龍脈の申し子も異世界へ来るそうですよ   作:ナタルア

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 吉田松風は実質的な不死身である。少々制約はあるものの、やろうと思えば切り離した手から全身を修復する事も可能。

 それ故に、彼の兄弟子やその従業員、知り合いたちと巻き込まれた騒動の際には自然と矢面に立って肉壁になる事が殆どだったりする。

 その事を心苦しく思われる事も多々あったが、結局のところ改善は出来ず送り出す事になってしまったのだが。

 つまり、何を言いたいかといえば、

 

「どうしたものかね」

 

 上空四〇〇〇メートルに投げ出されようが、欠片も焦らないという事。

 地面に当たるまで、凡そ数十秒掛かるかといった所。着物をはためかせながら松風は暢気に顎を撫でながら考え込んでいた。

 ぶっちゃけ、()()()()ならば岩盤はおろか宇宙戦艦装甲の合金板に叩き付けられようとも数秒とかからずに立ち上がれる事だろう。

 問題は、衣服。彼の格好は、兄貴リスペクトの代物でとある惑星の体操着だったりする。

 もっとも、その大馬鹿くるくるパーマと違った片方脱いだりはしない。羽織の様に前を止めず、下には父のような着物を着ていた。

 

(見た感じ、真下は湖か?なら、最悪濡れるだけか)

 

 空中で仰向けになると、松風はそのまま頭の後ろで手を組んで目を閉じた。

 残り十数秒でやるような事ではないが、彼と同じく強制パラシュート無しスカイダイビングを敢行させられた者たちは、大なり小なり目を剥いていた。

 そして、着水。

 遠ざかっていく湖面を前に、松風は目を開ける。

 沈む一方の体だが、身動ぎの一つもしない。そのまま湖底にまで到達。水の抵抗でわずかに跳ねた体でそのまま状態を起こし、彼は水中で胡坐をかいた。

 水中は存外綺麗なものだ。透き通っている訳では無いが、しかしそこまで汚れている訳でもない。

 このまま動かなければ数分は潜っていられる松風。だからといって、このまま沈んでいても良い訳では無いが。

 少しの間、口から洩れた気泡が水面へと向かって昇っていく様を観察し、やがて湖底に立つ。というか、このまま沈み続けていると、餞別の三振りがどうなるか分からない。

 膝を軽く曲げて少しの溜を作って、跳躍。途端に彼の体は水の抵抗も水圧も知った事かと弾丸の様に跳ねあがり、湖岸へと着地を決めた。

 

「ハハッ!派手な登場じゃねぇの。それにその格好、コスプレか?」

「コスプレ………まあ、確かにそうだな」

 

 ヘッドホンを付けた金髪の少年に言われ、松風は頷いた。

 というのも、彼は最初から和装だった訳では無いから。今の彼は形見ばかりで包まれているのだから。

 羽織を脱いで絞りながら、彼は首を傾げる。

 

「にしても、ここは何処だってんだ?あの高さから放り出されたら、普通死ぬぞ」

「その割には、貴方空中で横になってたじゃない」

「いや、まあ……俺は普通じゃないから」

 

 ひらりと手を振る松風に、黒髪の少女は眉根を寄せた。

 確かに、格好からして普通ではない。

 着物に、派手な白地に水色の流水紋を象った羽織。腰の、三振りの刀。

 観察していれば、松風は徐に木刀を湖岸に突き立て、続いて卍鍔の黒い刀を手に取った。

 鞘から引き抜かれた一振りは、まるで夜の闇の様に真っ黒な刀身をしている。同時に、言い知れぬ威圧感の様なものが発せられていた。

 

「……やっぱり、濡れてるか」

 

 周りの反応など意に介さない松風は、右手で引き抜いた刀を徐に掲げ、そして湖へと向けて軽く振り下ろす。

 瞬間、衝撃が走り湖面が真っ二つに割れ、更に対岸に深い切り傷を刻んでいた。

 あまりの光景に目を見開く少女に対して、金髪の彼は面白そうなものを見つけたと言わんばかりにその目を輝かせていた。

 

「へぇ……?やっぱり招待を受けたのは、正解だったな」

「あ?おい、何だその好戦的な目は……止めとけ止めとけ。この場でやり合っても不毛だろ。死体が一つ出来上がるだけさ」

「へぇ?そいつは一体誰の死体だろうな?」

「決まってるだろ?――――俺のだよ」

「いや、お前かよ」

 

 あっけらかんと言い切った松風に毒気を抜かれたのか、少年も肩を竦めて引き下がる。

 この間に、鞘の水も払って、同じくどこかメカチックな印象を受ける脇差も同じように水を払って鞘へと納めていた。

 

「まあ、まじめな話。ここでドンパチやるのは後でも良いだろう、てこった。状況把握しとこうぜ?」

「場を引っ掻き回してるのは、貴方の方じゃないかしら?」

「あ、それ言っちゃう?」

 

 ヘラリと笑って、松風は羽織を着なおして刀三振りを腰の左側へと差し直した。

 

「まあ、なんだ…………ピリピリしてても良くねぇだろ?」

「それで、場を柔らかくしたかった、と?」

「そんな感じだな。俺は、吉田松風。“しょうふう”じゃねぇからな?」

「松風君ね……私は、久遠飛鳥よ。それにしても、貴方は何なの?侍の真似?」

「真似…………そうだな。元々俺は素手だったんだが……色々あって刀振り回す事になってな。この三本は、餞別って事で貰った」

「餞別?つまり、貴方は元々ここに来るつもりだったの?」

「いや?寧ろ、何でこんな所に居るのか俺が聞きたいぐらいだし…………というか、そっち二人も名前聞いて良いか?」

 

 ひょいっと飛鳥の影から顔を覗かせた松風は、我関せずな二人へと水を向けた。

 三毛猫と戯れていた少女が顔を上げる。

 

「春日部耀。この子は三毛猫」

「そう。よろしく、春日部さん」

「ん、よろしく」

「それじゃあ、そっちのMrヘッドホンは………」

「誰が、Mrヘッドホンだよ…………ハァ、逆廻十六夜だ。俺も相当なもんだが、オマエも相当だな」

「そうか?俺の地元だと、そうでもなかったぞ?オレ フツウ ウソジャナイヨ」

「寧ろ、貴方の地元がどれだけ破天荒なのよ……」

「あー……木刀を改造して、柄の先っぽを押すと――――」

「「押すと?」」

「切っ先から醤油が出る、みたいな改造する爺さんとか?」

「…………何でそんな奇天烈な事になってるのよ」

「いや、兄貴のスクーターをタイヤ取っ払ってロケットブースター取り付けた時よりはマシだから」

「何がどうしたらそうなるんだよ」

「後は、年がら年中酢コンブ食ってるチャイナ娘とか、全自動ツッコミ眼鏡掛けとか?」

「字面が強すぎるだろ」

 

 十六夜も飛鳥も、この場所に来る前は中々の問題児だった。それ故に周りからも浮いていたのだが、松風の地元ならばその特異性も目立たなかったかもしれない。いや、目立ったとしても受け入れられた事だろう。

 そんな彼らの事情など知る由も無い松風は顎を撫でながら、自分の故郷を思い出していた。

 

「後はそうだな……馬並みにデカい犬とか?」

「犬?」

「そう、犬。チャイナ娘が拾ってきた犬っころでな」

 

 食いついたのは、耀だった。三毛猫を胸に抱いて、若干その目を輝かせているようにも見える。

 

「犬種は?」

「あん?…………さあ。あ、でも狛犬だったぜ。デカくて大食漢、加えて誰彼構わず噛み付くって事で捨てられてたらしいんだが、さっきも言ったようにチャイナ娘が拾ってきてな」

 

 松風が思い出すのは、あの白い毛並み。

 比較的彼には懐いていたが、それ以外の兄貴と慕う天パ侍なんかはよく齧られていた。

 

「でもまあ、可愛い奴だったよ。毛並みも良くてな………誤飲は困るけどな」

 

 叱れば言葉を理解する程度には賢い為、何とかなった。ただ、この叱るという段階に至るまでが厄介。また、叱っても誤飲したものは食べなくなるが、また別の物を誤飲してしまう始末。

 

「分かる。大きい子たちは、変なもの飲み込んじゃう」

「しかも、プラスチックとかだと余計に、な」

「うん」

 

 自然界のものならば、そもそも誤飲することは無い。誤飲するのは、基本的に人の創り出したプラスチックだとかの無機物。

 飲み込むと、消化など出来るはずもなく。寧ろ、内臓などを傷つけてしまう。

 

 ワイワイと騒ぐ四人。そして、そんな彼らを近くの茂みから見つめる一対の目があった。

 

(うわぁ………なんだか、問題児ばっかりみたいですねぇ…………)

 

 自分達が呼び出しておいてなんだが、あの四人に関わると碌な事にならない。そんな予感が彼女にはあった。

 しかしながら、声を掛けない訳にはいかない。

 意を決して腹を括って茂みを出よう。そう決めた時に、その会話は聞こえてきた。

 

「………何か、腹減ったな」

「食べて無いの?」

「いや、昼でも食べようかと思ってた所で、あの紙開いてな。どうしたもんか」

「残念ながら、私は何も持ってないわよ?」

「うん、同じく」

「俺もな」

「だよな……とすると、」

 

 顎を掻きながら、松風は背後の茂みへと目を向けた。

 

「そこの茂みに居る奴、何か食い物持ってないか?」

「あら、気付いてたの?」

「下手糞な隠形なんて、逆に自分の存在誇示てるようなもんだからな」

「ハハッ!やっぱり面白いな、オマエ。やっぱり、ちょっと遊ばね?」

「ニオイ消しも、雑。せめて風下に陣取るべき」

 

 二対四つの視線が向けられ、茂みがガサリと揺れた。

 完全にバレている。となれば、最早隠れている事自体が不義理その物。

 意を決したのか、現れたのはウサミミの少女だった。心なしか震えているのは、その向けられた眼光の鋭さのせいか。

 両手を挙げて彼女、黒ウサギは作った笑みを浮かべた。

 

「あ、あははは……そのような恐ろしい狼の様な目を向けられては、黒ウサギの矮小で貧弱な心臓が怯えて不整脈を叩きだしてしまいます。ここは、矮小な一つの生命を掬い上げるつもりで、どうか私の御話を聞いては頂けないでしょうか?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「なあ、何か食い物持ってないか?」

「あっは、取り付く島もないと言うのは正にこの事ですね~♪あと、和装の方。キャンディで宜しければございますが……」

「飴か……まあ、無いよりはマシか」

 

 手招きする松風へと飴を渡しながら、黒ウサギは内心で彼らへの評価を僅かに上方修正。

 

(肝っ玉は、及第点。この状況でも平気でNOを突きつけられる人材と言うのは、中々にGoodというものです。後は、黒ウサギの手腕次第……少なくとも、この和装の方は何としてもコミュニティへと入っていただかなくては!)

 

 黒ウサギは、先程松風が軽い一振りで湖を割った瞬間を確かに見ていた。

 気合を入れ直す彼女だが、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――えい」

「ふぎゃ!?え、ちょ、なあ!?」

 

 いつの間にか黒ウサギの背後に回っていた耀。その手が、がっしりと、黒ウサギの頭頂部に生えたウサミミを鷲掴みしていた。

 

「ちょ、ちょっとぉっ!?触るまでなら許可しますが、流石に初対面で何の断りもなく人様の耳をガッツリ掴みますか普通っ!?」

「良い手触り。好奇心のなせる業」

「それは勿論、常日頃から手入れを…って、そうではございません!と、とにかくその手を放して――――」

「へえ、その耳本物なのか」

 

 黒ウサギの抗議の声も意味を成さない。

 右からは十六夜が手を伸ばし、

 

「……じゃあ、私も」

 

 比較的良識のある飛鳥が左から手を伸ばしてそれぞれ黒ウサギの耳を掴んでいたのだから。

 悲鳴を上げる黒ウサギ。

 そして、我関せずを貫いた松風はというと、

 

「ガリガリ…………ん?へい、バニーちゃん。追加の飴くれよ」

「この状況を見ていう事がそれですか!?!?!?」

 

 空きっ腹潰しに飴を噛み砕いてお代わりを要求していた。

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