ソードアートオンライン Monster Hunter World 作:GZL
アリスはイーディスを見送るとすぐにベッドに横になった。
初めて自分の弱さを見せてしまったアリス、イーディスに与えたインパクトは凄まじいものだったことだろう。
イーディスも深く踏み入らずに、アリスをそっと1人にした。
「…いつから…こんなに弱くなってしまったんだろう…」
(キリトが死んだ時?自分が作られたと知った時?この平凡な生活を知ってしまったから?)
「分からない…何も…分からないよ…。教えてよ…キリト…」
アリスの心を強く打ったキリトの言葉…。
今思えば、アドミニストレータと戦えたのも…全てキリトが彼らを鼓舞する言葉を幾つも叫んだからだと分かった。
自分1人では何も出来ない…。
その無力さに今日も孤独に寝るのであろう。
と思われた。
唐突に外から赤王の鳴き声が木霊した。
眠気がすぐに吹っ飛び、窓から外を見てみると…森の反対側がまるで夕日のように明るかった。しかし、それが夕日でないことはすぐに分かり、アリスは即座に外に飛び出した。
「あれは…シナット村の方面…!まさか…!」
最悪の事態が想定できたアリスはすぐに黄金色の鎧に着替え、キリトの黒剣を手に取ろうとした…その時。
「⁈」
カタカタカタと勝手に剣が揺れ始めたのだ。その後、バタンと倒れ、再び小刻みに震える。まるで剣が意志を持っているかのように…。
「キリト…」
アリスはキリトの剣を取り、腰に納める。
さっきまでの震えは収まるが、アリスにはもう分かっている。
さっきの現象はキリトが起こしたものだと…。キリトは死んでもなお…ユージオたちの故郷を守ろうとしているのだ。
それが分かるだけでも思わず涙が溢れそうになったが、アリスはそれを閉じ込める。
(もう…泣いてばかりいられない)
アリスは赤王に乗り、シナット村へ飛んでいくのだった。
上空からシナット村を見ても…被害は最悪だった。至る所から火の手が上がり、ゴブリンやオークが長蛇の列を連ねて進軍している。
戦闘経験のない村民が戦えるはずもない…。だが、彼らは村から逃げようと一切しない。広場で荷物をまとめて防壁を作り、立ち往生しているのだ。
(何をしているの?敵はすぐ目の前なのに…!)
アリスは赤王から飛び降りて、彼らの前に姿を現した。
「アリスお姉様…!」
「アリス⁈貴様何しに来た⁈」
アリスを目にした途端に蔑みの眼差しを向ける村民たちはそっちのけで、すぐに彼女は自らの父親…ガスフトに質問する。
「何故逃げないのです?このままでは奴らに殺されてしまいます!」
そう言うと、ガスフトは静かに答えた。
「まず…この防壁を築けば奴らに殺されることがないと衛兵のジンクが言った。衛兵の命令は村長である私でも忠実に守らなければならない。それは禁忌目録にも書いてある」
(…どこまで…禁忌目録は私や…この世界の人たちを苦しめるの?)
アリスが唇を噛み、どうしようか考えていると、セルカが言葉を放った。
「お父様…ここは一旦退きませんか?アリスお姉様の言う通り…このままじゃ持たない!逃げないと…みんな死んじゃう…!」
セルカの言葉にガスフトの瞳が揺れ始める。
それを読み取ったセルカは更に続ける。
「お父様…アリスお姉様が一度でも間違ったことを仰りましたか⁈」
しかし、セルカの言葉を真っ向から否定する者もいた。
小太りの男…名前はバルボッサと言うが、彼は幼いセルカに怒気を込めて叫んだ。
「逃げる…?逃げるじゃと?子供の分際で…大人の会話に口を挟むなっ‼︎村を守ることに賢明し……ッ⁈」
だが、バルボッサの言葉は途中で止める。
強烈な冷たい視線…殺意にも似た感覚が彼の背中に走った。ゆっくりと側面に視線を向けると…残った左目でジッと睨むアリスの姿があった。
恐れを為すと同時に、バルボッサは叫んだ。
「分かった…分かったぞ‼︎あの闇の軍勢を引き連れたのは…お前じゃな‼︎アリスッ‼︎貴様が暗黒界に入った時点で、汚されて…こいつは魔女だッ‼︎」
アリスはあまりに低欲で下らない妄言に心底呆れ、溜息を吐くだけだった。だが、ここまで来た以上…言わなければならない。
「衛兵ジンクの命令は破棄します。騎士である命令で、今すぐ、南の森に避難しなさい!」
「騎士じゃと?お主はそのような天職に就いておらんじゃろう⁈勝手に騎士など名乗れば…央都の騎士がお怒りに…」
アリスは纏っていたローブを脱ぎ捨て、自らの鎧を全員に晒した。
それを見た村民は目を丸くさせ、一部は恐れ慄いて尻餅を着く程だった。
「私はアリス…!央都ドンドルマ…公理教会所属…整合騎士…アリス・シンセシス・サーティですッ‼︎」
「ね…姉様が…整合騎士…?」
その姿を見て、もう疑う者はいなかった。
彼女の胴にあるエンブレムは間違いなく公理教会のものだったから…。
アリスは驚くセルカに謝罪する。
「隠していてごめんなさい…。でもこれが…私に与えられた罰なの…」
「ううん…格好いいよ…。やっぱり姉様は罪人なんかじゃなかった…」
そしてガスフトはアリスの前に膝を着いた。
「騎士様の命令なら…快く教授いたします」
「…ありがとう、お父様」
それから先の避難誘導は順調だった。
アリスが騎士であったこと、そして村長のガスフトの命令で村民は即座に南の森へと走り始めた。
アリスはその様子を見届け、ゆっくりと錆びた黒剣を抜く。
あの数を1人で…かつこの錆びた剣で返り討ちに出来るとはアリス自身思ってない。アリスは息を吐き、ゆっくりと奴らがいる方面へと歩みを進めた。
そしてその様子を…ユージオは家の窓から眺めていた。
「アリス…」
ユージオは壁に立て掛けられた埃塗れの冰龍の剣へと歩みを進める。
「僕にも…まだ出来ることはあるかな…」
そう呟くと、ポンと肩を叩かれた気がした。
振り返ると、笑顔でこっちを見るキリトの姿があった。
「キリト…!」
『ユージオ、お前は1人じゃない…。そう落ち込むな。これからは…アリスやイーディス…みんなとこの世界を守るんだ』
そう言って、キリトは消える。
その言葉を聞いたユージオに、もう迷いなどなかった。
奴らが
錆びた剣でどこまで時間を稼げるか…アリスは剣を抜き、応戦しようと思った時。
「せやあああああああああああぁッ‼︎‼︎」
緑色の閃光が彼女の横を突き抜けた。それと同時にゴブリン3頭が身体に斬撃を入れられて吹き飛んだ。
微かに冷気が漂う剣を持ち、アリスの前にユージオが立っていた。
「ユージオ…!どうしてここに…⁈」
「…もう嫌なんだ」
ユージオはゆっくりと立ち上がりながら、呟く。
「キリトみたいに…大切な人を失うのは嫌だ。だから…僕は…大事な人を守るために戦う!失いたくないから戦わないんじゃない‼︎失わせないために剣を振る‼︎そう決めたんだ!」
ユージオの言葉に…アリスは漸く分かった。
(私は…1人じゃなかったんだ…)
その嬉しさと共に、彼女は右目の傷を塞いでいた布に手をかける。
「私も…私自身が守るべき者のために戦います。これ以上…悲しみを増やさないために…」
布を取り、アリスは再び両目で目の前の敵を視認する。
(ありがとう、キリト…。私はもう迷わない。これからも…何度も躓いて…心が折れるかもしれない…。だけど、あなたが命をかけて託してくれたこの生…無駄にはしない!)
「我!人界の騎士アリス‼︎私…いや、私たちがいる限り、人界の平穏は乱させない‼︎命が惜しくば…今すぐ闇の国に帰りなさい‼︎」
アリスはキリトの剣を掲げ、高らかに叫んだ。
「エンハンス・アーマメント‼︎」
すると…キリトの黒剣は僅かに輝き、アリスの目の前に1本の黄金色の剣を作り出した。鞘には炎のエンブレムが走っており、刀身はあの金塵剣よりも滑らか、そして重さも段違いだった。
「これは…」
アリスがその剣を受け取ると、黒剣は輝きを失う。
(キリト…ありがとう。これもあなたが残してくれたものなのね…)
初めて見て、使う剣。だが…不安などなかった。
アリスは剣を構え…再び武装完全支配術の詠唱を叫んだ。
「エンハンス・アーマメント!」
すると…刀身から蒼い炎が溢れ出て…すぐに剣を包み込んだ。
そして一振りすると…蒼炎が奴らを包み込み…即座に焼き払った。
ユージオもアリスが突然出した剣の力に驚くばかりだった。
それを見たゴブリンとオークは恐れて逃げそうになったが、後方から1つの大きな影が見えた。それは巨大な鎚を持ったオークだった。
「逃げるんじゃねえ馬鹿ども‼︎ガキ2人程度に何ビビってるんだァ⁈」
「ひぃ…!モリック様…‼︎」
「役に立たねえ奴らだ!俺様が一瞬で……」
モリックが話している間に、彼らの身体に悪寒が走る。
それと同時に奴らの足元から凍結していき、最終的に身体全体にまで行き渡った。
これはユージオの冰龍の剣の武装完全支配術のものだった。
「アリス…僕も、負けてないよ?」
「…戦いに優劣は要りません。必要なのは…」
アリスは再び剣を構える。先程よりも大きい炎が剣から立ち上がり…巨大な炎の斬撃となる。
「吹き荒れろ‼︎蒼炎‼︎」
凍らされた敵軍は数秒とかからず、砕け…塵となった。
それを見る後方軍…ユージオはまだ来るだろうと剣を構えていたが、アリスは剣を鞘に収めながら声を上げた。
「ここは人界と暗黒界を隔てる壁‼︎いくら壁を掘り抜こうと…崩そうとも我らが立ち向かう‼︎選びなさい!私たちを相手にして倒れるか…無様に逃げ帰るか…‼︎」
それを聞いたゴブリンやオークの者たちは、即座に2人に背中を向けた。怯えを隠せずに逃げ帰る彼らを見て、アリスとユージオはやっと一息を吐いた。久しぶりの戦闘で、身体が慣れていなかったのだろう。
しかし、アリスは緊張を保ったままユージオの元へと歩み寄る。
そして…重たい平手打ちを彼に叩き込んだ。
突然の事態に呆然とするユージオにアリスは凛と告げる。
「これは、今まで何もせずに逃げてきた私の怒りです。受け取っておきなさい」
ユージオは痛む頬を摩りながらも、笑いながら答えた。
「ありがとう、アリス」
アリスは背中を向けていたが、ユージオが漸く元のユージオに戻り、少し笑っていたのだった。