ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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過去最長のエピソード


第39話 覚醒する剣の記憶

軍議が終わり、人界軍は東の大門の前に防御陣営を設営した。

前衛右翼にはエルドリエとユージオ、前衛中央にはファナティオ、前衛左翼にはデュソルバード、そして後衛にはベルクーリとイーディス、そして上空で飛竜に乗ったアリスと布陣を分けた。

軍議でも話したが、まともにやり合っては数の差で一気に押し返されるのが目に見えている。そこで出たのが敵の神聖術を封じるために、この陽光が通らない…赤茶けた大地に溜まった神聖力をアリスが1人で全て奪い、逆に使うという作戦だ。

ただ…リスクもある。

この通路にある神聖力全てをエレメントの変え、相手に放つのは相当な時間、体力、集中力が必要になる。そのためにまずは前衛が敵を押し退けつつ、時間を稼ぐのだが…アリスはもどかしい気持ちだった。

 

(私はここでみんなが命を懸けて、暗黒界の敵軍と戦うのを見ていることしか出来ない。私の神聖術が必要とは言え…)

 

アリスは震えそうになる左腕を右腕で押さえつけた。

自分自身の死の恐怖による震えではない。仲間を1人でも失うことを恐れるものだ。

 

(大丈夫、きっとやれる)

 

そんなことを思っていると、不意に下方から声が聞こえた。

 

「アリスー!ちょっといいぃ?」

 

声を上げているのはイーディスだ。

 

「何でしょう?」

 

「その黒い剣…ちょっと貸して欲しいなあ…なんて。私の剣はあなたと違って、まだ戻ってないし」

 

アリスは溜息を吐きながらも、黒剣を腰から外してイーディスに投げようとする。

その時…。

 

 

 

『頼んだぞ、3人とも』

 

 

 

「「「!」」」

 

確かに聞こえた声に、3人中2人は涙を落とした。

ユージオが流してる涙を見たエルドリエは彼に問う。

 

「どうした?今更怖気付いたか?」

 

「…まさか」

 

ユージオは涙を拭い、先程よりも鋭い眼光を前方に向ける。

 

「むしろ更に覚悟が固まりましたよ」

 

アリスも涙を拭き、イーディスに向かって投げ、同時に叫んだ。

 

「イーディス‼︎この戦い…必ず勝って、生き残りましょう‼︎」

 

「…ええ‼︎」

 

剣を掴んだイーディスは相槌を打ち、後衛へと戻っていった。

 

 

 

 

その数分後だった。決して傷も付かず、壊すことも…動くこともなかったはずの東の大門…人界と暗黒界を隔絶する門全体に、亀裂が走った。

同時に紫色の光が眩しく輝き、全ての者を照らす。

今か今かと門が破壊されるのを待つ闇の軍勢…そして、それを阻止するために立ち向かう人界軍…。双方共に退くことはないようだ。

そして、崩れ去る直前に門に文字が浮かび上がった。

 

『FINAL LOAD TEST』…と。

 

この意味を理解出来るものは、アリスとユージオだけだ。

文字を見た途端、2人はお互いに無意識に呟いた。

 

「「最終負荷実験…」」…と。

 

そして…何百年と人界と暗黒界を隔てた大門は、音を立てて呆気なく崩れ落ちる。

それと同時に暗黒界の亜人たちが一斉に雪崩れ込んできた。

狙いなんてない。ただ真正面から相手を殺すことだけを考えて、前軍の高地ゴブリン、平地ゴブリン、ジャイアント族、オーガが突っ込んでくる。

そんな彼らを前衛のデュソルバード、ファナティオ、エルドリエが相手にしようとする。ユージオも同じく剣を構え、戦う意志は見えるが…彼の背中からは死と恐怖のオーラが滲み出ているのをアリスは見てとれた。不安そうに見詰めるアリスに、真下にいるベルクーリが叫んだ。

 

「嬢ちゃん!大丈夫だ、あの若者は強い。そこまで心配する必要ないさ」

 

(そうよ、ユージオは強い。そんな心配をする必要ない。私は…自分の任務を全うしなくては…)

 

アリスは飛竜に乗った状態で、死にゆく兵士…亜人から放出される空間神聖力を自身のところに集め出す。

これはファナティオが言い出した作戦だった。敵軍勢を一掃する方法として、自軍と敵軍の死によって放出された神聖力をアリスが奪い取り、それを巨大な神聖術として打ち出す…と。

確かにこれを使用すれば、暗黒界で厄介な暗黒術師団の強力な神聖術の行使を封じることは出来る。だが裏を返せば、それはアリスたち人界軍の神聖術も使えないことを意味する。

そのためにも早くアリスは術を発動し、敵軍を一掃しようと思っているが…まだ足りない。それまでに殺される味方のことを考えると、胸が張り裂けそうな気持ちになったが、それまでは…彼らを信じることしか出来なかった。

 

 

 

 

ジャイアント族がファナティオと四天剣率いる中央前衛に押し寄せていた。普通の人のおよそ2倍はあろうかという巨体を持つジャイアント族、だがファナティオは彼らの心を折って戦意を喪失させようと踏んでいた。

そのためには…。

 

「奴らの長を討つ!」

 

ファナティオは照雷剣を構える。剣先をジャイアント族の中でも一際大きい個体に狙いを定め…光を放った。

 

「エンハンス・アーマメント!撃ち抜け…光よ‼︎」

 

長を含めて前方にいたジャイアント族はあまりの眩しさに目を閉じそうになる。だが流石は長と言ったところか…凄まじい速度で飛んでくる光弾を紙一重で躱す。だが、長の前後にいた2体はその光によって頭や胸を撃ち抜かれて絶命した。

それを見たジャイアント族の長は身体を震えさせる。

今まで感じたことがない恐怖が襲うが、それは徐々に怒りへと変わっていく。部下を殺された恨み、自分を恐怖に貶める奴への怒り…それは想像も出来ないような力を発揮する。

 

「人間…風情…があ…。ゆる…許さ…許さないイイイイイィィ‼︎‼︎」

 

周りのジャイアント族があまりの変わり様に身動ぎしたと同時だった。

前方にいた部下を薙ぎ払いつつ、長はファナティオに襲いかかる。

ジャイアント族では信じられない速度で駆け抜け、人界軍に迫る。

ファナティオはそんな奴にもう一度、光弾を放つが…なんと意図も簡単に避けられる。

それとほぼ同時に間合いに詰められる。

 

(早い‼︎)

 

咄嗟に剣でガードしようとするが、その前に四天剣の1人、ジェイスの巨鎚が奴の腹部を捉えて吹き飛ばした。だが、奴は奇声を発しながらも襲いかかる。

その後にも四天剣全員がファナティオの前に立ち、奴と交戦するために立ち向かっていく。だが…明らかに様子がおかしい長に対して、ファナティオは叫んだ。

 

「行くな‼︎止まれ‼︎」

 

だが、その声は彼らの耳には入らず…構わず突っ走っていった。それを止めるために駆け出したファナティオだったが…遅かった。

鈍器が鎧を砕く音、肉が潰れる音…それが響いたと同時に、四天剣は地面に倒れ…動かなくなった。

それは一瞬の殲滅撃だった。ファナティオは表情を歪ませ、急いで4人のところへ駆け出す。

 

「どうしてだ…⁈何故そこまでして私を守る⁈」

 

「ファナティオ様を…守ることが…私の使命です…」

 

ダキラは血塗れの身体でもそう呟いた。

ファナティオは悲しみに暮れ…戦意を完全に失ってしまう。

そして初めて見た…身近に居る者の死に、彼女の身体は完全にすくんだ。今まで何百回と暗黒界から入り込もうとする敵を討ってきたファナティオでも感じた死の恐怖…それは凄まじいものだった。

それを感じ取ったジャイアント族の長は薄ら笑いを浮かべつつ、今度はファナティオにその鈍器を振り下ろした。

ガキィンという音が響き、思わずファナティオは顔を上げた。

そこには…前衛左翼にいるはずのユージオが剣で奴の攻撃を防いでいたのだ。

 

「ぼ、坊や…」

 

「ファナティオさん…!まだ4人とも死んでいません‼︎早く連れて下がってください!ここは僕が…!」

 

「しかし…!坊やだけでは…‼︎」

 

「早くしてください‼︎彼らが死んでもいいんですか‼︎」

 

そう叫ぶユージオだが…徐々に力に圧倒され始める。

 

(このままでは…押し潰される…っ‼︎)

 

その前にユージオは冰龍の剣を斜めにして、単発SSスラントを放つ。単純に振り下ろした鈍器はユージオのすぐ左側で地面にぶつかり、ユージオは右側からスラントを解き放った。だが、奴はその鈍器を視点にユージオの真後ろに移動する。

 

「なっ‼︎」

 

「お前もォォ…死ねエエエエエエエエ‼︎」

 

奴が放った拳はユージオの左脇腹を捉える。

肋骨が折れる音…内臓が潰れた感触を味わいながら…ユージオは吹き飛ばされる。

久々に感じる真の痛みにユージオは喘ぐ。

 

「ぐあ…あがあああああぁッ⁈」

 

腹を抑え、口から溢れる血を止めようと神聖術を行使するが…元から陽光が届かず、神聖力をアリスに奪われている今…それは無理だった。

それでもユージオは立ち上がった。ここでユージオが退けば、被害は更に広がってしまう。

それを防ぐためにも、ユージオは奴の前に立ち塞がる。

 

「退けエエェッ‼︎人間めがアアァァ‼︎」

 

次に飛んで来たのは鋭い蹴り。

再びまともに受けたユージオは悲鳴も上げずにただ転がる。それでも剣だけは手放さず、戦う意志は消していない。

 

(まだだ…僕は…倒れるわけには…)

 

再び立ち上がろうとするユージオだったが…その前に1つの声が耳に入った。

 

「ユージオ‼︎」

 

なんと飛竜に乗ったアリスが怒りと焦りを含んだ表情でこちらに向かって来ていたのだ。その片手には煌々と燃える青い金剣を携えて…。

だが、それは同時にアリスが空間神聖力の奪取をやめたということでもある。それを踏まえると…敵はいつ術式を撃ち込んで来てもおかしくない。

それでもアリスはユージオの救出を優先したのだ。

キリトがどうしても助けたかったユージオを死なせてはならない…。

その一心で身体を動かしていた。

しかし、ユージオのすぐ目の前には奴が鈍器を振り上げて、今にも振り下ろす瞬間だった。

 

「ユージオ!逃げなさいッ‼︎」

 

アリスは既に武装完全支配術を発動しているが、この距離ではユージオも巻き込んでしまう。それ故にアリスはもどかしい気持ちになる。

 

(マズイ…このままじゃ…!)

 

アリスがそう思った時、奴の鈍器がユージオに振り下ろされた。

 

「!」

「ユージオォッ‼︎」

 

だが、その鈍器はユージオの顔の前で何かに当たったかのように止まる。まるで見えない壁があるかのように、ユージオを守っていたのだ。

更に右脇と右肩に誰かが支える感触がしたユージオが振り向くと…。

 

 

 

『頑張ってるな…ユージオ』

 

「キリ…ト…」

 

確かに死んだはずのキリトの姿があった。

だが、その姿はアリスには見えておらず、そうやって奴がしどろもどろしている間に入り込み、斬撃を打ち込む。

 

「離れなさい!」

 

「どうして…キリトが…」

 

『お前が死にそうになっていて、放っておく相棒はいないよ。それよりも…早くお前はやるべきことをやるんだ』

 

「…やるべき、こと…。でも、僕の力じゃ…」

 

『…相変わらず、弱気だな。仕方ないな…俺が力を貸してやるよ』

 

すると…イーディスが持つ黒剣が唐突に輝き出す。

 

「な、何?」

 

その輝きは束となって、戦場の方へと飛んでいく。

それを呆然と見るイーディスだったが、その光がどこへ行くのかは見当がついた。

 

(ユージオのところ…かな。キリト…やっぱり君はまだ…)

 

その光の束はユージオの冰龍の剣に当たる。

 

「⁈これは…!」

 

すると…アリスも感じたことがない程の悪寒が背中を突き抜けた。

 

「何…この冷気は…」

 

『次からはお前の力で出すんだぞ?俺は…一旦ここまでだ』

 

キリトの姿が消えかける前に…ユージオはボロボロになった身体を立ち上がらせ…呟いた。

 

「待って…キリト…」

 

『ユージオ…』

 

「行ってしまう前に…僕の…僕の力を見て欲しいんだ‼︎あの時…何も出来なかった僕を…」

 

キリトは暫し黙った後に、姿を消す。

 

『大丈夫だよ、ユージオ。俺はいつでも見てるぜ…』

 

その言葉を聞いた途端、ユージオは目頭が熱くなったが、涙は流さなかった。流すのは…戦いが終わってからだと決めていた。

そして、ユージオは凄まじい冷気を発生させる冰龍の剣を振り上げる。

それを見たアリスは即座に竜に乗り、前衛と後衛に叫んだ。

 

「叔父様!ファナティオ殿!今すぐ兵を退げてください‼︎」

 

「退げるって…アリス、一体何が」

「いいから早くッ‼︎」

 

アリスの余裕のない声にファナティオは傷付いた四天剣たちを抱えて、後方に叫んだ。

 

「今すぐ後衛部隊の更に後ろへと下がりなさい‼︎早く‼︎」

 

その間にもユージオの剣には途轍もない冷気が充填されていく。

ユージオも今起こっている状況がどういうものか…判断出来てない。

明らかに記憶解放術の更なる上を行く力ということ、そして…キリトが力を貸してくれたことだけが分かっている。

大きく振り被った剣を…雄叫びと共に一気に振り払った。

 

「はああああぁぁァッ‼︎‼︎」

 

それと同時にユージオの右腕…そしてその先は一瞬で氷の世界へと変貌していく。今まで使用した武装完全支配術や記憶解放術など比にならない攻撃に闇の軍勢はおろか、アリスたちでさえ恐れ慄いてしまった。

今まで戦っていたはずのゴブリンやジャイアント族は即座に凍り付き、その10秒後には砕け散った。更にそれにより放出されるはずの空間神聖力も凍り付き、完全な無へと変貌する。

それを見たベルクーリは思わず呟いた。

 

「あれは…アウェイキング・メモリーズ…」

 

と…。

 

 

 

 

 

 

 

しかし…その凍結攻撃も暗黒界の王…ベクタの前で止まっていた。

いや、その目の前で凍結が謎の空間によって食われていたのだ。

更に軍の3分の1を消されたのにも関わらず、ベクタとその部下は顔色を変えなかった。

 

「…詰まらん技だ」

 

ベクタはそれだけ呟き、傍に置いてあるワインを一口飲むのだった。

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