ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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第38話 心の在処

アリスが2人を幕の中に入れると、優しく聞いた。

 

「何があったのか…最初から教えて」

 

アリスは聞くべきだと思っていた。

キリトたちが禁忌目録を違反してまで犯したことは何だったのか…。

2人は涙が溜まった瞳でゆっくりと話し始めた。

 

「私たちは…フレニーカの待遇があまりに酷いと…ライオス主席上級修剣士とウンベール次席上級修剣士に抗議をしました…。でも…それが間違いだったのです。下級貴族の私たちが何を言っても、彼らは言うことを聞かないのを分かっていながら…。挙句に私たちは…彼らに………」

 

そこで唇が震え、ティーゼの話が途切れてしまう。

彼女らの身体は震え、瞳はあの時の恐怖を体現したかのように生気がない。

それを聞いて…アリスは漸くキリトが叫んでいた『俺がライオスとウンベールを斬った理由だって、ロニエやティーゼを救うためだッ‼︎彼女らみたいな下級貴族が、上級貴族の玩具、奴隷にされて何も思わないのか⁈』という発言の真の意味を理解した。

アリスも上級貴族の振る舞いに関しては気付いていたが、ほぼ無視していた。あの頃のアリス含めた整合騎士は『法さえ守られていれば何をしてもいい』と思っていた。だが、この行為…その思想がキリトたちが最高司祭…いや、公理教会自体に反旗を翻した原因だったのだ。

数秒、何も言えずに立つアリスだったが、深呼吸して彼女らに言う。

 

「貴女たちは何も悪くありません。貴女たちは友のために戦った…それだけです」

 

「アリス様には…誉れある整合騎士に何が分かるというのですか⁈私たちの誇りも身体も…全て奴らに汚された私たちの…何が分かるんですか!」

 

彼女らの声にアリスはすぐに答える。

 

「身体は心の従属物にしか過ぎません。自らの意志が籠ったところは『心』…つまり『魂』です。この『魂』を汚せる者はいない、そして…心の有りようを決めるのは…自分自身です‼︎」

 

そう叫ぶアリスに2人は思わず涙を流すことも忘れて見詰めた。

それと同時にアリスも、キリトがあの戦いで見せた心意の姿を出来るはずだと自分自身に言い聞かせる。

すると彼女の身体が仄かに輝いた。そして、輝きの中にいたのは黄金色の鎧お身に纏った騎士ではなく、青いスカートに白いエプロンを着た…お淑やかな少女だった。それを2人は呆然と見詰め、アリスも漸く笑顔を見せる。

 

「ほらね?身体なんて…心の従属物でしかないのよ。辺境のシナット村で育った私は…こんな風に育つはずだった。でも幼い頃に禁忌目録に違反して、罪人として央都に連れて行かれて…整合騎士にされた。全ての記憶を消されてね…」

 

それを聞いた2人はほぼ同時に「えっ…」と絶句した。

彼らが目指した整合騎士の実態は…とんでもないものだったから。

 

「そんな運命を呪い、自分自身を見失うことも多々あった。今でもキリトを救えなかったことをずっと後悔してる。自分が強いと思っていたことを恥じ、戦うことすら出来なかった。…それでもキリトやユージオ、みんなが助けてくれた。こんな仮初で偽物でしかない私にも、やるべきことがあると…」

 

アリスは今にも消え入りそうな心意を必死に耐えつつ、ロニエとイーディスの手を握った。

 

「貴女たちは何も悪くない。それに、そんな悲しい姿を見せてはキリトやユージオがもっと悲しむ。貴女たちにもあるわ、貴女たちだけが進める道が。それを私が…いや、私たちが導くから…」

 

それを聞いた2人は涙がもう止まらなかった。

天幕の中であっても外に響くような号泣を繰り返し、それをアリスが抱擁して落ち着かせた。

その様子を外から窺うユージオ。さっきまで泣いていた跡を必死に落とし、腰にかける冰龍の剣に触れたのだった。

 

(…僕も、今のままじゃダメだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

ロニエとティーゼを落ち着かせたアリスはユージオと共に軍議をする場所へと歩みを進めた。その道中で「よっ」と声をかけるベルクーリと出会う。未だに整合騎士のトップのベルクーリと顔を合わせることが上手く出来ないユージオはしどろもどろしてしまう。

 

「ユージオ、叔父様に失礼です。きちんと挨拶してください」

 

「ご、ごめん…。僕…緊張しちゃって…」

 

「まあしょうがねえさ…。もうすぐ戦争だ。戦い慣れていないお前さんでは、全然落ち着けないだろうさ」

 

「は、はあ…」

 

ユージオはやはり人見知りが発動してしまい、口数が自動的に減ってしまう。そんなユージオにアリスは呆れているが、ベルクーリはそんな彼女に質問する。

 

「嬢ちゃん、その剣の持ち主…どういう奴だったんだ?」

 

「どういう…って、叔父様どうして?」

 

「昨日の心意の斬撃…あそこまで強力なものを出せる奴は少ねえ、それに…あれは剣から出たものと考えると異常だ。並の整合騎士はおろか…俺をも超えている」

 

それを聞いたアリスは息を飲む。

キリトが実際に戦ってる姿はほとんど見られなかったが、最高司祭に致命傷を与える程の実力者…只者ではないと分かっていた。だが…アリスが最も尊敬すると同時に最強の剣士だと思っているベルクーリが『自分を超えている』と言わせる程の存在までとは想定してなかった。

 

「少なくとも…そのキリトって少年は実戦の経験が凄まじかったことだけは間違いねえ」

 

「実戦…とは?」

 

「命のやり取りさ、ただの学院生が最高司祭を仕留められるはずがねえ。禁忌目録で天命を削ることは禁じられている。奴はどこで実戦を詰んだんだ?」

 

それに関してはアリスもユージオも理由は知っている。

キリトはこの世界の人間ではない…。

しかし、それを伝えたところでどうこう変わる話でもなかった。

 

(キリトが居ない今、この世界を守るのは…)

 

「閣下、そろそろ軍議の時間です」

 

そこに白銀色の鎧を纏う騎士がやって来た。

それを見たユージオは表情を険しくさせる。

それも当たり前だ。あの騎士は50階で死闘したファナティオ・シンセシス・ツーだからだ。兜で顔を隠しているが、本当は女性であることをユージオはもちろん知っている。

ファナティオはすぐにユージオに視線を向けると、その兜を取った。

ユージオは険しい表情のままだったが、アリスは逆に意表を突かれた表情を取ってしまう。

 

(ファ…ファナティオ様が…化粧を…⁈)

 

そもそもアリスはファナティオの素顔を見ることが少ない。

同姓であることはもちろん知ってはいたが、その素顔に化粧がされているとは想像も付かなかったのだ。

ユージオは静かに…ファナティオに語りかける。

 

「何か…用ですか?やっぱり僕は邪魔者ですか?」

 

ユージオの腕は自然と剣に向かっていく。

しかし、ファナティオに敵対する意志は全く感じられない。

するとファナティオはニッコリ笑って、今度はユージオも驚かせる言葉を発言した。

 

「ありがとうね、私をぶちのめしてくれて」

 

「え?」

「は?」

 

2人とも共に呆気に取られる。

そんな2人を見て、ファナティオは話し出す。

 

「私は兜を被っていたのは、あの黒髪の坊やの言う通り…自分自身が女性であることを意識していたから。だから剣技も徐々に落ちていた。だけど、今回の一件で全て吹っ切れたわ。私の美貌を見ても、全く剣撃が落ちなかったんだからね」

 

(それ…自分で言います?)

 

心の中でアリスがそう思っていると、ファナティオは不意にアリスが腰に携えている黒剣に触れた。

 

「ありがとね…これで、私も頑張れそうだわ」

 

「………」

 

あまりに変わったファナティオを見て、キリトがこの整合騎士団に与えた影響が如何程のものか…改めて分かった。彼の言葉、剣撃、全てがみんなを変える力を持っている。

 

「だとしても…」

 

アリスは初めて面と向かってファナティオに牙を剥いた。

 

「そんなに自分が女性であることを意識していたかつ…男にやられたかったのなら、叔父様にして貰えば良かったじゃないですか!」

 

「あら、騎士長閣下は良いのよ。世界最強の剣士なんだから、万人に手加減するに決まってるわ」

 

そこから先もひたすらアリスとファナティオの言い争いは続く。

それを後ろ目で見るユージオは呆れているベルクーリに質問する。

 

「…いつも整合騎士って、あんな感じなんですか?」

 

「今日だけだよ…全く…」

 

ガミガミと言い争ってる2人を放っておいて、ユージオとベルクーリは天幕の中に入っていった。

2人が居なくなったことを知ったアリスとファナティオは、己の醜態に赤面するのであった。

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