龍脈の申し子も異世界へ来るそうですよ   作:ナタルア

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 突然に始まった腕試し。

 本拠中庭に降り立ったのは十六夜。対してレティシアは、その背の翼を利用して空に陣取った。

 一方ではらはらと動向を見守るのは黒ウサギ。その隣で、松風は窓枠に頬杖をつくとのんびりと状況を見下ろしていた。

 

「……で?バニーちゃんから見て、どっちが優勢なんだ?」

「…………ハッキリとは、何とも。十六夜さんの実力は未知数です。神格を素手で打倒するほどの膂力と、尋常ではない速力をお持ちの方ですから。ですが、レティシア様もまた元魔王。鬼種と神格を有した指折りの魔王であった、と」

「ふーん……」

 

 あれが?とは、松風は言わなかった。

 彼から見て、レティシアは何というか()()()()()。強者が持つ特有の凄味とも言うべき部分が、全くもって感じ取れなかった。

 松風は、よく知っている。化物染みた戦闘能力を持ち合わせる者は、特有の雰囲気を纏っている、と。

 

 たった二人の観客が見下ろす中で、二人の勝負は始まった。

 ランスの投擲。シンプルながら、同時に純粋な力の強さというものがハッキリと現れる勝負内容だ。

 

 翼を翻し、体の捻りと撓り、腕の力。余すことなく乗せたレティシアの投擲は容易に空気の壁を突き破り、その穂先は空気との摩擦で熱を帯びた。

 迫りくる凶器を前に――――十六夜は凶暴な笑みを浮かべた。

 

「カッ!――――しゃらくせぇ!!!」

 

 振り抜かれる拳が、正確に迫りくる槍の穂先を捉え、打ち付けられる。

 普通は、穂先が勝つ。拳を腕ごと裂いてその機能を完全に破壊しつくした上で、中庭を大きく抉る事になっただろう。

 だが、今回はそうはならない。

 

 ひしゃげた。鋭い穂先も、細かな装飾の施された柄も。槍を構成する一切合切が拳に打ち負け粉砕、鉄塊となって宛ら散弾銃の弾丸のように第三宇宙速度をもってレティシアへと襲い掛かったのだ。

 通常の弾丸程度なら、彼女は翼で打ち払うことが出来ただろう。だが、それが第三宇宙速度を発揮したものならばその限りではない。反応は愚か、先程の槍を正面から殴り潰した光景の衝撃も相まって全てが遅かった。

 

(これほど、か……!)

 

 驚愕し、同時に内心では安堵の感情も覚える。

 これほどの才覚ならば、或いは、と。そう血みどろになって撃ち落とされる事も覚悟し、目を閉じて、

 

「レティシア様!」

 

 横合いから勢いよく柔らかな何かに包まれ、同時に耳をつんざく金属音が鳴り響き、ほぼ間髪入れずに地面に何かがぶつかった音が響く。

 慌てて目を開ければ、自身を抱きしめる黒ウサギと、それから流水紋の白い羽織を翻しながらその右手に持った()()を振り下ろした格好の松風の姿が空中にはあった。

 そのまま三人は中庭へと降り立ち、同時に黒ウサギはレティシアからギフトカードをひったくっていた。

 更に、十六夜は凶暴な笑みと共に、松風へと歩み寄る。

 

「やっぱり、お前面白いぜ、松風。その木刀は、一体全体どうなってやがるんだ?」

「んな、凶悪な顔で近寄ってくんな。木刀に関しちゃ、兄貴からの餞別だよ」

 

 軽く一振りして、他二振りの刀と同じように帯へと差し直した松風は肩を竦める。

 彼自身はこの決闘に手を出す気は無かった。だが、流石に目の前で僅かとはいえ会話をした相手が血だるまになって撃ち落とされるであろう光景を見たいとは思わない。

 幸い、レティシアを襲った鉄塊は、松風にとって()()()()()()()()()()()。そして彼の剣の腕前とフィジカルは元の世界での最終決戦を経て一気に跳ね上がっていた。

 結果、問題児に絡まれる事になったが。

 

「ギフトネーム“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”……やはり、ギフトネームが変わってる。鬼種は残っていても、神格が残っていない……!」

「……」

 

 黒ウサギの悲鳴にも似た言葉に、レティシアは顔をそむける。

 彼女らのやり取りに、白けた目を向けたのは十六夜だ。

 

「何だよ、元魔王様のギフトは吸血鬼しか無いのか?」

「そのようです……多少の武具は残っておりますが、身体に宿ったギフトまでは……」

「ハッ……随分と歯応えが無いと思ったら、そういう事か。他人に所有されると、魔王様ってのはそこまで力を削がれるものなのか?」

「い、いえ!魔王が奪っていったのは人材であって、ギフトではございません。顕現した武具系のものならば未だしも、身に宿った恩恵は修羅神仏などに齎され、魂と結合したもの。それを手放すなど本人が……」

 

 そこで言葉を切った黒ウサギの視線がレティシアへと向けられる。だが、これもまた彼女は苦虫を噛み潰したような表情で視線を逸らすばかりだ。

 気まずい沈黙。そんな中で小さく松風が手を挙げる。

 

「とりあえず、俺はお嬢たちの方に行ってくる。ちっと騒ぎ過ぎたからな」

 

 彼が選んだのはその場からの遁走。松風の兄貴分の一人である狂乱の貴公子お得意の逃走術は彼にも受け継がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行かなくて、良かったの?」

「堅苦しい話し合いとかは、苦手なんだよ」

 

 寝台に横になった耀に答えながら、松風は椅子に腰かけたまま背もたれに体を預け天井を見上げた。

 あの後、その場を後にした松風は詳しく知らない事だが、何やらごたごたしたらしい。そのまま問い詰めに行くと松風も呼ばれたが、これを彼は拒否。コミュニティ防衛を理由とする割と小賢しい手法で、面倒事を回避していた。

 それっぽい理由を即座に思いつく辺り、やはり小賢しいという他ない。

 

「それに、Mrヘッドホンとお嬢、バニーちゃんが居ればどうとでもなるだろ。まあ、ならなくても話し合いなら十分じゃないか?」

「……」

 

 耀は、嘯く少年の横顔をジッと見つめる。

 ベージュ色ともいえる長髪と柔和な顔立ち。ついでにその口から飛び出す彼の元の世界での話は呆れる事が多々あれども、聞いている分には面白い。

 ただ、気になる事もあった。それは、鼻の良い耀だからこそ気になる事。

 

「松風は……」

「ん?」

「松風は、何で()()()()()がするの?」

「…………臭いか?」

「あんまり気にならないけど……少しだけ」

 

 耀の指摘に、松風は頭を掻いた。

 心当たりは、ある。というか、彼は血腥い世界の出身であるし、騒動の度に血塗れになり、そして周囲を血塗れにしてきた実績もある。

 要するに、血のニオイが染みついているのだ。これはどれだけ気を付けていても、完全には拭い切れない。

 

「まあ、なんだ…………色々とな。別に怪我をしてる訳じゃない。不快なら、ファ〇リーズでもリ〇ッシュでも調達してくるけども」

「ううん、大丈夫。そっちの方が、臭そう」

「……仮にも消臭剤を臭いって言うな」

 

 気持ちは分からなくもない、と内心で松風は続ける。彼が思い出したのは、兄貴分のゲボを処理した際にお世話になったラベンダーの香りで無理矢理に悪臭を打ち消さんとするタイプの消臭剤。

 洗面所で使ったソレは、一週間ほどニオイが取れず逆にそのニオイで酔ってしまう程に強烈なものだった。

 今思いだしても顔を顰めるほどに強烈なニオイの記憶。

 ただ、この話題を振った耀の興味は既に別の事へと移っている。

 

「私、ゲームに出られるかな」

「あ?………大丈夫だろ。怪我も治ってる、後は血が足りれば動けるさ」

「でも、急にゲームが決まったら?」

「バニーちゃんも言ってたが、ギフトゲームってのは急には決まらない物らしいじゃねぇか。ま、そりゃそうだわな。会場設営やら何やら色々あるだろうし」

「…………」

「どした?」

「松風って、意外に人の話聞いてるんだね」

「え、何、喧嘩売ってる?俺は、男女平等パンチも使いこなす男だぜ?」

 

 シュッシュッ、とシャドーボクシングをする松風。その拳のキレは結構なものだ。

 だが、耀には何となく確信があった。彼は怪我人に手を出すような人間ではない、と。現に、喧嘩云々もどこか冗談めかした口調であったから。

 

「松風って、変」

「それ、お前が言う?」

 

 大ゲームまで、あと僅か。そんな一幕である。

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