遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第2章 大会、開催。
第13話 スパイシー・ガール


 

「えーっと……わたしは《レスキューラビット》の効果を発動、このカードを除外して……」

「デッキからレベル4以下・同名の通常モンスター2体を特殊召喚、ですわ」

「あ、はいっ。デッキから《甲虫装甲騎士(インセクトナイト)》2体を召喚!」

 

《甲虫装甲騎士》

☆4/地属性/昆虫族/ATK 1900/DEF 1500

 

 女性専用車両の小さなテーブルの上に、ベルのデッキから薄黄色のカードが2枚置かれる。ベルとアンリエールが嗜んでいるのは、ディスクを使わない卓上デュエルだ。

 

「これで☆4のモンスターが2体。(エクシーズ)召喚の準備は整いましたわよ」

 

 退屈そうに目を細め、アンリエールがフィールドを眺めながらX召喚を促すが、ベルは難しそうに首を傾げたまま動こうとしない。

 

「……やっぱり、ダメですね。この子は合わないみたいです」

 

 ベルはそう言うと、テーブルに展開したカードの中から《レスキューラビット》を名残惜しそうに引き抜いた。

 

「たった1枚でモンスターを2体揃えられるのは強いかなぁと思ったんですけど。どうにも、デッキの『様子』がおかしいというか……」

「それはそうですわ。そのカードを使うなら素材になる通常モンスターを最低でも2枚、投入しなければならないのですから」

 

 (グレーユ)から所有カードとデッキを丸ごと預かったベルだったが、彼の【アステカ】はクセが強く手に余る代物であり、結果として従来のデッキにいくつかのカードを足して強化することになった。

 X召喚を戦術に取り入れるにあたり、その道のエキスパートであるアンリエールにデッキ構築を指南して貰うことになった訳だ。

 

「ラビットから持ってこれる素材は、色々と出来そうな子が揃っているようですけど……問題はエクストラデッキですわね。肝心のモンスター・エクシーズが1枚だけでは、そのカードを投入する意味は薄いですもの」

 

 短く溜め息をついて、アンリエールもカードをデッキへ仕舞いこむ。

 

「うぅ……」

 

 そんなコトは言われなくても分かってますよーと心中で毒を吐いて、ベルは泣く泣く貴重な『可愛い系カード』の採用を見送ることになった。

 

「ま、他に手頃なエクストラカードが手に入るまでお預けということで良いんじゃないですの? シガマ(ここ)ならカードショップも星の数ほどありますでしょうし」

 

 アンリエールが外へ視線を投げる。

 車の窓には既に、ネイティブでも有数の大都市シガマが映っていた。中心部に近づくにつれてビルが立ち並び、その発展は一帯の街とは一線を画している。

 その理由は至極明快、このシガマは『空の玄関口』として機能しているからだ。見れば時折、轟音と巨影を携えて旅客飛行機が街を出入りしている。

 各政府が主導する公認大会がこの街で行われるのも、他の大陸からの決闘者が参加しやすいようにとの配慮に他ならない。

 そんな不特定多数の人間が出入りする為だろうか、街へ出入りするにはそれなりのチェックを通過する必要があった。

 ユウ、クラド、藍の3人は街の出入り口に設けられた関所へ行ってしまった為、アンリエールが素直にベルの相手をしているのは半ば暇潰しの意味合いが強い。

 

「そうですね……うう。でも、また新しいお洋服を買う夢が遠のいて……」

 

 旅の資金源も兼ねているクラドの『商品』を譲ってくれという訳にもいかず、結局は自分のお小遣いの範囲でしか買い物は出来ない。

 大会開催も秒読みというこの状況で呑気に服など買っている訳にもいかず、折角溜まり始めたお小遣いもカード購入の軍資金となりそうだ。

 大会の大舞台に立つのに、一張羅のメイド服のままというのも目立ち過ぎて何だか嫌だなぁ、とベルなりに思うところはあったのだが。

 

「服ですの? 私のお下がりでも良ければ……ああ、そのはしたない胸囲じゃサイズが合いそうにありませんわね」

 

 ぐさり、と魔王アンリエールの毒槍がベルのハートに突き刺さる。

 他に着る服が無いそのもう1つ理由が、低身長のクセにやたら大きく張り出したソレのせいで、自分に合ったサイズが中々無いということだった。

 男性は大きな胸を好む、と常々聞かされていたので、ひっそりと誇りを持って生きてきたベルだったが。こうした不便な点を考えるとアンリエールの言い分もあながち間違いではないのかもしれないと考えてしまう。

 スリムな体型の方が可愛い服が多いし、実は『控えめな方が男性は好み』とかいう話も小耳に挟んだ。

 

「……いいですよー。どうせ着れたって、わたしにはそういうドレスとか似合いませんからー」

 

 だからベルはぷいっと顔を背けて、健気に強がるのが精一杯だった。

 

 

   **

 

 

 クラドの事前準備は今回もバッチリで、大会開催前でどこも満室になる筈の宿の確保も抜かりは無く、多少手狭ながらも男女2部屋に別れての宿泊が可能になった。

 

「ほい、メイドちゃんに俺らからプレゼントだ」

「え?」

 

 そんな訳で。

 色々とお金が入り用、というこの状況で『それ』はベルにとって思いも掛けないものだった。

 

「大会前だってのにこんなケチなモンしか渡せないが……少しでもデッキの強化になる足しになればと思ってさ」

 

 クラドから手渡されたのは、白と黒のカードが1枚ずつ。《大地の騎士ガイアナイト》に《銀嶺の巨神》、どちらも決して強力なカードとは言えないが、貴重なエクストラカードということに違いは無い。

 

「エクストラカード!? いいんですか、これからもっとお金が必要になるんじゃ……?」

「ああ、その辺はセンセーと姉ちゃんが上手く見繕ってくれてな? 思ったより懐に余裕が出来てさ。お嬢の実家さんも、大会の参加費用くらいは持ってくれるそうなんだ」

 

 驚くばかりのベルに、クラドと藍が悪戯な微笑みを浮かべた。

 のも束の間、ここだけの話だけどね? と声を潜めた藍が付け足す。  

 

「……アンリちゃんね、実は『見聞を広げて修練を積む為に』って反対するお兄さんを説得して付いて来たらしいのよ。電話口で『旅の間はもう家に頼るな』ってこっぴどく叱られてたわ」

 

 宿へ着くなり街へ出て行ったユウを追いかけ、今はこの場に居ないアンリエールの意地悪な微笑を思い浮かべる。

 いつも余裕ある態度の彼女だが、名のある決闘役者(アクションデュエリスト)が長い間舞台を離れることがどれほどのリスクを背負うのか。プライドの高いアンリエールがこっぴどく叱られたというその光景を想像する程度にしか分からない。

 彼女はきっと「貴女の為ではない」と言うだろうが。メンバー全員の思いが詰まったそのカードを、ベルは包み込むように受け取った。

 

「……ありがとうございます! わたし、この子達と一緒に精一杯頑張りますね!」

 

 何も出来なかった自分にはそうすることでしか報えないと、じわりと滲み始めた涙腺に蓋をしてベルは全力で微笑んで見せた。

 

「うむ、期待しているぞメイド隊長。とまぁ授与式も終わったところで、俺らも早速シガマの街を捜索しに行こうか? あんまりのんびりしてるとセンセーに睨まれそうだ」

 

 照れ隠しなのか少しおどけて見せて、クラドが今日の本題を切り出す。

 翌日に迫った大会開催の前になるべく『白面の女』の手掛かりを探し出すこと。これまでの経緯からそう簡単に見つかるとは思えないが、相手もこの街に何かしらの目的がある以上、その距離は確実に縮まっていると考えて良い。

 危険極まりない『闇のゲーム』を仕掛けてくるという未知の存在。出来ることなら、次の『被害者』が出る前に正体を明かしたい。

 

「改めて確認だ。無茶はするな、手掛かりを掴んだらまず連絡しろ。これは絶対厳守だからな?」

 

 極めて真剣に語るクラドに、ベルと藍も神妙な面持ちで頷き返した。

 

 

 

「――とは言うものの」

 

 広い。しかし狭い。

 というのが、ベルがこの街に抱いた第一印象だった。

 左右に背の高い建物が立ち並ぶ大通りは、今までに見たどんな街よりも広く長かったが……その中心を走るのはせわしない車の列。端へ追いやられるように詰められた人並みは入り乱れ、歩きづらいことこの上ない。

 ベルの担当は街の表通りの、決闘者が集まっていそうな場所での聞き込みだ。

 白面の女と直接遭遇する危険も有り得る『街の暗部(ろじうら)』の散策は男性チーム、上流階級御用達の特別区域はアンリエール、年齢的にベルには不向きな場所へは藍が出向いている。

 人混みを何とか掻き分けながら進み、1つ情報を得られそうなスポットを見つけたら、次のスポットの情報を聞いてそこへ向かう。そんなリレー方式で街を巡っていたベルだったが、慣れない人混みを歩き続ければ流石にスタミナも減るというものだ。

 そろそろ腹ごしらえもしたいと考えていたところで、ふと目に留まったのがベルがかつて働いていたのと同じような雰囲気の、木造建築の飲食店だった。

 近代的な街並みの中に取り残されたように不釣合いな店だったが、それはあくまで『演出』としての効果を狙っているようで、中を覗いてみると街の空気に馴染めなそうな荒野の男達が相も変わらず騒ぎ立てている。腰のカードホルダーを見るに、大会に出場するべく集まった決闘者達なのだろう。

 時刻は既に夕刻へ差し掛かろうとしていたが、普通に夕食を楽しむ客もいたりと雰囲気は『オリジナル』より少しばかり観光向けになっているらしい。

 

「あのー、すいません」

 

 などと、なるべく目立たないよう店員に声を掛けてから、ベルはそそくさと空いている席へ腰掛けた。こんな場所に1人で『妙な格好の女子供』が入ってくれば嫌でも注目を集めるだろうと、半ば諦めの境地で居たのだが。

 何やら、男達の賑やかな注目はカウンターの1席に集まっているようだ。

 

「いいぞネェちゃん! ドンドン片しちまえ!」

「見ろ、店主(マスター)の顔が皿みてーに真っ白だ!」

 

 ゲラゲラ、と豪快な喧騒が店の雰囲気を盛り上げる。

 喧嘩やトラブルの類ではないようで、同席している客達も煩わしいというよりはどこか苦笑を浮かべつつその様子を楽しんでいるようだ。

 値段も手頃な軽食を1つ注文してから、ベルもそろりと様子を伺いに席を立った。

 

「おかわり!」

 

 件のカウンター席には、細身の少女が1人。丁度、空になった丸皿を店主と思わしき男に笑顔で突き出しているところだった。

 まだあどけなさの残るものの、歳は恐らく17~8歳程。真珠を透かしたような独特の白髪は歳相応とは言えないが、腰の辺りまで長く伸ばされたそれを2房の三つ編みに結ったそのシルエットはやはり、無邪気な雰囲気と相まって幼く見える。

 しかし彼女の風貌は幼い少女のイメージとは大きくかけ離れた、かなり露出の多い軽装だった。上は肌にピッタリと張り付いた黒いスポーツインナーのようなものが1枚だけで、腹部を覆うには至らない丈の短さときている。腿の付け根辺りで役目を終えているデニムのホットパンツからは、程よく肉付いた脚がすらりと伸びていた。

 ブラウンのロングブーツと黒のハイニーソだけが唯一彼女の肌を大きく隠していたが、ニーソの方はどこかで破いたのか、そもそもそういうモノなのか分からないが、大小の穴が開き白い素肌を覗かせてしまっている。

 

(……変な人だ)

 

 自分の格好は棚に上げて、ベルの第一印象はそれに尽きた。

 奇妙な少女の観察をしているうちに、空だった皿にはいつの間にか新たな息吹が注ぎ込まれていた。山盛りのカレーライスが、それはもうドカンといった具合に。

 

「……はいよ、これで9皿目。無理はしない方が身の為だぞ?」

「? 無理? 何で?」

 

 きょとん、と目を丸めて少女が首を傾げたのも束の間。

 

「いただきまーす!」

 

 徒競走の号砲にも似た彼女の宣言と共に、香り豊かなスパイスマウンテンはみるみるうちに更地と化していく。

 そんな彼女の災害じみた食事風景に、一瞬静まったギャラリーたちが再び沸き上がる。

 

(あれが……9皿も!? ウソウソ、あの人の身体のどこに!?)

 

 凹凸のはっきりとした、藍とはまた少し方向の違う女性らしいボディーラインを備えた彼女のどこに、9つものスパイス山脈が詰め込まれているのだろう。

 そもそもお金は大丈夫なのだろうか、とカウンターの上の方へ目を向けると……。

 

「超激カラヴァルカレー、おかわり自由。やれるもんならやってみろ……」

 

 口に出して、一字一句黙々と音読。

 

「げ、激辛!? あっ……」

 

 ここへ来て、ようやく何かを察したベル。

 まるで目を刺すような芳ばしい香り。そしてカレーと呼ぶにはあまりに紅過ぎる、溶岩のような色をしたそのルーの違和感。

 それがどれほどの攻撃力を持っているのかベルには想像もつかなかったが、目の前の少女は笑顔でソレを平らげると、一息ついてからこう言った。

 

「おかわり!」

 

 かつて、ベルを苦しめた《マクロコスモス》というカードがある。

 どんなカードであろうと問答無用で除外するその効果をふと思い出し、少女の胃袋はそんな別次元の何かで構成されているのではないかと、ベルはそう思った。

 

「……悪いがお嬢ちゃん。10皿目はタダでとはいかねぇ」

 

 肩を震わせながら呪詛でも紡ぐような姿勢で呟く店主に、ギャラリー達から十人十色のブーイングが飛び交った。

 

「えぇーっ!? 何でぇ!?」

 

 白髪の少女もそれに漏れず、スプーンと皿を剣盾のように持ち構えながら不服の意を示す。

 

「おじさん、おかわり自由っていったじゃん!?」

「悪いな。ここから先は大人の事情ってモンなのよ。正直な話、コレを2皿以上完食する人間がこの世に居るとはオッチャン、思いもしなかったのさ」

 

 口は災いの元、とはまさにこういうコトなのだろう。

 しかしながら、その辺りを誤魔化さず正直に頭を下げた店主の真摯な姿勢に野次の火は自然と静まり返った。

 

「おじさん……」

「だがよお嬢ちゃん、俺も男だ。もしも『コイツ』で俺に勝つことが出来たら……そのときは腹を括らせて貰うぜ」

 

 そう言って取り出したるは、全世界の共通言語デュエルモンスターズ。

 漏れなく常備していたらしい旧型のデュエルディスクにデッキをセットし、店主の戦闘体勢はバッチリといったところか。

 

「あ! おじさんも決闘者だったんだ?」

 

 まるで大好物でも見つけた子供のように、目を輝かせてディスクを見つめる白髪の少女。

 その眼差しを見て、店主の口端がにやりと吊り上る。

 

「つーことは、お嬢ちゃんも……だよな。決闘者に二言はねぇ、ここで俺が負ければ閉店も覚悟の内よ! 10皿でも100皿でも、何なら店の食材前部食って行きやがれ!!」

 

 店主の男らしい宣言に、ギャラリーはおろか店内全てが歓声と熱気に包まれる。

 外まで余裕で漏れ出すその騒ぎに、道行く人々も何事かと外から様子を伺い始めた。

 

(き、聞き込みをするどころじゃなくなっちゃったなぁ……)

 

 沸き上がる男達に挟まれもみくちゃにされながらも、ベルはひとまず今から行われるであろうデュエルの結果を見届けることを決めた。

 店主が決闘者だというのは不幸中の幸いだ、この辺りの決闘者界隈の詳しい話が聞けることだろう。そうなれば、白面の女の情報も何か引っ掛かるかも知れない。

 

「ホント!? それじゃ早速――あ、そうだった」

 

 すかっ、と空ぶるような動作を見せた後、白髪の少女は少し残念そうに目を伏せた。

 

「あたし、今ディスクとデッキ持って無いんだった」

 

 ズコッ、という古風なリアクションをギャラリーから頂いて、少女は後ろ手に頭を掻いて照れくさそうにはにかんだ。

 

「マジかいお嬢ちゃん? 決闘者がデッキを手放すたぁよ……」

「えへへ……でも大丈夫! ちょっと待ってね!」

 

 少女はくるりと店主に背を向けて立ち上がると、右手を大きく上げてギャラリーに向かってこう言った。

 

「誰か、あたしにデッキとディスク貸して?」

 

 あっけらかんとした口調で言い切った少女に、流石のギャラリー達もざわつき始める。

 ディスクを貸せ、というのは分かる。しかしデッキというのは使用する決闘者のクセすらも反映し、文字通り『個人専用』にカスタマイズされている。使い方も回し方も分からない赤の他人が、渡されてすぐに扱えるほど簡単な代物じゃない。

 それに相手は店の存続を賭けた本気モード。生半可な実力で勝てるような相手ではない。

 

「ね? ちょっとの間だけでいいからさ?」

 

 両手を合わせて懇願する少女。ともすれば侮辱とも受け取れる彼女の『お願い』に、1人の男が手を上げて応えた。

 

「あの……俺ので良かったら」

 

 中肉中背の、あまりパッとしない風貌の男が名乗りを上げる。

 そんな彼の元に、少女はトテトテと駆け寄ると。

 

「ありがとー♪ それじゃちょっと借りるね?」

 

 男の両手を握り軽く上下に振って、少女が柔和な微笑を浮かべた。

 途端、人畜無害そうな彼の表情にカアッと紅が指していく。女性にあまり慣れていないのだろう、それだけでしどろもどろになった男は何とかDパッドとデッキを手渡した。

 

「お待たせおじさん! それじゃ始めよっか!」

 

 少女は軽快にDパッドを起動させ、デュエルモードへと変形させると――男から受け取ったデッキを1枚も見ることなく、挿入口へと差し込んだ。

 

「お、おいお嬢ちゃん? 俺が言うのもおかしな話だが、デッキの中身を見なくて良いのか?」

「うん! どんなデッキなのか、想像しながらデュエルする方が胸アツだし!」

 

 満面の笑顔でそう返す少女に、侮蔑のような悪意は全く感じられない。

 純粋に、この状況を楽しんでいるのだ。

 

「そうかい……言っとくが後悔はなしだぜ? 俺はガチで行かせて貰うからな!」

「どんとこい!」

 

 そんなやり取りが合図のように、カウンターを挟んで互いに距離を取る2人。

 同時に2つのディスクがリンクし、お馴染みのシステムが起動する。

 

仮想戦場(ARヴィジョン)展開(リンク)完了。審判員機構(ジャッジアプリ)、起動』

 

 木内装の店内が一変、店の外と同じような大通りのド真ん中へと景色が塗り替えられていく。

 

『……イエロー系女子の可愛さは異常。永遠のニチアサキッズ、ネフが参りました』

 

 毎度その前置きが良く分からないベルだったが、とりあえず無口な方の審判員到着に小さな拍手を送った。

 今日は全身黄色のタイツに身を包んだ謎のコスプレをしているようだが、それもベルには良く分からない。

 唯一、先程デッキレンタルを請け負った男が呪文のように長い解説をし始めたが、哀しいことに誰も聞いていなかった。ベルに分かったのは、カレーが好きな黄色のヒーローがいるということくらいか。

 

「審判員! 早速だがアンティの設定だ! 俺が負けたら、このお嬢ちゃんに好きなだけこの店の飯を食わせてやりたい!」

 

『承知致しました。この場合は相手の同意、及び対価となる賭け品の設定が必要となりますが?』

 

 そうネフに視線を投げられて、少女は口元に手を当てしばし考え込んだが。

 

「分かった! それじゃ、あたしが負けたら今まで食べた分のお金を払うよ!」

 

 交換条件として妥当と判断したのか、ネフはこくりと頷いた。

 

『それではデュエルを開始致します。ルールはハーフライフ4000からのスタート、アンティの設定を適用。他はデフォルトからの変更はありません、宜しいですか?』

 

 両者が共に頷き、ネフが高く腕を上げる。

 二振りのサイコロが宙を舞うと同時。

 一軒の飲食店が辿る運命、それを決める舞台の幕が開かれた。

 

「「決闘(デュエル)!!」」 

 

 店主 LP4000 VS ??? LP4000

 

 

   ** 

 

 

「あたしのターン!」

 

 賽の定めた先行は、白髪の少女からだった。

 ドローカードに目を通しつつ、6枚揃った手札を眺めて少女はにんまりと頬を緩めた。

 恐らくは、渡されたデッキ『何』なのか目星が付いたのだろう。

 

「モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 先行1手目としては少し心許ない布陣、ではあるのだが。

 何せ今は、どのカードがデッキのキーカードなのかも分からない状態なのだ。下手をすれば全てのカードが『ピン挿し』で取り返しが付かない、なんて可能性だってある。

 そう易々と、カードを切っていく訳にもいかないだろう。

 

「なら俺のターンだ。ドロー!」

 

 そんな少女の1ターンから転じて、店主は迷いなく手札を切っていく。

 

「まずは手札から《BK(バーニングナックラー)グラスジョー》を召喚!」

 

《BKグラスジョー》

☆4/炎属性/戦士族・効果/ATK 2000/DEF 0

 

 店主が繰り出した一番槍は、深緑の体色をした筋骨隆々の拳闘士。

 見た目にそぐわぬその攻撃力は、下級モンスターでは大台の2000ポイントだ。

 

「へぇ……」

 

 一瞬。白髪の少女が獲物を見定めるように目を細めるも、店主はそれに構うことなく宣言を続けた。

 

「更に、自分フィールド上に「BK」が存在する場合、このカードは手札から特殊召喚が出来る! 来い、《BKスパー》!」

 

《BKスパー》

☆4/炎属性/戦士族・効果/ATK 1200/DEF 1400

 

 グラスジョーよりもいくらか細身の、赤いクッションを両腕に装着した闘士が現れる。

 スパーがその両腕を顔の前に掲げると、先に召喚されたグラスジョーがクッションへと拳を叩き込んでいく。所轄ボクシングで『スパーリング』と呼ばれる行為を行った後、2体のモンスターは両腕を掲げてポーズを決めた。

 

「スパーがこの効果で特殊召喚されたターンはバトルフェイズが行えないが……オッチャンの狙いはそこじゃあ無ぇ!! 見てな!」

 

 店主が意気揚々と片腕を上げる。

 にわかに出現したのは、渦巻く光の小宇宙。

 

「俺は、☆4のグラスジョーとスパーをオーバーレイ!」

 

 拳闘士達は2つの赤い光球となって、螺旋を描きながら宙へと駆け上がる。

 

「2体のBKでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 混ざり合った2つの魂が、悠久たる黒の化身へと昇華する。

 

「魂に秘めた炎を拳に宿せ! ★4、《BK 拘束蛮兵リードブロー》!」

 

《BK 拘束蛮兵リードブロー》

★4/炎属性/戦士族・エクシーズ・効果/ATK 2200/DEF 2000

 

 巨大な手錠に丸太が生えたような拘束具で縛られた、どこか禍々しい雰囲気の拳闘士が姿を現す。

 

(え、エクシーズ召喚!?)

 

 デュエルの様子を見守っていたベルは、目を見開いて驚いた。

 ようやく自分が手に入れたモンスター・エクシーズを、本職は決闘者で無い店主がいとも容易く繰り出したのだから無理も無い。

 大会開催地であるシガマは、それだけ住民達のレベルも高いということなのだろうか。

 

「ふっふっふっ。驚いたかお嬢ちゃん? まさか飯屋のオヤジがモンスター・エクシーズを持っているなんざ夢にも思わな――」

「拘束蛮兵リードブロー。ORUを取り除くことで自身の破壊を無効に。更にORUが取り除かれるたび、攻撃力が800ポイント上昇する……だよね?」

 

 にっこりと。店主の言葉の2、3歩先を言い放って、少女は小首を傾げて見せた。

 

「お、おう……詳しいじゃねぇか。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「よーし、あたしのターン! ドロー!」

 

 若干しょんぼりとした店主を構いもせず。軽快な面持ちでドローする少女。

 その笑顔は、一段と大きくなって。

 

「――悪いけどおじさん、これでだよ!」

 

 あまりに早い勝利宣言。

 周囲のざわめきも追いつかないままに、少女は伏せられたカードに手を掛けた。

 

「まずはそのいち! 《火霊使いヒータ》を反転召喚!」

 

 意気揚々とリバースされたカードの中から飛び出したのは――勝利の二文字とはまるで程遠い、小さな妖狐と戯れる幼き魔法使いだった。

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