鼬の道をまた2人で   作:ヤンデレ大好き星人

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7. 恋人

 柊木 新。

 

 最近は彼のことばかり考えている。机に座りながら、何をするでもなく。

 ふと時計が目に入る。もう夜中の12時か。この時間までの意識が飛んでいたみたいな感覚だった。

 

 両腕を上げ体を伸ばすことで頭を切り替えるも、気を抜くとまた彼のことを考えてしまう。

 

 明日も学校で会えるのに、今すぐにでも会いに行きたい。

 

 もう分かっている。私はアラタが好き。

 記憶を無くす前の私には、好きな人がいたのかもしれない。でもその人は、今私の側にはいてくれていない。

 だから今側に居る人と、真っ直ぐ向き合いたい。

 

 だから私は、明日も彼に会いに行く。

 

 

____________________

 

 

 昼休み、アラタの教室に行くと、彼はもう席を離れていた。

 とっくに気付いてる。私は彼に避けられている。

 

 泣きたい。

 

 一緒にいる時は、すごく楽しそうなのに、彼は時々悲しそうな顔をして、また距離を取ろうとする。

 

 気持ちが晴れないまま、とぼとぼと廊下を歩いていると、一人の女子生徒が私を引き止めた。その少しぽっちゃりとした女子生徒は、私に話があるのだと言った。

 そうして廊下の壁に腰掛けながら、私は彼女の話を聞いた。

 

「私のこと覚えてる?」

 

「ごめん、わかんない。もしかして知り合い?」

 

「記憶喪失って本当だったんだね……。ほらこれ、修学旅行の写真。離れてるけど、私とあんた映ってるでしょ」

 

 そこには昔の私が映っていた。

 間違いない。昔の知り合いだ。こういう人、久しぶりに会った。

 確かクラスは違うけど、同じ学年だ。

 

「私のこと知ってるなら、どうして話しかけてくれなかったのー?」

 

「だって私たち別に友達じゃなかったし。あんたイケてる女子グループだから話しかけにくいもん」

 

 私は話しかけにくいグループに属していたようだ。

 

 少しショック。

 

 でもだったらどうして、こうして声を掛けてくれたんだろう。

 それを尋ねると、彼女は私と同じように壁に腰掛けて言った。

 

「なんか見てられなくてさ。口止めされてたんだけどね」

 

「口止め?誰に?」

 

「……柊木新だよ」

 

 思わぬ名前が出てきて、瞬きを忘れてしまうほど驚いた。

 

 もしかして、アラタって昔の私の知り合い……?

 

「な、なんでアラタが」

 

「だから、あんた達さ、恋人だったじゃん。ほら、あんたの隣に写ってんの柊木新だよ」

 

 写真を見ると、確かにアラタに似た少年が私の隣に写っていた。

 

 ……え?

 

 じゃあ私の好きだった人って、アラタ……なの?

 

 うそ……どうしよう。

 

 嬉しいような、でも隠されていたことが悲しいような、とにかく混乱している。

 

「だってあんた達、あんなにラブラブだったじゃん。なのに記憶喪失のあんたに、それ教えないって酷くない?」

 

 それから先の彼女の話は、よく聞こえなかった。

 アラタが私の恋人だった。その事実だけで心がいっぱいだった。

 

 どうして?どうしよう。よく分からない。

 本当にどうして彼は、自分が恋人だったことを黙っていたのだろう。

 

 理由はともあれ、とある事実に気付いてしまった。

 

 なんらかの理由で記憶を無くした私。そんな恋人を、アラタは近くでずっと見守ってくれていた。

 きっと学校で出会ったのも偶然じゃない。

 

 本当にどうしよう。心臓が爆発しそうなくらいドキドキ鳴ってる。

 

 私は勘違いをしていた。

 好きな人がいたんじゃない。これが恋なんてもののはずがない。

 言葉で表せない、もっと積み上げてきた何かだ。記憶を失っても、私は彼を好きなままだったのだから。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 最近、知らない生徒に話かけられることが増えてきた。

 

 それは千佳が俺に会いにくるせいだろう。

 彼女は外見や性格から、男女ともに親しみを持たれているようだ。千佳が俺の話を誰かにするから、変な親近感を持たれてしまった。

 今日だって知らない女子生徒に、廊下ですれ違ったタイミングで挨拶をされた。恐らく千佳の友人だろうが、知らない人に話しかけられると、とっさに返事が出来ないから困る。

 

 今日もまた昼休みに千佳が来た。クラスメイト達は俺達の方を見ては、クスクスと笑って何かを話している。悪気はないんだろうが、地味に傷つく。

 

 教室に入って来た千佳を席に座ったまま見上げる。なぜだかいつもと様子が違うように感じる。

 

「ぎゅ~っ」

 

 そう言って、千佳は突然俺にのしかかってきた。

 

 意味が分からなすぎる。

 

 クラスの連中もさすがに驚いて俺たちに注目している。

 

「おい、なんなんだ」

 

「えー、いいじゃーん」

 

 余計に腕に力をこめて、抱きついてくる。

 それを押し返そうとするが、しつこくくっついてきた。

 

 クラスの女子が俺達、というよりも千佳を茶化すように言った。

 

「あれー、もしかして2人ってもう付き合ってるの?」

 

 やはり誤解されていた。

 否定しようとすると、千佳が先に口を挟んだ。

 

「うん。そうだよー」

 

 

 待て。

 まさかお前ーー

 

「お前、記憶が……!」

 

 俺の反応を見て、千佳は不敵な笑みを浮かべる。

 

「やっぱり本当だったんだ。同じ学校だった人から聞いたんだー。私達が恋人同士だって」

 

 ……嘘だろ。口止めはしたはずだ。いったい誰から。

 

 いや、違う。客観的に見たら、千佳に肩入れするやつが出てくるのも当然だ。

 記憶を失う前の恋人が、理由も分からず過去を隠している。そして事情も聞かされていないとなると、千佳に同情する気持ちも分かる。

 

 誰かのせいにしても仕方がない。ここは冷静になるべきだ。

 それにクラスの連中が騒いている。とにかく場所を変えよう。

 

 

 

 俺は千佳の手を引っ張り食堂に連れて来た。

 

 千佳は俺の前の席に座り、机に肘を掛けて微笑みかけてくる。秘密がバレた俺が、どう反応するのか楽しんでいるようだ。

 

「ねぇねぇ、なんで隠してたのー」

 

「それは……」

 

「まぁいいやー、きっと色々事情があるんだろうし」

 

 千佳が昔のことを聞かないでくれたことは正直助かった。だがまだ思考がまとまっていない。彼女にどう説明したものかと未だに迷っている。

 

「事情は聞かないであげるー。でもその代わり、もう私を避けないでね」

 

 脱力した喋り方をする彼女だが、『避けないでね』の部分だけは、妙に力がこもっていた。

 

 本当のことを全て話したほうが良いのだろうか。

 今の千佳なら大丈夫かもしれない。

 

 分からない。

 また昔みたいに壊れてしまうかもしれない。

 

 そう思うと、自然と口が動いていた。

 

「わかった」

 

 ここは承諾するしかなかった。

 だが問題を先延ばしにしているだけで、何も解決していない。このままだと記憶を取り戻すか、記憶が戻らないにしても昔の状態に戻ってしまうかもしれない。

 とにかく、このまま恋人を続ける訳にはいかない。

 

 

____________________

 

 

 千佳は放課後の部活にもついてきた。

 部室に堂々と入ってきた千佳を見て、泉さんは戸惑っていた。

 

「新くん、どうしてこの子がここにいるのかしら」

 

 泉さんは俺に尋ねていたが、千佳が割り込んで返事をした。

 

「見学でーす」

 

「見学はもうしたでしょう」

 

 泉さんは少し苛立ったように言ったが、千佳はそれを無視した。そして部室を見回す。

 

「アラタ、やっぱ帰ろー。ここなにもないし」

 

 俺が通っている部活だったから興味を持った千佳だったが、彼女にとって興味を引くものはなかったらしい。

 

 すっかり部室に飽きてしまった千佳は、俺の腕を掴んで部室を出ようとする。

 泉さんは俺に説明を求めるよう目線を向けた。

 

「悪い泉さん。事情は後で……」

 

 最後まで話す前に、千佳に腕をひっぱられる。俺はとにかく後で説明するとだけ言ったが、泉さんは納得していないようだった。

 

 泉さんに対する千佳の態度は最悪だった。

 初めてこの部室に来た時とは明らかに違う。まるで俺のことしか見ていない昔の千佳のようだった。

 

 そんな千佳を泉さんは鋭く睨みつける。こういう顔をする彼女を、俺は見たことがなかった。明日しっかりと事情を話さなければならない。

 

 

 

 それから1日経って、泉さんは、俺と千佳が付き合っているという噂を耳にすることとなった。

 

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