ソードアートオンライン Monster Hunter World   作:GZL

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最近1話1話が長くなりがちだなあ…。


第40話 月夜に輝く幻影

ユージオの大技によって…最初攻めてきていた暗黒界の前衛はほぼ壊滅した。氷の上を歩いてこちらに渡って来ようとする者もいたが、足が氷に触れた瞬間に身体が凍り付いてしまい、奴らの侵攻を防いでいた。

その光景に圧巻される人界軍だったが、その十数秒後には歓喜の悲鳴が舞い上がった。

だが…それを放ったユージオはそのまま倒れてしまう。

 

「ユージオ‼︎」

 

アリスとイーディスは即座にユージオの元へと駆け寄る。

ジャイアント族の長から受けていたダメージもあるが、剣を握っていた左腕は完全に凍結していた。アリスはすぐ様治癒術を施そうとするが、ユージオの技で空間神聖力が凍結されてしまい、中々に治療が進まない。

 

「イーディス、ユージオをお願い…!死なせないで!」

 

「当たり前じゃない!」

 

イーディスは緑姫の上に意識のないユージオを乗せると全速力でこの場を去った。

1人残されたアリスは、少々後悔していた。

自分の責務はこの地帯に溜まった空気神聖力を根こそぎ奪い、相手に向けて放つという作戦だったのだが、ユージオの負傷に冷静さを欠き、その責務を放置してしまった。ユージオの謎の大技が神聖力をも凍り付かせ、無力化する能力が無かったら、今頃敵軍の神聖術を受けることになっていただろう。

 

「…ユージオが負傷したくらいで、動揺しちゃダメだ。もっと冷静にならないと…。それにしても…」

 

アリスは前方に広がる氷の世界を見る。

敵の姿は跡形もなく消え去り、霜が舞っていた。

アリスが知る限り、ユージオはあの時詠唱していたわけではない。

ただの一振りでこの技を解き放ったのだ。

 

「あれは一体…」

 

「アウェイキング・メモリーズだ」

 

後ろから大剣を引き摺るベルクーリが姿を出した。

 

「アウェイキング・メモリーズ?」

 

「別名を記憶覚醒術、武装完全支配術や記憶解放術を更に超える技…。ただ、他の2つと決定的な違いは術式詠唱の必要がないことだ。心の中で思うだけで…すぐ様発動する。まあ、剣の天命値や自身の身体にかかる負荷は相当なものだがな」

 

「でも、どうしてユージオがそれを…」

 

「さあな、実際整合騎士で記憶覚醒術を行使できるのは、俺だけだ」

 

それを聞いた途端、アリスは目を丸くする。

アリスが師と仰いでいるベルクーリしか出来ないはずの術を今回の戦いで披露したユージオ…一体どうやったのか…。

 

「ユージオがその術を使えた理由…何となく分かるわよ」

 

そこにイーディスが戻ってくる。

 

「イーディス…ユージオは?」

 

「大丈夫、命に別状はない。ただ、左腕の凍傷が酷くて、少なくとも今日はもう戦えないわ」

 

「そう…良かった…。それで、どうして分かるのです?」

 

イーディスは腰にかかる黒剣を指差した。

それだけでアリスはもう予測がついた。

 

「この剣が唐突に輝いて、その光がユージオのいる方向へと飛んで行った。まあ…またキリトが力を貸してくれたのでしょうね」

 

「キリト…」

 

(また…助けられちゃったわね…)

 

そんなことを思っていると、不意にガサっと足音が3人の耳に入る。

その方向に目を向けると、そこには身体の7割が凍結して…今にも息絶えそうなオーガが1体…姿を現したのだ。

 

「お前……そこのイウムの…女…」

 

今にも固まりそうな左腕でアリスのことを指差すオーガ。

何か聞きたいことがあるようだ。

 

「お前…が…皇帝様が…言っていた…『光の巫女』…アリス…か?」

 

「『光の巫女』?」

 

ベルクーリはそう返す。

イーディスは剣を抜き、すぐに止めを刺そうとするが、それをアリスは止めた。

 

「イーディス、ちょっと待っててください。そうです、私がアリスです。私に何の用です?」

 

「お前を…皇帝のところへ持っていけば…戦争…終わる…」

 

そう話しながらも、彼の身体は徐々に凍り付いていく。とうとう歩けなくなった彼は膝を着き、寒さに震える口で続ける。

 

「お前連れて行けば…この無益な戦争…が……」

 

「…もう長くないでしょう。最後の望みくらいは聞きます」

 

「故郷の……草原……かえり…た……」

 

そこまで言って、彼の身体は完全に凍結し…すぐに崩壊した。彼の魂をせめて、生まれ故郷の草原飛ばそうと思ったが、それを凍りついてしまう。

改めて強力な技だと思えたが、同時恐ろしい技でもあると認識された。

だが、彼から重要なことも聞くことが出来た。

 

「『光の巫女』…。それが敵の狙い…」

 

「そんな奴はいねえけどな、この世界に…。闇の皇帝とやらは何を考えているのやら…」

 

「…とにかくまずは負傷兵の治療に当たりましょう。この攻撃を受けて、相手も無事ではないはずです」

 

ベルクーリとイーディスは頷き、一旦前線から退く。

去り際、アリスは『光の巫女』たる者が自分なのではないかと思っていた。いや…そう思えてならなかった。

 

 

 

 

 

大量の人員…いや、暗黒術士団の長のディー・アイ・エルからすれば、亜人はもはや道具としか見ていなかったが、そればかりか自身の忠実なる暗黒術士団も約半数があの凍結によって命を落としていた。

ディー自身も攻撃を受ける寸前であったが、闇の帝王ベクタが謎の力で氷を止めなければ…命を落としていたことだろう。

救われたことに安堵する一方で、ディーはすぐ様ベクタの前で土下座した。

 

「申し訳ありません!皇帝様…!」

 

「………」

 

ベクタはディーをほぼ見ていない。見ているのはずっと正面の虚空…何も興味ないといった無の眼光を向けているだけだった。

 

「我ら暗黒術士団の詠唱で奴らを叩き潰すはずが…その源である神聖力も謎の凍結で使えず…私の作戦不足でございます‼︎」

 

「…ほう」

 

ベクタは立ち上がる。そして…唐突にこんな質問をしてきた。

 

「その源は…どこで蓄えられている?」

 

「え?」

 

「さっさと答えろ」

 

先程と打って変わって、冷徹な視線が向けられ、ディーは悪寒を感じながらも必死に答えた。

 

「ほ、本来であれば、ソルスなどの陽光…または我々の命が消えた時に…神聖力は放散されます…」

 

それを聞いたベクタは自身が乗る巨大な馬車の横で出陣準備をしているオーク族を一瞥し、こう言った。

 

「良い餌があるじゃないか、私たちの横に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アリスたちは遊撃部隊を編成していた。

動ける整合騎士、アリス、イーディス、シェータ、そしてベルクーリで敵陣営に突っ込み、奇襲をかけるというものだ。本来は『光の巫女』だと推定されるアリスが、自ら単身で行くと言ったが…もちろんベルクーリやイーディスがそんなことを許すはずがなかった。

 

「俺も行くぜ、戦い足りねえからな」

 

そう言われては、アリスも断ることが出来なかった。

アリスは飛竜に乗る前に、後方の場所で安静にしているユージオの元を訪れた。

 

「遊撃…部隊?ダメだ、アリス…危険すぎる」

 

「大丈夫です、敵の方に神聖力はほとんどありません。術が撃たれることもない今が、奴らを叩く最善の方法です」

 

「でも…!うっ…⁉︎」

 

左腕を抑えるユージオに、ティーゼが優しく支える。

 

「まだ動かないでください、先輩…。左腕は凍傷で腐り落ちてもおかしくなかったんですから…」

 

少なくともユージオの身体のダメージは相当なものだ。

そこまで身体を張ってみんなを守ってくれたユージオに、これ以上の無茶はさせられない、とアリスは思っていた。

 

「アリス、行くわよ」

 

イーディスの声にアリスは小さく頷き、立ち上がる。

心配そうにアリスを見詰めるユージオにイーディスは言う。

 

「大丈夫よ、いざとなったら私が守るから。それに…」

 

イーディスは2人に聞こえないほど小さな声で呟く。

 

「あなたたちを守ることが、彼との約束だしね…」

 

「イーディス、今なんと?」

 

「何でもないよ、さあ行きましょう」

 

イーディスは明るく笑いながら、さっさと馬車から降りる。

その跡をアリスは追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛竜に乗り込んだ4人は一気に敵陣営へと突っ込む。

もう時間も夜で、照らすのは薄暗い雲の隙間から溢れる月の輝きだけだった。真っ暗な渓谷を進んでいると、不意に前方が妖しく光り出す。

 

「何?」

 

「!あいつら…なんて事を…!」

 

ベルクーリが見たもの…それは、何千人というオーク族を生贄に生み出した神聖力で作り出した何百匹という 噛生虫(げっせいちゅう)だった。それは今か今かと解き放たれる刻を待っていた。

このままアリスたちが突っ込めば、間違いなく奴らの餌食になるだろう。ベルクーリはすぐに叫んだ。

 

「今すぐ旋回しろぉ‼︎奴らが俺たちを標的にするように、上昇するんだ‼︎」

 

その指示通りに急上昇を開始した。それと同時に噛生虫どもが解き放たれた。最初はそのまま直線的に進んでいるかのように思われたが、すぐ様アリスたちを標的にする。迫ってくる速度も凄まじく、飛竜を全速力で飛ばしても追いつかれてしまいそうだった。

 

「まずい…!」

 

それを見たアリスは剣を抜く。

即座に剣に炎を纏わせたが…幾分数が多い。

この一撃で全てを消し去ることは至難だ。

 

(一か八か…!)

 

アリスが剣を振るおうとした時、前方からまた別の飛竜が飛んできた。それは遊撃部隊に召集されなかったエルドリエだった。

 

「まさか…あいつ!」

 

エルドリエの意図を読み取ったイーディスは飛竜の速度を上げ、急上昇しているエルドリエの飛竜のすぐ横についた。

 

「エルドリエ‼︎まさか無駄死にするわけじゃないわよね⁈」

 

「無駄死にではありません‼︎皆を…アリス様を生かすために、私の命など…!」

 

「ふざけたこと…言ってんじゃないわよッ‼︎」

 

イーディスは飛竜を回転させ、その尾でエルドリエの飛竜の腹に重めの一撃を与えた。それを受けた飛竜は地面へと落下し、そのまま動けなくなってしまう。

 

「こいつらは私がやる!エルドリエがわざわざ命を捨ててまでやる相手ではない‼︎」

 

「くっ…イーディス殿‼︎危険です‼︎」

 

エルドリエの叫びの通り、噛生虫は標的をエルドリエからイーディスに変えていた。イーディスが持つのはアリスから譲ってもらった黒剣のみ…。火炎を放てる緑姫とはいえ、あの量を殲滅するには無理がある。

 

「…強がってみたけど…ここまでかな」

 

だが、何もしないよりは良い。

イーディスは黒剣を抜き、奴らに構える。

 

「来い‼︎薄汚い蟲たちめ‼︎」

 

一気に拡散した噛生虫がイーディスに襲いかかる。

 

「「イーディスッ‼︎」」

 

エルドリエとアリスがほぼ同時に叫ぶ。

その時、黒剣が再び輝く。それと同時にイーディスの姿が消える。

 

「えっ…」

 

突然の事態にアリスも呆然とする。

アリスだけじゃない。イーディスを狙っていた噛生虫も彼女を見失い、辺りをウロウロしている。

イーディスという餌が消えたことで、再びアリスたちが標的になる。

だが…奴らが翅を動かし始めたその瞬間…!

 

 

「エンハンス…アーマメント」

 

 

イーディスの静かな詠唱が…月夜の空に響いた。

それと同時に降りかかる無数の紅白色の斬撃。

斬撃は的確に噛生虫の周囲を取り囲み…無惨と言える程にバラバラにしてしまった。

一瞬に出来事に呆然とする人界軍。

そして…月明かりから見えた姿に、アリスは叫んだ。

 

「イーディスッ!」

 

そこには…紅色に輝く純白の剣を携えた、イーディスの姿があった。

 

「…ふう、どうにかなったね」

 

「イーディス、無事で何より…。その武器は…」

 

「突然出てきたの、何でか分からないけど」

 

イーディスの持つ剣を見たアリスの第一印象は、凄まじい切れ味を誇る…ということだろうか。刃の周りに漂う紅色のオーラは、アリスの剣をも上回る。

何はともあれ、イーディスが無事と分かって嬉しい限りであったが…それと同時にこんな目に合わせた暗黒界の軍勢に敵意が向けられる。

 

「…アリス、行こうか」

 

それはイーディスも同じだった。

 

「赤王…」

「緑姫…」

 

「「全速突撃ッ‼︎」」

 

2人は誰にも言うことなく、即座に暗黒界のテリトリーへと突っ走っていく。そこでは大量の神聖力を注ぎ込んで完成させた噛生虫たちを意図も簡単にやられたことに…ディーは激しく動揺していた。

 

「馬鹿な…!あれだけの量を…そんな一瞬で…⁈一体…どうやっ…‼︎」

 

その時、ディーの視線に2体の飛竜と、2人の整合騎士が視界に入った。

 

「退避…!退避せよ…‼︎」

 

暗黒術士団は一斉に悲鳴を上げて逃げ出すが、そんなことを許す2人ではない。飛竜たちは火炎を吐き、アリスも記憶解放術を放とうとする。

 

「待って、アリス。残りは私がやる。あなたは剣の天命値を温存する方がいいわ」

 

「…それなら、任せます」

 

イーディスは再び純白の剣を抜き、詠唱を口ずさむ。

 

「リリース・リコレクション」

 

その言葉と同時に剣を振るった瞬間…斬撃の竜巻が発生し、周回のものを全て吸い込み始める。それを見たディーは絶望したような表情を浮かべる。吸い込まれた者は骨が一片たりとも残らない程に切断され…この世を去っていく。

 

「あ…ああ…あああああぁぁ…」

 

恐怖のあまり言葉すら出ないディーもとうとうその餌食となる。

こうして…ディーを始めとした暗黒術師団は、壊滅した。




【補足1】
記憶覚醒術『アウェイキング・メモリーズ』
武装完全支配術、記憶解放術を超える高難度の技。
この術の最大の特徴は『詠唱が必要ないこと』。心の中で思うだけで、その技を発動することが出来る。だが、発動するには剣と心が完璧に通い合い、相当な熟練者であることが条件である。ここで言う『相当な熟練者』はアリスといったトップレベルの整合騎士でも扱えないレベル。
ただ、発動すると相当なデメリットが発生する。まず、自身の天命が大幅に減少…それと同時にどこかの部位が欠損する恐れがある。他にも剣の天命値が大きく減少する。それ故に他の2つと異なり、連発することはほぼ不可能である。

【補足2】
冰龍の剣:記憶解放術『崩絶凍(ほうぜっとう)
記憶解放術『絶凍』の完全上位互換。ただ、凍る範囲が尋常ではないくらいに広がっている。実際、ベクタがあそこで止めていなければ、暗黒界の軍勢は全滅はおろか、その先も永久に融けない絶対零度の世界となっていた。
更に空間中に漂う神聖力、死んだ時に放出される神聖力…これらを例外なく凍結させる。これにより神聖術の行使を完全に遮断出来る。
ただ…まだユージオは半分暴走気味で発動したもので、左腕が凍傷で失いかけ、剣の天命値も限界まで使ったため、完全にコントロールは出来ていない。

【補足3】
イーディスの新たな剣『月迅(げつじん)剣』
イーディスの覚悟を読み取って、キリトの黒剣が生み出した剣。
刀身は真っ白な純白、周囲に紅色のオーラが漂っている。
元ネタは月迅竜ナルガクルガ希少種とFで登場した極み駆けるナルガクルガ。正直…モンハンで日本刀と言ったらミツネなんですけど…それは出してるし、つい最近出た希少種が火属性で、アリスと丸被りなので彼らを採用しました。

【補足4】
月迅剣:武装完全支配術『迅鼬(じんゆう)
月明かりを利用して自らと自身が触れてるものを透明化することが出来る。更に剣のを振った先で紅白色の鎌鼬が発生する。この鎌鼬はガードが不可で、一瞬で相手の命を奪える。
ただ、透明化は夜でないと発動しない。

【補足5】
月迅竜:記憶解放術『大迅鼬(だいじんゆう)
透明化は出来ないが、鎌鼬を利用した巨大な竜巻を発生できる。
更に吸引力もかなりのもので、逃げ切ることは非常に困難。ただ、この切り裂く竜巻は一度に2個しか置けない。


久しぶりに後書きが長くなってしまった…。
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