龍脈の申し子も異世界へ来るそうですよ   作:ナタルア

7 / 13


「……くぁ…………ねみぃ」

 

 壁に背を預けて、木刀の切っ先を地面に付ける形で右肩に立て掛けた松風は大きな欠伸を一つ零す。卍鍔の刀と、脇差は割り当てられた自室に置いてきていた。

 彼が現在居るのは、“ノーネーム”において子供たちが生活する別館の出入り口脇の壁。

 そして、欠伸が止まない松風の前では、同じく退屈した様子の十六夜が茂みへと声を掛けていた。

 

「おーい、いい加減に襲うのか襲わねぇのかハッキリしやがれ。俺が風呂に入れねぇだろうが」

「なあ、もう帰っていい?どーせ、誘拐とか何とか、ちゃちな奴らだろ」

「おいおい、もしかするとチョー強敵()かもしれねぇだろ?そんな時、か弱い俺じゃあやられちまうかもな?」

「か弱い~……?お前が?ハッ、ないない」

 

 ゲラゲラと呵々大笑する松風。

 ぶっちゃけ、彼からすれば現状のコミュニティ最強は十六夜だ。勝てないとは、彼自身言わないがしかしやり合う気にはならない。

 一頻り笑った松風は、徐に立ち上がると木刀を腰の左側へと差して十六夜の隣へと歩を進めた。

 

「んじゃ、ちゃっちゃと終わらせるとしようぜ?」

 

 言いながら、彼が手渡すのは立ち上がる時にいくつか拾った小石。

 受け取った十六夜はニヤリと笑う。

 

「よっ!」

「オラァッ!」

 

 軽い掛け声とともに十六夜が小石を第三宇宙速度で投擲し、軽く空中へと小石をトスした松風が木刀のフルスイングでかっ飛ばす。

 小石が、迫撃砲紛いの破壊力を発揮して直撃した地点を粉砕する。

 そして、ここまで騒がしい事になれば嫌でも気づかれるわけで、

 

「な、何事ですか!?」

 

 別館より駆け出してきたのは、ジンだ。

 彼が駆けだしてくると同時に、小石の衝撃で空へと打ち上げられていた何者か達がゴロゴロと落ちてくる。

 特徴的なのはその容姿か。

 犬の耳であったり、爬虫類の目であったり、鋭い爪や牙を携えたどこか獣の要素を有する人間体。

 

「……天人(あまんと)みてぇだな」

「あ?なんだ?」

「いや?それより、さっさと終わらせるんだろうが」

 

 適当にはぐらかして、松風は手を振った。

 十六夜としては、聞き馴染みのない単語に興味を惹かれたのだが、目の前の侵入者への対処が先決。

 

「後で詳しく聞かせろよ?……にしても、お前ら人間じゃねぇのか?」

「否、我らは人をベースに様々な“獣”に関するギフトを有しているのだが、格が低く中途半端な変幻しかできないのだ」

「へぇ?…………で?何か話したくて、様子見してたんだろ?」

「…………恥を忍んで、頼みがある!」

 

 リーダー格なのか一番前の一人に倣うようにして侵入者たちは土下座する。

 

「我々の…………いや、“フォレス・ガロ”を完膚なきまでに叩き潰しては貰えないだろうか!?」

「嫌だね」

「どの面下げて、言ってやがるテメェら」

 

 決死の思いは、しかしアッサリと切り捨てられた。

 呆然と固まる彼らと、それから二人の拒絶を聞いたジン。

 しかし、二人とて何の理由も意味も無く、相手の懇願を切り捨てた訳では無かった。

 

「どうせお前らも、ガルドって奴に人質取られてる連中だろ?大方、命令されて子供(ガキ)を攫いに来たって所か」

「あ、ああ。お見通しであったとは、何ともご無礼を――――」

「生憎と、その人質もうこの世に居ねぇから。はい、この話は終了な」

「えっ…………」

「十六夜さん!?」

 

 淡々と述べる十六夜。

 ジンが咎めるが、しかし、

 

「さっきも言ったが、テメェらもショック受けられる立場じゃねぇの分かってるか?」

 

 ジロリと睨む松風もまた、十六夜と同じく遠慮なく言葉の刃を侵入者へと突き刺していた。

 木刀の切っ先を突きつけ、彼は言葉を紡ぐ。

 

「ガキが攫われて人質にされたってんなら、同情もするさ。でもな、テメェらも同じことをやって来たんだろ?」

「そ、それは……人質が…………」

「なら、もしも人質が生きていた場合、テメェらはその手で我が子を抱けるか?」

「っ……」

「どれだけ洗おうが、汚しちまった手は二度と綺麗にはならねぇ。それを、自覚してたか?」

 

 静かに問う松風の言葉に、侵入者たちは何も言えない。

 人質の為に、他を犠牲に似たような立場を量産していく。結果として鼠算の様な形で被害者は拡大していき、今のこの“フォレス・ガロ”が幅を利かせた状況が出来上がっていた。

 俯き拳を握る襲撃者たち。そして、彼らを見下ろした松風は無言で木刀を腰に差し直すと踵を返す。

 

「寝る」

「えっ……」

「おう、寝て来い。残りの御話はこっちで詰めといてやるよ」

 

 突然の流れに驚くジンだが、当の二人は気にした様子も無い。

 欠伸を零して本館へと足を向ける松風は、結局振り返る事無く夜陰に消えた。

 その背を見送り、十六夜はジンを見る。

 

「俺達の言いたい事分かったか?」

「………」

「目先のかわいそうだけで見てんじゃねぇよ。どんな理由であれ、こいつらも同じ穴の貉なんだからな」

 

 厳しい指摘だが、リーダーとしてこれから大成していくのならば必要な視点でもあった。

 同時に、十六夜は頭の中で策謀を行っていたりもする。

 これから先、進んでいこうと思うならば今のコミュニティの現状では不可能としか言えない。

 だからこその、作戦だ。

 その足掛かりは、明日のギフトゲームによって決まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二一〇五三八〇外門、噴水広場から向かう“フォレス・ガロ”のコミュニティ居住区格。

 通常、コミュニティはギフトゲーム専用としての舞台区画を有している場合が多い。これは、大規模なゲームになると戦闘行為が避けては通れなくなるからだ。

 だが、今日行われる居住区格にて実行される。

 その理由は、会場を見る事でハッキリする。

 

「おいおい、バニーちゃんよ。コミュニティの拠点ってのは、個性を出さなくちゃならないのか?」

「…………ジャングル?」

「虎の住むコミュニティなら、おかしくは無いだろ」

「いや、おかしいです……“フォレス・ガロ”の所有する居住区格は、普通のものでしたから。それに――――」

 

 居住区格を覆う所か、溢れんとする樹木の幹へと手を添えるジン。その掌を伝って感じるのは、まるで心臓の鼓動の様な感触。

 

「これは、“鬼化”している?」

「なんつーか、血腥い樹だな。血でも啜って成長してんのか?」

「ねぇ、こっち見て頂戴。“契約書類”が張ってあるわ」

 

 眉を顰めるジンと、そんな彼の斜め後ろで脈打つ木の幹を見てゲンナリと舌を出す松風。

 そこに、飛鳥が門の方を指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 ハンティング

 

 ・プレイヤー一覧 久遠飛鳥

          春日部耀

          ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホスト本拠内にて潜伏するガルド=ガスパーの討伐

 ・クリア方法 ホスト指定の“武具”でのみ可能。それ以外の如何なる危害も“契約(ギアス)”により無効となる

 

 ・敗北条件 プレイヤー側の降参、もしくは上記のクリア条件を満たせなくなった場合

 ・指定武具 ゲーム内テリトリーにて配置

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します

                                    “フォレス・ガロ”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガルドの打倒を条件に、指定武具での討伐を……!?」

「こ、これはまずいですよ!?」

 

 顔色を青くしながら騒ぐ、黒ウサギとジン。

 だが、まだまだ箱庭の新参者である四人にはいまいちピンとこない。

 

「これは、そんなに危険なゲームなの?」

「いいえ、ルール自体は単純なものです。問題は、その打倒方法に有ります」

「……どういう事?」

「ガルドは、自身の命をベットする事で“契約(ギアス)”によって身を守っているのです。この状態では、飛鳥さんのギフトを用いて操る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ないのです」

「すいません、僕の落ち度です。こんな事なら、あの場でゲームの内容まで詰めてしまうべきでした……!」

 

 黒ウサギとジンからの説明を受けて、飛鳥と耀は顔を見合わせた。

 中々厳しい戦いを強いられる事になりそうだ。加えて、不利なのはそこだけではない。

 

「クリアそのものも難しそうだな、コイツは」

「あん?どういう事だ?」

「あの三人、武器なんて真面に振るえるのか?虎なんだろ、相手」

 

 松風の指摘。

 彼は、兄貴分と同様に武器の種別問わずに振り回せるが、その一方で誰しもが武器の扱いに一定の心得がある訳では無い事を知っている。ついでに、刀を振るえても槍の名手ではない事も。

 松風の言葉を受けて、十六夜も三人を見て頷いた。

 体つきなどから加味しても、何れも肉体派には見えない。少なくとも、飛鳥もジンも荒事になれているような体つきをしていなかった。耀にしても身体能力に優れる事と、武器の扱いに優れる事はイコールではない。

 

「…………まあ、刺せば大抵死ぬし、良いか」

「何物騒な事おっしゃってるんですか!?もうゲーム開始ですよ!」

「おー、頑張れよー」

「軽いッ!?」

 

 ひらひらと手を振る松風の頭を、黒ウサギのハリセンが引っ叩く。

 しかし、彼とて何も考え無しにそんな事を言っている訳では無い。

 

「けどよ、バニーちゃん。今から何かを言っても意味ねぇだろ。出場者は決まってる、ルールも発表された。後は運を天に任せて祈るだけさ」

「うっ………で、ですが――――」

「大丈夫よ、黒ウサギ。心配は嬉しいけど、松風君の言う通り後は私たちがどうにかするしかないもの」

「そ、そうですけど………」

「おう、お嬢。武器がどうあれ、振り回しても骨が邪魔で殺せない場合があるぞ。だから、相手の動きを封じて、胸の中心をぶっ刺してやりな」

「物騒ね……まあ、アドバイスだと思って聞いておくわ」

「行ってくるね。三毛猫預かって」

「おう」

 

 渡された三毛猫を松風が抱え上げ、三人は木々の茂る屋敷へと足を向ける。

 その数分後、野獣の咆哮が響き渡った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。