ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第37話 再会

襲撃されたシナット村の復興も山場を迎えた頃、緑姫(りょくき)を連れてイーディスがやって来た。シナット村の惨状を聞いて飛んできたそうだが…それだけではないとアリスは踏んでいた。

 

「私を人界軍のところに連れて行くのでしょう?」

 

「…まあ、そうなるね。私は別に強制するつもりはないよ?戦いに明け暮れない…自由でのんびりしたかったら…ここで住むと良いわ」

 

「いいえ、参りましょう」

 

この返答にイーディスは少し動揺する。

確かにアリスの眼は以前のような、迷いを1つも持っていなかった。

あるのは真っ直ぐ突き進む信念だけ…そうイーディスは思えた。

 

「私だけでなく、ユージオもね」

 

「ああ、僕も行く。このまま黙って見ていられない」

 

「………」

 

『イーディス…2人を…頼んだぞ…?』

 

キリトに言われたことを思い出し、イーディスはクスッと笑った。

 

「全く…コロコロと心情を変えるね、君たちは。中々に相性良いんじゃない?」

 

「イーディス!揶揄わないでください‼︎」

 

(もう私を『イーディス殿』と呼ばなくなったか…どうやら1番辛い山を越えたらしいね)

 

イーディスはそう思いながら、緑姫に乗る。

同じようにアリスとユージオは赤王に乗り込み、イーディスの後を追う。

アリスは寂しげにシナット村を少し見た後、鋭い視線を前方に向けた。

 

(私は戦い抜く…たとえ肉体が壊れて動かなくなっても…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人界軍の野営地に着いた3人がまず出会ったのは、敵意と信頼…2つの感情を込めた視線で見てくるエルドリエだった。まずアリスを見ると、深々と頭を下げた。

 

「我が師、アリス様…。きっと来てくれると信じておりました」

 

「エルドリエ、心配をかけましたね。ところで…この陣営はどうなっているんですか?整合騎士がほとんど見当たりませんが…」

 

その質問を投げられたエルドリエは一瞬言葉に詰まった。

しかし、黙っていても意味がないとエルドリエはすぐにアリスの疑問に答えた。

 

「今、動ける整合騎士は…たったの15人程度です…」

 

「そんな馬鹿な!整合騎士は私やあなたを含めて、31人いるはず…!」

 

「アリス様もご存知でしょう…元老長の秘技【ディープフリーズ】を」

 

それを言われてアリスはハッとした。

あの術は整合騎士が何かしらの問題を起こした際に凍結させるためのもので、解除するにも時間がかかると…。

 

「その術を受けて眠ったままの整合騎士が16人、残った15人ですが…4人はカセドラルの警備、4人は果ての山脈の警備、そしてここにいる整合騎士7人だけで、敵の軍勢を押し返さなければなりません」

 

想定外のことが起きていたから、エルドリエもイーディスもアリスを必死に呼んでいたのだと納得した。現在の戦力を把握したアリスに続けて問われたのは、やはりユージオの件だった。

 

「アリス様、何故この男がここにいるのですか?」

 

「…彼は自らの意志で戦場に赴きたいと述べたのです。何か問題でも?」

 

「あります!こいつは最高司祭様を討った剣士!…正直、最高司祭様を討ったことに関しては何も咎めるつもりはありません。しかし!私はともかく、今でも最高司祭様を臣従してる者が多くいます。その中で彼がいては…連合軍の信頼が揺らぐ可能性があります!」

 

今のエルドリエの意見に、アリスは否定することが出来なかった。

シナット村で半年間住んで分かったこと、この世界の人々はアドミニストレータのことを完全に信じ切っていること。そして…罪を犯した者には居場所がないこと。

それらを考えれば、確かにユージオの存在は連合軍にとっては邪魔者以外何者でもない。

それでもアリスは、ユージオの必要意義を述べようとした、その時だった。

 

「!」

 

エルドリエの瞳が狼狽へと変わる。

それと同時に甲高い音とエルドリエの小手が少し砕ける音が響いた。

 

「こ…これは…」

 

何が起きたのか分からない4人のところに、赤く爛れた色味を持つ大剣を腰に据える男がやって来た。

 

「そいつはぁ…心意の斬撃だ」

 

その声に即座に反応したのはアリスだった。

振り返ると、いつも通り優しい笑顔を浮かべる整合騎士騎士団長ベルクーリが立っていた。

 

「叔父さま…ご無沙汰しております」

 

「久しぶりだな、嬢ちゃん。半年も整合騎士から離れてたからか、少し頬がふっくらしたな」

 

「騎士団長、失礼ですよ。いつもアリスの頬はぷにぷにで柔らかいんですから♪」

 

そう言いながらイーディスはアリスの頬に触る。

アリスはすぐに「やめてください‼︎」と頬を赤くして拒絶する。その様子を見惚れるエルドリエと呆れるユージオ。

 

「それで叔父さま、先程の攻撃、心意の斬撃なのは私にも分かりましたが…一体誰が…」

 

「その黒く錆びた剣からだ」

 

ベルクーリの答えに一同は驚愕する。

 

「どういう経緯か分からねえが…その剣には意志が篭っているようだな。エルドリエの言っていることは正論ではあったが…その剣は怒ったんだろうな。あんまり刺激すると、今度は腕1本持って行かれるかもな」

 

それを聞いたエルドリエは酷く動揺すると同時に安堵もした。

しかし…逆にアリスは涙を流した。

今の斬撃は間違いなくキリトが放ったのだと確信した。

キリトは死んでもなお…アリス、ユージオ、イーディスを守ろうと必死になっている。アリスは剣を取り、抱き締めた。

 

「そういうことだからよ…エルドリエ。あまりカリカリするな、そこの少年やアリス嬢ちゃん、イーディスを傷付けたり罵倒したりすると…他の者もただじゃ済まねえからな」

 

ベルクーリに釘を刺されたエルドリエは、もう何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人界軍にやって来たばかりのアリスとユージオは専用のテントを用意された。そのベッドに2人で腰を下ろす。同じようにキリトの黒い剣をベッドに置き、同じようにする。さっきの意志は間違いなくキリトのもの…つまりこの剣はキリトだと思うようになったのだ。

 

「キリトも、疲れたでしょう。ゆっくり休んで」

 

それを見ているユージオはポツリと呟いた。

 

「キリトがその剣にいるのなら…そこから出してやれば生き返るのかな…」

 

ほぼ無意識で呟いた言葉にアリスはピクリと反応した。

アリスもあの戦いの後、何度となく願った。

キリトにもう一度会いたい、触れたい、その心を穿つような言葉で私を奮い上がらせてくれ、と。

だが、それは決して叶うことはない。キリトは死んだのだ。

ユージオの発言から、未だにキリトの死から吹っ切れている訳ではないと分かる。実際…気丈に振る舞っているアリスも同様だった。ここまでやって来れたのは、結局キリトのお陰なのだ。新しく授かった剣など…色んなことでキリトが手助けしてくれている。

 

(それじゃダメだ…もっと、自分自身を強くしないと)

 

アリスはユージオの手を握り、こう言った。

 

「ユージオ…私も、キリトの死をどうにか出来なかったのか…今でも何度も考える。だけど、もう過ぎたことなの。私たちは充分すぎるくらい、キリトに助けてもらった。さっきの心意、私の剣、そしてユージオには聞こえたという彼の声…。そろそろ私たちだけで全てを打破しましょう。誰にも手助けされることなく…自分達の力で」

 

「アリス…」

 

ユージオの手がアリスの背中に触れる。

自然とした感触にアリスは抵抗感を感じなかった。

 

(記憶を抜かれる前は…私は…どんな()だったのかな…)

 

キリトの消滅と共に失われた記憶…。

それをユージオは知っている。

 

(知りたい…もっと、私自身のことを…ユージオを…)

 

ユージオの身体が徐々にアリスに迫ってくる。

もう少しで抱擁の形になるところで…鈴が鳴った。

互いに鈴の音が聞こえた瞬間に離れ、顔を赤らめた。

その恥ずかしさからか、アリスはそそくさと来訪者の元へ行く。

そこには赤毛の女の子が鍋を持っていた。その後ろにも黒毛の女の子が隠れるように立っていた。赤毛の女の子…ティーゼはオドオドと話し出す。

 

「き…き、騎士様…お夕食を持って参りました」

 

「あと…これはパンとお水です…」

 

明らかに緊張した面持ちの2人にアリスは優しく言う。

 

「そんなに(かしこ)ならなくても…ここでは同じ味方なんだから。…そういえば貴女たちは、修剣学院で…」

 

「はい、人界軍補給部隊所属、ティーゼ・シュトリーネンと…」

 

「同じくロニエ・アラベルです」

 

「だからそんなに畏まらないで。私の方が逆に気にしてしまうわ」

 

アリスの言葉に、2人はポカーンとしてしまっている。

その様子を見たアリスは「どうしたの?」と問う。

 

「い、いえ!修剣学院でお会いになった時と…あまりに印象が違って…」

 

後ろでロニエも小さく頷く。

アリスは(そうかしら…)と思ってしまう。アリスが自分のどこが変わったのか考えていると、暗幕からユージオが出てきた。その途端、ティーゼは息を飲み、持っていた鍋を落としそうになる。

 

「ユージオ…先輩?」

 

「ティーゼ…!どうしてここに⁈」

 

ユージオの問いに答えることなく、ティーゼはユージオに抱きつく。

 

「良かった…良かった…‼︎ここでユージオ先輩らしき人がいると聞いて…もしかしたら生きてるのかもしれないって…!」

 

「…僕の方こそ、心配をかけてごめん」

 

「そんな、ユージオ先輩が謝ることじゃ…!

 

「あの…」

 

2人の会話にロニエが割って入る。

 

「キリト先輩は…?」

 

それを聞いたアリスとユージオは息を飲んだ。

アリスは彼女らを悲しませないために、『他の支給部隊のところにいる』と嘘をつこうとしたが、その前にユージオがポツリと呟いた。

 

「…ロニエ…覚悟はあるかい?」

 

「ユージオ!」

 

アリスは咎めるが、もう遅い。

 

「キリト先輩に、何かあったんですか?」

 

ユージオは一旦暗幕に戻り、そこから錆びた黒剣を持って来た。

それを見ただけで、ロニエは察しがついてしまった。

 

「そんな…まさか…」

 

「…僕たちを助けるために…犠牲になった」

 

ロニエは逆にパンと水が入った籠を落とし、キリトの剣に縋り付く。

その様子を見たティーゼもロニエを優しく抱き締める。

どうしようも出来ない光景にアリスは視線を逸らしてしまう。ユージオも唇を噛み、込み上げる悲しさに耐える。

 

「私が…私が…フレニーカを助けるために、あんなことをしなければ…こんなことには…!」

 

ユージオが何か言おうとした時、今度はアリスが止めた。

 

「ここは私に任せてください。2人とも、中に入って」

 

ユージオは頷き、外で待機する。3人が暗幕の中へ戻った途端、彼は顔を手で隠しながらも…一筋だけ涙を落とすのだった。

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