遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

1 / 64
3/31 本文修正しました。


第1章 飛び立つ星
プロローグ


勝者(ウィナー)!! ユウ=キリサキぃ!!』

 

 かつて栄華を誇ったのであろう、石造りの円形闘技場。

 そんな中、周囲に鳴り響くけたたましいブザーのようなサイレンと共に、妙にテンションの高い女性が高々と右腕を振り上げてそう宣言した。

 

『はい、見るも鮮やかな決定打(ワンショット・キル)でした!! 最初から最後までドキドキな勝負でした~』

 

 橙色の『ぼんぼん』を振り回しながら興奮気味に語るハイテンションの女性。凹凸に乏しいボディーラインには似合いそうにない、チアガールのような露出の高い衣装を着ている。何ともノリノリな彼女の様子を見る限り、この格好に不満や恥じらいといったものは全く感じられない。

 

『ではでは皆様、またいつかどこかの戦場(フィールド)でお会いしましょう♪』

 

 バサバサとぼんぼんを振って女性が別れを告げると、周囲の景色は一変。石造りの闘技場は光の粒子となって霧散し、砂と岩山ばかりの荒野へと変貌する。その様子はまるで夢から醒めたようだった。

 

「……馬鹿な、お頭が負けた?」

 

 観客の内の一人であったバンダナを巻いた男が、そんな夢見心地の静寂に一石を投じた。

 ざわざわと困惑の波紋が伝染していく中、彼ら決闘者(デュエリスト)にとって『盾』とも呼称されている、『決闘盤(デュエルディスク)』を納めた機動音が勝負の決着を告げた。『決闘(デュエル)』という言葉になぞらえ比喩するとすれば、それは納刀の鍔鳴りとも呼べるのかもしれないが。

 

「俺の勝ちだ。約束の『賭け品(アンティ)』は頂いていく」

 

 中背で白いジャケットを着た黒髪の青年が、無味な眼差しと共にそう言い放った。

 青年の前に対峙していたのは、立派な髭を拵えた中年の男性。今は片膝を付き、焦点の定まらない目で青年を睨み返している。

「……くそったれが」

 男の凶暴な視線に怖気づくことなく、青年は淡々とした口調で言葉を続ける。

「ルールに基づき、賭け品を渡してくれ」

 抑揚の無い、やや機械的な独特の口調が男の神経を逆撫でする。

 屈辱に顔を歪ませる男に青年が右手を差し出した、そのとき。

 

「……うぉらああああ!!」

 

 地鳴りのような怒声と共に、観客の一人が青年へと文字通り『斬り掛かった』。

 鉄くずを叩いて伸ばしただけの粗末な『剣』だったが、この勢いなら取り返しのつかない大怪我にも成りかねない。

 それだけの殺意を持った一撃。しかしそんな彼の攻撃は、青年が身をかわすまでもなくあっさりと『見えない何か』に阻まれてしまった。

 

「うっ……!?」

「馬鹿野郎!! 『決闘者』に手ェ出す奴があるかァ!!」

 

 襲撃者に対し、目を見開いてそう叫んだのは男の方だった。

 青年は至って涼しげな顔で襲撃者を見据えると、懐から1枚カードを取り出し襲撃者に向けた。

 するとどうだろう。『見えない何か』に攻撃を阻まれ硬直していた襲撃者は、遥か後方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 襲撃者は糸の切れた人形のように数回地面をバウンドし、近くの岩場に身体を叩きつけられたことでようやくその動きを止めた。

 

「……馬鹿野朗が」

 

 誰にでもなく男が呟く。

 

「……決闘者に直接的な危害が及んだ場合、『審判員機構(ジャッジアプリ)』が状況を判別。正当防衛が可能と判断された場合、簡易的な『ARヴィジョン』を展開。被害側の決闘者はカードを半実体化させ攻撃が可能となる……決闘者ならずとも、この程度は常識の範囲内の筈だが?」

 

 青年の前に突然立ち塞がり襲撃者を弾き飛ばしたのは、白い甲冑を着た騎士だった。

 騎士は一言も発することなく、役目を終えたとばかりにすぐさま霧散した。青年が翳したカードには全く同じ容姿の騎士の姿が描かれていた。

 

「うぅ……」

 

 呻き声を漏らす襲撃者は他の観客達によってすぐさま担ぎ上げられると、傍に停められていたワゴン車――恐らく『彼ら』のものなのだろう――の中へと運ばれていった。

 

「テメェ……!!」

「何を睨んでいる。手を出してきたのはアンタの部下だろう。俺は定められたルールに従い行動しただけだ、恨まれる筋合いは無い筈だが」

 

 溜め息すら1つもつかず、まるで鉄仮面のように表情を崩さぬ青年――ユウ・キリサキは再び右手を差し出し告げた。

 

「勝ったのは俺だ。ルールに従い、賭品を渡して貰おう」

 

 

                 **

 

 

「ホントに容赦ねーなセンセー、やっと出てきた相手のエースモンスターに躊躇い無く《オネスト》打つなんてさ?」

 

 件の『戦場』からしばらく離れた道――と呼ぶにはあまりに頼りない馴らした地表であったが――を走るキャンピングカー、その運転席に座る茶髪の男が、助手席に座るユウへ尋ねた。

 茶髪の男の歳は、ユウとそう変わりなく見える。恐らく17~8歳程だろう。

 ダボついたカーキグリーンのジャケットと首から下がったゴーグルから察するに、この界隈では珍しくないフリーの『売買屋(ディーラー)』であることが伺えた。

 ニヤついたその視線が捕らえているのはユウではなく、商売の種であるカードに向けられていた。先の男から手に入れた賭品……彼の使用していた『デッキ』である。

 

「……手を抜くのは決闘者の在り方に反する。違うのか?」

 

 眉1つ動かさず、ユウは首を傾げてそう言葉を返した。

 悪びれたり皮肉を言っているつもりではないらしく、無表情な彼なりにクエスチョンマークを浮かべている。

 

「いや、まぁ……はは、どうでもいいけどな。ともかく、いつも通り『ソレ』は俺が査定して買取りってことでいいんだよな?」

 

 売買屋の男は苦笑を浮かべながらも、強引に話を商売に戻していく。

 

「ああ、構わない。目的のカードは見当たらなかった」

「そりゃあ有難いね。換金は……次の街に着いてからになりそうだな、先に査定して見積もりは出しとくから、最終的な判断はその時にしてくれ」

 

 売買屋の男はそそくさと懐にカードをしまい込むと、満足げな笑みを浮かべて砂利道の揺れに体を躍らせた。

 遠くに見える地平線。それを境に広がる漆黒へと散りばめられた、降り注がんばかりの星々。開いた窓からは、冷たく澄んだ空気が流れ込んでくる。

 文明のそれとはかけ離れた雄大な大地。しかし『未開拓の橙(ネイティブ・グラン)』と呼ばれるこの大陸では、さして珍しい光景でもない。

 

「いや~本日も快晴快晴。センセーと組んでからこっち、曇天の野郎ともすっかり疎遠になっちまった」

「そうか、それは何よりだ」

 

 上機嫌な売買屋に、ユウは相変わらずのトーンで返す。

 

「センセーの快晴は、いつになるのかねぇ。これだけ勝っても、『目的』とやらが果たされなきゃその時化た面は晴れねーのか?」

「……さぁな。俺もそれは分からない」

「ふーん、そうかよ。ま、こっちは『商品』が順調に仕入れられれば何でも良いんだけどな」

 

 冷たい夜風に吹かれながら奇妙な2人組が荒野を進む。

 しばらくは2人無言のまま、揺れる車体に身を任せ街の明かりを待つばかりだ。

 

 ――デュエルモンスターズ。不思議な力を持つカードを駆使し、人々が雌雄を決するゲームバトル。

 これはそんなカードゲームが世の理を支配したある世界の、とある物語の1ページ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。