龍脈の申し子も異世界へ来るそうですよ 作:ナタルア
吉田松風という男を創り上げたのは、父である吉田松陽と彼の弟子たち。それから、故郷と胸を張って言える町の人々達。
特に影響を受けたのは、銀色の侍か。
兄貴と慕い、その背を追って育ってきた。
だからだろうか、何でも一人で背負いこもうとする兄貴分のように彼もまた一人で何とかしようとしてしまう。
そんな彼は、ここ箱庭で似たような気質の少年と出会った。
「「…………」」
場所は、“サウザンドアイズ”の支店へと通じる並木道。というか、店の前で相対する事になった。
「……何やってんだ?Mrヘッドホン」
「それはこっちのセリフだぜ、松風」
「俺は、アレだよアレ。ちょっと甘い物でも買いに来たんだ」
「なら、あの“六本傷”の喫茶店で良いだろ」
「たまには気分も変えたいってもんだ。で?そっちはどういう用件なんだ?」
「こいつを返しに来たのさ。白夜叉にな」
そう言って、十六夜は小脇に抱えた機材を見せる。
ペラペラと言葉を交わしながら、しかし二人は互いの要件を分かってもいた。というか、このタイミングでこの場所に来るなど用事は一つしかない。
「…………まあ、何だ。考える事は一緒って事だろ」
「…………だな」
問題児だからといって、手の届く範囲の知人を無視する事など出来はしない。
しかもそれが、この箱庭へとやって来て何度となく世話になっている黒ウサギの事ならば猶の事。
十六夜も松風も、指摘されたとしても否定する事だろう。それでも、二人の性根が善性であるという事を否定する材料にはならない。
「俺は頭が良くない。攻め口が分からねぇ」
「なら、何でここに来たんだよ」
「コミュニティの潰し方は知ってるからだ。ガルドの件は、良い教訓になった。つまり、相手がギフトゲームを拒めない状況を作れば良い訳だ」
「ああ、その通りだ。ここで重要なのが、相手が“ペルセウス”って事だな」
「……その辺りは、よく知らねぇ」
「要は、この箱庭では神話がそのまま意味を成すって事だ。この場合は、ペルセウスの神話だ。ゲームを試練と見立てるのなら、幾つか成り立つだろ」
「そのゲームの中に、“ペルセウス”そのものを引きずり出すもんがあるって事か」
「その答え合わせをここにしに来たのさ」
「――――ご歓談は終わりましたか?」
第三者の冷たい声。見れば、店から出てきた女性店員が白い目で二人を見ていた。
「ここは“ノーネーム”お断りです。御帰りください」
「まあまあそう言ってくれるなよ、お姉ちゃん。俺達は、この店のオーナーに話があるんだからさ」
「そういうこった。こいつも返さなくちゃならないんでね」
「でしたら、私の方からお返しします」
「いやいや、借りた手前自分で返しに行くのが筋ってもんだろ?」
十六夜が女性店員とやり取りをする中、その隣を松風が抜けようとするが、そちらも視界の広い女性店員に止められる。
「あまりにしつこい様なら、出禁にしますよ?」
「そう言うなって。俺達はただ、白夜叉に用があるだけさ。店で買い物なんてしねぇよ」
「そういう問題では――――」
「何の騒ぎだ?」
店先で揉めていれば、本命が現れた。
女性店員は眉間を揉み、問題児二人はニンマリ、と。
「よお、白夜叉。借りた物を返しに来たぜ」
「律儀だの。うむ、確かに」
「ついでに一つ、聞きに来た」
「うむ?聞きたい事、とな」
「“ペルセウス”のゲームは、五つか?」
「!」
白夜叉の目の色が変わった。彼らが何をしようとしているのか察したからだろう。
「ふむ……難関とされるのは、
「そうか。機材ありがとよ」
返事は短く、十六夜は踵を返す。その後に、松風が続いた。
並木道を行きながら、話題に上がるのは今後の動きだ。
「分かったのか?」
「ゲームの数が特定できれば十分だ。“フォレス・ガロ”の件を加味すれば、本拠でやるゲームが一つ。なら、残りの二つはその本拠のゲームに繋がるものだと考えて良い」
「あの数は?」
「フェイク。白夜叉には、俺達が“ペルセウス”のゲームに挑戦する意思がある事を示せば良い。白夜叉の方も、ルイオスを嫌ってる節があるし、そこから情報がいくことは無いだろ」
「なら不意打ちできるって事か。二つなら手分けすれば一ゲームで終わるな」
内容は加味しない。十六夜は兎も角、松風は割と無鉄砲の嫌いがあるから。
時間は僅か、行動は迅速に。問題児二人は駆け出した。
*
松風が歴代相手にしてきた巨大な相手は、宇宙生物が大半を占める。一度、どこぞのハゲ坊主に“えいりあんばすたー”見習いとして宇宙に連れて行かれた事もあったり。
何故そんな話題を出すのか。要するに、吉田松風にとって体の大きさなど何のアドバンテージにもならないという事だ。
『……!?』
「悪いな、デカ蛸。この宝玉は貰っていく」
全身びしょ濡れになりながら、松風の左手には一つの宝玉が握られていた。
彼の後方では巨大な蛸のような烏賊のような、とにかく海の怪物“
ただデカいだけの烏賊蛸など相手ではない。相手ではないのだが、少し松風は気になる事があり先を急ぎながら右拳を握って、開いた。
(力が上がってる、か?)
駆け出しながら、考える。
兆候はあった。父親である
不死性のみならず、身体能力なども上がっている。
しかし、それだけではない様に彼は自身の体の変化を感じていた。
「…………まあ、良いか」
一言呟き、走る速度を上げる。
自分が何者で、どこの誰であろうともやるべきことは変わらない。やりたい事は変わらない。
砂埃を巻き上げる様に駆け抜けて、程なく。見慣れた門構えとその先の廃墟群が見えてきた。
「あ……」
ついでに、遠くに見慣れた金髪も見えた。同時にそれは、この半ば競争の様になった宝玉ゲットにおいて松風の負けを示してもいた。
マウント取られるだろうな、とゲンナリしながら足の回転を速める。
向かうのは本拠の黒ウサギの私室だ。
廊下を軽い足取りで駆けていれば、扉の半壊した部屋があった。具体的にはドアノブ辺りがぶっ壊されて扉としての機能を果たせていない。ついでに喧しい声も聞こえてきた。
「よお、お揃いか?」
部屋へと顔を覗かせれば、ポカンと十六夜の差し出した宝玉を見つめる黒ウサギの姿が。それから、飛鳥と耀も驚いた様子だ。
十六夜が入口へと振り返り、ニヒルな笑みを浮かべた。
「この勝負は俺の勝ちだな?」
「俺はテメーほど走るの速くねぇの……ったく、まあMrヘッドホンの二番煎じにはなるが、俺もお土産だ」
「……松風君も動いてたの?言ってくれればいいのに」
「まあ、時間も無かったし、な?」
若干むすくれる飛鳥に手を振り、部屋へと入ってきた松風は自身の持ってきた宝玉を黒ウサギへと差し出した。
「ほれ、バニーちゃん。お土産」
「ま、松風さんもゲームを勝ってきたんですか……!?」
「あんな烏賊蛸に負けるほど弱くねぇって…………あでも、足の一本切り取って来るべきだったか?たこ焼き食えるぞ」
「松風さんの言うそれって、
「あの程度、地元じゃありふれてる」
事も無げに言う松風だが、羽織っている流水紋の白い羽織は湿っており相応の苦労をした事は見て取れた。
二つの宝玉を胸に抱き、黒ウサギはギュッと目を閉じた。
飛鳥と耀は自分を気に掛ける子供たちとの橋渡しをしてくれた。十六夜と松風は逆転の一手を撃ち込むための手段を用意してくれた。
実に恵まれているのだろう。いや、事実恵まれている。
瞼を開けた彼女には、もう迷いは無かった。
「“ペルセウス”へと宣戦布告いたします。共にレティシア様を取り返しましょう!」
『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
吉田 松風
・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル
・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件
ホスト側のゲームマスターの打倒。
・敗北条件
プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。
プレイヤー側のゲームマスターの失格。
プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く) 人間に姿を見られてはいけない。
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、同時にゲームマスターへの挑戦資格を失う。
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うが、ゲームを続行する事はできる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』