から来る彼女に奴は、炎のブレスを吐く。
それを一閃し、炎を斬るイーディス。それを見たアドミニストレータは驚きを隠せなかった。
「お前…一体何をした⁈」
イーディスの神器を渡したのはアドミニストレータ自身。
もちろん能力などもほぼ記憶している。だが、今の行動はアドミニストレータ自身も知らないものだったのだ。
「さあ?命を賭けた最後の悪足掻きってところかしら!」
イーディスは再び剣を鞘に戻し、全ての力を込める。
背後からアドミニストレータが放つ黒雷が彼女の背中を貫くが、そんなことは気にしていられない。
痛みに歯を食い縛り、どんなことが起きてもこの一撃に賭ける。
「食らえッ‼︎‼︎リリース・リコレクションッ‼︎『威合』ッ‼︎」
イーディスが剣を抜いた途端、竜機兵は彼女を見失う。
と思えば、途端に両足と腹に深い斬撃が入る。
イーディスの放った記憶解放術によって、両足は完全に切断…竜機兵の動く源であるモジュールを支える部分も砕け、そこに手を伸ばそうとする。イーディスはこのモジュールの中にユージオやアリス、そして自分自身の元の記憶が入っていることを知っているからだ。
(あと少し…ッ!)
もう少しで手が届くかと思われた時だった。
「がはっ⁈」
イーディスの背後から何かが貫いた。
ゆっくりと振り返ると、竜機兵の腕が捉えていた。
足を切断して、バランスを崩した隙にモジュールを奪う算段だったが、竜機兵は足が無くて飛行が出来るのだ。
「あらら?残念だったわね、私の兵器の方が1枚上手だったようね」
イーディスの視界が一気に暗くなっていく。
伸ばした腕が徐々に降りていく最中……声が聞こえた。
『イーディス…ここだよ…。私たちを…ユージオを救って!』
幼き少女の声が頭の中に響く。
それを聞いた瞬間、何故かイーディスの意識は一気に戻った。
説明しようのない事象であるが、こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。イーディスは自身の腹に刺さった奴の腕を無理矢理に引き抜き、モジュール掴んだ。
「はあああああああああああッ‼︎」
そのまま強引に外すと、竜機兵は奇声を発しながらも、形を保てずそのまま崩れ落ちる。更にモジュールと共鳴して、竜機兵の一部となっていたユージオの身体と剣も元に戻っていく。
自由落下していくイーディスに、アドミニストレータが迫った。
「!」
「まあ…よくやったとだけ言ってあげるわ。私の人形を倒したんですから…ねッ‼︎」
アドミニストレータの足蹴りがイーディスを捉え、キリトのところまで転がる。
「イーディス!」
「どうやら……ここまでのようね…。あなた達を逃がすことも…出来ないみたい…」
イーディスの握る剣の刀身は砕けており、もう技を発動することは出来そうもなかった。
「まあ…最後の悪足掻き出来たと思えばいいかしら…」
イーディスは奪い取ったモジュールをキリトに渡す。
「あとは…任せたわよ…。私たちの…えい…ゆう…」
イーディスのここで意識を失う。
キリトは無我夢中で治癒術を使うが、全く追い付いていない。
キリトとイーディスの床にはどんどん大きな血溜まりが出来ていく。
「止まれ…ッ‼︎止まれよッ‼︎‼︎俺は……何のためにここまで来たと思ってるんだ‼︎」
床に倒れる3人の姿にキリトは更に自分の無力感に苛まれる。
それを見ているアドミニストレータはお構いなしに、ゆっくりとキリトに歩み寄ってくる。キリトはイーディスの治癒に必死で、全く気付いてない。
「よもや最後に残ったのがあなただったとはね…」
その声に漸くキリトはアドミニストレータが目の前で来ていることが分かった。奴を一瞬だけ見上げたが、すぐに生気のない顔を下げて黙る。
「管理者権限もなしに何故ここまで来たのかは知りたいけど…私の邪魔することだけは確かなようね」
「………」
奴は剣を上げ、最後にこう言う。
「じゃあね、坊や…。また『向こう』で会いましょう」
アドミニストレータ一気に剣を振り下ろした。
キリトはイーディスの目の前で動かないままだ。剣が首元に差し迫った時。
『立って…』
「え?」
続いてもう一度…。
『立ってよ』
キリトにも聞こえる謎の声が、それはモジュールから聞こえたように感じた。
『『私たちの英雄っ‼︎‼︎』』
その言葉が耳に入った途端、キリトの中に誰かの記憶が雪崩れ込んでくる。それが『誰のか』分かった瞬間、キリトの身体は勝手に動いていた。
アドミニストレータの剣を真正面から弾き返したのだ。
突然の反抗にアドミニストレータは顔をしかめた。
「なっ⁈」
キリトは黒剣を強く握りしめて、呟く。
「死ねない…」
パキパキと…何かが崩れる音が聞こえ始める。
「終われない…」
音は黒剣から聞こえ、刀身の右半分がボロボロと崩れていたのだ。しかし、剣そのものが砕けたわけではない。右半分の刀身を覆っていたものが崩れただけで、そこからは美しい金色の光沢がはっきりと見えた。
「何…?お前…何をした⁈」
「負けられない…!」
キリトの服も教会から借りた服ではなく、昔…SAOで愛用していた黒塗りのコートに様変わりする。
「アリスとイーディスが…託してくれたこの命…。そして、ユージオや人界のために…俺は、お前を倒すッ‼︎‼︎」
補足
『紫幻剣の記憶解放術【
武装完全支配術の完全上位互換。この技は恐ろしい速度で連発が可能であり、敵はすぐに斬られたことにも気付かない。
ただデメリットがあり、使用中に霧の発生が出来ない。他にも使用後に身体が硬直してしまうなど、諸刃の剣でもある。
元ネタは最新作サンブレイクで登場する太刀の入れ替え技『威合』。
正直…これしか思い付けませんでした