遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス) 作:kohatuka
「……そうか。随分と娘が世話になったようだ。礼を言う」
深々と頭を下げる岩壁のような大男に、クラドも思わず畏まった。
死んだと思っていた実は娘が生きていて、妙な男を連れているのだ。決して誤解を招かぬよう注意しながら、クラドはこれまでの経緯を説明した。
グレーユ・ベルガモット。それが目の前の彼――ベルの父親である男の名前だ。
短いウェーブの掛かった黒髪は男性にしては長く伸ばされ、傷だらけの厳つい顔を目元まで隠している。長く日の下に晒された褐色の肌はベルよりも色濃く、逞しく鍛えられた身体をより屈強なものとして映えさせていた。
余計なものが一切無い、整然としたこのキャンピングカーが『彼』の根城だ。古ぼけたセピア色の空間には、棚と机、それにベッドが見える程度である。
(確か親父さん、あまり強くない決闘者だったって話だよな……?)
クラドの視線は必然的にそこへと向かう。
腰のホルダーに収まった決闘者の証、デュエルディスク。旧型ながらも取り回しが良く利く銃型タイプのものだが、クラドの観察眼はそれからいくつかの情報を割り出した。
(あのデュエルディスク……
旅団狩りとは、決闘旅団を狙った強盗のようなものだ。狙いはもっぱらカードであるが、質の悪いものとなれば食料や金品、果ては人間まで攫い糧とする。
単独で行動する者から大所帯の組織を組む者までその規模は様々であるが、共通して言える事は多数の決闘者を相手にしてもそれなりの勝率を上げられるだけの実力がある、ということだ。
(何があったか知らねぇが……こりゃあ親子感動の再会、ってだけじゃ済まないかもな)
聞いていたものとは随分違うグレーユの人物像に警戒を強めるクラドだったが、それは実の娘であるベルも同じだったようだ。
「……お父さん、何か雰囲気変わったね。今は何をしてるの?」
彼女の複雑な事情を差し引いても、どこか引っ掛かりのあるギクシャクとした会話。ベルの困惑は目に見えて分かった。恐らくはもう、二度と会うつもりはなかったのだろう。
「……ようやく、デュエルでお金を稼げるようになってな。ネイティブのあちこちを回っている」
明確な答えを避けるグレーユの言い方に、クラドは推測を確信に変えた。
「そうなんだ。村の皆は元気にしてる?」
「……村にはもう、長いこと帰っていないからな。どうだろうな」
恐らくはベルも、父親の辿って来た3年間がおぼろげながらも見えてきたのだろう。
村の悪習がそうさせたとはいえ、自分の力不足で一人娘を失ったのだ。平然と村で暮らせる訳が無い。
デュエルモンスターズが理を支配するこの世界で生きていくなら、その道で力を付け弱者を淘汰するのが手っ取り早い。少なくとも、
「ユーリ、そういうお前も随分と変わったな。母さんの面影が無かったら、きっと気付かなかっただろう」
どこか影のあったそれまでに比べれば少し柔らかくなった口調で、グレーユはようやく父親らしい言葉を掛けた。
様変わりした父親の中に『昔』を感じ取ったのか、ベルの強張った表情も次第に解けていく。
「そう、かな。自分じゃ分からないけど」
「ああ。大きくなった、本当に……」
先程までの緊張が嘘のように、2人の間には和やかな時間が流れていた。
どれだけ人が変わっても、親と子の繋がりは変わらない。
杞憂だったかと頬を緩めるクラドが耳を疑ったのは、その直後だった。
「……だがユーリ、お前は決闘者になるべきじゃない」
再び娘に向けられていたのは、金属塊のように心中が窺い知れぬ重い視線だった。
「決闘者を辞めろ。彼らの旅団からは離れた方がいい」
「……どうして、何でそんなこと言うの? さっきクラドさんの話を聞いて無かったの!? わたしは――」
「お前は。この世界で生きていくには脆すぎる。折角助かった命だろう、こんなモノに関わったらそれこそ『次』は無い」
差し出された左手の意図を、突然クラドが叫んだ意味を。
ベルはそのとき、全く理解できなかった。
「捨てられないというのなら、カードは俺に渡せ……いや、力ずくでも渡して貰う」
いつの間にか装着されたグレーユのディスクから、紅い一筋の光が伸びている。
デュエルアンカー。デュエルディスクを強制発動させるだけのはずのソレは、まだディスクを付けていないベルの左腕にきつく巻き付いていた。
「え? 何、コレ……?」
以前に使われたものが玩具だとすれば、これは正真正銘の『本物』。
対象者の手首を締め上げ、生命的な危機に晒すことでデュエルを強制する非人道的な拘束具。それが今、父から娘に向けて放たれている。
「もう1度言う。決闘者を辞めろユーリ。それが俺と、母さんの遺思だ」
**
人気の無いがらんどうの駐車場で、大男と少女が向かい合っている。
実の親子が刃を交えるその光景を、クラドは歯噛みして見守っていた。
アンカーを解除するにはデュエルするしか無い。その結果が例え勝利でも、敗北でも。
『――『決闘申請』、確認。
重苦しい静寂が流れる中、景色は仮初の戦場へ塗り替えられていく。
現れたのはいつかと同じ、荒廃した石造りの古代遺跡。
『
緊迫した空気を破り、現れたのはテンション高めな方の審判員だ。
『血は人間の絆。愛の証! 愛の為に血を流す女、美少女審判員コーパルちゃん只今参上……っと、何やら早々に重苦しい雰囲気ですがー?』
赤と青のダボダボな全身タイツを着たコーパルが、不思議そうに首を傾げる。
彼女のハイテンションはいつも通り、グレーユの追加申請によって流された。
「申請を要求、アンティルールの適用を頼む。賭け品はそれぞれ『決闘者の資格』を放棄すること。その手段・方法は問わない」
「……そんな条件、絶対呑まない!! コーパルさん、アンティの適用は無効にして下さい!!」
『あららー、残念ですねー。アンティルールの適用には互いの合意が必要と……』
バチン、と。
コーパルの身体が弾けた様に仰け反り、再び向けられたのは彼女に似つかわしくない、虚ろな瞳だった。
『――ルール改定の申請を受理しました。これよりアンティルール適用、LP4000のデュエルを開始します。対戦者グレーユ・ベルガモット、並びにユーリ・ベルガモット両名は開始準備を済ませ、位置について下さい』
妹のネフよりも機械的な、まさに電子音声といった無機質な声がコーパルから発せられる。本来なら受理されないはずのアンティルールの設定受理を、さらりと告げながら。
「っ!? お父さん、何したの!?」
「……少しばかり細工をな。この程度で驚いているようでは、デュエルモンスターズが抱える『闇』に喰われてしまうぞ」
目の前に立つ『敵』は、一体誰なのだろう
ベルの知るグレーユは、あの優しい大きな背中は。一体どこへ行ってしまったのか。
「……ッ馬鹿野朗!! しっかりしろメイドちゃん!!」
激しく動悸する心に、気付けのようにクラドの怒声が響いた。
はっと我に返ったベルは、あちこちに揺れる視界を振り向かせ、何とかクラドへ焦点を合わせた。
「腹括れ!! こうなった以上、そのクソ親父を倒す以外に道は無ぇんだ!!」
愛し、愛された者から向けられる敵意。
その重圧に、悲しみに。果たして自分は立ち向かえるのだろうか。
「お父さんを、倒す……」
「ああそうだ、ガツンと一発かませ!! 見せてやれよ、メイドちゃんの『全力』を!!」
拳を突き出し、快活に微笑むクラドの姿が。ベルの芯に熱を取り戻させる。
「……わたしは」
出来る出来ない、ではない。
やり遂げなければならないのだ。
彼らと出合ったあの日に誓った、願いを叶える為に。
これまでに出会い、乗り越えてきた決闘者達の為に。
「わたしは、絶対負けない! お父さんにだって……デュエルの闇にだって!」
なにより。今はたった1人で自分を支えてくれている、クラドの為に。
「……お前がいかに甘い『幻想』を抱いているか。それはこのデュエルが教えてくれるだろう」
互いにディスクを構え、位置に付く。
仮想空間を吹き抜ける風とコーパルの静かな合図が、無慈悲な闘いの幕を切って落とした。
「「決闘(デュエル)!!」」
ベル LP4000 VS グレーユ LP4000
**
「……俺の先行のようだな。ドロー」
グレーユ LP4000
手札・5→6 モンスター・0 魔/罠・0
ベル LP4000
手札・5 モンスター・0 魔/罠・0
「モンスターをセット。バックカードを2枚セットしてターンエンド」
彼の外見をそのまま現したような、静かで手堅い先行1ターン。
開始早々いきなりライフを焼き切るような『一撃必殺』系のライフバーンデッキではなかったことにひとまず息をつくクラドだが、基本に忠実なその布陣に安堵も緊張に塗り変わる。
(ま、そりゃそうか……バーンは奇襲に向いてるとはいえ、安定して立ち回れるようなデッキじゃない。だとすればバランスの取れたビートタイプが妥当って訳だ)
旅団狩りとしては必然的な選択と言えるが、経験の浅いベルにとっては唯一安心して戦えるデッキだとも言える。予期せぬ一撃で、突然敗北するような危険性は無い。
「わたしのターン、ドロー!」
気迫一杯なベルの様子を察するに、手札も悪くないらしい。
この様子ならば勝利することも、十分に考えられる。
「スタンバイからメイン、まずは手札から《切り込み隊長》を攻撃表示で召喚!」
《切り込み隊長》
☆3/地属性/戦士族・効果/ATK 1200/DEF 400
もはやベルのデッキではお馴染みとなったそのモンスターが第一陣を飾る。
次いで、その果敢な剣に導かれるように召喚の魔法陣が浮かび上がった。
「召喚成功時に効果を発動! 手札から《荒野の女戦士》を攻撃表示で特殊召喚!」
《荒野の女戦士》
☆4/地属性/戦士族・効果/ATK 1100/DEF 1200
剣を携えた麗しき女剣士が凛々しく並び立つ。
これで《強制転移》があれば早くもロックが完成していたのだが。そこまで上手い手札ではなかったようで、伏せカードが召喚に反応しないと見るや、ベルはすぐさまバトルフェイズへと突入した。
「バトル! まずは切り込み隊長でセットモンスターに攻撃!」
召喚を阻害しなかったというのであれば、セットモンスターは何かしらの効果を持つリバース持ちかリクルーターか。
そう踏んでいたベルの思考を、グレーユの重く静かな宣言が遮った。
「ならばその攻撃宣言時、永続罠カードを発動。《モンスターBOX》」
モグラ叩きのような装置が描かれた、決して汎用性は高くないその罠。
クラドの脳裏に『あるデッキ』の存在が過ぎった。
途端、もはや取り返しの付かない状況になってしまったことに血の気が引いていく。
「このカードは相手モンスターの攻撃宣言時、コイントスを1回行い裏表を当てる。当たった場合、攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで0になる。最も、このカードのコントローラー……つまり俺は自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払うか、払わずにこのカードを破壊する、という選択を強いられるが」
確立1/2のカウンターカード。しかし守備表示モンスターへの攻撃に対して発動しても、ダメージを受けるもののベルのモンスターを破壊するには至らない。
そう軽く考えたベルとは対照的に、クラドは真っ青な顔で危険を促した。
「メイドちゃん!! 切り込み隊長の攻撃が中断出来そうなカードがあればチェーンしろ!! 運が悪けりゃこのまま負けちまうぞ!!」
「えっ!?」
一撃で決着の着いてしまう何か。それがあのカードの裏に潜んでいる。
未熟なベルには思い当たるカードなど無かったが、クラドは既にその正体を見抜いていた。
「ほう……彼は中々に経験があるようだ。さて、どうするユーリ? 何か発動するカードはあるのか?」
手札に目を落としてみるも、この状況で発動出来るようなカードは1枚も無い。
「……ありません。攻撃は続行されます」
「ならばモンスターBOXのコイントスを行う。俺の選択は『裏』だ」
いつもの熱の篭った実況をの代わりに沈黙を保っていたコーパルが、ようやく口を開いた。
『効果の発動を確認。コイントス機能を行使します』
能面のような表情のコーパルが、手馴れた動作でコインを高く弾き飛ばす。
くるくると回転しながら落ちてくるそれに、3人の視線が収束していく。
(もし親父さんの『細工』がここにまで及ぶものだとしたら……!!)
攻撃宣言を止められなかった以上、クラドの不安は『それ』に尽きた。
この不安が的中してしまえば、結果はイコール必然となる。この決闘に最早意味など無く、儀礼じみた形式だけの『何か』に過ぎなかったということだ。
『コイントスの結果が確定しました』
パシン、と。コーパルの掌の上で運命が決定される。
『コイン表示は『表』。よってグレーユ・ベルガモットの宣言は『失敗』となります』
コーパルの宣言と同時。切り込み隊長の剣先は鈍ることなく、セットモンスターへと叩き込まれた。
「……命拾いしたな。ユーリ」
攻撃を受け、カードの中から姿を現したのは岩のブロックで出来た上半身だけのモンスターだった。
《アステカの石像》
☆4/地属性/岩石族・効果/ATK 300/DEF 2000
グレーユの言葉を理解するより早く、ベルに反射ダメージの仮想余波が襲い掛かる。
「っ……くぅ……?!」
ベル LP4000→2400
ダメージエフェクトを耐えたベルは、あまりに大きく変動していたライフを見て抗議の目をコーパルへと向けた。
「なっ、どうして!? ダメージは差分の800の筈じゃ!?」
『質問への回答。《アステカの石像》は『このモンスターを攻撃した時に相手プレイヤーがダメージを受ける場合、その数値は倍になる』という効果を持ちます。攻撃力1200の《切り込み隊長》が守備力2000の《アステカの石像》を攻撃し、発生した800ポイントの戦闘ダメージは効果によって倍に。結果ユーリ・ベルガモットは1600のダメージを受ける計算となります』
抑揚無く語られる、見た目には何の変哲も無い下級モンスターが持つ凶悪な効果。
敗北の可能性。その戦慄が今更ながらにベルの全身を駆け巡った。
「そんな……それじゃあ今……」
もしコイントスが成功し、切り込み隊長の攻撃力が0になっていたら?
4000のライフポイントは、あっという間に消し飛んでいただろう。
「今更気付いたか。そこの彼は既に『別件』を危惧していたというのにな」
ちらりとクラドに目線を送って、グレーユは続けた。
「安心しろ。コレに出来るのはあくまでアンティの強制承認とアンカー自身の存在を隠すことだけだ。デュエルの進行まで自在に操れたなら、ユーリをサレンダー扱いにさせているさ」
そう言って涼しげに微笑したグレーユを、クラドは恨めしげに睨み付けた。
「……アンタ、本気なんだな?」
「ああ。悪いが俺の思惑に裏も表も無い。言って分からないなら力でねじ伏せ、全力で従わせる。ただそれだけだ」
グレーユのデッキ。その名は【アステカ】という。
中心となる下級モンスターの名を冠するソレは、『相手の攻撃を受ける』という防御的な手段を用いながら高い殺傷力を誇る、極めて特徴的なデッキだ。
ときに相手の攻撃力を下げ。ときに己の守備力を高め。不用意に攻撃を繰り出せば一撃の決着も有り得る、まさにモンスター不殺のプレイヤーキラー。
それを躊躇い無く使用したグレーユに、何か思惑があったとは考えれない。
本気で娘を、ベルを殺しに掛かっているのだ。
「無駄話が過ぎたな。ユーリ、ターンを進めろ」
「……わたしはこれで、ターンを終了します」
すっかり消沈したベルを鼻で笑って、グレーユはデッキトップに手を掛ける。
「俺のターンだ。ドロー」
グレーユ LP4000
手札・3→4 モンスター・1 魔/罠・2
ベル LP2400
手札・4 モンスター・2 魔/罠・0
「スタンバイフェイズ。俺はモンスターBOXを維持する為、500ポイントのライフを支払う」
グレーユ LP4000→3500
「更に手札から魔法カード《増援》を発動。デッキから《砂塵の騎士》を手札に加える。モンスターを1体、バックカードを2枚セットしてターンエンドだ」
あちらからの攻撃は一切無く、ただただ不気味にセットカードが増えていくのみ。
徐々に追い詰められていくようなキリキリとした感覚に襲われながらも、ベルは懸命に『可能性』へ手を掛け、引き抜いた。
「……わたしのターン、ドロー!」
そんなベルの想いに応えたのだろうか。
手札に舞い込んだのは、勝利をもたらす翼の女神だった。
(っ!! よし、ヴァルキュリアを引いた! これなら――)
「お前のスタンバイフェイズ。俺はこのカードを発動させて貰う」
ベルの思考を遮り、立ち上がったのはまたしても罠。
コミカルなイラストで、女学生と幼稚園児、本を持った学生らしい男が格闘家風の男に挑発されている。
「罠カード《バトルマニア》。相手のスタンバイフェイズに発動するこのカードは、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て攻撃表示にし、そのターンの表示形式変更を封じる。そして、この効果を受けた全てのモンスターは攻撃を強要される」
罠カードから発せられた赤いオーラに触発され、切り込み隊長と荒野の女戦士が闘気剥き出しの様相でグレーユのモンスターを睨みつける。
メインフェイズが終われば、たちまち相手モンスターへ切り掛かっていくだろう。
(つまり、このまま放っておいたら……)
相手のフィールドには、未だモンスターBOXとアステカの石像が立ち並んでいる。
加えて、裏側守備表示のモンスターがサーチした《砂塵の騎士》だという保障はどこにも無い。しれっともう1枚のアステカを伏せられている可能性は十分に有り得るのだ。
そうなれば先のターンの再現。今度こそ、自滅の引き金を引く羽目になる。
(それなら……!!)
攻撃を強制されるのは、あくまで《バトルマニア》の効果を受けたモンスター。
それを破る手段なら、たった今手札に舞い込んでいた。
「メインフェイズ、2体のモンスターをリリースしてアドバンス召喚!!」
2人の戦士の魂が呼び水となり、天空から暗暖色の機械天使が舞い降りる。
「わたしに前へ進む勇気を貸して!! 《
《―**―翼戦神》
☆10/地属性/天使族・効果/ATK 2800/DEF 3000
「最上級モンスターか……聞いたことの無いカードだが、この布陣を突破出来るのか?」
「……絶対、超えて見せる! ヴァルキュリアの効果を発動、手札の《マジック・ストライカー》を装備して、攻撃力を600ポイントアップ! さらにヴァルキュリアはマジック・ストライカーと同じ名前・効果を得る!」
ヴァルキュリアの手に握られた
《―**―翼戦神》
ATK 2800→3400
「ほう……それで一矢報いたつもりか。甘いな、俺は罠カード《岩投げアタック》を発動」
「このタイミングで罠……!?」
それはまさにバトルフェイズへ突入せんとする、その直後だった。
「デッキから岩石族モンスター1体を墓地へ送り。相手ライフに500のダメージを与える。選択するのは《タックルセイダー》だ」
《タックルセイダー》
☆4/地属性/岩石族・効果/ATK 1500/DEF 1800
グレーユのデッキから下級の岩石族が落とされ、墓地から弾け飛んだような岩の礫がベルにダメージを与えていく。
「ぁぐ……!」
ベル LP2400→1900
「無論、それだけじゃあない。墓地へ送られたタックルセイダーの効果を発動。相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して裏側守備表示にする」
「っ!! そんな……!!」
ヴァルキュリアに纏わり付くように、大小様々な岩が寄り集まる。
岩の中に完全に埋もれたヴァルキュリアは、無防備に背を向けカードの形で沈黙した。
「折角装備したストライカーも、これで外れてしまったな。大方その効果でアステカの石像を飛び越え、ダイレクトアタックを狙い続けるつもりだったのだろうが……」
――強い。これが本当に、村で『下手っぴ』だと笑われていたあの父なのか?
「……わたしはこれで、ターンを終了します」
「なら俺のターンだ、ドロー。スタンバイフェイズにモンスターBOXを維持。メインフェイズに伏せていた《砂塵の騎士》を反転召喚」
グレーユ LP3500→3000
《砂塵の騎士》
☆4/地属性/戦士族・効果/ATK 1400/DEF 1200
「砂塵の騎士のリバース効果を発動。デッキから地属性モンスター1体を墓地へ送る。選択するのは《リバイバルゴーレム》だ」
《リバイバルゴーレム》
☆4/地属性/岩石族・効果/ATK 100/DEF 2100
ゴーグルを被った黒髪の騎士が砂塵を巻き起こしたかと思うと、その隣には気味の悪いアンデットモンスターのような外見のゴーレムが並び立っていた。
「リバイバルゴーレムはデッキから墓地へ送られた時、場に特殊召喚することが出来る。更に俺は、砂塵の騎士とリバイバルゴーレムの2体でオーバーレイ!」
「それって……まさか!?」
息をもつかせぬ怒涛の召喚連打。
その最後を飾るのは、ベルにとっては初めて目にする黒の召喚法。
「レベル4モンスター2体で、オーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚!」
星々の輝く宇宙が、虹色のを引き起こす。
「歯向かう全てを砕く、金剛の牙!! ★4、《恐牙狼 ダイヤウルフ》!!」
★4/地属性/獣族・エクシーズ・効果/ATK 2000/DEF 1200
ORU:2
「エクシーズ、召喚……!?」
ORUを纏った狼型のモンスターが、腹の底を抉るような遠吠えを上げる。
間髪入れず、グレーユが効果を発動させる。
「ダイヤウルフの効果を発動。ORUを1つ消費し、自分フィールド上の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体とフィールド上のカード1枚を選択して破壊する。選択するのはダイヤウルフ自身と……伏せ状態のそのモンスターだ!」
ベルが状況を把握できないまま、ダイヤウルフは巨大な獣の頭部へと姿を変え――無防備なままのヴァルキュリアを容易く葬った。
「っ、ヴァルキュリア!?」
「お前の手札に《戦士の生還》でもあれば先のターンの焼き直しだ。良く分からんその最上級モンスターには、早めに退場願おうか?」
手札に《戦士の生還》を抱えていたベルは、驚愕に顔を歪めた。
こちらの思惑も完全に先読みされ、頼みのヴァルキュリアですら攻略された。
何より。初めて対峙する《アスタリスクス》の名に動じる気配が全く無い。
「……俺はこれで、ターンエンドだ」
変わり果てた父親の背中を、果たして今の自分が超えられるのだろうか?
(……バカ、泣くな!! 絶対、ゼッタイ諦めるもんか!!)
思わず吐き出しそうになった弱音を必死に堪えて。
クラドの祈るような視線を背に、ベルは声高く宣言した。
「わたしのターン……ドロー!!」
未来を切り開けるか、否か。
それはこのドローに託された。
遊戯王主人公の親は何かダメな法則。
とはいえ、蟹パパと遊矢くん家のママンは可愛いので何とも。