龍脈の申し子も異世界へ来るそうですよ   作:ナタルア

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拾弐

 ゴーゴンの威光。それは褐色の光と共に、世界を石化させる破格の力。

 そして、逆廻十六夜は、その星霊の力を真っ向から打ち破った。最早、ルイオスに出来る事など無い。そもそも、親の七光りでありろくな鍛錬など積んでこなかった彼には窮地を打破できるバックボーンが無い。

 詰みだった。

 そんな彼らの下に第三者の声が響く。

 

「おー、終わったか?」

 

 ぶっ壊れた宮殿最上階。四階建てが三階建てになってしまったその場所に、瓦礫を蹴りながら現れたのは鞘に入った見慣れない刀を右肩に担いだ吉田松風その人であった。

 

「松風さん!?」

 

 驚きの声を上げたのは、黒ウサギ。しかし彼女が焦っているのは、松風がこの場に現れたから、ではなく。その上半身、正確には着物に刻まれた袈裟切りの大きな切り傷を視認したからだった。

 慌てて駆け寄り、その着物の切り裂かれた部分をペタペタと撫でる。

 

「おいおいバニーちゃん、熱烈だな。くすぐったいぜ?」

「ふざけてる場合では……!!……き、傷は無さそうですね………」

「まあ、な。ちょっと聞きたい事があって来たんだ。幸い、Mrヘッドホンは相手のボスを話せる状態で置いてくれてるらしい」

 

 心配する黒ウサギを脇へとずらしてから、松風は確かな足取りで十六夜の前に跪くようにして睨み上げるルイオスの下へと足を向けた。

 既に、ほぼほぼ勝敗は決している。ルイオスは十六夜に敵わず、切り札のアルゴールもやはり十六夜に敵わない。

 ただ、

 

「ッ、貴様は既に挑戦権を失ってるプレイヤーだろう……!?」

 

 ルイオスが怒りを滲ませて指摘した。

 そう。現状の“ノーネーム”の参加プレイヤーとしてルイオスに挑めるのは、十六夜とジンの二人だけ。後の面々には“ペルセウス”の構成員に見つかっている為、挑戦権を失っていた。

 だがしかし、松風の要件は別だ。

 

「知ってるさ、んな事。俺が聞きたいのは、この刀の事だ」

 

 そう言って、彼は右肩に担いでいた刀、“紅桜”を下してルイオスへと見せつけた。

 

「お前、これをどこで手に入れた?」

「何だと?」

「答えろ。お前がこいつを自分のコミュニティに持ち込んだ結果、人死にが出てる可能性がある」

「…………は?」

 

 目が点になるというのは、正にこの事。現に、ルイオスの思考はピタリと止まってしまう始末。

 代わりに声を上げたのは、同じく話を聞いていた十六夜だ。

 

「どういう事だ?その刀に何かあるって事だよな?」

「ああ、コイツは、対戦艦用機械(からくり)機動兵器“紅桜”っつう俺の故郷にあった兵器だ。刀の見た目をしちゃいるが、とんだ化物でな。持ち主を乗っ取って支配し、暴れさせる。そんな代物だ」

「へぇ……つまり、俺達を先に行かせたのはその危険性から、って事か」

「そういうこった。こいつは一振りで戦艦十隻相当の戦闘能力を発揮する。Mrヘッドホンは分からねぇが、猫嬢ちゃんだと下手すりゃ死んでたからな」

「ほぉー……というか、何でお前は動けてるんだ?」

「何が?」

「そこの七光りが元・魔王様に使わせたのが、石化の光らしくてな。で、この世界の奴らを石化させたらしいんだが……」

「さあな。褐色の光の事か?それなら、浴びたけどよ」

「それは恐らく、松風さんの霊格が力を抑えたアルゴールとルイオスさんの霊格を上回ったからかと」

「へぇ?ギフトを無効化する事もあるのか?」

「白夜叉様のお話では、松風さんは疑似的とはいえ星霊同然の力を流入されています。恐らくそれが威光すら弾かれたのかと」

 

 霊格の要素は、箱庭においても大きな影響を与える。この観点から、箱庭三大最強種の中で星霊が頭一つ抜けているとされるのだ。

 吉田松風の場合は、龍脈が彼の肉体に、魂に流入している。ある意味では星霊にも近い破格の存在と言える。

 尤も、彼には権能の類などは無く、精々が不死身である事位か。

 

 しかし、今はそんな事はどうでも良い。少なくとも、松風にとって重要なのは今回見つける事になった刀について。

 

「で?話が逸れたけどよ。こいつ(紅桜)は、一体どこで手に入れたんだ?」

「……賭けだよ」

「賭け?」

「賭博さ。負けの込んだ奴が置いて行ったんだ。それだけだ」

 

 ルイオスが、紅桜を手に入れた経緯。それは彼の言葉のとおりでしかない。

 松風は、眉間に皺を寄せる。

 

「そいつは今、どこに居る?」

「し、知らない!本当だ!賭場には、身分やコミュニティを隠してやって来る奴が珍しくない。その刀を置いて行った奴も、フードを被って姿を曖昧にしていた!」

「…………はぁ」

 

 必死に抗弁してくるルイオスに、松風はその眼をじっと見つめてからため息を一つ吐き出し立ち上がる。

 そして踵を返すと、左手を十六夜の右肩に軽く乗せた。

 

「後はお好きにどうぞ」

「もう良いのか?」

「ああ。水差しちまったけど、存分にボコってやると良いさ」

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 拳を掌に軽く打ち付けてニンマリと笑みを浮かべる十六夜を送り出し、松風は黒ウサギ達の元へ。

 

「バニーちゃん」

「は、はい?何でしょう」

「ギフトの鑑定ってのは、“サウザンドアイズ”でしか出来ないのか?」

「そうですね……神格などが宿っているか、程度ならば私も分かりますがやはり詳しく知ろうと思うのなら大手の商業系コミュニティに依頼を持ち込む方が確実かと」

「そうか……」

 

 そこで言葉が途切れ、松風は思案するように黙り込んでしまう。

 代わりにジンが疑問の声を上げた。

 

「その刀は、それほどまでに危険なものなんですか?」

「ん?………まあ、な。出来る限り処理しときたい」

「ですが、使いこなせれば強力なギフトという事では?」

「…………」

 

 ジンの言い分は、分からないものではない。

 実際の所、松風の世界でも紅桜は兵器として造り出されたものだ。人造でありながら、ギフトとして見れば破格のものだろう。

 だが、

 

「――――悪ぃな、()()。こいつは、使う気にならねぇんだ。そして、お前らにも使わせる気は無い」

「ッ!そ、うですか…………」

 

 いつにない松風の強い口調に、ジンもそれ以上の言葉を紡げない。

 無理矢理に会話を打ち切り、松風はその小さな頭を撫でる。

 

「悪いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿威しの響く中庭。

 

「待たせたな」

「いや、んな事ねぇよ。態々時間を作ってもらって感謝する」

 

 縁側に腰掛けていた松風の隣に座る白夜叉。

 ペルセウスとのゲームを終えて、松風は他三人に事後処理という名のレティシアの所有権勝負を放り投げて“サウザンドアイズ”へとやってきていた。

 無論、愛想のない女性店員に追い出されそうになったが、のらりくらりと躱してこうして上がり込んでいたりする。

 

「それにしても、私に頼みがある、か。コミュニティ内ではなく、態々私に話を持ってくるとはどのような要件だ?」

「ああ。最悪の場合、人死にが大量に出る可能性がある要件さ」

「ほう……?」

 

 飄々とした態度はそのままに、白夜叉の瞳が細くなる。

 

「冗談では、済まされんぞ?」

「残念ながら、こっちも冗談じゃねぇんだ」

 

 そう言い、松風がギフトカードから取り出すのは問題の根幹である妖刀紅桜。

 ギフトカードに収められるという事は、ギフトとして成立してしまっているという事だった。

 

「こいつは、妖刀紅桜。俺の居た世界で造り出された既存の刀に半永久的な成長性を持たせた対艦兵器だ」

「ほう。ちと、拝借させてもらおう」

 

 刀を受け取り、白夜叉は慣れた動作でその刀身を鞘より引き出した。

 見た所は、普通の刀。だが、

 

「コレは…………これを、人間の手で組み上げた、と?」

「ああ。それで、ここからが本題なんだが、その妖刀がオリジナルかどうか。それを判別してほしい」

「オリジナル?…………まさか、」

「気付いたか。その通り、こいつは()()()()()()()。つっても、それは俺の兄貴分の一人がぶっ壊した筈なんだ。このオリジナルも、消えた」

「にも関わらずに、ここに在る」

「そうだ。ギフトとして成立しているのなら、量産された奴も出回ってる可能性がある。そもそも、俺が持ってるソレが量産品かもしれねぇ」

「それほどか?」

「宇宙を航行する戦艦十隻分だぞ?ソレもこの箱庭みたいに、ギフトなんてものはねぇただの人間が振るってそれだ。神格持ちが飲み込まれでもしたら、洒落にならねぇじゃねぇか」

 

 松風の懸念は、そこだった。

 ただの人間が振るう紅桜ならば、松風でも倒せる。それは、“ペルセウス”戦で証明した事だ。

 だが、ソレが別種族になれば話は別。

 

「ハッキリ言って、他種族がどの程度普通の人間と隔絶した能力を持ってるのか分からねぇ。会った奴も中途半端な奴が多かったからな。だが…………」

 

 一拍。

 

「もし仮に、俺の世界の面倒事がアイツらに牙を剥くってんなら、それは看過できる事じゃねぇ」

 

 吉田松風にとって、既に“ノーネーム”の面々は子供たちも含めて命を懸けて守る対象だった。そこには強弱の一つ関係はない。

 

「頼める立場じゃねぇ事は分かってる。それでも、この手の事で頼れるのは、白夜叉しか居ねぇんだ。何なら、俺のギフトを譲渡しても良い」

「…………フッ、そう言うでない童よ」

 

 目をギラギラとさせる松風に対して、白夜叉は悠然とした笑みを浮かべた。

 

「おんしの頼みは、確かに聞き入れた。ギフトゲームのスパイスとするには少々血腥すぎるようだしな」

「!そう、か……」

「それに、おんしは黒ウサギの新たな同士でもある。そんな男が、アッサリとゲームも関係なく消えては面白くないであろう?代わりと言っては何だが、その紅桜がどの程度危険であるかを見せてはくれんか?」

「まあ、それ位なら。ただ、俺が飲み込まれちまった時には紅桜ごと俺をぶっ潰してくれ。最悪、死んでも蘇生できる」

「そこはもっと、スマートに熟してみせよう」

 

 

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