龍脈の申し子も異世界へ来るそうですよ   作:ナタルア

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 白亜の宮殿。ギフトゲームの開始と共に、“ノーネーム”の主力たちは巨大な扉の前へと転移させられていた。

 周囲に広がるのは街並みではなく、異空間。ここは箱庭であって、既に箱庭ではない空間だった。

 

「早速、乗り込むか?」

「いえ、その前にある程度の作戦は必要です」

「姿を見られるのがアウトって事は、ペルセウスを暗殺しろって事か?ゴルゴン退治をなぞるのなら、不可視のギフトがある筈だ」

「YES。流石にルイオスも睡眠状態であるとは思えませんが、それでも宮殿の最奥に居る事は確定でしょう。そして、我々には十六夜さんの言った不可視のギフトはございません。綿密な作戦が必要となるでしょう」

「壁ぶち抜いて行くのはダメか?」

 

 木刀を抜いて宮殿を指す松風に、呆れた目が向けられた。

 

「可能かどうかは一つ置いておきまして、やはり派手な破壊行動は人を集めてしまいます。そこでジン坊ちゃんが見つかってしまえばこちらの負けとなりますから」

「それもそうか」

「ジン君を守りながら進むのなら、最低でも三つの役割に分ける必要があるわね」

 

 黒ウサギに窘めらた松風が木刀を下せば、今度は飛鳥が一歩前に出る。

 そして右手の人差し指、中指、薬指を立てて突き出した。

 

「一つ目は、ジン君と一緒に相手ゲームマスターのいる最奥迄向かう人。二つ目は、不可視のギフトを使ってくる相手の迎撃。三つめは失格覚悟の囮と露払いね」

「耳と鼻が利く春日部が迎撃役で良いだろ。不可視の敵は任せるぜ」

「うん、分かった」

「黒ウサギは、審判としてゲームには参加する事ができません。ですので、ルイオスの打倒は十六夜さんにお任せしたいと思います」

「あら、それじゃあ私と松風君が囮と露払いって事?」

「俺は構わねぇよ。最終的に勝ちゃいいんだからよ」

 

 飛鳥はムッとすれども、一方で松風は了承。

 別段黒ウサギとて、贔屓しての選出ではない。彼女は実際に十六夜が神格を持つ蛇神を打倒した瞬間をその目で見ている。一方で、飛鳥のギフトはルイオスには効き目が薄く、松風の方も実力が不透明。海魔(クラーケン)を打倒した実績があれども、神格相当或いはそれ以上の相手ともなれば立ち向かえるか分からない。

 

「そう不貞腐れてくれるなよ、お嬢様。適材適所だ、今回は俺の方が都合が良い。何より相手は()()()()()を隷属させてるしな」

「……どういう事かしら?」

「い、十六夜さん、気付かれていたのですか……!?」

 

 驚愕という文字をそのまま表情にしたかのような目で黒ウサギは、十六夜を見た。

 元々頭のキレるタイプではあると思っていたが、まさかそこまで考えが及んでいるとは思っても見なかったのだ。

 黒ウサギの反応に、飛鳥は緊張の面持ちで問う。

 

「あの外道が、魔王を使役してるって事?」

「そもそも、ペルセウスの神話通りならこの世界にゴーゴンの首は無い筈だ。アレは戦神に献上されてるからな。にも拘らず、アイツらは石化のギフトを使ってる。なら、この箱庭に招かれたのは、神話のペルセウスじゃなくて、星座としての方のペルセウスって事だ。さしずめ、アイツの首から提げられてたのが“アルゴルの悪魔”って所か?」

「アルゴルの悪魔?」

「ま、まさか……十六夜さん、箱庭の星々の秘密も……?!」

「まあ、な。この前空を見上げて推測を立てた。後は、白夜叉に機材を借りて測定したって所だ」

 

 肩を竦める十六夜に、黒ウサギは何度目かの驚愕を覚える。

 

「十六夜さん……意外と知性派なのですね」

「おいおい、俺は生粋の知能派だぜ?黒ウサギの部屋の扉もドアノブを回さずに開けられるんだからな」

「…………いえ、そもそもあの扉ドアノブついてませんでしたから。半開きの扉だけでしたから」

「あ、そうか。まあ、ドアノブが付いていようがいなかろうが変わらねぇよ」

 

 黒ウサギの頬が引き攣る。知性派と声高々でもやり口が蛮族のソレだ。暴力万歳と言わんばかりの態度には笑顔も引き攣るというもの。

 一方で十六夜は、不敵な笑みを蚊帳の外と言わんばかりに欠伸をする松風へと向けた。

 

「それはそうと松風」

「ふぁ……あ?んだよ」

「いや?さっき壁をぶち抜くとか提案してただろ?オマエがそれをできるのか、と思ってな」

「…………良いぜ、やろうか」

 

 軽い挑発だが、松風は頷き門の前へと歩を進めた。

 その手にあるのは木刀だ。言ってしまえば、木の棒きれでしかない。

 一方で宮殿の一部である門は、少なくともそこらの棒きれよりも圧倒的に堅牢で強度も高いだろう。

 攻め手の腰の刀を。そう考え、声を掛けようとした黒ウサギだがその一歩が出る前にはたとその動きは止まる。

 雰囲気が違う。ピリピリと肌を突き刺すようなそんな威圧感。ソレが今まさに、松風より発されていたから。

 構えるのは、突き。左手を前に置き、木刀を握る右手は体の後方へ。

 踏み込み、同時に捻られていた体のバネを解放し、その両方から得た力を余す事無く右腕へと伝え、尚且つ関節の回転で威力を加速。

 突きこまれた一撃は、最早木の棒と石材のぶつかる音ではなかった。

 恐ろしいのは、門扉だけでなく、()()()()()が周囲の壁の一部ごと吹っ飛んでいった点。

 突き出した木刀を肩に担いで、松風は振り返る。

 

「行こうぜ、お前ら。祭の始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強さ。その不定形の要素に明確な形を与える一つの方法に、戦闘が挙げられる。

 

「人が来る」

「ぶっ飛べやァアアアア!!!」

 

 耀が指で示した虚空へと、松風の左拳が突き刺さる。

 

「げびっ!?」

 

 それは背後からの一撃。不可視となっていた騎士は、背に受けた一撃に白目を剥くと近くの壁へと勢いよく叩きつけられ透明な壁画の様にめり込んだ。

 めり込んだ不可視の体の頭と思しき場所へと手をかけた松風は、そのまま兜をもぎ取る。すると、透明であった騎士の姿が壁の中に浮かび上がった。

 その手に入れた兜を隠れた三人へと放って、松風は前へと向き直る。

 

 飛鳥は、宮殿の正面大階段のある広場で囮となった。ここからは松風の仕事だ。

 

「居たぞ!“ノーネーム”だ!」

「残りも引きずり出せ!」

「我らに挑んだことを後悔させてくれる!!」

 

「ゴチャゴチャ、ウルセェ!!!」

 

「「「たわばッ!?」」」

 

 突っ込んできた騎士三人が、木刀の前に沈む。

 松風の振るう木刀は、兄貴分からの餞別の品。実のところ、通販でも購入可能だがその強度は通常の木刀等とは比べ物にならない。

 樹齢一万年を超える金剛樹と呼ばれる辺境の惑星に生育する樹から作られており、真剣と鍔迫り合いを可能とする強度と、人体を貫通するほどの鋭さを有している。

 ものとしては、恩恵(ギフト)相当。そこに松風の実力が合わされば、兵隊がどれだけ襲って来ようとも何の障害にもならなかった。

 

「す、凄まじいですね……」

 

 不可視のギフト“ハデスの隠れ兜”を被ったジンは、瞬く間に兵隊を薙ぎ倒していく松風の背に一種の畏敬すら滲ませて見つめていた。

 無論、十六夜もこれ位は出来るだろう。しかし、松風の場合は少し違う。

 今も後ろから振り下ろされた剣を見もせずに体を屈めて躱し。沈んだ体をそのままに後方を足払い。軸足を蹴られ横回転に宙を舞った騎士の脇腹へと背負い上げる様に振るった木刀を下から叩きつけて、そのまま背負い投げをするように自身の前方に迫る騎士たちへと投げつける。

 何というか、無駄が無い。一撃を加えたらほぼ確実に相手を行動不能にできる様に沈めていた。

 このまま兵隊を任せて良いだろう。そう考えて、耀は周囲の状況へと五感を集中させ、

 

「ッ!」

 

 濃密な血のニオイに、反射的に視線を上げた。その姿は、さながら野良猫のよう。

 だが、今の耀の雰囲気は決して茶化せるものではなかった。産毛が逆立ち、緊張状態とも言うべきか。

 そして、彼女の見つめる通路の先で暴れまわっていた松風も同じように、その独特な()()()()()を感じ取っていた。

 騎士の連中は叩きのめした。問題はその先からやって来る存在。

 その気配に、吉田松風は覚えがあった。

 

「…………なーんで、ソレがここ(箱庭)に在るんだ?」

 

 現れたのは一人の騎士。甲冑がどこか和風の雰囲気があるのもの、それ位。

 松風が見咎めたのは、その騎士が手に持った()()()()()()()

 丸い黄金の透かし鍔に、鉄色の柄紐。

 何より特徴的なのが仄かに(べに)色に見える刀身だろう。その淡い刀身の降ろされた切っ先からは鮮血がしたたり落ちていた。

 松風は、木刀を腰の定位置へと収めた。そして代わりに手をかけるのは、卍鍔の黒刀。左手で鯉口を斬る。

 

「おい、テメー。一度だけ聞くぞ。その刀、何処で手に入れやがった」

「ふっ、くく……!ああ、贄だ。贄が現れた。()()よ。お前が求める鮮血を啜らせてやろう………!」

「話聞け…………チッ、もう飲まれてるか」

 

 黒刀を抜き正眼に構え、松風は後方へと声を掛ける。

 

「お前ら、こっちは俺がやる。先に進め」

「ッ、松風さん!相手は明らかに正気じゃ――――」

「ソレも知ってる!…………悪いが任せたぜ、逆廻ぃ!春日部ぇ!」

「「っ」」

 

 初めて、松風が真面に名前を呼んだ。決して長い付き合いではないが、それでも彼の思いは伝わる。

 耀は踵を返して駆け出し。その後を透明になったジンを担いだ十六夜が続く。

 足音が離れていくのを後ろに聞きながら、松風は改めて目の前の敵と相対する。

 

「とりあえず、テメーはへし折るぜ?」

「血、血を寄こせェェェェェエエエエエエエエ!!!!」

 

 

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