鼬の道をまた2人で   作:ヤンデレ大好き星人

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4. 不要な過去

 同じ学校に千佳が通っていた。

 

 親同士ですら連絡を取らなかった事が裏目に出た。同じ学校を受験していた事も把握出来なかった。

 

 それにしても、千佳の学力でどうやってここに受かったのだろうか。

 昔の彼女は忘れっぽく、宿題をやってこなかったり、よく教科書を忘れていた。

 加えて俺のことばかり考えていたせいで、成績も芳しくなかった。

 

 

 

 千佳が部室に来た後、俺は用事があるとだけ伝えてそのまま帰った。

 黙って帰るのは失礼だと分かっているが、その時はあまりに混乱していて何かを考える余裕がなかった。

 

 怒らせる事をしたのかと気にしていた千佳に、泉さんは「彼、人見知りだから」と言ってフォローしてくれていた。

 また泉さんに助けてもらってしまった。

 

 千佳の口ぶりから推測するに、まだ記憶が戻っていないようだ。しかし、なにが切っ掛けで戻るか分からない。俺が近くに居るなら尚更だ。

 

 いつかは記憶が戻るかもしれないが、その時俺が近くにいたら辛い想いをするだろう。

 彼女の両親だってそう考えて、俺達を引き離したんだ。

 

 とにかく千佳とは、関わらないようにしよう。

 彼女は何も覚えていない。だから俺から接触しなければ問題ないはずだ。

 

 

____________________

 

 

 

 いつも通りの昼休み、購買で買った適当な弁当を一人で食べている。

 

 友達のいない俺が食事中にする事と言ったら、考え事ぐらいだ。そしてやはり千佳のことを考えてしまう。

 記憶がない千佳にとって俺は、他人同然なんだから気にしたって仕方がない。それでもやり所のない感情が、思考を曇らせる。

 そんな感じでぼうっとしていると、話した事のないクラスメートに声を掛けられた。

 

「おい柊木、呼ばれてるぞ」

 

 提出物でも忘れて、教師に呼ばれでもしたのだろうか。

 

 教室の入り口を見るとーー

 

「あ、いたいた。やっほー」

 

 ……なんで千佳が居るんだ!

 まさか記憶が戻ったのか?

 

 冷や汗が止まらない。

 もし記憶が戻ったとして、彼女が今伝えようとしている事が分からない。

 もう俺の事なんてどうでも良いと思っているのだろうか。それとも怒っているのだろうか。

 

 行きたくない。しかしいつまでも教室の前に立たせている訳にもいかない。

 

 心の準備が出来ていないまま、千佳の手招きに従い廊下に出た。

 

「何か……用か?」

 

「えっと、あの部活に入りたいなら君を説得してって、石塚先輩に言われたんだけど」

 

 泉さん、まさかの丸投げか。

 

 いや、仕方ないか。泉さんには俺の過去について話しているが、名前は伏せていたんだ。

 あの話から千佳のことを推測出来るはずがない。

 

 一番の懸念点だった記憶については、まだ戻ってはいないようだ。

 

 とにかく千佳が部活に入るのは駄目だ。

 

 今の千佳を見て確信した。

 俺と付き合っていた頃とはまるで違う。活発で明るい、本来彼女がなるべき姿だ。

 

 薄化粧ながらくっきりした顔立ち。昔と変わらない外はねの癖毛は、顔が小さいせいか今は体とのバランスが取れている。

 スタイルだって昔とは違う。

 本当に綺麗になっていた。

 それにこの性格だ。きっとクラスでも人気があるのだろう。

 

 だからもう、俺の記憶なんて邪魔になるだけだ。

 

「ダメだ。そもそもあの部に入ってもしょうがないだろう」

 

「うーん。どう説明したらいいんだろー。とりま放課後ファミレスでも行ってゆっくり話そっかー」

 

 千佳は俺の話も聞かずに「じゃあまた放課後~」と言って走り去ってしまった。

 

 勝手に約束をされてしまった。思えば昔もそうやって連れ回されていた。

 

 記憶なんてなくても千佳は千佳だった。

 

 

____________________

 

 

 放課後、俺と千佳は学校近くのファミレスで向かい合って座っていた。

 

「でねー、私結構前から記憶ないんだー」

 

「そうか」

 

「だからなにか思い出す切っ掛けないかなーって思って、全部の部活見学したんだけどダメだったー」

 

 やはり記憶は戻っていないようだ。

 だったらどうして俺の居る部活に入りたいだなんて言うんだ。

 

「お前の求めるものは多分、あの部活にはないぞ」

 

「でもなんか、気になるんだよねー」

 

 本人も理由が分かっていないようだ。

 

 千佳はその後も、失った記憶について話していた。その表情からは、なにかを尊ぶような憧れを感じた。

 もしかしたら失われた過去に、輝かしいものがあると思い込んでいるのかもしれない。

 

 そんな千佳を見ているのが辛くなってきた。

 

「なんか持ってきてやるよ」

 

 ここをどう切り抜けるか考える時間が欲しくて、彼女の分のドリンクも持ってくると言って席を離れた。

 

 

 

「紅茶でいいだろ」

 

 千佳の前にカップを置く。

 俺の持って来た紅茶を見て、彼女は目を丸くして驚いていた。

 

「ミルク2つにステックシュガー1本……よく分かったね」

 

 しまった。

 考え事をしながら選んだ結果、無意識に千佳に合わせた組み合わせを持ってきてしまった。

 

 味覚も昔と変わってないのか……。

 

「キミ、本当に私の知り合いじゃないの?」

 

「……偶然だよ」

 

 危ない。やはり千佳とこれ以上一緒にいるのは危険だ。

 

「どうしてそんなに過去に拘る。いいじゃないか。今が楽しければ」

 

「うん。でもね、多分好きな人がいたんだ私。みんな隠すけど」

 

 どういうことだ?

 千佳の両親は、俺の手掛かりを全て処分したはずだ。なにか残っていたものがあったのか。

 

「……なにか根拠でもあるのか?」

 

「ううん。なんとなくそう思うだけ」

 

 頬杖をついて窓を見る彼女は、自身の感じた細かい違和感を思い出しているのかのようだった。

 

 きっと全てを隠し通すことはできないのだろう。

 持っていた服や髪型だったり、俺に合わせていたところがあったのかもしれない。そういった違和感の積み重ねが、恋という結論を導き出したのかもしれない。

 

「もしかして私の好きだった人、キミのことだったりして……なんてね」

 

 もう帰りたい。

 

 俺はこんなところで何をしてるんだろうか。

 記憶のない千佳と、いつまでも話していたって仕方がないじゃないか。お互いに別の道を進もうと決めたのに。

 

 なにか理由をつけて帰ろう。

 

「じゃ、次どこいこっかー」

 

「いや、このあと用事が……」

 

「私見たい映画あるんだー。だから映画館にしよ」

 

 店を出ても強引にひっぱり連れて行こうとする千佳を、全力で振り切って家に帰った。

 

 彼女のこういった行動は、会ったばかりの頃を彷彿とさせた。

 まるで最初から繰り返そうとしているみたいで、少し怖くなった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 長い髪をようやく乾かし終えて、私は布団の中で目を閉じた。乾くまでこんなに時間かかるなんて。多分髪を伸ばすのは私の趣味じゃないんだろう。私がこんな面倒なことをするはずがない。

 でもなぜだか切る気にはなれない。記憶をなくす前の私が、好きな人を意識して伸ばしていたんだと思う。

 こう言う違和感がずっと続いている。

 

 違和感で言うと、今日初めて話した柊木新という男子。

 ほとんど初対面なはずなのに、ずっと一緒に居たみたいに自然に話せた。

 一緒に居るのが楽しくて、つい強引に誘ってしまった。嫌われてなければいいな。

 あーあ……私の好きだった人が、柊木くんだったらいいのに。そんな都合の良い話、ある訳ないか。

 

 普段考え事なんてしないから、妙に疲れた。

 

 徐々に眠気が襲ってくる。

 

 

 ……

 

 ………

 

 

 おかしいな。なかなか寝付けない。

 寝苦しさから寝返りを打とうとしたら、体が動かなかった。

 

 しばらくすると、聴き慣れない音が聞こえてきた。

 

 

 タッタッタッタ……

 

  タッタッタッタ……

 

 

 その子供が走るような軽快な音は、だんだんと近づいてくる。

 

 

 ……

 

 

 音が止んだ。

 

 私は怖くなってゆっくりと目を開けた。

 

 

 

 目の前には顔があった。

 

 長い髪が覆いかぶさるように、じっと見下ろしている。

 

 でも恐怖は感じなかった。

 

 なぜならーー

 

「昔の……私?」

 

 見下ろしている少女が、私に似ていたからだ。

 

 

 ……ツ……タ……

 

 何かを言っている。でも声が小さくてよく聞こえない。

 

「なに?聞こえない」

 

 

 ……ツ…ケ……ミ……

 

 

 少女は口をぱくぱくと動かして何かを言っている。

 もしかしたら、記憶を取り戻す手がかりを伝えにきてくれたのかもしれない。

 

 そうして私は静かに彼女の言葉に耳をすました。でも最後まで何を言っているのか分からなかった。

 その後の事は覚えていない。そのまま眠ったのかもしれないし、そもそもただの夢だったのかもしれない。

 

 

 

 

 ……ケ……タ……

 

 ノ……ラダ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ミ…ツ…ケ…タ

 

 

 

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