ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
セントラル・カセドラルの頂上で起きている異変に気付いたロニエとティーゼは思わず見入ってしまった。既に就寝の時間だが、そこから漏れる黒朱色の輝きは一気に眠気を吹き飛ばした。
「ティーゼ…あれ…」
「見えるよ、ロニエ…」
(一体何が起きているの?ユージオ先輩…)
あそこに2人が待ち望むキリトとユージオが幽閉されていることは知っている。まだあれから2日しか経っていないが、彼らが何もせず捕まっているとは思っていなかった。半年も一緒に鍛錬を積んでくれたキリトとユージオの性格はよく知っている。脱走して…教会に反旗を翻していてもおかしくない。
そんなことを思っていたティーゼの視線の先で…セントラル・カセドラルの4分の1が見事に吹き飛んだ。それを見た2人は寮の規則など放り投げて、セントラル・カセドラルへと駆け出した。
何があったかは分からない。
しかし、今起きている事象は間違いなくキリトとユージオが起こしたことだと…2人は思えてならなかった。
瓦礫に埋もれた状態だったユージオはすぐに剣を振って、瓦礫を吹き飛ばした。ユージオの他にもアリスとイーディスが意識を失って倒れているが、命に別状はなさそうだ。しかし…ユージオは記憶解放術の使用したのにも関わらず、右腕が折れており、すぐに剣を落としてしまう。
(ここまでの威力なんて…)
立派な白亜の塔は4分の1程度全壊し、見る影もない。
そして…同じように瓦礫から2人の影が現れる。
遠くに見えるのはアドミニストレータだった。身体のあちこちから血を流し、右腕は失われ、艶やかな髪は完全に傷んでいる。流石に彼女も無傷ではいられなかったらしい。
「ここまでのダメージを負うとはね…。空間神聖力が足りなかったらやられてたわ…」
だが、アドミニストレータは自身に付いた傷よりも、目の前で荒い息を吐くキリトの方に注目していた。
キリトが【冥鎚】を防ぐために使ったソードスキルの反動なのか、左腕は吹き飛び、自慢の黒いコートもほとんど焼けてしまっている。しかし、それでも生きており、その右腕には黒剣が握られている。
「…どうして生きてるのかしら?本来ならば…このカセドラルそのものが崩れ落ちる威力のはずなのに…」
実際に崩れたのは4分の1…。
アドミニストレータはキリトの黒剣の力だとすぐに見抜いた。
キリトも同様に黒剣の能力には薄々気付き始めているが、その『リスク』にも気付いた。
(これ以上使えば…俺は……)
だが、まだキリトにも勝機はある。
今、アドミニストレータも自身もお互いにボロボロの状態に近い。
あと一撃でも攻撃を与えれば…。
そう思って身体を動かそうとしたキリトだったが、途端に身体に違和感を感じて動きを止めてしまう。
「まさ…か…」
「気付いた?この冥龍刀の黒雷には相手の神聖術や技の使用を不可能にする能力があるのよ。ただの剣撃では私には勝てない…。勝負あったわね、小僧…!」
冥龍刀を向けながら、ゆっくりと歩を進めるアドミニストレータ。
その動きはふらふらで先程よりも気迫はないが、それでもキリトを殺すのなら十分な力が残っている。
キリトは唇を噛み、アドミニストレータを見上げる。
「よく追い詰めた…と、褒めてあげるわ…。でもここまでね…!」
剣を振り上げ、勢いよく振り下ろしたアドミニストレータ。
目を閉じて、そこ一撃を待つキリト…だったが、金属がぶつかる音が聞こえ、思わず目を開けて横を見る。
「ユージオ…!」
「…僕がいることを忘れないで頂きたい…アドミニストレータ!」
「この小僧がッ!貴様、何故動ける⁈」
「僕はあなたの攻撃を氷で受け止めた。それに僕の凍結は相手の能力を通さない‼︎せやあッ‼︎」
剣を振るユージオだが、すぐに表情を歪めた。
折れた右腕を庇いながら剣を振っているため、負担が大きいのだ。
「なんだかんだ言っても、結局はボロボロね。向こう側の坊やの前にあなたから始末してやるわ…ユージオ!」
アドミニストレータの剣撃がユージオを襲う。
あれだけのダメージを受けていても、アドミニストレータの剣の威力は落ちたと言えど、ユージオ以上のものだ。ユージオはすぐに追い詰められ、折れた右腕を踏まれてしまい、悲鳴をあげる。
「あがっ…あああああああああァッ‼︎」
(ユージオ!)
キリトは必死に考えたユージオを救い、彼女を倒す方法を。
(…!なんだ…1番良い方法があるじゃないか…)
キリトは何故こんな簡単な考えが思い付かなかったのか、思わず笑みを溢してしまった。
考えが纏まったキリトの行動は正に電光石火だった。
即座にユージオに振られる剣を…その身で受け止めるキリト。
先程の攻撃よりも痛烈な痛みがキリトの胸と腹に走り、吐血する。
その光景を目の当たりにするユージオは目を大きく見開き、叫んだ。
「キリトッ‼︎」
大きく裂いた傷口が身体に走り、アドミニストレータはニヤリと笑う。更に追い討ちをかけ、彼の腹にその刃を突き立てた。
しかし、キリトの天命は0にはならなかった。むしろ、歯を噛み締めてアドミニストレータの剣を抜かせないために腹に力を入れる。
「キリト…⁈」
「貴様ッ…!」
「…ユージオ‼︎今だッ‼︎」
キリトの叫びを、ユージオは見逃さなかった。
冰龍の剣を両手でガッチリ掴み、一気にアドミニストレータの方へと突撃する。赤いエフェクトが走り、氷が剣先を纏い、殺傷力を高める。
アドミニストレータが剣を抜こうにも、キリトが押さえて動けない。
最後の最後で、アドミニストレータは油断をしてしまったのだ。
「受け取れッ‼︎アドミニストレータァッ‼︎」」
ユージオの放ったヴォーパル・ストライクは彼女の腹に風穴を開ける。しかし、アドミニストレータは自身の髪を使い、ユージオの身体を拘束し、キリトの腹から剣を引き抜いた。
「ごはっ…!」
「小僧どもがッ‼︎調子の乗るなぁッ‼︎」
アドミニストレータが剣を振るう。キリトがすぐに動けない今、ユージオはどうすることも出来ない。だが、ユージオはこのまま相討ちという形で散っても良いと考えていた。
(これが…僕が犯した罪に対する贖罪だ)
目を閉じながらも、ユージオ自身も剣に力をどんどん込めていく。
このまま…と思っていた時、後方から声が上がった。
「立ち上がりなさいッ‼︎キリトッ‼︎」
思わず2人とも振り返る。
そこにはイーディスによって支えられてどうにか立つアリスがいた。
「あなたの力は…そんなものではないでしょう⁈ユージオもですッ‼︎ここで死んでも犬死同然ですッ‼︎勝つなら…最高司祭を完膚なきまでに叩き潰すのですッ‼︎」
そう言われても、ユージオにはこれ以上どうすることも出来ない。
だが、キリトは違った。腹に刺さる剣を抜き、新たに行動を起こす。
「ユージオッ‼︎そのまま突き進めッ‼︎‼︎」
キリトはアドミニストレータの側面に移動すると、一刀も斬撃を放つ。彼女の髪が不気味に襲いかかって来たが、それらはキリトも重い一撃で散り散りにさせながら、アドミニストレータの残った腕も切断した。
その刹那…。
「!」
ドクンと、激しくキリトの鼓動が強く打った。
同時に吐血し、身体から力が一気に抜けていく。倦怠感も増し、意識も朦朧とする。それでも…キリトは倒れなかった。ユージオの背中を押すように腕を当てる。
「キリト…」
「決めるぞ…相棒…!」
「ああ‼︎」
ユージオが更に力を込めると、刀身の輝きが更に増し、勢いも先程の何十倍にもなる。
「なっ…貴様ら…何を…⁈」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉッ‼︎‼︎」」
アドミニストレータの問いに答えることなく、2人は突っ走った。
そして…気付いた時には彼女の腹を貫通していた。
アドミニストレータは両腕もなく、腹に大穴を開けられ…真下に大きな血溜まりを作りながら立ち尽くしていた。しかし…彼女の不気味な笑い声が聞こえた途端、4人は戦慄した。
「あの状態でも…生きている…」
「く…そ…」
ここでキリトは力尽きて倒れてしまう。それを支えるユージオだが、彼はアドミニストレータから目を離さなかった。
「まさか…ここにあるリソースをかき集めても…回復しきれないとはね…。全く、意外な結末だったわ。やっぱり…あなたを先に殺すべきだったわね、イレギュラーな坊や…」
それを聞いているキリトは必死に口を動かした。
「残りの天命が消えれば…お前は終わりだ…。お前は…自分が邪険にしていた『想い』に負けたんだ…。皮肉にもな…」
「…そうね、だけど…私はこんなところでは終わらない」
アドミニストレータが足で床を踏むと、そこから何かが迫り上がって来た。それを見たキリトは驚愕する。
(あれは…システムコンソール⁈)
アドミニストレータは残った髪でコンソールを操作すると、彼女の周囲に紫色の障壁が発生し、上空へと上がり始める。
「じゃあね…坊や…ユージオ…アリス…イーディス…。また、いずれ会いましょう。まあ坊やとはすぐ会えるでしょうね…」
「お前…まさか…!」
キリトがすぐに剣を投げたが、障壁に守られても元に戻ってくるだけだった。そして、現実世界へ転送される直前…突然キリトたち後方から爆炎を纏いながら何かが飛び出て来た。
「あいつは…‼︎」
「猊下ァァぁ‼︎‼︎」
ユージオが最初に殺したはずのチュデルキンが、奇声を発しながら彼女のところへ飛び込んでいったのだ。突然の事態にアドミニストレータも対応が遅れ、奴を退かせることが出来なかった。両腕がなく、ろくな抵抗が出来ないアドミニストレータの身体も…同じく炎に焼かれていく。
「離せッ‼︎離しなさいッ‼︎この豚がッ‼︎」
「そう…言わないで…!猊下ぁ…やっと…やっと1つにぃいいひひひ!」
「貴様…私の言うことを…‼︎」
「あなたは…わたしの…ものだぁああああ、わたしの…アドミニストレータだぁあああ!」
チュデルキンの身体が激しく爆散すると同時に…アドミニストレータも消え去った。
その様子を見ていたキリトたちは何とも言えないものだった。
今まで自分が蔑んできたものに邪魔をされ、消え去る…彼女がして来た罪に値するかは分からないが、少なくともマシな消え方だろう…とアリスは思ったのだった。
すみません!
次回、キリトの黒剣について補足説明したいと思います!
やっぱりこの回では無理だった…。